番外編3 ネムムの話
今日は番外編2を昼12時、番外編3を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は番外編3)。
――とある日。冒険者として地上で動くライトの護衛を務めているネムムは、『奈落』へ帰還していた。
「それでそれでネムム様! ライト様と一緒にテントで寝たのですか!?」
「ええ、不敬だとは思ったけどライト様が『ネムムやゴールドは経験無いでしょ? これも地上で冒険者をやっていくための訓練だから』と仰って交代で夜番をしつつ、一緒にテントで寝たのよ」
「う、ううう、羨ましい! 羨まし過ぎる!」
『奈落』地下食堂の一角で、ネムムは与えられた休日を利用し、同じく休みの妖精メイド4人と会話を楽しんでいた。
今日はライト自身が『奈落』に戻り、書類などの雑務をしなければならない日だ。そういう日は、地上で冒険者として一緒に活動するネムムとゴールドも休日扱いにされていた。
ゴールドは地上の街で酒場へと繰り出し、ネムムは『奈落』への帰還を選んだ。
『ライト様と1秒でも長く一緒に居たい』という気持ちもあるが、地上より『奈落』の方が娯楽等の環境が段違いに良い。
人目を気にする必要もなく楽しめる美味しいご飯、お菓子、お風呂、寝具、etc――全てが上だ。
ネムム的には、むしろ好きこのんで地上の酒場に繰り出すゴールドの気持ちが理解できなかった。
話題は当然、ライトについてだ。
食堂のテーブルに着きながら、お茶を飲みつつ話をする。
ネムムはすまし顔で銀色の髪を弾いた。
妖精メイド達は熱心にライトの話題に食いつく。
眼鏡をかけた妖精メイドがフレームを頻繁に押し上げ問いかける。
「野営の経験ということは……ライト様に作った夕食を頂いたこともあるということですね?」
「ふっ……」
彼女の問いに、思わずネムムが笑ってしまう。
彼女は十分な溜めを作ってから、ドヤ顔で告げた。
「むしろ、ライト様が『普段できないから』と楽しげに作って下さった夕食を食べたりしたわ」
「くぅ~~~っ、いいないいなネムム様~。ライト様のお手製料理のお味はどうでしたかぁ~」
「もちろん最高だったわ。例えどれほどの贅をこらしても、ライト様がお作りなった干し肉とパンのスープに勝る料理を自分は一生食べることはないでしょうね!」
ネムムの言葉通り、ライトが作ったのは本当に簡単な料理だ。
むしろ元々ライトは冒険者時代何度も野営をしている。その際、雑務は彼の担当で当然料理もやっていた。
なのでライトにとっては昔を思い出しつつ、久しぶりに料理をしたかっただけだ。
料理も干し肉を水で戻し、野草を採って刻み、保存用のパンを入れて嵩ましした『冒険者が食べる野外料理』という貧相なモノだ。
『奈落』で食べられる一番簡単な料理ですら、味的にはそれより上である。
しかし、ライトを敬愛する彼女達にとって『ライトお手製料理』はそれだけで価値があるのだ。
ネムムを囲む妖精メイド達が心底羨ましそうに声をあげる。
「ネムム様、本当に羨ましいです」
「我々も是非食べてみたいですね」
「あーしも、食べてみたいしー」
「う、ううううちはむしろ食べるより、マスター様のお作りになった料理を永遠に保存しておきたい」
「貴女達もいつか食べられる機会があるはずだ。自分はもう食べたけど!」
妖精メイド達にちやほやされて、ネムムはやや調子に乗った発言を漏らす。
そんな彼女に冷や水――言葉がもたらされる。
「ケケケケケケケケ! 本当に心底羨ましいね。ご主人さまと一緒にテントで眠ったり、買い物、冒険、御身をお守りしたり、食事を手ずから作って頂けるなんてなぁ」
『!?』
その場に居る全員、ネムム+妖精メイド×4人が一斉に振り返る。
いつの間にか『UR、キメラ メラ レベル7777』が側に立ち、話題に入ってきたのだ。
身長は2m以上ある女性で帽子を被り、背中まで伸ばした髪、そして赤い目。やや口が大きく笑うとギザギザの歯が見える。さらに足首まで隠すロングスカート、そして両手が隠れるほど袖が伸びた服を着ている。
身長が高く、レベルも上、威圧感もある。何より、
「ケケケケケケケケ! アタシなら体を変化させれば斥候の真似事も出来るんだがな……。ネムムと代わって欲しいもんだ」
広い袖口から巨大な目玉、触手などがうねうねと姿を現す。
メラはキメラのため、好きなように体を変化させる力を持つ。暗殺技術に特化したネムムからすると相性が非常に悪い相手だ。
またいつ頭からバリバリ食べられるか分からない威圧感もあるため、ネムムは彼女を苦手にしていた。
「き、決めるのはライト様のため自分ではなんとも……」
「ケケケケケケケケ! 分かっちゃいるが羨ましい気持ちは抑えられないぜ。ネムムの口から一度ご主人さまにお願いしてみてくれないか?」
「えぇぇ!? 自分がですか!?」
熱い無茶振りにネムムの表情が引きつる。
さらに追い打ちをかける視線に気付く。
「…………」
『アー相方曰ク、斥候技術ナラ私モアルッテサ。ダカラ、推薦スルナラ是非自分ヲ、ダッテさ』
「す、スズ様まで!?」
普段、食堂の隅で1人食事を摂ることを好む『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』まで話に入ってくる。
彼女は恥ずかしがり屋のため、『奈落』住人同士でも滅多に交流することはない。会話も手にする長い武器『マスケット銃』のロックが代わりに交わしているほどだ。
そんな彼女が珍しく積極的に自身を売り込んでくる。
それだけライトと一緒に地上で過ごしたいのだろう。
「ケケケケケケケケ! おいおい、スズ。後から出てきて横入りは駄目だろ。アタシが最初にネムムと話をしていたんだぞ?」
「…………」
『能力的ニハ、私ガ相応シイッテサ――ッテ、おいらヲ睨ムノハ止メテクレめら!』
楽しく談笑していたら、レベル7777同士の睨み合いが始まった。
レベル500前後の妖精メイド達は縮こまり、ネムムの陰に隠れる。ネムムだってレベル5000だ。
彼女達が暴れたら止めるのは不可能である。
陰に隠れた妖精メイド達を護りきることすら怪しい。
(ま、不味い! 自分が調子に乗って妖精メイド達に自慢話をしていたら、まさかこんなことになるなんて!? むしろ、こんな事態が起こるなんて誰が予想できるのよ!?)
「ケケケケケケケケケケケ!」
「…………」
『オ、オイオイ2人共、自重シロヨ? コンナ所デ暴レタラ洒落ニナラナイカラナ?』
唯一、スズが手にするロックが言葉を発して2人を何とか止めようとする。
その場に居るメラ、スズ以外の者達がロックに希望を託す。
しかし2人の睨み合いはライトの声ですぐさま沈静化する。
「はいはい、2人とも食堂で喧嘩しちゃ駄目だよ?」
『ライト様!』
その場に居る皆が平伏する。
慣れた様子でライトが皆に面を上げるように告げた。
彼の背後で護衛に付いたメイド姿のアイスヒートが、メラ、スズを睨む。
ライトは2人を睨むアイスヒートに微苦笑しつつ、手を振り諫める。
諫めながらメラ、スズに声をかけた。
「メラとスズの気持ちは嬉しいけど、2人は強すぎるからまだ地上に上げるのは難しいんだ。ごめんね?」
「ケケケケケケ! いえ少々熱くなりすぎたアタシが悪いんです。申し訳ございません」
「…………」
『相方モ反省シテイル、トノ事デスワ』
「ありがとう2人とも。そう言ってもらえると助かるよ。ちょうど休憩の時間だから、折角だし皆でオヤツでも食べようか」
ライトの提案に皆が喜色満面の返事をする。
皆と連れだって『どんなオヤツを食べるか?』と楽しげに会話しつつライトの側に移動する。
その後を歩きながらネムムが反省した。
(次はもう少しライト様と一緒にいる自慢話は控えよう……。こんなことを繰り返されたら寿命と胃壁がいくつあっても足りないわ……)
1人、ネムムは反省するのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は番外編2を12時に、番外編3を17時にアップしております!(本話は番外編3です)
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