デュエル・ライフ・ナイト
「レイは人生常に楽しそうだね」
「まぁねー。キルは楽しくないの?」
「楽しいよ。今までで一番楽しいし充実してるし幸せさ」
「それはよかった。キルの幸せが私の幸せでもあるからね!」
「ふふ。レイは全てが面白くなくなったと思うまで遠そうだね」
「えっ何そのゲーム燃え尽きた時みたいな感情。効率を突き詰めるとこのゲーム止めた方がよくない?ってなるやつでしょ」
「わからないこともまだ続きがあるものも、いつかは終わりが来る。長く生きると自分一人での欲求は終りを迎えるんだ」
「それはー…こう…研究を公表とかの名誉で人が集まったり…」
「僕が名誉を望むと思うかな?」
「いや全然?」
「だろう?」
「まぁ私も名誉を得たいとは思わないけど、研究は公表すると思うよ。それで技術が発展して、私じゃ思い付かなかったやり方とか物が作られたりするし。他人が作る物って何か予測できないからワクワクするじゃん!」
「だからといってあの鉄のスーツはまだ許可しないけどね」
「えええええええ今の許可する流れえええええええ」
「リベンジマッチ!」
「お互い頑張ろうか」
雪辱を晴らさんと燃える私とは対照的に、キルは余裕の微笑で軽い準備運動をしていた。膝着かせてやるぜ!
おもちゃをどうしても返して欲しかった私は、なんやかんやあって勝負に勝ったら返してくれることになった。僕に勝てる程魔法が上手ければ、スーツ返しても問題ないだろう、って。破壊と創造はまた別だと思う。
しかも戦いのルールは問答無用なんですよね。魔法使わなくてもおっけー。魔法使わずに勝っても魔法の腕を認められるよくわかんない試合なのだ。
「よしっ、じゃあいくよー!」
「さて、尋常に」
勝負!家電量販店から持ってきたカセットテープが合図を出す。
と、同時にとりあえずキルの魔力を封じにかかる。さっきまで散々魔法使わない風出してたけど、そもそも生前一般量産型女子だった私は、最近ちょっと練習してる魔法以外に戦う手段がない。ステータスで振り回す剣は技と駆け引きがないから駄目ってダン○ちでも言ってた。
でなんでキルの魔力を封じるかってーと。そもそも攻撃系を選んだところでキルにダメージ入るとは思えないんだよねぇ。ギミックもってるタイプでしょ多分。なら転移とかデバフとかの、厄介な魔法系を封じた方が有意義だと思うんですよ。
あれでもどっちみちダメージ入らないんだったらこれって千日手ではじゃあワンチャンを祈って攻撃系やったほうがいいじゃんそうしよ。
自分の中でどうするか考えて自分に突っ込んで修正する。レイちゃん一人で全て完結するわね私の成長が止まらない。
よーしとりあえず最大火力だー何かそれっぽい魔法作っちゃうぞー。
「馳せる記憶の我が故郷」
魔法とは力。力とは物理。つまり重力で圧倒的な質量をぶつければ勝つだろうというコンセプト。
それっぽい魔法名だけどその実質はただの巨大隕石召喚である。私の故郷を隕石にしてしまった。
いかにキルとはいえど、この質量兵器を食らってただでは済まないでしょ!
自分の考えの素晴らしさに感服して、うんうんと満面の笑みで頷いてるとふと体に違和感。あれ…こんな位置だったっけ腕動かない体固定されてる!?
慌ててるとキルと目が合う。キルの周囲はさっきまで私がいた場所。これってもしかして、入れ替わってる!?
「相手の魔法妨害は大事だよ。転移は特にね」
私は隕石の中で輝いた。
「というわけでお風呂会です」
「誰に向かって言ってるのかな?」
笑顔でふんすと胸を張りながら虚空に挨拶してるとローブを畳ながらキルが苦笑しながら問いかけてきた。そりゃもちろん、自分が信じる神にですよ。私の場合はスパモン。
隕石の中で輝いた私は煤けてしまい、煤ける程度でダメージ終わるのかマジかよやべぇな私となって脳内に宇宙猫が展開されたので、落ち着くのと体洗うのと煩悩目的でお風呂にキルを誘った次第です。割合としては大体が煩悩。
ちなみに落ち着くのも洗浄も魔法で終わる。効率厨大歓喜。
私はロマン派なのでしっかりお風呂入ります。ぐへへキルとの混浴。
服を脱いで、扉を開けると露天風呂へ繋がってた。これ露天風呂というか天然温泉では?まいいけど。
ぺたぺたと裸足で鳴らしながら近づき、指を少し入れてみる。ちょっと熱いけどそれも温泉の醍醐味だろう。いけるいける。
煤けたまま入ったら汚いので自身に浄化を唱え、温泉に入るに至った理由を消しつつ左足をゆっくり浸けていく。じんわりと広がる熱が耐えきれなくても我慢我慢。ここで動かした方がかえって熱く感じてしま───
「どーん」
「にゃわあああああぁぁぁっ!?」
どっぼーん。
「あっつ!?あっつ!?あっつう"う"う"ぅ"ぅ"ぅ"~…」
急に背中押されました。
よし落ち着け落ち着くんだ私慌てない慌てないで!動いたほうがかえって熱くなるってさっきも言ったでしょ!変な体勢でも良いからとりあえず体止めて熱さに慣れさして!
「久々に来たけど、やっぱりいいお湯だね」
あーもうそのわざとらしく近くに入ってお湯混ぜるの止めて!熱いんだってほんとぉ!
頭だけ出し伏せるようにお湯のなかで固まっている私に対し、キルはわざとらしく近くに来て浸かり、お湯をかき混ぜる。その顔には湯気に紛れてもわかるぐらい私を苛めて楽しいと描かれていた。
ほんっとこういう時だけいい笑顔するな私の嫁。その心の底から楽しそうな笑顔、私を苛める時以外でできないんですかね…?
…いや違うな。私が苛められてる時以外でも笑顔になるように努力するべきなんだ。頑張れ私。嫁をずっと笑顔にさせるんだ、できるだろ?
ちょっとずつ温度に慣れてきたのでゆっくりと動き、普通に壁に背をつける体勢に移行する。ここでもキルがお湯をかき混ぜる嫌がらせをしてくるが、歯をくいしばって耐える。反撃なんて考えてはいけない。激しく動いたところで私が余計熱く感じるだけだし、そもそもキルは熱さに強いっぽいのだ。こうかはいまひとつ。
なんとか理想のポジション、体勢になり、空を見上げる。この世界では青白く見えるのがデフォな月は、綺麗な満月だった。…昨日見たときは三日月だったんだけどなー周期的にまだなんだけどなーいくらキルでも月を弄るとかは…。
「ねぇねぇキル」
「ん?何?」
「月が綺麗ですね」
「僕が作ったからね」
…気にしない事にしよう。(思考放棄)
いつのまにか頭に置かれていたタオルで顔を拭いこれまたいつのまにか浮いていたお盆に置く。キルはグラスを傾け何かしら飲んでた。自由だね。
あっ、キルの詳しい恰好の描写はしないよ。ほんのり赤らんで上気してるように見える顔とか鎖骨に流れる水滴とか水面で歪みつつも透けて見える胸とか、描写したらヤバいからね。主に私が。
自身の英断に満足していると、ふとキルが手を着き四足歩行みたいな感じでにじりよって来た。いや四足歩行ってなんだよはいはいとかでいいでしょ。いやはいはいも微妙だな…。
「実はね。僕はそんなに記念日とか気にするタイプじゃないんだけど、今日で君と出会って丁度1ヶ月なんだ」
「なんですと」
ぜんっぜん覚えてなかったし知らなかった。なんなら最初の方気絶してたからカウント不能まである。
いやでも、記念日を覚えていないのは彼氏(?)失格なのでは?こういったものがカップル破局に繋がる第一歩と世間一般で言われてるやもしれぬ。ま、私達の関係はその程度じゃ崩れないんですけどね初見さん。(自慢)
「1ヶ月…レイはいろんな表情を見せてくれたね。夜も勿論だけど、昼間も常に楽しそうに様々な事をしてたね」
キルが、心の底から愛してるという事を真摯に伝えてくる表情で見上げてくる。私の股に手をつき覗き込んでくるその顔は、普段見ないような、慈しむような優しい表情だった。
「僕は最初、これは本当に愛なのか、疑問に思うこともあった。でも、今ははっきりと迷わず断言できる」
そのまま手からお湯を滴らせながら私の頬に手を添え、膝立ちになり目を合わせてくる。今度は見下ろしてくる形になったキルは、体の輪郭を朧気に照らす月を背後にしながら───
「愛してるよ、レイ。これからも、ずっと」
にっこりと、愛を、伝えてくれた。
そのまま抱き締めてくるキルに、私は───




