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これ何話目?

機能性を考えたゴム底の行動しやすい運動靴。木に引っかからず、虫にも刺されないジャージの長袖長ズボン。眩しくないように野球帽をかぶって、腰には動きを阻害しないサイドポーチ。

特にオシャレにこだわるわけでもない私は、キルとの森林デートをするにあたって当然の如く機能性のみを見た格好をしていた。流石にジャージをズボンにインするのはダサすぎるからやめたけど。


「えっへへ。森林の匂いは正直好きじゃないんだけど、口から呼吸する分には結構爽やかで私好きなんだよねー」

「ここら辺は特に人の手が入っていないからね。生息している動物も大人しいものだし、繁茂している植物だって毒がない。森林浴するにはうってつけの地だと思うよ」


異世界に降り立ち、力を得て、大体好き勝手できるレイちゃん。そんな彼女も所詮は高校入学したてだった16歳の小娘であって、その大きな胸(誇張)に秘めた大いなる欲望はそこまで大したものではない。


勿論えっちな事に興味が出てくる時期だし、自分との折り合いを付けるのが難しい感情を抱えていたし、承認欲求もあったし、ヒーロー…英雄的行動を夢見たりもする。そんな様々な欲望があった。


じゃあそれを解決しようとすると、何をすればいいのだろう?キルに愛してもらう?やりたかったことをやっていく?パーティーを募り冒険に出かける?

いやいや、そんな複雑なものじゃなくていいんだよ。答えはもっとシンプルで、簡単なもので十分なんだよね。そうそれこそ、同年代の子と一緒に遊ぶ、とかで。


そういうわけで、私たちはキャンプ道具一式を揃えて秘境(キル曰く世界の果ての森)にやってきた。今回は同年代ともちょっと違うしカンガルーちゃんとかは呼んでいない。キルとの二人っきりのデート兼森林お泊り会だ。


「キャンプ道具は知識ある理性が無い人に教えてもらったけど…えーっと、これをここに入れて、刺して…?」

「杭を打ち付けるのはここでいいかな。ああ、そこを抑えてくれないかなレイ。それとその芯のパーツはそっちに落ちている布地のパーツじゃないかな?」

「ん?あっほんとだこっちかぁ。えーと抑えるのここでいいよね。テンション上げてテンション上げて!」

「テンションは張る力だから掛けるものであって上げるテンションじゃないよ。まぁ楽しいのは重要だけどね」


今回は私たちは常人以上の力を出すことを禁じている。というより私がキルにお願いして制限してもらっている。今私が求めているのが異世界的な体験じゃなくて、地球での体感を懐かしむような、反芻するような事が目的だからだ。

そんな私の心情をキルは汲んでくれて、今は二人で手間取りながらもテントを組み立てている。小学生の時に地域のキャンプとかに参加して以来のテント張りだけど、芯がみょんみょんと逃げて上手くできない。キルは抑えてこそくれるものも、優しく微笑むんでいるだけでそれ以上手伝おうとはしない。私は家庭科の授業で針に糸を通すのが苦手だったタイプ。


やっとこさテントを張り終わった時には私はそれなりの汗と疲労を感じていた。


「投げるだけでできるテントを選べばよかったかも…」

「いいじゃないか。こういった不便を楽しむのも今日の趣旨なんでしょ?」

「"二人で"不便を楽しむのがね?」


できたテントで寝転び、皮肉を飛ばす私が見上げるキルは肩を竦めるだけである。私はそれ以上の追求を諦めて目を閉じた。入り込んでくる風が心地いい。


目を瞑って風を感じている私の隣に、荷物を運んでくるキルの気配。ごそごそと音がするのでそのまま整理もしているのだろう。

まるで手伝う気がなく疲労を地面に流し込んでいる私にキルから声が掛かる。


「この後はどうするんだい?この周辺は沢も川も洞窟も広場も大樹も大体は揃ってるけど」

「万能かーこの秘境?んー…とりあえず川で水遊びでもしよーよ。かるーく汗流したいし」

「川ね、じゃあ水着が必要か。このバックに入れてたかな。ほらレイもいつまでもダラけてないで、準備するよ?今回は時も操らない条件なんだから」

「むっ…わっ冷たぁっ!?わかったわかった準備するって!」


顔に投げつけられた水着に続いて首元に冷たい水のボトルを押しつけられ、悲鳴をあげながら起き上がる。

片手でボトルを差し出しカバンを漁るキルを尻目に、私はお腹に落ちた水着を手に取り差し出されたボトルを受け取って水を流し込んだ。




「わー!ほんといい場所だねぇ…秘境って感じがする。流れる水でマイナスイオンもバッチリだね!」

「ん…水着で来たから寒いかなと考えていたけど、案外季節もあって平気だね。沢も日光で良好な塩梅に冷たすぎない」


隣でキルが小難しいことを言っているが、私には重要な事じゃない。水着の上から羽織っていたパーカーを後ろに放り、水深が深そうな中央にばしゃばしゃと走る。

本日の水着は真っ赤なビキニ。それも紐で結ぶタイプの。でも布面積はそこそこあるし、魔術的なアレで結びがほどけない処置がされている。あと身体への強化として、足の強化だけしている。熱い砂浜とかごつごつした川底の石対策だね。

そのままジャンプして全身を入水させると、程よい水の冷たさが染み渡り、澄みきった水に鮮やかな小魚泳ぐ風景が迎えてくれた。

キルが案内してくれた場所だけあって理想とも言えるような場所だ。泳ぐ魚、歩く蟹、揺らぐ水草全てが完璧なまでに統一された美しい風景を演出している。

見ていて飽きない、息が続くまでずっと見ていたい。そうして周囲に顔を回すと、水中でぼやける視界に段々大きくなってくる、肌色の脚。


「───ぷはっ!この川水中も綺麗だよっキルぅっ!?っと!」

「それは良かった、僕も吟味したわけじゃないからね。最初の遊技場が空振りじゃなくて安心したよ」


そんなことを言いつつ私に背中から抱き着いてくるキル。キルの水着は青いビキニ、ただしボトムはズボンのタイプ。キルはカッコいいタイプだからちょっとボーイッシュな所もよく似合ってるし、それでも晒されているお腹から女の子特有のえっちさを醸し出していて大変素晴らしいと思います。

そんな露出多い恰好で抱き着いてくるから素肌同士でくっついてそれまたえっち。健全な方の気持ちよさもあるけどね。


「ほら、ゴーグルぐらい付けたら?僕は必要ないけど」

「おっありがとー。…ゴーグル付けるの久々だなぁ、高校だと水泳ないっぽいし?いやでも先輩はやってた気が…選択なのかね…?まいいや。キルはゴーグル付けないの?」

「それはもう、そもそも身体の基礎性能が違うからね」

「これが住んでる世界が違うって奴か…」

「生まれた世界が違うからね」


ゴーグルを付けて改めて水中に潜る。

するとより鮮明になった自然アクアリウムの光景が広がり自然と口角が上がる。

よく見てみると生物としておかしい構造をしている魚が泳いでる光景に疑問も上がる。

生物って不思議がいっぱいだぁ。


まいいや。どうせ無害(害があっても私達を害せない)だし。

私はまだまだ子供なので、水中は潜っているだけで楽しい。鼻を摘まんで前転後転逆立ち! 逆立ちに関しては鼻摘まなくても水入ってこないのなんでだろうね?

息がまだまだ続くので、仰向けに水底についてバブルリング。おー今でもできるとは流石私!


隣を見るとキルが六芒星をバブルリングしていた。


「ぶっがふっ!?~~~っ!ごほっげふっ!」


いや思わず叫ぼうとして思いっきり水入ってきたよ。慌てて水から脱出して咽てると、キルも隣に浮かんでくる。こっちは当然のように髪を後ろに束ねていた。


「はーっ、はー…。キル、今のどうやったの?」


一応の今日のテーマは「地球基準」だったんだけどと暗に抗議をしてみる。


キルは舌をペロっと出して見せた。


「こう、いつもディープキスしてる要領で再現できるよ」

「できないよ!!!」


その後教えてもらって出来るようになった。



そんな感じで、キルと川で水遊びをした。



次は折角山に来たんだから頂点を目指そうという事で、山登りのプログラムとなった。

人は何故高いところに行きたがるのか?そこに報酬があるわけでもないのに、登ったという達成感だけを目指して。その秘密を探るべく我々は山の頂上へ向かった。


私はまだまだ子供なので、そこに丁度いい感じに登れそうな岩があれば登るし、崖のような場所でも行けそうなら行く。ケガの心配なんてないに等しいから安心してどんどん子供の冒険心が満たされていく。多分恐怖心がなくなってるからバク転とかも今ならできる。


「わーハチが飛んでる~!花とか咲いてなさそうな崖のとこになんで来るんだろ」

「その蜂は岩石から鉄分を取るタイプだよ」

「変なところで魔物要素くるじゃん」


ロッククライミングじみた登山をしていると、ぶんぶんと音を鳴らして蜂が飛んできたので疑問を訪ねるとそんな答えが。

おうお前、地球みたいなサイズのハチしてしっかりとモンスターしてるじゃん。指を出すと止ってきたのでよく見てみる。黒い目が多分地球でのデフォだと思うんだけど、この蜂は白目もまつげもある人間みたいな目をしていた。率直にいうとキモい。私が微妙な顔をしたのを汲み取ってくれたのか、ハチはすぐに指を離れ飛んで行った。ごめんね。ちょっと…生物学的に無理かもしれない。


「レイってほんと、魔物に好かれやすい体質だよね。レイに敵対行動をとった魔物が今までいないなぁ」


下からキルにそう言われる。そんな真下に張り付かれても私いまズボンだよ。ぱんつは見えないよ。


あっこれお腹とかを見られてるのか…!油断も好き嫌いもないな我が嫁。もうここまでされるとギャグの行動だからいいけど。


「よっほっとっとぉ。道なき道を行くのが楽しいゆえ!」

「なんてことない会話を楽しんで笑いながら登ってくのがいいんだろうね」

「そうそう。こーゆーとこでふぁいとーでっぱーつ!ってやるのとかね」


掛け声と共に引き上げると、きゃーとわざとらしい声を棒読みしながらキルが一本釣りされた。


「崖だからか見晴らしいいなー。キルーここでお昼ごはんにしようよー」

「いいよ。レイの分はウェストポーチに入ってるから」

「いつのまに…」


ショルダーバッグは背中が蒸れるから嫌だという理由で選ばれたウェストポーチ。今朝準備したときはスポドリとライトセーバーしか入れてなかったけど、今は色とりどりのサンドウィッチが潰れないように存在を固定されて入っていた。


「これ具は何入ってるの?」

「各国の特産品だよ」


それは答えになっているのだろうか。


とりあえず一つ、空間固定を解除してかぶりついてみる。パンのふわふわとした食感が過ぎると、やわらかい食感が訪れた。噛み応えは全くないけど、次々ほろっと崩れて流れ込んでくる小さな具は舌触りの良い丸で転がって喉奥までその身を届けてくる。

肝心の味は控えめな甘さの中にガツンとした辛さがメインで───つまるところ明太子だった。


耐えきれない程の辛さではないので、咀嚼して呑み込む。もぐもぐごっくん。


「美味しいけど、明太子の量多すぎじゃない?」

「愛と一緒だよ。多ければ多いほどいい」

「私は料理しない方だけど、料理においてそれが正しくないことはわかる」



満足したので降りていくと、今度は池にぶち当たった。山の中腹ぐらいに100m相当の池。多分だけど地形無茶苦茶だな流石秘境。地球にはこんな地形あるんだろうか。


ふむ、池か。泳ぐのはやったし、あと池で思いつくのなんてバーベキューとか花火とか…。


「あ」

「あ?」


やる事思いついて一言漏らした私に追従する疑問の声色。そんなキルに「あー」と平べったい石を足元から拾って見せれば、「ああ」と頷いてキルも集め始めた。「あ」の一文字でここまで意思疎通できるとは凄いぞ我が嫁仲。


「はーいレイ選手振り返って…気合!!!!!」


パンッパンッパンッパンパンパンパパパパボチャ。


「ふっふー!10回!なーかなかいー記録じゃん!」


水切りをやるのは久々である。前世、そこまでアクティブじゃなかったレイちゃんは家族に連れ出されない限り、海とか川とかそれに準ずるところに行かなかったからだ。学校の行事で準ずるところにいくことはあったけれども、まぁ学校メインで行ってるときは見張られてるのでそういうことはできなかった。


「これって無回転がいいのか回転させた方がいいのかわからない、ね!」


パッパッパッパッパパパパパパパパボチャン。

記録、12回。


低めの姿勢から体を大きく使い、腕肘手首、そして下半身まで惜しみなく使った完璧なフォームの結果だった。


「わー。流石我が嫁。これで初めてなんでしょ?」

「そうだね」

「許せん。水切りでいいからマウントを取りたいんだ私は」



20分後。曲げる方法を開発し、334回を達成したキルと倒れ伏す私の姿があった。



「洞窟だー!」

「まだ入り口なのに、かなり立派な鍾乳石だね、これは」


ネクスト目的地は洞窟。水が滴る高さ2m程の高さの洞窟で、ひんやりを通り越してかちこちになりそうな気温だった。吐き出す息も白い。

うっひょーとのんきに騒ぐ私の方に、キルがよく使っているフード付きパーカーが被せられ、キルが懐中電灯を付け、私の手を引き探索を始める。

私はキルの背に飛び乗っておんぶしてもらいながら、キルの手から懐中電灯を受け取り先ゆく道を照らしていく。整備されていない洞窟だとはいえ、天井は高いのでおんぶされていてもぶつかることはない。


「ねぇねぇ!ここって管理者いないんだよね!?」

「名目上は僕が管理者かな?まぁいないと思ってもいいよ」


キルのパーカーを被ってなお肌寒い。キルとの素肌が触れ合う部分のみが唯一温かい。だが私の注意はそれ以上に鍾乳石に向けられていた。


「よし!じゃあ折って堕とそう!一回やってみたかったんだ!」

「500年モノを見て躊躇いなくそれを言えるレイも好きだよ」


告白された。やったぁ。


私は奇声と共に飛び上がり、背筋から腿、脹脛まで完璧に体を制御し、空気を蹴っての一回転を加えのサマーソルト。絶妙に調整された威力を喰らった鍾乳石は、少しずつヒビが入り、やがてパキリといったややあっけない音ともに垂直に落ち、その長い生涯の最後の輝きをぐわっしゃーんという音と共に見せてくれた。


快、感。


私は恍惚の表情で着地をキメた。



魚を釣り、キノコを採り、それらを使ったBBQも終わって、周囲は暗闇が支配し始めた。流石にキャンプファイヤーまではやる気がなかったので、あとはテントで寝て帰るだけだ。

…一応言っておくと、この場合の帰るは転移ではなく足を使ってを指す。


テント内で毛布を広げ、色々入っているバッグを枕替わりに。寝心地という点においてはよくないが、この場ではそれも味という奴だ。


平坦じゃない寝床に慣れない枕。天井が違えば、それを映す明かりも違う。静かな興奮が私の胸奥を支配しつつも、自然が奏でる音が鎮めてくる。


「あぁ~…キャンプだなこれ」

「そりゃあ、キャンプに来たからね」


星空(テントの上一部は透明なので空が見える)を見ながら呟くと、キルがユーモアが足りない事を言ってくる。この娘はきっと友達ができにくい境遇だったから、こういう時の返事がわかっていないのだろう。


「そーゆーのじゃなくて…。よし!恋バナしよう恋バナ!女子高生はとりあえず恋バナしとけば盛り上がれるんだ!ほら、キル、今気になる人いるの~?」

「目の前」

「私はね~?………いや止めよう。お互い分かり切った答えがあるのにやってもあんまり面白くない」

「レイってほんとノリと勢いで動いてるよね」

一応言っとくとゆるキャン読んだ事ない、のでそれに影響されたではない


新しいシリーズ始めるよ

投稿頻度は両方死ぬけど

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