れいどぎるます
「ふぇー。ん?じゃあそいつ倒さなかったら永遠に経験値稼ぎできるんじゃないの?」
「そうは問屋が卸さないってな。ピアノ弾いてる本体以外は経験値入らねーんだよ。ちゃんとデバックしてるらしい」
すぐ帰ってきそうな口振りでキルは去ったから、てっきりカップラーメンでっきるっかなってレベルだと思ってたんだけど以外に長引いてるらしく、未だに私を独りにしてくれてる。寂しい。
けど、異世界人達は揃ってコミュ障であると同時に趣味の合う人に対しては饒舌になるオタク特有のアレなので、屋敷にいた時よりかは暇じゃない。コーナーで差をつけろ。
今話してるのはダンジョンのお話。希代の作曲家にして演奏家、シェイクストピアという人物の死後の執念によって出来たダンジョンのモンスターについてだ。
一匹の猿が無茶苦茶に弾くピアノから猿の兵士が無限に沸いてくるので、それで経験値稼げないかってね。
長くなりそうだし私の脳はキル以外に割く容量があんまりないから割愛するけど、シェイクストピア、猿、無限で何となくここ地球のパラレルワールドじゃねぇかなって思いました。根拠はないです。まる。
続いてモンスターについて話始めるティラノ着ぐるみ君にふんふん頷いてると、真上の天井が一部ぶち抜かれ窓っぽくなって、そこから「二階に来て」というキルの声が聞こえた。
あの、流石に目の前に石の塊が落ちてきたら怖いんですけど。まこのぐらいなら慣れたけど。
椅子から立ちティラノ君にじゃーねーと言って階段に向かう。今更だけど誰も天井ぶち抜かれてるの疑問に思ってない。日常化してんのかなこいつらこわ。
「俺も着ぐるみ欲しい」「グレネード!」「とりあえず飲もー」と騒いでるダメ人間達を尻目にとんとんっと階段を登っていくと、登りきって直ぐに[ギルマスの部屋]とかかれた扉があった。さては二階全部ギルマスの部屋だな。
ノックは偉い人の所行く義務。こんこんっと。
がちゃ。
「…こういうときのノックって二回で良かったっけ?」
「ノックの回数はそんなに気にすることじゃないけど、少なくとも入室の許可を貰うまでは待った方がいいね」
「なるほど」
そういう考えもあります。
後ろ手に閉めて顔を上げると、パーカーっぽいのに手を突っ込んでるキルともう一人、幼女が明らかに丈あってない椅子に座っていた。具体的に言うと椅子に座ってるからか机と目の位置が一緒。デフォルトで上目遣いができる計算された奴だあざといな!
「ギルドマスターのギルマスです」
キラキラネーム幼女だった。いやこれキラネか…?
「はぁ、その…随分と…名前が………愉快?」
「貴方が聞いた通りな事は解りました」
眉間を抑えため息を吐きそうな感じで言われた。きっと超優秀だと聞いてたけど予想以上に超超優秀そうでもて余すとか思っているんだろう。っふ、我が力をもて余すなど、元より使える者はキルだけよ!
なんたって私も自身の力把握してないしもて余してるしなーと、内心思案していると、キルが微笑ましいものを見るような眼で話を引き継いだ。
「彼女は転生するならギルマスになりたかったらしくてね。名前も何であろうとギルマスと呼ばれたいからこうしたし、キャラが濃いのがギルマスだろうとこの容姿に僕が作り直した」
ふむふむ。なるほど。わからん。
まぁそれほどギルマスになりたかったからキルも協力したんだろう。この娘信念強い人好きだから。
「ギルマスだったらテンプレとして受付嬢してるんじゃないのー?」
「いや、私が目指してるのは普段武力なんて欠片もなさそうな文系理知的ギルマスが昔はやんちゃしてて物凄い強いって奴なんだだから普段は大人しく書類してる来るべき時に登場することができるように今か今かと力を蓄えている」
「急な早口!だいぶ限定されてるシチュだけど、叶えれて?そうで良かったね」
「人はいつだって夢の一歩手前ですから。長かったですが、満足してます」
いい笑顔するねー。いっつも何か企んでそうな笑顔する嫁とは大違いだおっと殺気。
前まで殺気って実際感じるのかなって思ってたけど、今は違う。殺気超感じるわ。誰だって捕食者に捕まりたくはないだろう?人間は適応する生物です。
「さて、あなたを呼んだのは、本当にただの顔合わせですよ。もちろん極力問題は起こさないで欲しいですが、キルさんの所有物ならまぁ大丈夫でしょう」
「さらっと酷い。問題ってどんな感じの?」
「おやつは300円を越えてはダメ、とかですね」
「扱いにキレそう」
真顔でギルマスちゃんの顔をじっと見つめると、お手上げって感じでハンドアップされた。許そう。私は心がサハラ砂漠のように広いからな。昔これ言ったら当時から少なかった友達の一人が「心が乾いてるんだね」って言われてぐうの音も出なくなりました。返しがうまい…。
「ま、あくまでこっちの心労を考えてくれるのなら大人しくってだけです。君の言うことならレイさんも聞きそうですし…聞き…頑張ってくださいね」
「流石の私もどう思われてるかわかった」
さては全く期待されてないな。
っふ。やはりこの程度の人に測れるような才能ではないんだなー私は。
「普通に、常識的な行動を願っているだけです。たまにキルさんはおかしい人連れてきますからね」
「たまになの?キル」
「あの程度ならよくいるから、下がああなってるんだよ」
「なるほど」
つまり異世界人はあのクレイジーさが標準と。ひょっとして異世界って問題児隔離所なのでは?
「最近なら、ハーレムしたいって叫んでた人ですね。いやその目的はどうでもいいんですが、手段が問題でして」
「奴隷買い漁り」
「奴隷商にモンスタートレインして可愛い子残してモンスターに殺さしてから救うというマッチポンプ君ですね」
「忠誠とかをわかりやすく植え付けようとしてらっしゃる!?」
そういうの普段暮らす上で良心痛まないのかな?それすらも性癖とか言われちゃうと私としては何も言えないんだけどー。
「ちなみに僕が力を授けた」
「ドヤ顔する意味がわからない」
「一切の曇り無い純粋無垢な願いだったからね」
「ナチュラルサイコパス」
「ギルドの沽券に関わるので彼はもう殺しときました」
「こっちも軽い。彼だって一度きりの人生を生きようとしてたんだよ!」
その後もなんか色々世間話してギルマスと別れ、階下にて案内してくれた熊の人(名前を忘れた)と感動のお別れ。
「そのカード使ったらいつでもここに来れるから、暇だったらおいでね」
「はーい。新婚旅行終わったらとりあえず一回行くよん」
「精神病棟に見学しに来る感じだと気楽でいいわよ。朱に交われば赤くなるって言うし、できればあんまり来てほしくない面も「グレネード!」ほらこんな空気読めない奴もいるし」
唐突に何かしら叫びたくなる症候群の人を睨む熊ちゃんに苦笑いしながらお別れを済ます。いつだって愛想笑いせず人に媚びない私に苦笑いさせるとはやるな。というか今のは割と空気読めてると思う。
ともあれあんまりキルを待たすと、ここの人達が何をされるかわからないし、私もナニをされるのかわからないので手を振ってドアを蹴り開ける。普通にぶっ壊れたドアを一切気にすることなく、熊ちゃんと降りてきていたギルマスは手を振り返してくれた。まったねー。
何で転移しないのとか無粋な事は言わず、手を繋ぎ肩を揃え歩く。
フードを脱いだ素顔のキルは、ドックランに行ったら自分の犬が他の犬と仲良くなって満足している、みたいな表情だった。
熊ちゃん。やっぱり私人間扱いされてないかもしれない。
「やー、いい人達だったね!頭はおかしかったけど」
「狂ってる人は、自分が狂ってるってわかっていないからね」
なるほど。きっとあの人達は自分が頭おかしいって自覚がないんだろう。自身を見直せないとはかわいそうに…。このうるとらすーぱーのレイちゃんをもってしても、どうしようもできないのがもどかしいぜ。
頭おかしいならまずそれを認める。そこから人は成長するんだから。私はおかしくないけど。
「まぁ若干、悪い人がいなさすぎるような…絡まれるテンプレもないし」
「厳選済みだからね」
「ちゅうせいV」
整理するので更新止まりゅ




