6話 vsヒドラ
今日は5話を昼12時、6話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は6話)。
「手を出しちゃ駄目だよ、メイ! まだ戦いはこれからだ!」
初めての買い物に向かう弟を見守る姉のようにオロオロとするメイに釘を刺しつつ、アイテムボックスから1枚のカードを取り出し再度突撃する。
『グオオオォォォオォォォォォォ!』
さすがに首を落とされただけあり、ヒドラは警戒して1本首を僕の方に追加。
4本の首を僕へと向ける。
……残り5本はただ立っているメイを警戒し続けていた。メイは一度も手を出していないのに警戒し続けるのは、流石はレベル5000の『奈落』の守護モンスターと言えるだろう。
『グオオオォォォオォォォォォォ!』
「くッ!」
新しく追加された首からヒドラが黒い稲妻を吐き出す。
予想以上に攻撃速度が速く、回避に足が止まってしまった。
その隙を狙うように別の首が岩石を吐き出す。
「このぉッ!」
アイテムボックスから新しいカードを取り出し、叫ぶ。
「アイスソード! 解放! 飛べぇぇッ!」
『R、アイスソード』を解放し、飛来する岩石へとぶつける。
当然、アイスソードが敵うはずもなくあっけなく砕け散ったが、狙い通りだ。僕は別に岩石を砕くつもりはない。軌道を逸らし、明後日の方角へと敵の攻撃を飛ばせれば良かっただけだ。
お陰で岩石は大きく狙いから外れるが、つい胸中で不満を漏らしてしまう。
(『無限ガチャ』カードは便利だけど、アイテムボックスに入れている状態では使えないから、一度取り出して手にもたないといけないのが不便だな。そのせいでどうしてもワンテンポ遅れるから)
不満を胸中で漏らしながらも、再度床を蹴ってヒドラとの距離を縮めようとする。
逆にヒドラは近付く僕を遠ざけようと4本の首から岩石、火炎、溶ける水、黒い稲妻を吐き出す。
全て回避するが、これではいつまで経っても距離を縮められない!
僕は再びアイテムボックスから無限ガチャカードを取り出す。
ヒドラが攻撃を吐き出すタイミングを見計らい、
「ファイアーウォール! 解放!」
『グオオオォ!?』
ヒドラは魔術耐性が高く『SSR 爆豪火炎』もほぼ効果が無かった。
とはいえ生物だけあり、突然目の前に炎の壁が出現して驚愕。攻撃を中断してしまう。
その一瞬の隙さえあればいい!
全力疾走で距離を縮め、炎の壁を風属性を持つ『UR、ウラガン』の槍でぶち抜く。そのままヒドラの首筋に深く、槍を突き刺してやった。
「ウラガンよ! 力を示せ!」
魔力を流し込むと2度目の暴風がヒドラ内部に発生し、首を内側から千切る。
先程はこのまま放置して再生されてしまったので次に『無限ガチャ』カードで封じ込めようと画策する。
「傷口ごと凍れ! アイスコールド! 解放!」
ヒドラの鱗ではなく、傷口、内部の肉を狙って凍らせる。
『SSR アイスコールド』。
敵を氷漬けにする戦術級の攻撃魔術だ。
傷口をカチカチに凍らせた後、首を蹴って距離を取る。
距離を取りつつ、千切った首が再生しないかを注視するが――10秒以上経っても再生する様子はない。
「……よし! どうやら傷口を凍らせれば再生は防げるらしいな!」
傷口を凍らせて再生させなければ、全ての首を千切り落とすことができる。
「幻想級の『UR、ウラガン』と『無限ガチャ』カードを駆使すれば、レベル5000のダンジョン守護モンスターでも倒せる!」
約1ヶ月前、『種族の集い』メンバーに裏切られ、モンスターから逃げ回ることしかできなかった僕が、レベル5000の怪物相手でも戦えるという実感と自信を得た。
このまま押し切る――ッ!
「ウラガンよ! 力を示せ!」
『グガァァアアァアッ!?』
ウラガンでヒドラの首をもう1つ落とし、直後に『SSR アイスコールド』を解放して凍結。
これで敵の首は残り7つ。
だが――
(……そろそろ疲れが出てきたかな。僕の体力も限界が近いかも)
レベル差約2000を用意した武具や戦略で埋めてきたが、相手はこの『奈落』最下層のダンジョン守護モンスター。それを1人で相手しているのだ。
自分の体力は無限ではない。徐々に限界が近づいているのを感じる。
その時、
『グオオオォォォォォォォォッ!』
「!? 自分の首、傷口に岩石を当てている!?」
ヒドラが再生しない首にまとわりつく氷を砕くため、自傷を選択しようとする。
体力や魔力を一時的に費やしても、ここは首を増やす場面だと判断したのだろう。
「……させないッ!」
僕はその一瞬の隙を逃さず、ヒドラへと肉薄。
ウラガンの一撃をたたき込む。
『グガギャァァアアガァァアアァアッ!?』
どんな生物やモンスターであれ、心臓が全ての力の源。
ヒドラの心臓を狙い、ウラガンの力を解放する。
「くぅッ……っ!」
「ライト様!」
ウラガンの魔力で敵の胴体に大穴を開け、心臓を半壊することが出来た。
だが、近づきすぎたせいでヒドラの首の一つ、その牙が僕の体を掠める。
(…………ッ!?)
気付くと酷い風邪、暑さにやられたように視界がぐわんぐわんと揺れ出す。
何だ、急に体調が!? ありえない。この程度で体調を崩すほど柔な鍛え方はしていない。原因が分からずステータスを確認すると――『猛毒』と表示されていた。
「!? も、猛毒って。こ、これもヒドラの特殊能力なのか……っ? こんな搦め手まで持っているなんて……ッ」
猛毒の牙をかするだけで敵対者を弱らせる。
ヒドラは超再生持ちのため、なかなか倒すことは出来ない。
さらにはヒドラ自身も最初から毒などで体力を奪うことが狙いで積極的には攻めず、時間を掛けていたのだ。
「だが、まだこの程度で負けてやる訳にはいかないッ! 高位解毒解放!」
アイテムボックスから取り出した『無限ガチャ』カード、『SSR、高位解毒』を使い、毒を治癒。
そして、僕はヒドラに向けて疾走。残りの首をかいくぐり、もう一度ヒドラの体に『UR、ウラガン』を叩き込む。
先程ヒドラの心臓を半分くらい吹き飛ばしていたが、その傷は徐々に再生し治癒しつつある。だが体の中心部分に傷を負ったからか、他の部分よりも治癒が遅い。
これならば、全て吹き飛ばせる!
「ウラガンよ! 力を示せ!」
『グググガガァァアァアアギャァァアァァアァアッ!!』
心臓を吹き飛ばされたヒドラが、断末魔の声をあげるが、
(……っ、まだ他の頭の動きは遅いが動いている!? どれだけ頑丈なんだよ!)
残ったヒドラの7つの首が僕に攻撃を仕掛けようとする。
しかし……その攻撃は、永遠に放たれることはなかった。
「……トカゲ風情が調子に乗るとは……ライト様にそれ以上の不敬は許しません!」
メイが柳眉を顰め押し殺した怒りの声音を漏らす。
彼女が腕を一閃すると、『魔力糸』の細い光が走る。
刹那、ヒドラの7つの首と残りの体はサイコロ状の肉塊にバラバラになってしまう。
さすがの超再生持ちのヒドラでも、サイコロ状まで肉塊にされたら死亡してしまうようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ありがとう、メイ……」
なんとかヒドラを倒すことが出来た。
僕は疲労から地面に膝をつき、荒い呼吸をする。
(最後のメイの攻撃は凄かったな。僕が苦戦したヒドラの首を、一瞬で撃滅してしまうなんて。あれでもレベル9999の中では最弱とか……ありえないよ)
「ライト様、素晴らしい戦いでした。回復と解毒ポーションです。どうぞお飲みください」
先程までの怒りの表情が嘘のように消え失せ、メイは我が子を心配する母親のように駆け寄ってくる。
気が抜けてしまい、疲労によってふらつきその場に座り込む。
メイは溺愛する弟を気遣う姉のように、僕の体を支えて回復と解毒ポーションを飲ませてくれる。
(解毒ポーション……そうか、空気にも毒が含まれていたんだ……)
牙だけではなく、敵の口、血から徐々に毒が放たれていたようだ。長期戦になっていれば、確実に戦闘能力が落ちていただろう。
僕は毒で痺れる喉でなんとか回復と解毒ポーションを飲み下す。
解毒ポーションを飲んでも直ぐには痺れが消える訳ではない。
疲労も大きかったため暫く動けず、メイの大きな胸や細い腕などに体を預ける。
「無茶はしないと念を押したはずですのに……」
「別に無茶をしたつもりはないんだけど……。それよりどうしてメイにはヒドラの毒が効いていなかったの?」
「メイドに毒は効きませんので」
メイは何の躊躇いもなく断言する。
そこまで正直に答えられると何も言えず『メイドさんって毒が効かないのか、凄いな』と納得するしかなかった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は5話を12時に、6話を17時にアップしております!(本話は6話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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