迷走
ある日のお昼下がり。
死は救済派の私は第二宇宙速度を目指してトレーニングをしていた。上体操着に下ブルマで頭にはKIAIのハチマキ。「れい」と書かれたゼッケンも用意して、私のテンションは最高潮だ。現にシャトルランの記録は進行形で1000を超えた。
「レイー?走るのはいいけど削った地面はちゃんと埋めておいてね」
ラジオで流している音階のスピードが速くなりすぎて連続した音にしか聞こえなくなった耳に、機械以外の声が入ってきた。言わずもがな私の嫁のキルである。
「おっと。そんなに掘っちゃってたかー」
私の趣味と嫁の呼びかけ。もちろん比べるまでもない。私は1000を超えても音階が収録されていたラジオをポケットにしまって浮き輪を出した。
地面を削っている内にどうも温泉を掘り当てていたらしい。さっきまではシャトルランの風速で即蒸発していたが、私が止めたのですぐに掘った穴が温泉で埋め尽くされていく。その内水位が上がり切ってキルの顔も見れるだろう。
「でー?どうしたの、どっかいくの?」
「うん。オークションのチケットを手に入れてね。折角だからレイ、行かないかい?」
「オークションかー!いくいく楽しそう!」
オークションいいよね憧れる!小学生海外憧れランキングの上位3位には入ってるよ!こう、番号札上げて10万20万って声張り上げてハンマーみたいのでかぁんっ!って叩いて出ました過去最高落札額!ってやるんだよね!想像だけでもう楽しそう!
正直欲しい物を挙げればキルがどんなモノでも作ってくれるだろうけど、予想の範疇を超えるようなよくわかんないモノが出ることを願って私も落札者に…参加…する……。
「ねぇキル。一応聞いておくけど、今の「行かない?」って落札者側でだよね?」
「商品としてだけど」
「そっちのアンダーグラウンドの雰囲気を味わいたい訳じゃないんだよ!?」
目を覚ました時、私は何となく「あぁ、今日は特別な日だ」と察した。いつも通りの室内だとか、過ごしやすく最適化された室温だとか、シーツに残った安心するキルの匂いだとか。
とにかく、そういった五感で脳に伝わる物全てが、私に今日は特別な日だという事を伝えてきたのだ。
今日は素晴らしい日だ。窓から覗く双子太陽は燦々と大地を照らし小鳥たちが讃美歌を謳う。空気は澄み渡り空間そのものが光り輝いてるようにすら見え始めてきた。
そんな美しい世界を見ていると私の心も浄化されていく。あぁ人は何で争うんだろう、と。
世界はこんなにも美しく素晴らしいのに、何故人は争うのか。この人の手が加えられていない、自然そのものを受容できないのか。やはり人類は滅んだ方が良いのでは。
あぁ、こんな最高な日に、私は───
「レイ、結婚しないかい?」
「いいよ!」
そういうことになった。
「新婦新婦、入場」
黒い礼装用手袋を嵌め、優しく微笑みながら差し出してくるキルの手に、私も合わせるように手をのせて笑い合う。お互いの晴れ姿は2分に及ぶお話によりキルは黒いタキシード、私も黒いタキシードとなった。
出会ってから言葉に表しきれないような濃密で膨大な時間を過ごし、大樹の根の如く深く深く深まった関係が、今完成に至るのだ。
腰を手に抱き寄せられ、熱っぽい視線をキルに送る。キルは私を窘めるように人差し指を私の口に当てて来て、「もうちょっと後でね」とイタズラ気にウィンクしてきた。きゅんっ…!(SE)
スロースの前足により扉が開かれ、ヴァージンロードが姿を現した。ステンドグラスから神々しい光をバックに桜の花びらが舞い落ちる。
左右には私たちの結婚を祝福してくれるスロース達が惜しみない拍手を送ってくれ、ヴァージンロードのその先には、天使だからという理由で選ばれ不服そうな顔をしたラキが聖書を片手にこちらを見下ろしていた。
一歩一歩を踏みしめるように。そして歩調をお互いが合わせるように歩み始める。そんな細かな動作でも、キルの優しさが伝わってくる。
スロース達が見守る中、私とキルは位置に着いた。それはこの先の未来を表すように、ぴったりと同じ動作、時間に行われた。
「汝、兎刻零。あなたは生涯の伴侶であるキルを愛しますね」
「愛します」
なんか久々に苗字呼ばれた気がする。
自分から出た言葉なのに、どこか他人事のように感じてしまう。それほど私の心は高ぶっていて、体もつられてか体温が上がり嬉し涙が零れてきた。
「汝、(発音表記認識不可)・キル。あなたは生涯の伴侶であるレイを愛しますね」
「愛するよ」
そしてキルの宣言を聞いた瞬間、私は過去最長に幸福というものを感受した。
「では、誓いのキスを!.wav」
とうとう飽きてきたのか、ラキは高らかに力強く棒読みで決められたセリフを喋るようにして私たちを促す。
しかしそんなことは気にしない。私とキル以外はただの舞台装置と化す程に二人きりの世界に潜り込む。
私の眼にはキルしか映らず、逆もまた同じ。
今、私たちは結ばれたのだ。
そうしてゆっくりと合わせられる唇。その口づけは過去のどれよりも甘く、優しく、幸せなモノだった…。
何度でも言わせてもらうが、私は未成年である。
生前高校一年生。こっちきてからもまだ半年すら過ごしてなく、肉体は知らないけど精神年齢は16歳だ。
そして善良かつ模範な市民であった私は、飲酒という罪を犯す事ができない。
結局は法治国家の犬であるレイちゃんにとって、飼い主の意向に逆らう事はまずなひゃぁぁぁあ我慢できない飲むぞー!
20** */** 14:27 ギルド
漏らした。
いやちょっと待って聞いて欲しい。
私飲酒は初めてだったんですよ。なんせ未成年でしたから。そして未成年が正月の集まりとかで親戚のおじさんとかにちょーっと飲んでみってイケナイ事と分かっていながらも期待と興奮でドキドキしながらお酒キメたりするじゃないですか。それが今日起きたってだけなんですよ。
この日はギルドに来たらかんっぺきに酒盛りムードだったんですよ。お酒は勿論つまみも古今東西全て揃っていて、それに合わせてボードゲームとかもいっぱい用意されてて、こんだけ準備整ってたらお通夜でもこいつら盛り上がるなってレベルだったんです。
そんな雰囲気に当てられたら、まぁ飲むじゃん?
で。お酒ってさ、飲むとき酔っぱらうのが義務じゃん。そりゃあ私は才能のクイーンだから、耐性や無効化なんて簡単だよ。朝ごはんの前にもできる。
しかしそれは酒への冒涜ではないか?
というわけで私は酔っぱらった。盛大に。これ以上ないぐらいに。
そして漏らした。
初めての酩酊、場に釣られた高揚感、上がったテンションによるなんとでもなーれといった無敵感。とにかく、そういったものが混ぜ合わさり、私はジョッキを片手にトイレ行きたーい!とか思いながら、パンツを濡らした。
そしてその瞬間、ギルドにいる奴全てを血の海に沈める事が決定された。
「や、やめっ…!」
ドゥン!
「見てない!俺は何も…っ!」
ザシュッ!
赤く赤く視界が染まり、檜の匂いがする家具を血の匂いで上書きしていく。頬に跳んできた返り血を拭ってぐるんと後ろを向くと、未だに逃げれると思っている哀れな姿が見えた。
ミスとは何事にも起こりえることである。失敗する可能性があるなら、かならず失敗するとは誰の言葉だったか。大事なのはリカバリーだ。ミスをしても、それを解決する行動をすればミスなんて最初からなかった事になる。
ではこの場合のリカバリーはなんだろう?
簡単だ。
目撃者を全員殺してしまえばいい。
「まぁ落ち着けよ嬢ちゃん。俺たち同じ宇宙船地球号の仲間だろ?」
「ここは地球じゃないよ」
ダァン!
「止めてくださいレイさん!わっ私も!私も醜態を晒しますから!」
「晒すのは醜態じゃなくて死体でいいよ」
バシュッ!
「ふぅ…」
剣を振って血を飛ばす。どうやら一階は掃討し終えたようだ。残りは二階のメンツだけ。
あちこちに骸がころがり、真っ赤に染まった一階を抜けて階段へ向かう。
それにしても凄い匂いだ。事故物件として紹介されても納得できる。ははっ、亡霊もいっぱい出そうな雰囲気じゃん。ナイスジョーク。
階段を上り切りギルドマスターの部屋を開けると、お久しぶりのギルドマスターが羽ペンを手に書類仕事をしていた。
「こんにちは、ギルマス。とりあえず死んでくれない?」
「こんにちは、レイヴライン。私は私のすべきことをするまでですよ」
ギルマスはそう言って嘆息してから刀を取り出して構えた。
お互い武器を構え無言になり、じっと機を待つ。
……………今ッ!
「まさか…これほどとは…!」
「狼は死ね、豚も死ね」
切り捨て御免。
こうしてギルマスの部屋も血に染まった。
血の沼と化したギルマスを放って屋上へ。私は気づいている。今まで殺った中に熊ちゃんがいなかったことに。普段から飲んでる姿がよく確認される熊ちゃんが今回の祭りに参加していないはずがない。
逃げ道がない場所にいっちゃだめでしょ、ねぇ?
「さぁ熊ちゃん。熊ちゃんが最後だよ。皆が待ってるから早く行ってあげないと」
「レイちゃん…何という事を…!」
「危険の芽は潰さなくちゃ。生存本能だよ、熊ちゃん」
「話し合おう!私たちは知性を持って言葉を操る人類なんだから!」
「全世界共通言語の暴力があるんだよ、熊ちゃん」
「や、野蛮人め…!私はこんなところで死ぬわけには…っ!」
「遅い」
熊ちゃんがごちゃごちゃ言っているのを無視して切り抜ける。
熊ちゃんは血の華となって倒れ伏した。
「私が…何をしたと…」
「何もしてないよ。けど、世界ってのはえてして理不尽なモノだからね」
そうして私はお漏らししたという一時の恥な出来事でギルドという一組織を壊滅させた。
翌日。
「さてリスポーンした諸君。君たちが昨日の事を覚えているのならもう一回処さないといけないんだけど」
「タキシードは嘘をついている」
「宇宙服が見たと言っていました!」
「山の天気は変わりやすい。昨日は雨だった」
「正直者は二人いるよ!」
「悪魔さんは正直者で、氷漬けさんは嘘をついている」
「よし分かった。もう一度だね」
「「「ア”ア”ア”ア”ア”ア”!」」」
いい天気だ。きっと今日は高度10000mからエクストリームチェスをする予定だったから晴れたんだろう。私の願いには天候どころか世界そのものを変える力があるからね。
さって今日のキルからの配布の服は…
「………学生服?」
私の高校の時の学生服だった。
「零ー?零ー!起きてー!」
「うぅん…」
重力とは違う外部からの新しいベクトルが肩に送られる。眠たい中瞼を無理やり持ち上げると、肩を揺らす私の親友が、まるで中々起きない私に怒ってるような表情でいた。きっと気のせいだろうけど。
「ん…なーにー?私は今16歳高校入学し暫く経って慣れてきたから昨日夜更かししちゃってうとうとしながら4限目まで乗り越えてお昼休みに入ったからやっと眠りについてたのに」
「凄い説明するじゃん…。なんかねーキル先輩が零に会いたい―って入り口に来てるんだよー」
「…キル先輩が?」
「そうだよ!外国出身で怜悧で美人でかんっぺきで何でこの高校に入学してるのか不思議で色々と実績や開発を行っていてしかも身体能力までもアスリート級で何でもできるキル先輩だよ!」
「凄い説明するじゃん…。まぁ何で呼ばれたかわかんないけど、行ってくるよ」
「あっついでに購買行ってパン買ってきて!」
「行けたらね」
机に突っ伏していて崩れた制服を治しながら入口へ。クラスの皆の視線が私に向けられていて気持ちいい。スライド式のドアを開けて教室の外へと顔を出すと、廊下のちょっといったところに明らかに目立ってるキル先輩がいたのでそちらへ。
私の高校、染めるのも派手な髪形も禁止だから唯一黒とか茶っぽくない髪色のキル先輩は当然の如く目立つよね。流石に学校も地毛相手に染めろとか言えないだろうし今の時代。
私が向かい始めるとキル先輩も気づいたのか、寄りかかっていた壁から離れ私に微笑んできた。あぁ美人ってこういう動作も様になるからいいなぁ。
「はい。おはようございます先輩。私に何か用ですか?」
ほんと何の用なんだろう。私特に目立った事は高校でしてないはずだけど。しょーもない要件だったらさっさと逃げちゃおう。私はこういう「自分は天才で国からの支援も太い」とかそんな権力をバックにしたり自分に自信満々だったりする奴が嫌いなんだ。私には教育省と民意があるんだからな。
そんな思いで作った笑顔を先輩に向ける。
「やぁ。兎刻零ちゃんだね。一目惚れしたんだ。結婚を前提に付き合おう」
「?????」
「…そんな思い出が高校生の時にあったんだよねぇ」
「その記憶、本当にあったんですか?」
高度10000mの上空。手に持った学生服に懐かしむ視線を向ける私にラキがツッコみを入れてくる。まったく、無粋な事を言ってくる天使だ。
レイ達にゲームをやらせたくなったので次回は何らかのゲームをさせます。
何のゲームさせるかは未定だけどネク○○以外って言うのは決定してます。くたばれネク○○。
サイコロを振る
候補はLoLPSO2ラチェクラ宇宙人狼その他




