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同胞邂逅

「じゃあ旅の楽しみを全否定する転移で、とりあえず人権作りに行こっか」

「えっ待ってまだ準備終わってにゃあああっ!」


草薙剣を作った後。地面にぶっさしてしゃがんで造形をじっくり見てると、しゃがんでる姿勢からふと連想されて唐突にコサックダンスがしたくなり、なかなかうまくできず悪戦苦闘してる所をキルに拉致られました。

コサックダンス、足腰がやヴぁい。これ踊れる人は体幹化物だね。


鍛治をしていたところを問答無用で拉致られたので、格好は今朝渡されたチャイナドレスである。流石にこの見るもの全員を魅了する艶めかしい生足を晒す持ち主レイちゃんの恰好を他人に見られたくないなぁ…。

というかいままでの私、人権なかったのか。まぁ奴隷でもあるし当然か。…当然、なのか?


と、思っていたら転移した瞬間には服は露出少な目の魔法少女が来てそうなものにすり替わっていた。内情を察して甘やかしてくれるキル好き。まぁどうせ自分以外で私の肌見せたくないからだろうけど。でもだからって思考が行きついた先が魔法少女なのはどうなの?私キルに飼われ始めてからコスとかのマニアックな格好しかしてないんだけど。


さて、転移した場所は山の麓っぽい?場所。近くには石材でできたそこそこ大きな二階建ての建物があって、中から騒がしい人声が聞こえる。


「あそこが本日の主役?」

「そうだよ。転生者にとってのチュートリアル的な場所かな。この世界に来たばかりの転生者を支援したいという人がいて、その人が作って運営し始めたのがあそこだね。普段は転生者の情報交換とかの、集いの場としての役割を果たしてるよ。まぁ大方暇つぶしだけど」

「っは!群れなきゃ何もできん奴等が!」

「その唐突に全方面に喧嘩売るのは何なの?」


だってだって。私は自分から独りでいたんだよ。決して友達が作れなかったわけじゃないんだよ。ホントだからね。


「こうして今のレイが作られたんだね」


友達を作ると人間強度が下がる。人間強度とは?


雑談もそれまでにして、キルと恋人繋ぎしつつ建物の前まで向かう。

…こういった扉って蹴り開けるのがマナーだっけ?


「マナーと常識はまた別のものだよ。普通に開ければいいさ」


キルの残念な娘を見る眼が加速する。でもその瞳の奥に僕がいなきゃダメなんだから的なアレがあるのは見逃さないぞ。ソロプレイでも私はいけます。

決意を新たにし、とりあえず視線から逃れようと顔を逸らしつつ、扉を開けた。


「おっほースキルたんねえええええ」

「グレネード!」

「だからあれほど計画的にやれと」

「ラスエリは最後まで使わないやーつー。もったいない精神は死んでも治らない」

「ネクロマンサーレベリングって実際どうなの?」

「いや、やっぱここはモッフモフに行って精神癒すべき。最近心労やべーかんな」

「試し撃ちでギルド内で歌うな歌姫ぇ!耳が孕む!」

「ゾンビがスケさんになってジャイアントスケさんになっちゃうけど、それを跳ね返せるなら効率いいよ」

「耳が孕むとかいうパワーパード」


「くっそうるさい」


いつもこうなの?と嫁にアイコンタクトとすると『いつもこうだよ』って電波が来た。直接脳内に…っ!


さて、そんな蜂の巣くっついたような騒ぎだった酒場みたいな内部だけど…。私が呟いたからか、はてさて扉が開いたことに気づいたからか。好き好きに話し合ってた人たちは、段々とこちらを見て固まっていく。ある人はぽかんと口を開けて。ある人はライオン着ぐるみ姿で給仕を止めて。またある人は積み上げてたトランプタワーをぶっ壊した。自由だね君たち。恰好も行動も。


えっなにこの反応は。さてはウチの娘が昔何かやらかしたないやーすいませんねウチの娘が基本いい娘なんですけどどーも自分本位というかこうと決めたら周りが見えなくなるというか…。


内心人の注目を浴びることに慣れてない私が変な方向にテンパっていると、熊の毛皮を丸々被った女性がおそるおそるといった様子で近づいてきた。超低姿勢で。君たちキャラも濃いね。


「あの…キルさん…そのお方は、どういったお人で…?」


おぉう完璧に下ってる。頭おかしい恰好(私は本物の魔法少女なので問題ない)してる割には支配者への媚り方がちゃんとできてるね素晴らしいこの娘怖いからねへへっ靴舐めましょうか?


熊毛皮ちゃんが聞いた事は皆が疑問に思っていることらしく、周囲からよく行ったアイツとかよく行くよアイツ的なサムシングを感じる。というか小声で「初めてズタ袋に入れられてない状態の人を見た」「人間扱いしてる」「隣に立ってるなんて」って言ってるんだけど普段のキルの扱いが気になる…いや気にしたくない方向だなどっちかっていうと。


さて、凄い注目されてる当人の対応やいかに?


「嫁だよ」


「「「………」」」


ド直球に紹介されると、流石に照れる…。


「嫁…嫁ぇ!?」

「うっそだろ…?」

「…グレ…ネード…!?」

「顔赤くなってる辺りこりゃほんとだな」

「終わりだ。世界が終わる」

「いや素直に祝っとけよお前ら」


あぁ。場が一気に混沌に。自分でも赤くなってるの解ってんだから一々指摘しないで。


「まぁ、交流するならまた今度にしてね。ルペル、この娘の冒険者登録しといて。Fでいいよ。僕はギルマスに顔出してるから」

「あっはい…」


勇気ある熊ちゃんがどうも私の案内を任命されたらしい。私レイっていうの。よろしくね。


「いや…いや、うん…まいいや。とりあえず登録するから、付いてきて」

「いえっさー」


熊ちゃんは悟ったような顔だった。そのままキルが向かってった扉の手前のカウンターまで先導して、バーコード読み取るアレ的なアレを向けてきた。


「それって何なの?」

「いい質問だ」


ぴってされた。ご丁寧に音が地球と一緒だ。私、商品だったかもしれない。

背後から「答えてやれよ」「だから異世界人ってやっつぁー」「適応速すぎるよねー」と声がするなか、バーコード読み取るアレに繋がってたコード先の四角い箱から、定期サイズくらいの金属製カードがにゅっと出てくる。色は銀色。表面には私の名前とかなんやらが刻まれてる。思い出した。バーコード読み取るアレの名前、リコーダーだ。(多分違う)


「これが冒険者を証明するカード。登録したてはFランクだね。F、お手伝い。D、アルバイト。C、社員。B、部長。A、社長、って感じ」

「Sは?」

「無いわね。これ作った奴は「人間がそこまで強くなれると思うなよ地に伏せろゴミ共が」って言ったらしいねー」

「性格でるねー」


人間じゃなきゃなれるんだろうか。そんだけしか階級分けできなかったら不便だと思うんだけど、まぁなんとかしてるんでしょう。

カードを胸の谷間に仕舞いながら(その位置でアイテムボックスを発動させ収納する)、回りを軽く見る。酒飲んだりトランプタワー作ってる人たちが騒いでるこの場所は、よく観察してみると地球でも見かけるような道具が沢山ある。キルの屋敷は例外として、異世界に存在するには不自然な物がいっぱいありますねぇー冷蔵庫とか。急に電化製品出てくるの止めろ。この世界はファンタジーだっつってんだろ。


「ここの人たちって地球産しかいないの?」

「転移も転生もあるけど、ここの場所にいるのは全員そう。一人ぼっちは寂しいもんなって、キルさんが溜まり場を作ってくれてね」


ほーんと頷いて飲んだくれてる奴等に目を向けると、うぇーいってジョッキを掲げられた。


「もーキルの姉御がいなきゃネタが通じなくて虚しくて死ぬとこだったわ」

「あぁ。俺もキルさんが迎えに来てくれなきゃ、年明けるまでムショ暮らしだったかもしれん」

「いや何やったんだよお前は」

「通報しますた」

「やっぱ異世界と言えども日本酒が飲めなきゃねー。私日本酒がなきゃ脳が震えるのよー」

「グレネード!」

「チュートリアルがあるのは実際助かる」

「誘拐された時の恐怖を除けば完璧」

「wiki無いとあたし不安になるタイプだしー」


おーけー。大体把握した。多分一ヶ所に集まってくれた方が管理しやすいからとかそういう理由だろう。キルが人のために何かするとは思えないしな。(最低な決めつけ)


「で、こっちも聞きたいんだけど…キルさんとは、本当にそういう関係で…?」

「私が主人だよ!」


胸を張って言った。

周囲から残念な娘を見る視線をいっぱい貰った。

何だ君たちその視線は。しばくぞ。キルが。いや私も普通に強いとは思うけど。


「いやごめんね、どうしてもキルさんが人間扱いしてる人を見るのが信じれなくて」

「私の嫁がそんな非道みたいな言い方はやめてもらおうか。否定できないから困る」


なんなら私も人間扱いされてるか怪しい。


「じゃあ次は私の質問で…。ここ、いっつもこんなにいるの?暇なの?町繰り出してテンプレ冒険しないの?」

「勿論町とかで暮らしてる人もいるよ?けど、ここは異世界人限定で転移できるからね。とりあえずここに集う事が多いの。テンプレはここでも味わえるしね、ほらあの人とか。あのふざけた格好の人」

「うーん誰かわからん」

「今のは私の言い方が悪かったわ」


普通の格好がかえって目立つレベルで奇抜な格好してる奴等が多いからなぁ。ティラノの着ぐるみやめろ。トランスフォームしそうなのもやめろ。


「あの身長高くて目に入れたくない見た目してるオカマ」

「あーあの…視界の暴力」


目に入ったはスキンヘッド、派手メイクに二つに割れた青髭の顎。胸筋見えるピッチピチな服で高身長マッチョなザ、テンプレートオカマだった。やめろいい笑顔で手を振るな。


「彼には悲しい成り立ちがあったの」

「彼女って言ってあげたら?」

「彼女はね、オカマが嫌いだったのよ。ケツを狙われるなんて嫌だってね。でも異世界だと、テンプレ故に絶対に一人はオカマがいてしまう」

「まぁメンタルかフィジカルかが強いのがどっかにはいそうだね」

「だから彼は、自分が出会わないように自分がオカマになったのよ」

「いやそうはならんやろ」

「飛行機に乗るとき、テロリストに出会う確率は凄く低い。だからテロリストとテロリストが一緒に乗るなんて事はありえない。自分がテロリストになれば、テロリストに会うことはない。その理論で、彼は自分がオカマになることに決意したの」

「もっと他にその決意を向けて欲しかったなぁ!」

「そしてキルさんは彼の気高き思いを買い、よりテンプレに近づけるため彼を高身長に作り直してくれたのよ」

「何やってんのキルうううぅぅぅ!?」


止めてあげてよ!一人の人生を狂わして楽しいのキルは!?いや楽しそうだな私もやりたいかもしれん。(人間の屑)


「彼のおかげで、私たちは常々オカマに怯える必要が無くなったのよ。まぁその内自然発生しないとも言い切れないけど」

「オカマに対する扱いが酷い」

「話してみたら好い人パターンなんだろうけど、話したくないという人が多いのよ。ほら、コミュ障が多いから」

「納得の異世界人」


外人さんだったら、オカマ相手でもハローつってハグするんだろうか。

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