憧れと夢
魔法も併用したプロの役者さん達が演じる劇は、できのいいアニメ映画をリアルにした感じで普通に感動した。っふ。泣かせるじゃねぇか…。
「ここが全国全男児が憧れる武器屋…!」
「憧れる女の子もいるしね」
劇を見終わり、さて次何か面白いものないかなーって視線を巡らすと見つけたは武器屋。木製の看板でデカデカと主張する武器屋の文字の隣では、ガラスの内側で銀に輝くナイフみたいな物が飾られていた。
「キルっ行きたいあれ行こう行く行った!」
「はいはい」
希望提案進行過去。
私が余りにも目を輝かせているからか、キルのちょっかいも鳴りを潜め、顔には仕方ないなぁといった苦笑が浮かんでいる。
いやいや!宝物庫でも興奮したレイちゃんですよ!むしろ宝剣にはない、性能だけを求めた装飾無しな武器もそりゃあまたいいものですよ!自分で造るのは何か違うし…!
飼い主の許可が出たのでリードを気にしないで突っ込むことができる。扉をぶっ壊す勢いで入店した私に飛び込んでくる景色は、視界一杯の銀に輝く武器、武器、武器!
…ん?なんかナイフっぽいのしかなくない?サイズは違えど、形状全部一緒じゃない?
先端が尖ってて、刃が片方に付いてて、反対側は…ギザギザ?一定間隔で棘というか、ひっかけれるのが付いてる感じ。ん?というかこれって…
「いらっしゃい!ウチはソードブレイカー専門店だよ!」
「同業者に喧嘩売りたいの!?」
というか生活やっていけるんだろうか。
「これはサブジョブだから…」とかなり負け惜しみみたいに聞こえる言葉を残し、店主は奥に帰っていった。多分メインジョブだねあの店主。
ソードブレイカーなんて買ってもしかたないので(というか所持金的に買えない。おねだりすれば買ってもらえる気がするけどその後がとても怖い)お店を出てまた中央通りへ。やっぱりそれなりに人が多いので今度はおんぶされて移動中。行先不明。というかなんでこんな人通り多いんだ働いてないの君たち?
やっぱり私を抱えている手が怪しい動きをしているのを避けつつ、肌寒い頬をキルの頬に擦り付けながら進行。言ってなかったけど今冬なんですよ。多分。暑いと服が薄くなるけど、寒いと肌合わせる事も増えるのでどっちも好き。
遂に服の中に侵入してきた手に貞操の危機を覚えたので(手遅れ)、最初の方に見かけてた憩いの場公園(仮定)での青春を提案。童心に還って鬼ごっことかやりたいなー。マンションでやるのとか、迷惑なんだろうけど楽しくて楽しくて。下手したら階段とかで骨折するけどな!
家族連れの人とか宴会してる人とか、たぶん平日だろうに割と人がいるので、隅の木陰で降ろしてもらう。危機からは免れたぜ。
「国中にあるにしては、ちゃんとした自然って感じの公園だねー?移植するにも大変だろうに…。管理人とか公務であるのかな?」
「いや?この国は自然の真っただ中で使う部分だけ切り倒して作られたからね。ここの自然はその生き残り」
「まーじでー?人間してるなー」
自然を破壊してこその人間。共存とか体よく言ってるけど、所詮は利用したいが為の言葉さ。私もTRPGでは大体放火してる。
「それはそれとして。結構風通しいいねここ。涼しいじゃん。ピクニックとか、こういうのを感じるためにするんだろうなー」
ぴゅーっと吹く風は不快ではなく、むしろ心地いい。ぽかぽかとした陽光もそれを後押ししている。今春だからね。
「ん…そうだね。レイと一緒なら、そういった無為な時間もいいね」
「もーまたすーぐそういって惚気るー」
「頬をつつかない。僕の行動方針は、最初から「レイのため」で変わらないよ」
きゃっきゃきゃっきゃ。
女の子座りしているキルの膝に寝っ転がりつつ、笑顔の触れ合い。一見仲良くしているけどそれは建前で、本音は「ここでヤるのは流石に止めてね?」「これもレイのため、愛ゆえに、さ」といったところだ。つまり仲は良い。
ちなみに健全な恋人としては割といい雰囲気になってたけど、この後普通に寝落ちした。旅行前って聞いてわくわくして寝つけてなかったんですー!
夢、というのは、自分の心によって変化する。
この場合の夢は、仮面着けたライダーになるとかきゅあきゅあになるとかの将来的な奴じゃなくて、寝てる間に見るアレだ。貘の食事のやつ。
よく、自分の嫌なモノ、トラウマになったものを見ては「夢に出そう」とか言ってる人がいるが、それは違う。忘れようと意識すれば意識するほど、却って根付いてしまうというものもあるが、夢は自分の心の奥底から内容を取ってくるので、大方自分の望んでいるものや欲するものをテイクアウトしてくるのだ。
実際、私が平日10時間休日18時間同じゲームしてたら夢に出てくるようになった。これは上記の紛れもない証拠となるだろう。流石にしばらくそのゲームは控えた。
まぁ、何が言いたいかっというと。
「…この娘人の夢も操れるんじゃないですかね」
鉄格子に石畳といった、檻の中にて後ろ手に縛られた私は瞳からハイライトを消して呟いた。
えぇ…これ私の心の奥底から求める欲なんですかいや違うんですよ私そんな子じゃないですよ清く正しく清純なレイちゃんは200階の夜景が綺麗なホテルでクラシック流しながら淡い光の下天涯付きベットで甘く優しいラブラブな奴を夢見るザ乙女なんですよ本当です信じてください。
断じてこんな監禁されて行動できないように手足縛られて支配下におかれ一方的に「泣かす」とか言われて苛められるのが好きなわけではぐへへ。
…さてはあの娘洗脳も併用しているな?(認めない奴)
「夢と自覚して動けるのは久々とはいえ…んーどーしよっかなぁ…」
白昼夢…違うな、めいせきむ?何かそういうの。
普段から「あ、これ夢見てるなー」って自覚することはあれど「じゃあ動こう」となると覚めるのがデフォルト。けど今回に至っては、久々な淫夢だし動こうとしても覚めない。やはりキルが操ってるに一票。
熱い真夏(多分)の昼の中、加熱されていない欲望は、遂に危険な領域へと突入する…!
「というかこれ、夢進まないの?何も進まず放置プレイされるのが私の深層心理なの?」
ありそうだから困る。
でも縛られてるだけじゃつまんないし、縛られる腕も若干痛いので解かなきゃ。夢と自覚しても痛いもんは痛い。むしろ自覚してしまったから夢でも痛いのでは?
できることが当たり前、という画期的な魔法の扱い方を最近覚えた私は、腕を縛る縄を取りぐーっと伸びをする。伸びをすれば身長が伸びるっておばあちゃんも言ってた。
続いて牢も鉄棒を曲げ無理やり私が通れる隙間を作り出し抜け出す。こういう脱出方法実は憧れてたり。
脱出モノ、好きなんだよねぇ。限られた資材、時間、手段!仲間をつどり、知恵を捻り、閉鎖された空間を脱出する…うーん最高。今度キルに言って作ってもらおう。自分で考えるのも好きだけど、それはネタバレと同時進行だからな。
てくてく。牢がある地下から階段を上がるとマジで何もない草原だった。振り返ってみると地下牢の入り口さえ消えてる。丁寧だな。
かといって無音なわけではなく、牢にいたときは気づかなかったけど、一方向からどかんどかんと景気のいい爆発音が聞こえる。
選択肢がそれしかないので爆発音へと足を進める。爆発音が大きくなるにつれて平原の一部が焼けてたり焼土になってたりクレーターになってたり…やばいかもしれない。けど進んじゃう。イベントってそういうものだから!
「何かで戦争地帯へと向かったレポーターはお金がいっぱいもらえると聞きました。現物防具で是非今支給してほしい」
どっかんどっかん。X時代のスネークでもこんなに爆発できなかったぞってレベルで周囲は爆発してる。ステータスの力で怪我こそ負わないものも、舞う土煙が凄くうざい。サングラス装着!
そして爆発の中心地に見える黒いフード。わぁ見覚えあるー。
「レイがそれを望むなら。僕は他の全てを否定しよう」
やべぇ。私のご主人様やべぇ。もっと自主性もって。どっちかって言われるとご主人様よりご主人呼びのほうが好きです。
「あのー…キルぅ?」
「ん?レイじゃないか。どうしてここに?」
とりあえずこのままじゃ爆音で私の耳が死ぬので、声をかける。たいして声張り上げてもないのに、上空100mぐらいで破壊神をしていたキルは反応して降りてきてくれた。これぞ愛のパワー。いかなることがあっても、そのパワーは揺らがない!
「やっぱり手足は動かないように腱を切るべきだったかな」
…ゆ、揺らがない!
ちょっ私の深層心理…。人の考えを変えるのは3ヶ月掛かるんだっけ?ちょっと頑張らないとリアルで起きたらやばい。私に痛い方の耐性はないんだ!心の底で望んでるって免罪符をキルに与えると実現しかねぇない!
「さて、とりあえず逃げ出した悪い❘奴隷には罰を与えなきゃね?」
ぐいっ。
考え事してた私をレイが引き寄せる。超至近距離まで近づいたキルの顔は、迷いなき意志を見せていた。即ち、「❘レイ《私》の手足[校閲より削除]」すると」
「いやこれっ!そんな思い奴の予定じゃないから!!!」
プロットって大事だと思いました。
こんなキルをヤンデレさせる予定はなかったので、次回から普通のキルに戻ります。そもそもこれ夢オチだよっ!
まぁヤンデレなキルも愛せるけど!
迷走してる気がする
もっと自由にやらなきゃ(使命感)




