はいどれっど
「これは人間界自然界限らず全ての生物に言える事なんだけど、圧倒的強者っていうのは獲物を逃がすことがあるんだよ。その理由がいたぶって楽しむためか、哀れみなのか、いつか強くなり復讐されるのを求めてなのかはわからないんだけど、とりあえずハンターが獲物を逃がすことがある、というのは確かなことなんだよ。いやわかるよ?確かにキルにとっては獲物を逃がす事になんのメリットもないかもしれない。けどキルは前に言ってたよね?今やっていることもいつか飽きる。だから色々してみたいって。それなら今私を逃がす事も一つのいい経験じゃなかな?もしかしたら私を逃がす事によってまた新しい選択しが広がって長く楽しめるかもしれない。キルにとっても新しい選択肢を潰すことは本意じゃないでしょう?私は今しか逃げたいという感情を持たないかもしれないんだよ?今後似たようなシチュエーションが来て、キルが逃げる獲物をいたぶりたいと思ったとき、私が逃げる気もなくなっていてしまったら?それはとてももったいない事なんじゃないかな?そう今!今なんだよキル!今こそが新しい選択肢を試す絶好の機会なんだ!私も望んでるんだよ?可愛い嫁が望んでいるんだよ?私は逃げれてハッピー、キルも新しい選択肢が増えてラッキー。ほら完璧でしょ?」
「言いたいことはそれだけかい?」
「───まだあります。はい。もうちょっとだけ聞いてお願い。逃げる…そう、私、逃げるのが好きなんだよ!まってそうじゃないそういう意味じゃないやめてやめて。…でえーっと…逃げ…こう、これ以上の快感は無理!壊れちゃう!って感じで逃げるシチュエーションが好きなんだよ私!相思相愛なんだけど、相手の性欲が思ったより強すぎて、これ以上は…って逃げるけど、捕まって堕とされる奴!最高だよね!それやってみない!?…私がされるのは最高じゃないかもしれないけど(ボソッ」
「…ふむ。なるほど。じゃあ一分間待ってあげよう。屋敷の魔法を変えて二階建てにしたから、30分逃げきったらレイの勝ち。双方魔法は使わない。ステータスはレイの世界の世界大会レベルで固定。質問は?」
「ないっ!30分後会おうキル今日はもう無理ですぅぅぅう!」
捕まったら哀れな子羊となる、人権を賭けた鬼ごっこが始まった。
名前の通りになった屋敷は、ABCDの部屋の下に廊下を挟んでEFGHのお部屋。二回も同じ。階段はAの隣とHの隣の二個。隣接してる部屋は繋がっている。それが捕食者がいる一階から全裸で逃げだしてきて一分で得た情報だ。
それぞれの部屋は生活感を感じる部屋だったり物置だったりで様々だけど、総じてごちゃごちゃしてて隠れることもできる。
と、いうわけで私は和室っぽい部屋で、襖をしめ物置の奥にて体育座りで縮こまっている。
あのねあのね。30分なんて普通に考えてキルから逃げきれるわけないから、隠れれる場所を探したんですよ。その時は、いつキルがくるかわかんない恐怖で、アドレナリンどっぱどぱだったんですよ。
それでいい場所見つけるじゃん。隠れるじゃん。落ち着くじゃん。アドレナリン鎮静化するじゃん。…かえって隠れてる時の方が恐怖がどっぱどぱなんですよ。
「立ちメメは嫌だ…立ちメメは嫌だ…立ちメメは…嫌だっ…!」
鬼ごっこだったら。そりゃあキルから逃げきれる可能性なんて7大豆のアーリーアクセス終わるぐらい望み薄だけど、まだ何とかなったかもしれないのだ。あれは捕まって初めて負けであって、見つかる即終了ではない。
けど、かくれんぼはどうだ?8つの部屋かける二階建て、で見つかる可能性は低いかもしれない。けど、かくれんぼというルールは、見つかったらもうその時点で終わりなのだ。隠れ場所は物置の奥。袋小路。見つかったらまず捕まる。
ああああ何でかくれんぼしちゃったの私というかこういう風に隠れて鬼をやり過ごすってホラーじゃまず捕まるパターンじゃんこれむしろ私から追い詰められてる獲物感だしちゃってるよホントどうし───
───コッコッコッ───ガチャ
………ナニカキタ。
───ガサッ───カタカタ───ボスッ
「………っ!っ~~~…!」
ガクガクブルブル。落ち着け落ち着け落ち着けぇぇぇえええ!大丈夫こっちまでは探さない探索速度からして早すぎるこれはかなり適当に探してるパターンだ見つからない見つからない!
意識せずとも縮こまっている体が自分のモノとは思えないほど震える。全裸だから寒い、とかじゃない。純粋な恐怖だ。
奥に、もっと奥に、と、自然と固くなっている体を無理やり更に小さくし、暗い物置の奥へ。
───ズズズッ───ゴゥン
錯乱し、思考は纏まらなくなり、脳を恐怖が支配する。瞳孔は開き、涙が零れ、膝を抱える手に力が入る。
私は何でこんなに怖い目にあっているんだろう。
───スーッ───パタン───ガチャ───パタン
私は何がこんなに怖いんだろう。
だって、キルは怖くない。かわいい最愛のお嫁さんで、いっつもわたしに優しくて、わたしが嫌なことなんて絶対にしないんだから。
───コンコン───ザー
キルはいま、なんでわたしを探しているんだろう。それは…わたしが逃げたからだ。
わたしはなんで逃げたんだろう。喰われたくなかったから?
───………
ちがう…わたしはキルに食べられることに抵抗はない。
…それじゃあ、なんでわたしはにげているんだ?
───コッコッコッ
わたしににげるりゆうはなくて…。キルはわたしをもとめていて…。
───ガッ…スー
涙で歪む暗い視界に、明るい光が差し込まれる。
目線を向けると、そこには逆光で見にくいけど、優しい笑顔のキルがいて
「き…る…」
「レイ、みぃつけた」
「っていう夢を見たんだよー」
気怠い時こそご飯をしっかり食べる。起きたらなーんかいつも以上にダルくて、体調悪い時は好きなモン食べるに限ると即食卓へ。キルに出してもらったお昼ご飯を食べながら、キルに今朝見た夢の内容を話していた。
今日のメニューは野菜のサラダ(クレイジーソルト)、野菜のサラダ(ジョセフィーヌ※ドレッシングの一種)、野菜のサラダ(鉄〇工房※ドレッシングの一種)。野菜しか食べないなんて、私は何て立派なヴィーガンなんだ…。
「夢とかいう身近なファンタジーとはいえさーなーんで私発狂してるんだろうねーあれもうかんっぺきに心壊れてたよ。がしゃーんて。完全依存エンド見えたもん」
キルは何も言わない。私の話を聞くだけだ。
「でも夢とはいえさっすが私だよね。私相思相愛だけど大きすぎる快楽に逃げちゃう百合すきだもん。そしてそれを容赦なく追い込んでキッチリ堕とす系大好き!ヒロインがもーちょっと私に似てなかったら普通に尊めたのにー。見るのとするのは違うから、優しいキルはちゃんと我慢してくれてるけど、あーゆーの二次媒体でもっと見たいなぁ。増えればいいのに」
キルは何も言わない。
「それと追い込みのシーン!最高だよねあーゆーの!リアルでされたいとは思わないけど、逃げ場のないところでガクガク震えてるところに、じわじわと恐怖を浸透させていくように追い込んでいくの!リアルでされたいとは思わないけど、もう泣き顔とか愛してるけど怖がってる内心とか最高だよね!リアルでされたいとは思わないけど」
キルは何も言わない。
「SAN値崩壊もキュンと来た!ああやって愛してるからこそ、嫌だと思っていた理由がどんどん消されていって、最後は愛しい人の全てを受け入れる!そのタイミングで本物登場したら、そりゃぁどれだけメンタル強くても依存しちゃうよ!もうまさに堕ちた瞬間って感じで、私の夢だけどあまりのデキの良さに震えちゃったもん!リアルでされたいとは思わないけど」
キルは何も言わない。
「あーもう…ほんっと最高だったなぁ…あれを実際されるヒロインにとっては悪夢だろうけど、捕食者側とか、見てる側にとってはホントご馳走様って感じで…。いやぁヒロインには申し訳ないね。確実にトラウマだろうけど、何かの拍子で思い出す度体ビクつきそうだけど、依存の中にも恐怖心が湧きそうだけど、食いものにする分には至高だったし!」
…キルは、何も言わない。
「…キル」
「…何かな?」
ここで初めてキルが反応を返す。若干、焦っているような声色だった。
「…何か私に言うことは?」
「…正直、今回に限ってはやり過ぎたかなと思っている」
思いっきり現実じゃないかこの性欲化身んんんんん!!!!!!
もっと発狂させたい。




