番外編2 お風呂と秘密
今日は番外編2を昼12時、番外編3を17時にアップする予定です(本話は番外編2)。
「はぁ~、気持ちいい……」
「気持ちいいですが、眼鏡が曇るのがちょっと」
「あ~、体がとけそう~」
「ろ、ろろろ労働の後のお風呂さ、さささ最高」
いつもの妖精メイド達が仕事を終え、夜番の娘達と入れ替わる。
食事を済ませ、皆で『奈落』大浴場女湯へと繰り出し、湯船に浸かっていた。
『奈落』大浴場女湯は文字通り、女性しか入れない風呂場だ。
大浴場の名前通り、巨大なお風呂で種類も多い。
普通のお風呂は当然として、サウナ、白濁湯、果物湯、シャワー、花を浮かべた湯などがある。
恩恵『無限ガチャ』カードや水魔術が使用出来る者達が多く居るため、毎晩大量の湯を湧かすことが出来るのだ。
『奈落』は女性が多いため、ライトが気を使い福利厚生の一環として開放していた。
男性の湯もあるが女性側ほど広くはない。
とはいえ皆が皆、喜んでお風呂に入るわけではない。
中には風呂が嫌いな者も居た。
例えばメラなどが代表的な風呂嫌いだ。だからと言って、彼女が汚い訳ではない。
様々な汚れを落とす手段はあるし、その気になれば売店で売っている『無限ガチャ』カード、『R、ウォッシュ』、効果は汚れを落とす――などで綺麗にすることも出来る。
とはいえ、基本的にお風呂が皆から支持されているのに変わりはない。
「あっ、エリー様とナズナ様もお風呂に入って来た」
「……眼鏡が曇って見えません」
一番大きく一般的なお風呂に入っている妖精メイドの1人が、エリー&ナズナが風呂場に顔を出したことに気付き指をさす。
隣に座る眼鏡メイドが目を凝らすが、レンズが曇って見えない。
ナズナはタオルを片手に体を隠すことなくガンガンと進む。
「わーい、あたい、お風呂大好きだぞ! 大きいし、気持ち良いからな!」
「気持ちは分かりますが、待ちなさいナズナさん! まずはちゃんと体を洗って汚れを落とさなければいけませんわ」
「あっ、そうだった。忘れてたぜ! ありがとうな、エリー」
「まったくナズナさんは本当に手がかかるのですから……」
タオルで前だけを隠したエリーが溜息をつきながら、ナズナの手を引っ張り洗い場へと向かう。
彼女の頭や背中などを洗ってやるのだろう。
「エリー様とナズナ様って仲が良いよね~」
「ふ、ふふふ2人ともスタイル良過ぎ。え、えええエリー様は胸が大きく体のバランスが良いし、な、なななナズナ様はあの低い背にあの大きな胸とか、ははは、反則過ぎる」
「分かる~。同性のあーし達から見てもお2人とも惚れ惚れするぐらい良い体をしてるよねぇ~」
ギャル系妖精メイドの言葉に、どもるオタクっぽいメイドが同意する。
「にゃ~」
エリー、ナズナが体を洗い始めるとアオユキが大浴場に姿を現す。
彼女に気付いたナズナが近付こうとしたが、泡だらけのためエリーに止められていた。
どうやらアオユキはナズナのちょっかいを避けるためタイミングを見計らっていたようだ。
「ちゃんと泡を流さないと滑るから危ないですわよ。第一、まだ耳の裏も洗っていないじゃありませんか。ちゃんと洗わないと駄目ですの」
「わ、分かってるよ、もうエリーは口うるさいなー」
ナズナがエリーに引き留められているのを横目に、アオユキは『ふっ』と小さく勝利の笑みを零しつつスルスルと滑るようにシャワー室へと向かう。
「……逆にアオユキ様はナズナ様を避けまくっているよね。お嫌いなのかな?」
「どちらかというとナズナ様が、アオユキ様を構い過ぎかと。猫を可愛がり過ぎて逆に嫌われるっていう現象ね」
見た目はとんでもない美少女だが、そのせいか逆に個性が薄くなっている妖精メイドの呟きに、眼鏡メイドが適切なツッコミを入れた。
思わずギャルメイドが納得する。
「あ~確かにそんな感じがする~。ナズナ様は悪気無いけど、アオユキ様を可愛がり過ぎる感じがするもの~」
「で、でででもナズナ様が可愛がる気持ち分かる。アオユキ様、可愛いもの。か、かか体もすらっとしてお綺麗だし」
オタクっぽいメイドの言葉に、他妖精メイド×3名が深く頷いた。
彼女達の視線はアオユキが入っていったシャワー室へと向いていた。
彼女がシャワー室に入ると、隣に並ぶ他シャワー室からスズが顔を出す。
短い黒髪が濡れ、菫色の瞳を縁取る長い睫から、雫を零す。
スズもお風呂好きの1人として有名だ。
そして、もう一つ有名な話題として――『彼女の下半身がどうなっているのか?』というものがある。
『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』。
両性具有とはどのような状態なのか?
これを確認した者はライトを含めて誰1人としていない。
妖精メイド達の視線がスズの下半身へと集中する。
スズは長いタオルで前後ぴっちりと体を覆っている。
そのため胸だけではなく、下半身もしっかりとガードされていた。
「……スズ様って着やせするんだね。胸も結構大きいタイプなんだ」
「眼鏡が曇って見えないのが惜しいです」
「お肌も白くてスベスベで本当に羨ましい~」
「す、す、スズ様がシャワーで火照ったちょっと赤い肌最高に可愛いくてエロい」
妖精メイド達全員がスズの下半身に視線を固定、追尾しながら感想を漏らす。
スズは気付かず、いつもの乳白色のお風呂へと体を沈める。
当然、その際、タオルはお湯につけず、なおかつ絶対に周囲に下半身が見えないように体を湯へと沈めるのだ。
「……す、す、スズ様の下半身ってどうなってるんだろうね」
オタクっぽいメイドが皆を代表して呟く。
「……今ってお風呂だからいつもの長い武器は無いよね?」
「……皆で囲んで話で盛り上げて、のぼせさせて立ち上がるのを待てばワンチャン?」
「……長年の謎。スズ様の神秘を確認するのは下世話な興味じゃなくて、知的好奇心ってやつだし~」
他メイド達もこぞって便乗し出す。
全員が視線を合わせて無言で立ち上がると、大浴場から乳白色の湯へ移動を開始する。
スズを囲み、のぼせるまで皆で取り囲めば、湯から出る際、いくらレベル7777でもタオルで下半身を隠すまでには若干のタイムラグが存在する筈。
4人の目、タイムラグを利用しスズの下半身を確認しようというのだ。
完璧! 圧倒的完璧な作戦だったが――。
「――貴女達、何を馬鹿なことをやろうとしているのですか?」
「きゃぁ!? メイド長!? アイスヒート様!?」
声をかけられ振り返ると彼女達の直属の上司であるメイ、ライトの護衛を主に務める右側の髪が炎のように赤く、左側が氷のように青い護衛メイド(役職)のアイスヒートが立っていた。
2人ともスタイルが良く、胸の前をタオルで隠している。
「め、メイド長、いつからそこに……?」
「も、もしかしたらあーし達の話を聞いていました~?」
「サウナから出たらちょうど良いタイミングで。大浴場は皆の憩いの場、無粋なマネは止めなさい」
「べ、べべべつにウチ達はす、すす、スズ様とちょっと仲良くなろうと思っただけで、へ、へへへ変な言いがかりは止めてほしいって言うか」
動揺しつつもオタクっぽいメイドが反論する。
アイスヒートは頭が痛そうにこめかみを押さえた。
「なんでこう、うちの妖精メイド共は自由奔放というか、欲望に正直というか……。ご主人様の側でも囀りを止めないしな。やはりご主人様に進言して、もう少し厳しく接することを提案すべきだろうか?」
「ぼ、暴力反対!」
「アイスヒート様はすぐにゲンコツを行使しようとするの良くないと思います。眼鏡が壊れたらどうするのですか!」
「あーしも皆の意見に賛成~」
「か、かかか下級妖精メイドは繊細だからもっと優しくてしてもば、ばば罰は当たらないと思う!」
「おまえら……」
アイスヒートが青筋を浮かべつつ、拳を握り締める。
そんな彼女に対してメイが軽く手をあげて止める。
「……もしこれ以上、貴女達が反省せず、大浴場の憩いを乱すと言うのであれば罰を与えますよ?」
「ば、ばばば罰?」
妖精メイド達が素速く視線を交わす。
(罰って何をさせられるんだろう? 休み無しで働かされるとか?)と美少女妖精メイド。
(それはむしろご褒美です。ライト様のため身を粉にして働けるなんて)と眼鏡メイド。
(スズ様の秘密を知れて、ライト様の為に働ける~。一石二鳥~?)とギャルメイド。
(い、いい意外な形で美味しい思いができそう! ら、ららラッキー!)とオタクっぽいメイド。
反省の色が無い妖精メイド達を前に、メイが軽く溜息を漏らし、罰を告げる。
「もしこれ以上、反省せず、大浴場の憩いを乱すと言うのであれば――貴女達をライト様のお世話シフトから永久に外します。それでも良いのですか?」
『すみませんでした!』
妖精メイド4人が、その場で土下座する。
それはそれは見事な土下座だった。
一言で妖精メイド達を改心させたメイに、アイスヒートは尊敬の視線を向ける。
「さすがメイ様。メイド長らしい素晴らしい指導力です!」
メイはアイスヒートからの尊敬の視線を受けつつも、見事な手のひら返しをした妖精メイド達に頭痛を覚える。
「……やはりメイド達への教育を私は誤ってしまっているのでしょうか? 我がメイド道は間違っている?」
目の前で土下座する妖精メイド達を前に、メイは自身のメイド道が間違っているのかもしれないとつい考えてしまう。
一方、陰ながら狙われたスズはというと――今夜もお風呂を堪能し、無事に誰にも体を見られることなく大浴場を後にしたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
また今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
番外編2を12時に、番外編3を17時にアップする予定です!(本話は番外編2です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
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