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ハプニングツアー

今回百合要素はない

「お集りの皆様、本日はお忙しい中、この生命創造樹林探索ツアーにご参加頂き誠にありがとうございます。本ツアーでは自衛、自因、自己責任をモットーに、楽しく姦しく仲良くと!探検していきたいと想っております申し遅れました私、レイと申します。まだまだ新米の身ですが、何卒ご容赦ください」


「よろしくな」「グレネード」「お願いします」


「はい皆さま呼応ありがとうございます。さて早速ですが、皆さま左手をご覧ください。あそこにある大きな岩が見えますでしょうか?そう、あれです。あれは…実は破片なのです。元は今より数十倍はあったと言われております。あの数十倍となると、数百平方メートルをも超えるかもしれませんね。自然の力とは偉大なものです。お写真を撮りたい方はいらっしゃいますかー?撮りますよー」


「おっ頼むぜガイドさん」

「はい。…カンガルー様もーちょっと詰めてください…はいバッチリです。笑顔でー?はい、グレネード」

「あんがとよ。おっイイ感じじゃねぇか。だがグレネードちょっと表情固くねぇか?」

「確かに固いですね。グレネードさん、もっと自分みたいににっこりとしましょうよ。あの娘も振り向いてくれるかもしれませんよ?」

「…リロード中だ」


お前ら笑顔も何もバイザー覆面カンガルー面でどうやって笑顔判別するんだよ。見えないでしょ。


「はい。あっそうだ…そうでした。皆さま右手をご覧ください。右手に見えますのがーーー右です」

「おぉ…これが右か。確かに素晴らしいな」

「グレネード」

「改めて意識すると、こうも見える景色が違うんですね。普段の視野の狭さを思い知らされます」


…はい。


「え~続きましてー…あっあの大木見えますか?倒木の真ん中辺りの奴です、一際大きいの。あれはですね、ご当地モンスターの…スロース!そうスロースです。スロースの主食なんですあの大木。えーっと距離あるからわかりにくいですが…噛み後、3mぐらいあるかな?まぁそのぐらい大きい恐竜みたいなやつです。きっと美味しいでしょうねあの木。地質的にミネラル豊富な土壌でそれ吸って成長してるから美味しいんですよ。知らんけど」

「ほぉ…ミネラルか。大したものだな」

「おいおいおいおい死にますね宇宙服さん」


どしんどしん。

ヌッ。

木々の間から顔を出すスロース君。タイミングいいなぁサービス精神凄いなぁ。


「あっこの子がスロースです大きいですね体の震え止まりませんね死にますわね」

「大丈夫ですか?嫌な事でもあったんですか?」

「私にとってこの子がラスボスと言っても過言ではない。逆に何で皆平気なの象さんより大きいよコンテナより大きいよ一軒家レベルだよこの大きさ」

「ラスボスは過言of過言だろ。こっちで冒険者してるとそこそこサイズあるのは見るからな。というかバスガイドロールプレイ忘れてるぞ」

「元より付け焼き刃のロールプレイが長続きするとは思ってないよ!私ネタ以外で丁寧な言葉使えないし!」


やっぱりおかしいよこの人達。狂ってる。何で「せっかくだから旅行みたいな感じで進めたい」って理由だけでバスモドキ作って制服も作ってモンスター出るところでエンジン音響かしてツアーやってんだ。


…それに乗る私も私か?いやっこれは優しさだ。断じて同類なワケではない。


「はぁ…なんかもう既に疲れた…私はこんなキャラじゃないはずなのに…私以上にキャラが濃いよコイツら…」


窓から肘を着き外を見ながら哀愁漂わせムーブ。

生物は生きているのだから、自分の思い通りには動かない。心を燃やす意志ありし者どもは、束縛できず拘束できず操る事もできず、常に自身の歯車と他者の歯車はいがみ合う。


こいつら全ての歯車全部削って無個性にしてやろうか。


背後から聞こえる「俺らは計算して狂人キャラ演じて楽しんでるけど、あの娘素で狂ってるからやばいよな」という戯言を聞き流し、人類が扱いきれなさそうな樹海を眺める。

…どこからともなくカブトムシの幼虫みたいなのが大群で来そうだな。地面は流石に土だし、日光通るぐらいには隙間空いてるけど、それにしてもなかなか───


「ぐああああああああああぁぁぁっっっ!!!」


!?


突如、バスモドキの後方から悲鳴があがる。弾かれたように窓から離れ、不愉快な仲間たちがいるバス後方部を見ると───


「っく!うぎっ!アア”っ!畜生離しやがれ!」


そこには、毒々しい色をした触手のようなツタと、大量の大きなシロアリらしき生物に襲われる宇宙服の姿が!


「なっ…宇宙服!?大丈夫!?」

「援護が必要だ!」(語彙が増えてきたグレネード君)

「直ぐに助けます!耐えてください!」


慌てて助けようと三人(匹)駆け寄るが、ツタもシロアリも未知の生物ということに加えて、大量群がっており、一部はまるでこちらに牽制するかのように蠢いており不用意に近づく事ができない。宇宙服の必死な絶叫で頭の中もパニックになってしまう。


「なっ何か武器を!剣とか斧とかのツタを切れそうなヤツ!このままじゃ近づけないよ!」

「…グレネード!」

「ダメですグレネードさん!室内でグレネードを使っては、宇宙服さんどころか自分達も無事では済みません!」


…やばいっ対抗策が無い!私は体育評定4の一般女子高生バスガイドだし、グレネード君は人質を取られた状態では真価を発揮できない戦い方だ。カンガルーもカンガルーだし無理だろう。


「あぁクソッ…!まさかこんなことになるとはな!もういいお前ら!逃げろ!お前等だけでも逃げるんだ!」


私達に打つ手が無く、攻めあぐねているのを察したのだろう。ツタとシロアリが纏わりつき、殆ど姿が見えなくなった宇宙服がそう、見捨てろ、という道を示してくる。


「そっそんな…!できない…できないよっ!宇宙服さんを見捨てるなんて、私にはとても!」

「レイさん…残念ですが、ここは退きましょう。自分達まで襲われてしまっては宇宙服さんが犠牲になった意味がありません」

「うぅ…それは確かに…。ごめん、宇宙服…!君の事は忘れないから!」

「俺の事は気にするな!行け!」


遂に宇宙服の姿が敵に包まれ、見えなくなる。完璧に見えなくなる、その一瞬前に突き出された彼の腕は、私達の幸運を祈ってか親指が立てられていた。


「逃げるよ!ここで死んだら彼の意志が無駄になる!」

「後退せよ!」(語彙が以下略)

「バスは私が動かします!誰か敵の殲滅を!」


宇宙服を失っても、いつまでもくよくよしてはいられない。ここで私たちが死んでしまえば、それではあまりにも彼が報われない。


グレネード(人名)が威力を抑えたグレネード(武器)で軽く殲滅し、残った残党をナイフで切り裂いていく。平行してカンガルーがバスを浮かせ、前方に立ちふさがる障害物を消しながら前進する。

私は周囲の警戒と全体の管理だ。あっグレネードが殲滅に夢中になるあまりバスから降りて戦闘してる。もー戻ってきなさい。転移魔術でグレネード(人名)をバス後部座席へ。


「宇宙服…君の雄姿は忘れないよ…」

「グレネード…」

「どうか、どうか安らかに…」


去り際についでで放火し、業火にまみれた宇宙服の死地を振り返り、黙禱を捧げる。


助けれなくて、ごめん。君の分まで、精一杯生きるから…!


「…行動方針を、決めよう。一人失ったけど、クエストはまだ終わっていない。このクエストを達成せんとした宇宙服の為にも、ここは退かず成功させよう」

「グレネード!」

「えぇ。宇宙服さんの意志は、しっかり継ぎました。地図によると、目印になる自然物を二個ほど挟んで目的地です」


了解、と声を返し、前を見据える。

そうだ。お遊びのバスガイド気分で来たけど、ここは未開の地。キルが住んでいる場所だ。一瞬たりとも気を抜いてはいけない。パーティーリーダーとして、これ以上の犠牲は出させない…!




しばらくバスを操っていると、開けていて大きめの池みたいな場所にぶち当たった。水は透き通っており、光が指していることもあってか神秘的だ。水中には小魚が泳いでる姿が確認できる。


「ここが中間地点一個め?」

「はい。ここからあっちの方向に進んで、次の目的地。そしてお屋敷って道のりですね」


カンガルーの持つ地図を覗き込みながら進行方向の確認。…カンガルーのモフモフも結構よいな。割としなやかな筋肉が付いた肢体からは創造できない気持ちよさだ。

吟味するような感覚で身体を撫でまわしていると、カンガルーがグラサン越しに胡乱な目を向けてくる。なんだよー女の子同士だからいいじゃないかー。


そう、今更な設定なんですけど、グレネード君が覆面の上に付けてるグラサンが普通の、いわゆるボディーガードとかが付けてそうなリアル寄りな奴に対し、カンガルーが付けてるグラサンはドットで作られた、SNSとかのアイコンに付けられるグラサンです。

大多数にとってはどうでもよくても、彼らのアイデンティティに関わるから言っておかねば、ね。


「…グレネード!」


うっとおしさが限界突破したのか、ついにファイティングポーズを取り始めたカンガルーに対し荒ぶる鷹のポーズをとっていると、グレネード君が急に歓喜の声をあげる。


はいはいどうしたの?火薬庫でも見つけた?それとも胴体ワンパンスナイパーライフルでも見つけたの?


「おーい!待ってくれー!俺だー!」


こっこの声は!?


「宇宙服!?生きてたの!?」

「あぁ!どうにか逃げ出せたぞ!運がよかったぜ!」

「全身纏われつかれてたですよね!?」


それは…ほら、この世界ふしぎがいっぱいだからさ。魔法とか、ご都合とか、そういう力が働いたんだよきっと。知らんけど。


「ほらまぁ生きてたんだから何でもいいじゃん!持ってるね宇宙服!いよっ主人公!」

「ったりめぇだろ!俺はこんな際立った格好してるんだぞ?表紙を飾らなきゃおかしいだろ!」


流石だ!デフォで宇宙服着てる人は言うことが違うぜ!なお私は作業着。

対岸でポージングを始める宇宙服。いいよいいよー映えてるよー!じゃあちょっと脱いでみよっか?


「グレネード!」

「はぁ…生きてたならいいです。心配さして、もう…。傷はありますか?脱いで見せてみてください」

「おいグレネード、俺年頃の娘(?)から脱げって言われちゃったぞ。どう反応すればいいのか困るよな」

「グレネード…」


会話成り立つほど語彙がないグレネード君に話を振らないであげてよ。

しかし傷が心配なのは確かだ。植物とか死体のアレとかが宇宙服に張り付き、迷彩柄みたいになってる。オシャレな宇宙服ですね、ファッションですか?

あっ汚いんで近づかないでくださいそこの池で汚れ落として。


「まっそうだな。俺が気付かなかった傷もあるやもしれん。今そっちに…ぐああああああああああぁぁぁっっっ!!!」


!?


突如、池を挟んだ迷彩宇宙服が悲鳴をあげる。慌てて彼の様子をよく見ると───


「っく!うぎっ!アア”っ!畜生離れやがれ!」


そこには、宇宙服の内部から大量の大きなシロアリらしき生物に襲われる宇宙服の姿が!(赤外線感知)


「なっ…宇宙服!?大丈夫!?」

「援護が必要だ!」

「直ぐに助けます!耐えてください!」


以下略。


「あぁクソッ…!まさかこんなことになるとはな!もういいお前ら!逃げろ!お前等だけでも逃げるんだ!」

「いや今回はなんとかなると思いますよ!?諦め早くないですか!?」

「そんなことはねぇっ!俺はもう駄目だ!」

「いやっカンガルーちゃん、水面を見てみて!あの巨大な魚影はヤバい奴だよ!」

「さっきまで小魚しかいませんでしたよね!?」


宇宙服が身もだえる池の傍では、いつの間にか全長20mはあろうかという魚影が何匹もとぐろを巻いてうねっていた。どう考えてもこの池じゃエンゲル係数を賄えそうにないサイズと数に、驚きを隠せないカンガルーちゃん。


「俺の事は気にするな!行け!」

「っく…致しかない!ここは宇宙服を見捨てて逃げるよ!」

「後退せよ!」

「あぁもう!撤退します!落ちないように何かに捕まってください!」


巻き込まれないように、急いでバスを動かし始めるカンガルー。黙禱を捧げ始めるグレネード。届かぬと知っていても手を伸ばし、涙ぐむ私。


宇宙服は、最後の意地か、激痛であろう体を敬礼させ、そして───池から飛び出してきた巨大な魚影に呑み込まれた。


「宇宙服うぅぅぅぅぅうううっっっ!!!」




しばらくバスを操っていると、ぽっかりと大穴が空いた、渓谷のような亀裂にぶち当たった。軽く見える範囲でも先が見えない分岐点が多く、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。


「ここが中間地点二個めだね」

「はい。後は向こうに真っ直ぐ行けば調査対象のお屋敷ですね」


カンガルーの持つ地図を覗き込みながらの会話。

…このグラサン、ネタとしては欲しいな。どうやって作ってるか後で聞いてみよう。


「…グレネード!」


おっと、グレネード君の鳴き声だ。グレネード補給の時間はまだなんだけどな。


はいはいどうしたの?裏取りでも見つけた?それとも電話か鶏に化けたプレイヤーでも見つけたの?


「おーい!待ってくれー!俺だー!」


こっこの声は!?


「宇宙服!?生きてたの!?」

「ああ!なんとかな!無事合流できて良かった!」

「グレネード!」

「天丼…」


こらカンガルーちゃん。そういうこと言っちゃったいけません。


「今洞窟から出てそっちに…ぐああああああああああぁぁぁっっっ!!!」

「宇宙ふくー!!!」

「天丼じゃないですかあああ!!!」




「人の屋敷の前で何やってるんだろうね…。まぁレイが楽しそうならいいか」

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