番外編2
今日は番外編1を昼12時、番外編2を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は番外編2)。
人種で元奴隷の少女シリカや他元奴隷少女達が驚いているのを気にせず、妖精メイドは一瞬で建てられた『プレハブ』へと入って行く。
入って数秒で彼女は再び扉を開きシリカ達の下へ顔を出す。
「とりあえず、最低限の生活必需品は揃えたから~。足りない物があったらあーしか、他のメイド達に言ってねぇ。物によっては却下したり、準備するのに時間がかかるかもだけど。それじゃ中に入って確認して。あっ、部屋の中は土足厳禁だから~」
「は、はい……お、お邪魔します」
妖精メイドは常にふわふわ浮いているため、足が汚れることは無い。
シリカ達は彼女の言葉に従い靴を脱いでからプレハブ内部へと入った。
広さは八畳ほどあり両端に木製の二段ベッド×2、床には絨毯が敷かれて、奥には衣装タンス、中央にはちゃぶ台&クッキー、ペットボトルのお茶が置かれていた。
(い、一瞬でこんな中級宿に匹敵する部屋を作り出すなんて! あ、ありえないよ!)
シリカ達が驚愕、呆然としていると妖精メイドが話しかけてくる。
「ベッドは相談して上か下か決めてねぇ。タンスには服や下着なんかが人数分あるからそれも相談して。トイレはプレハブを出て、仮設トイレがあるからそこを使って。井戸は見れば分かるよねぇ? 適当によろしく。とりあえず夕飯まで時間があるから、テーブル――ちゃぶ台にあるバタークッキーとお茶をつまんでていいから~」
「お、お姉ちゃん、このお菓子食べていいの?」
元奴隷少女の中で一番幼い女の子がキラキラとした目で再確認した。
やや気怠そうな妖精メイドが微笑み、頭を撫でてうながす。
「もちろん~。そのために出したんだから。お茶のペットボトルはこう上の部分を捻ると蓋が外れるから。んじゃ、あーしはまだ仕事があるから、夕飯になったら声をかけるからね~」
妖精メイドがプレハブを出る。
残された少女達はとりあえず、絨毯の上に座りちゃぶ台のお菓子とお茶に手を伸ばした。
一番幼い元奴隷少女が瞳を輝かせる。
「んんぅ! このおかし、すごく美味しいよ!」
「お茶もしつこくない甘さで美味しい……」
「こ、こんな美味しい物を、奴隷だったあたし達が食べられるなんて……」
「…………」
バタークッキー&お茶の美味しさに感動している少女達と違って、元行商人の娘であるシリカは胸中で絶句していた。
(このクッキー美味しすぎる!? 高級な砂糖をただがむしゃらに甘くするため入れているんじゃなくて、食感、舌触り、味なんかのバランスを考えて作っているんだ! しかも全部同じ形、焼き加減……。よほど高名な職人の手で作られているんだ。もし売ったら1枚が銀貨1枚でもおかしくないよ)
販売場所を選べば1枚が銀貨1枚で売れるクッキーを少女達がパクパクと美味しそうに食べる。
下手をすれば、1枚か、数枚で自分達と同じ値段が付くクッキーをだ。
クッキーだけではない。
(お茶にも高級な砂糖が飲みやすい量だけ入れられているし、ガラスとも違う透明な『ぺっとぼとる』も便利で……この入れ物だけで欲しがる人は銀貨数枚払うんじゃないかな?)
一瞬で建物を出し、内装を整えるのも目を疑うモノだが、軽い調子で与えられたお菓子、お茶一つとっても信じがたいほど金銭がかかっていることに元行商人の娘であるシリカだけが気づけた。
――しかし、彼女の驚きはまだまだ続く。
太陽が沈むと妖精メイド達が、光魔術で光球を作り出し辺りを照らす。
お陰で、夜にもかかわらず昼間のように明るかった。
夕飯はセルフ制で、メニューはシチュー、肉を焼いたものや油であげたもの、魚を焼いたり煮たりしたもの、パンやサラダ等、様々なものがある。
各自が好みの列に並びお盆で夕飯を受け取ると、野外に準備された長椅子&テーブルに腰掛け食べる方式だ。
食べ終わったら、食器も指定の場所に戻すことになっている。
「はいはい、一列に並んでくださいね。ちゃんと全員分ありますから」
「お、おおお、お代わりもいいぞ!」
眼鏡を掛けた妖精メイドが大きな寸胴鍋に入ったシチューをかき回す。
隣のオタクっぽい妖精メイドが、なぜか楽しげにお代わり許可を叫ぶ。その彼女の後頭部を別のメイドが叩いていた。
ふわふわ忙しそうに働く妖精メイド達は誰も彼もが美人、美少女で『巨塔』からミツバチの如く、湧いて出てくる。
シリカは列に並びながら、忙しそうに働く妖精メイド達を眺め、
(『巨塔』には美女、美少女を作り出す魔術でもあるのかも)
ついそんなことを考えてしまうほど『巨塔』からタイプが違う美女、美少女達が出入りしていた。
シリカ達は夕食を受け取ると、空いてる席へと座る。
早速、皆で夕食に手を付ける。
「!? このシチュー美味しい!」
「お野菜も、お肉もいっぱい入っているよ!」
「このお肉も美味しい! お魚も!」
「パンなんて、御貴族様が食べるみたいに白くてふわふわだよ!」
シリカと同室の彼女達は無邪気に夕食の美味しさに喜んでいた。
一方シリカは……シチューや肉やサラダの美味しさにも衝撃を受けていたが、何よりパンに一番驚愕していた。
(このパン! まるで雲を千切っているように柔らかい。何より、このパンに使われている小麦……こんなの食べたことがないよ!?)
小麦は各国で作られているが、一番は人種王国だ。
大陸のほぼ中央にある人種王国の主な仕事は農業で、小麦や野菜などが大量に作られている。
それらは他5ヶ国に輸出され外貨を稼いでいた。
良い言い方をすれば人種王国は、各国の食料庫。悪い言い方をすれば、人種の弱さから食料を巻き上げられる弱小国だ。
故に、この世界の小麦の味は基本的に人種王国のモノとなる。当然、他国、別の土地で育てられた麦の味は変化するが、そこまで大きな差はない。
にもかかわらず、シリカが口にした小麦は、この世界に存在する小麦より甘いのだ。
(クッキーを食べた時は砂糖の甘さで分からなかったけど、パンにすると明確に違う。砂糖とは違う小麦の甘さが強い。でも、こんな甘く香りが良い小麦なんて、見たことも聞いたこともないよ!)
つまり、現在、自分達が喜んで食べている料理は、見たことも聞いたこともないもの――言うなれば『この世で作られた物ではない』ということだ。
(え、夢? これは夢なの?)
彼女は現在自分がどこにいるのか分からなくなってしまう。
「……美味しくなかった? それともどこか具合が悪いの?」
「ッゥ!?」
声をかけられ顔を上げると、妖精メイド達の中でも抜きんでて美しいメイドが声を掛けてきた。
美少女だが――逆に美し過ぎて個性を失っている感じがする。
シリカは乾いた喉を唾液で潤し、否定する。
「だ、大丈夫です。具合は悪くありません。ご、ご飯も美味しいです」
「そう、よかった」
美少女過ぎる妖精メイドが笑う。
笑う姿もひときわ可愛らしかった。
彼女は微笑みを浮かべたまま告げる。
「大丈夫よ。貴女達は救われたの」
「な、何を言って……」
美少女メイドはシリカの胸中、全てを見透かした瞳で断言する。
「ご主人様がお認めになり宣言された『人種絶対独立主義』。宣言され、保護された以上、貴女達はもう空腹に苦しむことも、寒さに震えることも、外敵の脅威に怯えて、差別され下を向くこともないの。ご主人様に保護された以上、幸福は約束されたようなもの」
そして彼女は微笑み、言葉を続ける。
「生きている以上人は幸せになる権利がある。他種が上で人種が下ということはないの。……ここにいる限り、人種はその存在を他人に買われることはない。他人に死ねと命じられることもない。貴女達はここで自らの足で立つ自由を得るの。魚の取り方を教わって、収量の多い作物の作り方を教わって、そしてその足で立ち続けるの。貴女達にはこの場所から出る自由さえある――貴女達が幸福になること、『自らの意思で生きる』ことは絶対的に約束されているのよ」
「…………」
美少女メイドの瞳はどこまでも美しかった。
宗教による狂信的闇も見えない。
彼女の言葉は狂信ではない。空が青いように、風が吹くように――シリカ達が『自らの意思で生きる』ことは絶対に約束されたと確信しているのだ。
「だから、何の心配もしなくていいのよ、ね?」
「は、はい」
シリカが返事をするともう一度満面の笑顔を作り立ち去る。
残されたシリカは自分達の境遇を自覚する。
(『巨塔の魔女』様のお力でわたし達は解放されて、『自らの意思で生きる』ことができる……)
父は死に、母も死んだ時、全てを諦めた。
彼女も奴隷となり、もうすぐ父母の下に行くと思っていた。
(わたし、生きててもいいの……?)
『巨塔の魔女』はこれだけ強大な力を持っているのだ。木々を伐採して土地を広げることなど簡単なことに違いない。
例え人種が何百、何千、何万集まったとしても自分達は飢えることも、寒さに震えることも、外敵の脅威に怯えて、差別され下を向く必要もないのだろう。
まるで物語に登場する神話世界のように――。
(わたし達はいつの間にか物語の世界に迷い込んじゃったんだ……)
シリカはシチューに口をつける。
シチューはほんのりとした温かさへと変わっていたが、ただただ美味しかった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日、新章に突入します!
エルフ女王国を下し、人種絶対独立主義を掲げたことでどのような影響が出るのか?
発見されたライトの妹はどうなっているのか?
その当たりを是非お楽しみに!
また明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は番外編1を12時に、番外編2を17時にアップしております!(本話は番外編2です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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