番外編1 こしあんor粒あん
今日は47話を昼12時、番外編1を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は番外編1)
――過去。ライト達が地上に出る少し前まで戻る。
「あんこは『こしあん』だよ!」
「ありえないから。あんこは、『粒あん』しか認めません!」
『奈落』の地下妖精メイド部屋に、部屋の主である妖精メイド4人が集まっていた。
妖精メイド達は基本4人部屋で、部屋ごとに仕事のローテーションが設定されている。
今日、彼女達は休日だった。
本来なら命の限りライトのために働きたいが、ライト本人の命令で休みがもうけられているのだ。
休みの時間を過ごすため、4人は売店でお菓子を買って食べながら話をするのだが――今回はその売店で買ったお菓子『あんこ』のせいで諍いが発生してしまう。
「『粒あん』は皮が残っているから舌触りが悪いよ! だからこそ『こしあん』こそが至高だよ!」
見た目はとんでもない美少女だが、結果逆に個性が薄くなっている気がする妖精メイドが主張する。
その主張に眼鏡メイド妖精がフレームを押し上げて対抗する。
「いいえ、むしろ『粒あん』は皮が残っているからこそいいのです。あの食感が最高なのではありませんか。それに皮が残っているため『こしあん』より栄養価が高いのも注目する点です」
「あーしは『こしあん』派かな~。『粒あん』は皮が最後まで口に残るのがねぇ~」
「う、ううう、ウチは『粒あん』派、『粒あん』は食べ応えがあるのが良い」
ギャル妖精、オタクっぽい妖精がそれぞれの主張を口にする。
綺麗に『粒あん』派、『こしあん』派に分かれた。
「むむむ……こうなったら他の人に聞いて『こしあん』、『粒あん』どちらが美味しいか聞いてみよう!」
「ですね。『粒あん』、『こしあん』どちらが美味しいかを聞いてみましょう」
眼鏡妖精がわざわざ前後を入れ替えて言い直す。
こうしてある意味どうでもいい争いが『奈落』で勃発したのだった。
妖精メイド達は早速部屋を飛び出し、『粒あん』、『こしあん』どちらが美味しいかアンケートを採りに向かう。
最初に尋ねたのは……アオユキだ。
ちょうど廊下で移動中だったため、声をかけたのである。
「アオユキ様は『こしあん』、『粒あん』どちらが美味しいと思いますぅ~?」
「も、ももももちろん『粒あん』ですよね?」
「…………」
体格的に妖精メイド達の方が背丈は基本高い。
にもかかわらずアオユキは妖精メイド達に迫られても、特別怯んだ様子は見せなかった。
妖精メイド達のレベルは500。
アオユキはレベル9999だ。
文字通り桁が違う為、怯える必要はない。
そして、彼女が下した結論は……ッ!
「にゃ~」
「……アオユキ様~」
「あ、あああ、あの『粒あん』、『こしあん』どちらが良いかって話で……」
「にゃー」
「あっ、はい」
猫の鳴き声しか言わない彼女の態度に、正統派メイドは諦めた返事をする。
用事は終わったとばかりにアオユキはフラフラと、妖精メイド達を置いて歩き出す。
彼女達はただ黙ってアオユキの背中を見守るしかなかった。
「……ちょっと相手が悪かったかな?」
「ですね。アオユキ様は独特な方ですから」
正統派メイドと眼鏡メイドは呟く。
彼女達はへこたれず次の相手に聞き込みに向かう。
場所を移動して訓練場へ到着。
ちょうど魔術の実験でもしていたのかエリーを発見する。
早速彼女にも『こしあん』、『粒あん』どちらが美味しいか尋ねたが……。
「『こしあん』、『粒あん』どちらが美味しいですか? わたくし、あんこはどちらも苦手でして……。どうしても御豆が甘いのに抵抗があるのですのよね」
「そ、そそそ、その発想は無かった!」
「まさかあんこが苦手な人が居るなんてぇ~」
「そうは言いますが、こればっかりは好みの問題ですわ! ケーキやクッキー、パイなどを使ったお菓子なら大好きですわよ」
妖精メイドの驚きにエリーが恥ずかしそうに顔を赤くする。
まるで良い歳をして、苦手な食べ物があることを知られた大人のような態度だ。
『苦手ならばしかたない』と諦め、妖精メイド達はその場を後にする。
次に向かったのは食堂だ。
ここなら休憩中の他妖精メイド達が集まっているため、アンケートを採りやすいと思い付いたからである。
しかし、タイミングが悪かったのか他の妖精メイド達の姿は無く、唯一ナズナが席についてどら焼きを黙々と食べていた。
妖精メイド達からのアンケートが採れないのは残念だが、どら焼きを食べているナズナが居る。
早速、話を訊きに行く。
「ナズナ様、ナズナ様! ナズナ様は『こしあん』、『粒あん』どちらがお好きですか?」
「もちろん『粒あん』ですよね?」
正統派妖精メイドがナズナの名前を連呼し、眼鏡メイドがフレーム押し上げながら『粒あん』をプッシュする。
オヤツ中のナズナは特別気分を害することなく、彼女達の質問に答えた。
「? 『こしあん』、『粒あん』ってなんだ?」
「ナズナ様~、今食べているオヤツのことですよぉ~」
「も、ももももちろん、粒あんですよね?」
「?」
ナズナはモグモグと口に入ったどら焼きを咀嚼しつつ、首を傾げる。
妖精メイド達の問いかけをようやく理解した。
どら焼きを飲み下した後、元気いっぱいに答えた。
「ああ! なるほど、そういうことか!」
「はい、そういうことです!」
「ナズナ様は当然、『粒あん』ですよね?」
「あははは、違うぞ『粒あん』じゃないぞ」
「やっぱり違いの分かるナズナ様なら『こしあん』ですよねぇ~」
「だから違うって。これは『こしあん』でもないぞ」
ナズナは食べ終わったどら焼きの甘さを、牛乳で洗い流しつつ満面の笑顔で答えた。
「あたいが食べていたのは『どら焼き』っていうお菓子だ! なんだオマエ達食べたことが無いのか? どら焼き美味しいんだぞ!」
あまりにも満面な笑顔で断言されたため、妖精メイド達は何も言えず黙り込む。
『機会があったらどら焼きマジお勧めだぞ! 騙されたと思って一度食べてくれよな!』と言葉を残し、ナズナが食堂から去ってしまう。
メイド達は彼女を引き留めることなく見送った。
「な、なななナズナ様って、ある意味、凄いお、おおお大物だよね……」
オタクっぽい妖精の一言に、他3人が深く頷いたのだった。
結局、誰1人からもまともにアンケートを採ることができなかった。
ナズナへの質問、返答に毒気を抜かれた4人は自室に戻るため移動した。
その途中で廊下を曲がると――護衛にアイスヒートを連れたライトと顔を合わせる。
妖精メイド4人はすぐさま壁際に移動。
敬愛するライトに偶然、廊下で出会うという運命的シチュエーションに瞳をキラキラと輝かせた。
そんなライトが足を止めて妖精メイド達に声をかける。
「あれ、今日は皆、お休みじゃなかったっけ?」
「わたし達のことを覚えていてくださったのですか!?」
正統派妖精メイドが驚きで声をあげる。
妖精メイドの数は多い。
レベルが高ければメイド長――メイのように側付きとして多々顔を合わせることはあるだろうが、彼女達程度ではこうして廊下ですれ違ったり、ローテーションで回している着替えの手伝い、お世話係等で顔を合わせるしかない。
人数が多いため、ローテーションで回ってくるまで非常に長く『顔を覚えてもらっているはずない』、まして『スケジュールを把握しているなんてありえない』と彼女達は考えていたようだ。
しかしライトはしっかり全員の顔を覚えているし、誰1人、大切な仲間として蔑ろにしているつもりはなかった。
ライトは笑顔で普段伝えられないお礼を告げる。
「いつも掃除や洗濯、雑務をしてくれてありがとう。なかなか僕も忙しくてお礼を言えなくてごめんね。今度、時間が出来たら皆でゆっくりお話とかしようね」
「は、ははははい! その時は是非!」
「そ、その際は、美味しいお菓子を身命に懸けて用意いたします!」
「あ、あーし達が全力でご奉仕しますので~」
「ら、らららライト様も無理をなさらず御自愛く、ください!」
「うん、それじゃまだ仕事があるから、この辺で。行こうか、アイスヒート」
「はっ」
右側を炎の赤、左側を氷の青色に分けられた髪をツインテールに結んだメイド姿のアイスヒートが、ライトの護衛として歩き出した彼の後を続く。
その背中が見えなくなるまで妖精メイド4人はうっとりした表情で見送った。
「ふわぁぁぁ~、ご主人様にお会いできただけじゃなくてお声までかけていただけるなんて……」
「我々は今日だけで絶対に一生の運を使い切りました」
「一生分どころか、来世、来来世の運を使ったでしょ~」
「と、ととところで、ウチ達、どうして休みの日にこ、こんなところにいたんだっけ?」
「? なんだっけ? ご主人様が尊過ぎて忘れちゃったよ」
「分かります。主様は尊いですよね」
「分かる分かる~。ライト様マジで尊いよね~」
「せ、せせせ折角の休みだし、部屋に戻ってマスター様の尊さについて話しあ、あわない?」
「賛成!」
彼女達の頭の中から『こしあん』、『粒あん』どちらが美味しいのかという争いなど綺麗さっぱり消えてしまった。
オタクっぽい妖精の提案で再び自室に戻ると、一晩中ライトの『尊さ』について彼女達は話し続けたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
感想返答を書いたので活動報告にアップさせて頂きました。感想誠にありがとうございます!
また、明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は47話を12時に、番外編1を17時にアップしております!(本話は番外編1です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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