純粋にエモかった
4コマみたいに短編なこの小説じゃなくて一貫とした物語書きたい
今日のコーディネートは頭テンガロンハット胸チューブトップ上半身開いたファー付きコート下半身ベルトにダメージデニム靴サンダル。まるでサイコロを振ったように適当なファッションだった。キルの服のセンスは私にはわかんないね。
私は今、バーに来ている。
心が落ち着く淡く控えめな光源に、素材から温かみを感じるシックな木製のテーブル。きらきらと小さく光を反射させる埃一つ付いていないワインボトルは綺麗に並べられており、店内には私でも知っているような有名なクラシック音楽が流れている。
そんな店内のカウンターに在るオールバックの白髪バーテンダーは、まさにダンディなおじいさまといった風体で、目を閉じながらも音楽を聴きグラスを磨ていた。
以上の感じの、いかにも大人のバーって奴です、はい。
キルに「暇してるなら、僕が結構好きなバーがあるから、そこに行ってみたら?きっとレイも気に入るよ。代金は僕の名前を出せばツケといてくれるから」って座標を教えられたんだよね。
一緒に行くのもいいけど、恋人に紹介されたお店に行くのもそれもまたオツなもの、と来てみました。キル私がまだお酒飲めない事失念してない?
「マスター、この店で一番高いお酒を」
「スピリタスです」
「度数じゃなくてね?」
マスターは私に渡そうとしたポーズで「えっ…」みたいな感じで硬直していた。お茶目ですね。
はいTake2。
「マスター、この店で一番値段が高いお酒を」
「スピリタスです」
「マジで?」
マスターは私に渡そうとしたポーズで「せやで」みたいな感じでこっちを見ていた。
おいスピリタスって1500円くらいだったはずだぞこのバーには安酒しかないのか。
「なにぶん、キルさんの配下の方々が作り方を広めるまで、度数の低いモノしか作る事ができませんでしたので…」
度数と言う概念も最近認知されましたな、と付け加えるマスターを尻目に私は愕然とした気持ちになっていた。
嘘でしょ…確かに異世界ってやつぁー文明遅れ気味だけどさ、TRPGのお供で200本ぐらいポケットに入れて持ち運ぶ、気安いお供だったスピリタスが高級品だなんて…。それもあの頭おかしい奴らがいなかったら作られてすらなかっただなんて…。
なんか色々と感情が混ざり、複雑な気持ちになった私は机に突っ伏した。そんな私の隣からコツンと何かを置く音が。
「プレーリーオイスター、というカクテルです。今のあなたにピッタリでしょう」
「ああ…ありがとうマスター」
私はいつの間にか溢れていた涙ごと飲み込むように、目を瞑りコップを掲げ一気飲みした。
私は死んだ。
※プレーリーオイスター:崩れていない卵黄にウスターソース、ケチャップ、ビネガー、コショウを入れたもの。気付け薬に近い。
※どっかの世界線でキルとレイが戦う事になって過去を懐かしんでるシーン。
初めて出会った時の事覚えてる?キル。
私?いやーそりゃぁ覚えてるよ。なんなら直前のスカイダイビングだってつい昨日のことのように思い出せるよ。後にも先にも、死を覚悟したシーンなんてこれぐらいだったもん。まぁ死んで生き返った直後だけどね!
で、そうそう!出会いだよで・あ・い!
『管理下二イテ貰オウカ』
最初に私に向けた言葉がこれだよ!?もーちょっとどうにかならなかったの!?
キルにとってはまた新しく降ってきた問題児…それもとびきりのって感じだったんだろうけどさぁ…。
私は日本人っていうルールを与えられたら縛られる人種なんだから、地面にクレーターなんか作らず普通に交渉して欲しかったな!
だから戦闘になっちゃったんだよ?私たちの初めての戦闘。
ああ、懐かしいなぁあの戦い。まだまだ力に頼り切った戦いだったね。
どう、キル?覚えてるかな?
もちろん覚えてるさ。あの頃には僕はもう、一目惚れと言ってもいい程直ぐにレイを好きになっていたからね。
うん、確かにあの時の戦闘は酷かった。でも、実は僕も結構焦ってたんだよ?
強かったとは分かっていたけど、その予想以上だったからね。
『圧倒的ではないか我がステータスは!』
実際、この言葉に偽りは無く、圧倒されかけていたさ。
レイに技があれば、ね。
『さぁ!己が力を証明してみせろ!』
『…固イ。ソシテ速イ。厄介ダナ』
『笑い、叫べ!踊って、逃げろ!』
『毒…麻痺…阻害…効カナイカ。デハ呪イナドヲ…』
『ちょっ…当ったらないんだけどぉ!?命中率は100%以外は信用するなとふぎゃっ!?』
『フム…拘束ハ通ル…』
いやぁ、今考えるととても楽な戦闘だったね。子供をあやすような戦いだった。にしては周りの被害が大きすぎたけどね。
そこから、僕たちの生活が始まったんだ。
どうだったかな、生活は。レイの記憶に残るものだったかな。
ねぇ、どうだった?レイ。
君の人生を、僕は彩れたかい?
はっはは。キルそれ本気で言ってる?
安心してよキル。彩が無かった日なんてなかったよ。毎日刺激に溢れていて、明日を楽しみにベットに潜ってたよ。まぁ明日の楽しみより先に今夜の恐怖があったんだけどさ。
キルと一緒に過ごした何気ない日常は一日だって…何気ない日常の日なんてあったっけ?まぁいいや。うん。地球でのほほんと暇してた時と比べられないくらい、私の毎日は充実してたよ。
特にギルドの皆!今はバラバラになっちゃったけど、ほんと愉快なメンバーだったよ。言葉にすると絶対調子に乗るから言わないけど、うん。皆いい人達だった。
『生前ン?おっっっぼえてねーよそんなモン!どんだけこっち来てからどんちゃん騒ぎしてっと思ってんだ記憶塗り替えられるわそりゃ。つーかな、俺はお前と違って切り替えられる大人だぞ。スーツ着て上に頭下げて後輩の後始末して───んな良くできた社会人だったんだよ。だから前世のアレコレなんてパチっと切り替えられる。そういう性分ってのもあるがな。つまり前世は覚えてねぇわ』
『そんな良くできた社会人だったのにこっちでは宇宙服を常に着るようになっちゃったんですか?』
『グレネード』
『良くできた社会人だからだよ。だから切り替えだよ切り替え!誰にも迷惑かけてねぇんだからどうだっていいだろ、なぁ!』
『駄目だ!』
『グレネードにだけは言われたくねぇセリフだな…いやギルドの連中全員に言われたくねぇわ。あー、で?嬢ちゃんはアレだろ。死んで異世界に来たってのに心の中ではまだ家族の事を割り切れてなくて、けどそんなに不安になったり寂しくなったりしないから戸惑ってんだろ?違うか?』
『…キルが一緒にいてくれてるとはいえ、私はおかしいって思っちゃうよ。私結構家族仲良好だったんだよ?』
『あーあー分かってる分かってる。結論から言うが、転生した時点でそこら辺の記憶か感情か、まぁそこいらが希薄になるんだよ。俺だってそうだし、こいつらもそうだった。安心しろよ。お前が薄情なワケじゃねぇ。そういう転生の仕様なんだ。だからその記憶は大事にしとけ。家族を想う気持ちはいつだって尊いモノだからな。…どうよ俺結構いい事言ってんじゃねーか?』
『…最後の一言が無かったらね!』
いい距離感だったんだよ。私が求めている距離まですぐ近づいてきて、それでずっとその距離を維持してくれた。しんどい気持ちになる距離には決して詰めてこなかったんだ。本当によくできた人たちだったよ。
キルが私のメンタルを回復して、皆がメンタルが落ちないように私を支えてくれる。どれだけ皆私に甘いんだってね。
その皆も、キルが集めていなかったら出会えなかった人たちだ。というか皆もキルに集められず孤独だったら、あんな風にはなれなかったかもしれない。きっと皆、キルに救われてたんだよ。
だから私も色んな事ができたんだ。
調薬や料理、鍛冶に手を出したり、不思議なキルの屋敷を探索したり、ゲームやギャンブルで対戦したり…。
あぁ、そういえばあの頃だったね。私とレイの二回目の戦い。まぁ戦いにすらなってなかったけどね。一瞬で終わったもん。あの頃の魔法…「馳せる記憶の我が故郷」だっけ。今でも結構気に入ってるんだよ、あの魔法。
えーと、あれ?というか何で戦ったんだっけ?多分いつも通りくだらない理由だったと思うんだけど…。
玩具を返して欲しかったから、だよ。レイが故郷の映画の機械を再現しようとして、失敗した奴だよ、あの赤い鎧見たいな奴だね。
あの戦闘は…まぁレイも勢いでやってただろうからね。結果も妥当だと僕は思うよ。
あぁでもその次からだったね、僕が苦戦するようになったのは。
ははっ、本当だって。戦場で心情を表情に出す訳ないからね。三回目から僕は内心、少しずつ焦っていたんだ。二回目の時点で不穏な気配はしていたけどね。ロマンに走る癖は抜けてないとはいえ、純粋に身体能力は僕より高かったんだから。
『あー…まぁ一撃当たったて事で。一撃決着ルールなら私の勝ちだよね」』
あの時、パーカーを切り裂かれて僕は動揺してたんだ。だってレイ、責めてる訳じゃないけど普段は遊んでばっかりで、鍛える事なんてしなかったよね。当然技は伴わないし戦闘中でもやりたい事をする。でも僕に一撃入れたんだ。君に高揚を押しつける程に衝撃だったよ。
そこからだったね、僕たちが度々戦うようになったのは。
『たまには体を動かさないと!』
『もうちょっと夜を激しくしようか?』
『そういう事じゃなくて―!?』
レイの成長は著しいものだったよ。能力があるなら戦場に立てる。戦い続ければ技は伴う。連綿たる努力の末に辿り着ける境地に、レイは最速で登ったんだ。
レイの成長は僕の喜びであると同時に、焦燥にも繋がった。僕の立場が危うくなったからだね。
レイの能力が普通であれば、永劫と変わることが無く不動であっただろう、僕の立場。
でも、私は最初の方からちゃんと宣言してたよ?ノリとか勢いとか、そーゆーので口からぽろっと出たってのも否定しないけど。
鬱憤…て訳じゃないけど、毎日あれだったら私も逆転を望むよ。逆らったり、復讐なんかじゃない。ただちょっと逆転したくなっただけ。まぁだからこうしてキルと衝突してるんだけど。
『だってさぁ熊ちゃん!そりゃ私は純愛大好きだし純愛の方がだんっぜんいいよ!けどたまには!たまには立場変わってもいいと思うじゃん!』
『そういったモノは相談や愚痴こそ聞くけど、本質的に夫婦(?)の問題なんだからアドバイスはしないわよ。基本、というか基準としてレイちゃんとキルさんは常にラブラブでしょうし』
『うん。そこは大丈夫。いつの間にかペアルック着てたりするし』
『えっちね(他人事)』
『ベットは一つしかないから毎日同衾してるし』
『えっちね(他人事)』
『何なら私より私の体把握してるまである』
『えっちね(他人事)』
少しずつ、少しずつ想いが強くなっていったんだ。憧れ、嫉妬、好奇心。言葉にする感情はなんだっていいよ。要は私の欲望なんだから。
だから私はキルと戦うようになっていったんだよ?求めたモノを得るために。
というか、私が本気で頑張ろうって決意した瞬間、奴隷の魔術的な何かがパキンってなったの、今でも笑えるよね!あの時びっくりして目が点になっちゃったもん!
あぁ、もちろん直ぐ跳んできて何とも言えない表情してたキルに、ね!
笑い事じゃなかったよ。
確かに僕はレイに掛けていた隷属魔術が、レイの身体能力に不十分だって解っていたさ。あそこまで簡単に破られるとは思ってなかったけどね。
レイは何でもないように言ってるけど、憧憬嫉妬好奇心だけでここまで登るのは異常な事なんだよ?純粋な欲望だけで終わりまで、ね。
『…よく飽きないね。僕はレイが楽しんでるならそれでいいけど』
『高みに、登るほどっ!渇きはっ強くなる…!もっとイケる…!気がする…!』
『まぁやりたい事があるなら僕は邪魔しないよ。夜もね』
『寝ず…食わず…休まず…!この自分を追い込んでる感じが最高ぉぉぉおいやっふぅう!』
本当、夢中になった時の集中力は異常だったよ。そしてしっかり結果を出した。レイの言葉を借りればLUKだったかな?その一言で片づけられる範囲じゃなかったよ、本当に。
でも構わないさ。これは僕の意地であって矜持ではない。レイが幸福なら、僕はそれ以上望まないんだから。
私は成し遂げた。目標を超えて、合格点を超えて、理論値さえも突破したんだ。そう確信してるよ。これもキルのおかげだよ。
キルと過ごすようになって溜まっていく、欲望…。
反逆を夢見て、復讐を願って、逆転を成すんだ。そうなるように努力した。
何かを始めるのに、遅すぎることはないって言うじゃんか、キル。視点が変われば、得るものだってきっとあるよ。立場が変わったところで、それ以外の何かが変わるわけじゃない。私とキルは、そういう仲でしょう?
だからキル、戦おう。この戦いが始まりになるんだ。何かを得るなら戦わなくちゃ。
僕は成し遂げた。レイを見つけ、レイを得て、レイと一緒になったんだ。そう確信している。僕が在れたのはレイのお陰だよ。
レイと過ごすようになって消えていく、欲望…。
求愛を貰い、征服を実行し、支配を成した。そうなるように努力した。
正解が解っているのに、何故他の事をするのかと言うだろう、レイ。この視点に立ち続けたからこそ得るものもあるんだ。立場が変わったところで、見える形で何かが変化するわけじゃないけどね。僕とレイは、そういう仲だから。
だからレイ、戦おうか。この戦闘が終止符となる。何かを守るなら戦わないと。
「私が旦那で、キルが嫁。そういう未来があってもいいでしょ?」
「僕が旦那で、レイが嫁。そういう結末って決まってるんだよ?」
「それは間違ってるんだよ、キル」
「それは間違ってるんだよ、レイ」
レイとキルが話し合ってるシーン、デジャブを感じた人がいるなら私と同じ趣味です。
『笑い、叫べ!踊って、逃げろ!』
lolよりキンドレット
『ちょっ…当ったらないんだけどぉ!?命中率は100%以外は信用するなとふぎゃっ!?』
なお100%でも落とすドゥモニカスがいるらしい。
子供をあやすような戦いだった。にしては周りの被害が大きすぎたけどね。
ガキの喧嘩ですか!?にしては周りの被害が大きすぎる。 ───パトレイバー
『高みに、登るほどっ!渇きはっ強くなる…!
Higher and higehr you chase it ───lolのWorlds 2018 music「RISE」よりワンフレーズ 日本語訳が「高みに上がるほど渇きは強くなる」となっている




