1話 青い正義
今日は1話を昼12時、2話を17時にアップする予定です(本話は1話)。
「お父様! どうかお考え直しください!」
人種王国首都、居城――城というよりちょっと大きめの屋敷程度の規模だが、その執務室に少女の声が響く。
少女は人種王国第一王女リリスだ。
緩やかなウェーブがかかった金色の長い髪に、気の強そうな大きな瞳。身長は150cm後半程、年齢は15歳ぐらいだろうか。
肌も白く、可憐で美少女だと断言できる可愛らしい容姿をしている。
華美ではないが第一王女らしい華やかなドレスがよく似合っていた。
彼女は大きな目を釣り上げ、再度父――国王へと訴える。
「エルフ種を屈服させたという、噂の『巨塔』へ向かうご許可をどうか私にお与えください!」
「リリスよ、何度も言っておるだろう。ならぬ。第一王女のお主が下手に噂の『巨塔』へ近づき、『巨塔』に関わっていると疑われる等、いらぬ誤解を他種へ与えたらどうするつもりだ? 人種王国の王女として、他種に誤解を与えるようなマネは厳に慎むのだ」
執務室の椅子に座る人種国王は、疲れた溜息を漏らし娘に釘を刺す。
国王は白髪で、頬や手首は細い。健康的に痩せているというより、ストレスによって『やせ細ってしまった』という表現がしっくりとくる容貌をしていた。
父の発言にリリスが怒りから大きな瞳をさらに広げる。
「なぜ人種だからといって、そこまで過剰に他種へ配慮せねばならぬのですか! 確かに人種は他種より力では劣っております。だからと言って現状のような不平等な扱いを受ける謂われはございません! このような不平等な扱いから抜け出すためには、他種達に対して力を示さなければならないのです! そのためにも強大なドラゴンの力をバックに『人種絶対独立主義』を唱え、奴隷を保護したのち解放、エルフ女王国での奴隷売買を禁止までさせた『巨塔』と外交で手を結び、互いに協力し合ってその力を他種へ示すべきなのです! でなければ人種は一生他種から搾取されるだけの家畜として扱われるのですよ? 誇りを取り戻すため戦うべきなのです! そのために私の身、命を捧げる覚悟は出来ております。なのでお父様――いえ、国王陛下、どうか立ち上がってください!」
「…………」
娘の熱い長台詞を聞いても、国王の反応は鈍く、疲れ切った溜息を漏らす。
「リリスよ、あまり『巨塔』に関しては希望を抱いてはならぬ。所詮噂は噂だ。噂に縋って戦をおこすのか?」
「ですから! その噂を確かめるために私を『巨塔』へと向かわせてくださいと言っているのです!」
「そして噂は噂でしかなく、無為に他種達に警戒心を与えて、より我々人種の地位を危うくするのがオマエの望みなのか?」
「……違います。ですが、噂を確かめなければ――」
「リリス」
娘の台詞を途中で強引に遮る。
国王は幼い娘に言い聞かせるような声音で告げる。
「弱き人種が他種に敵うはずがないのだ。我々が出来ることは頭を低くして、やり過ごすことしかないのだ」
それ以上話すことはないと言いたげに、国王は下がるよう手で合図を出す。
リリスもこれ以上は無駄だと理解し、大人しく引き下がった。
部屋の外で待たせていた従者を連れてリリスは私室へと向かうが、数歩も進まず3つ年上、18歳になる兄と顔を合わせる。
身長は170cm前後。
金髪で体のバランスも整った美男子と言ってもよい人物だが、父親同様顔に覇気がない。額の髪もやや後退し、疲れが溜まっているかのように表情が暗かった。
彼も国王である父と話があるため執務室を訪れたようだ。
兄の従者の腕には書類束が収まっていた。
執務室での熱が収まっていないリリスが、鋭い目で兄へと訴える。
「お兄様、お時間よろしいですか?」
「よろしくはないが……まぁ妹の頼みだ。手短に頼むよ」
互いの従者を下がらせ、廊下の端へと移動する。
早速、妹リリスが兄へと要望を伝えた。
「お兄様からも、お父様に『巨塔』にいらっしゃる魔女様と手を組み、人種の地位向上を狙うようお父様にお願いしてください!」
「父上は反対なさったのか……さもありなん。ボクも同じく反対だな」
「お兄様は人種の立場がこのままで良いと仰るのですか!」
「良いも悪いも無いよ……リリス、もっと現実を見てくれ」
兄が妹に言い聞かせるように告げる。
「噂では、その巨塔一派はドラゴンを従えているお陰でエルフ女王国と戦えている訳だろ。その貴重な戦力を人種王国に派兵させたら、その隙を狙い確実にエルフ女王国が戦をしかけるだろう。だから、巨塔側もおいそれとドラゴンを動かすことはできない。人種王国に構っている余裕などないわけだ」
「ッゥ!? で、ですが話を聞く限りドラゴンは多数居るそうです。それこそエルフ女王国の空を覆わんばかりに! ならば1匹や2匹、戦力を割くことは難しくないはずです!」
「常識的に考えて空を覆うほどのドラゴンなんて居ないし、維持するのは不可能だよ……。仮に戦力に問題が無くても、塩を押さえられたらお終いさ」
人種王国は大陸のほぼ中央に存在する。
その周囲を他5種の国々が囲っている状態だ。
「唯一海に接していないボク達は、他5種の国々から塩を買わなくては生きていけない。仮に5種の国々が同時に塩の輸出を止めたらどうなると思う? 人は塩が無くては生きていけない。岩塩も無いボク達は戦わずして干上がってしまうよ。戦う以前に立地的にボク達は他5種に首輪を握られ――敗北をしているんだ」
「……だからと言って! お兄様はこのままで良いと思っているのですか!?」
理論では勝てず、リリスが感情を爆発させる。
「他5種の言いなりになって輸出入関税一つ決められず、望まれれば民すら黙って売り渡さなければならない現状で良いと思っているのですか! これが独立国と言えますか!? これではただの植民地――いいえ、家畜国家ではありませんか!」
「……リリス、君の言いたいことは分かる。だが他5種に逆らえないのも現実なんだ。民を売り渡す現状をボクだって快くは思っていないよ。けれど大を生かすためには、小を殺すしかない。残酷だが、大勢の民を生かすため冷たい決断をしなければならないのがボク達、王族の役目ではないのかな?」
「…………」
反論できずただ黙り込む。
青い正義心が先立つ妹の肩を軽く叩き、兄は再び国王へと会いに向かうため脇を通り過ぎた。
通り過ぎた背中にも、リリスは反論の一つも言えずただ黙って見送ることしか出来なかった。
父親、兄の正論に何も言い返すことが出来ず、しかし人種の未来を憂いリリスは1人考えを巡らせる。
気付けばいつの間にか、自室前まで戻っていた。
従者が扉を開くと、メイドやメイド見習いが、一斉に彼女を出迎える。
「……お帰りなさいませ、姫様」
「ノノ、お茶をお願いします」
「……畏まりました」
リリス付きメイド長のノノに、気持ちを落ち着けるためお茶を願う。
ノノは一礼すると、すぐにお茶の準備へと向かう。
リリスは部屋を横切り、リビングのテーブルまで移動する。
彼女の椅子をメイド見習いの少女が引いた。
「ありがとう、ユメ」
「おことば、もったいありません、姫様!」
今年で10歳になる少女で、髪は肩口まで伸ばし、片側をリボンで結んでいた。袖を通しているメイド服はデザインこそ地味だが、生地はしっかりとした物が使用されていた。
人種王国、第一王女リリスの側付きメイド見習いのユメ。
――ライトの行方不明だった実妹は、なぜか第一王女のメイド見習いをしていたのだった。
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1話を12時に、2話を17時にアップする予定です!(本話は1話です)
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