7話 若者冒険者達
今日は7話を昼12時、8話を17時にアップする予定です(本話は7話)。
「あれって、今朝助けた冒険者達じゃないかな?」
ダンジョンに足を踏み入れた初日。
僕達は『SSR、存在隠蔽』、『SR、飛行』の力で3階層まで到達した。
2階層ではオーガの群を、3階層ではトロールの群を倒し魔石だけを抜き取り地上へ戻るため空を飛んでいる最中だった。
ちなみにオーガ、トロールの魔石以外の素材を回収しようとも考えたが……アイテムボックスを持っているのを表沙汰にすると面倒事になりそうだった。それだけアイテムボックス持ちは稀少なのだ。
冒険者ランクを上げる前に国に強制徴発されては面倒でしかない。
『奈落』に持ち帰ることも考えたが、現在進行形で裏技を使って僕の恩恵『無限ガチャ』でカードを吐き出し続けている。
なので物資の心配は0だ。
オーガ、トロール程度の低級素材を持ち帰ってもむしろ邪魔になるだけである。
なので『2、3階層まで到達した証拠』としてオーガ、トロールの魔石だけを手にして冒険者ギルドへ戻っている最中だった。
飛行で1階層出入口を目指していると、林から緑の塊が3つ飛び出す。
地上でその3つの塊――恐らくゴブリンと少年少女が戦い出したことに気付く。
彼らは今朝、ゴールドが横入りを注意して、お礼を告げていた人種の若者冒険者達だ。
僕の指摘にゴールド、ネムムも気付き上空から彼らの戦いを見下ろす。
「主、よく気付いたな。確かにあの者達は今朝、我輩が助けた若人達だ」
「……低レベルな戦いですね。ダーク様が観戦する価値はないかと」
ネムムの指摘通り、彼らは懸命になりすぎて目の前のゴブリン×3匹にしか注意を向けていない。
男達3人がゴブリンと1対1で戦い、リーダー格の妹らしき少女が背後で杖を手に、いつでもフォローできる態勢を取っている。
ゴブリンは子供程度の体格しかないため、1対1で戦えばまず敗北はない。
魔術師の少女がいざと言う時、フォローに入る態勢をとっているのも悪くないが……。
目の前だけに集中し続けているせいで、背後から忍びよっているブッシュスネーク×1匹に気付いていない。
ブッシュスネークに噛まれると一時的に痺れて動けなくなってしまう。
毒で死亡するわけではないが、周囲に他モンスターが居た場合、文字通り手も足も出ず殺されてしまう場合がある。
なので低~中レベル者がパーティーで戦闘をする場合は、バックアタックを警戒する人員を1人は確保するのが定石だ。
「どうする主? 下手をすれば後ろの少女が噛まれて、悲鳴に驚き、彼女を心配して前衛が崩れゴブリンに殺されるかもしれぬぞ」
「流石に見過ごすのは寝覚めが悪いな……。ちょっと手を貸してあげよう」
僕は上空から『SSR、存在隠蔽』の力で文字通り音、気配、影もなく前方に意識を集中させている彼女の背後へと降り立ち、ブッシュスネークを手に持っていた杖で始末する。
ピンポイントで首をへし折り絶命させた。
僕の背後にネムム、ゴールドが続き草原へと降り立つ。
「よし、全員無事にゴブリンは倒せたな! 他モンスターが来る前に魔石と――ッゥ!? け、今朝の少年!?」
「!?」
「目の前の敵に注意を払うのは基本ですが、敵は必ずしも前からのみ来るものではありませんよ。背後にも注意しないと最悪命を落としかねませんよ、ほら」
少年達は、音も気配もなく背後に現れた僕達に驚き声音を上げる。
妹ちゃんなど、驚き過ぎて後退った程だ。
僕は仮面の下で微苦笑を漏らし、杖先で首をへし折り絶命させたブッシュスネークを掲げて見せる。
僕の言葉と差し出されたブッシュスネークに、彼らは自分達が危機を救われたことを理解する。
リーダー格は慌てて頭を下げる。
「妹を助けて頂きありがとうございます。ミヤ、オマエもちゃんとお礼を言わないと」
「あ、ありがとうございましゅ!」
ミヤと呼ばれた妹がカミながらも頭を下げる。
「俺っちからもミヤちゃんを助けてくださってありがとうッス。でも、皆さんいつの間に俺っち達の背後に来ていたんッスか?」
お調子者の少年がお礼を伝えつつ尋ねる。
隠れられるのはゴブリンが出てきた正面にある林のみ。
残るは草原のため、接近すれば草や落ち葉を踏みしめる音、ゴールドの目立つ黄金鎧の反射で気付くはずだ。
なのにまるで幽霊のごとく、突然僕らが現れたのである。
気にならないはずがない。
とはいえ素直に『SSR、存在隠蔽』で姿を消して、『SR、飛行』で空を飛び下りてきましたなど言えるはずがない。
僕は適当に誤魔化す。
「普通に歩いて来ましたよ。皆さん戦闘に集中して気付かなかったようですが。それより魔石の回収をしなくてもいいんですか?」
「そうでした。ギムラ、ワーディ、早く魔石を回収しよう。ミヤは周辺を監視してくれ」
「ゴールド、一応ブッシュスネークを解体して魔石を取っておいてくれ」
「うむ、我輩に任せてもらおう」
リーダー格に指示され、それぞれ動き出す。
僕もゴールドに倒したブッシュスネークを渡し、魔石を取り出すよう指示を出した。
ゴブリンはダンジョン内外に関係なく魔石しか換金性がある部位が無い。ブッシュスネークは肉部分が二束三文ではあるが買い取ってもらえたはずだ。
しかし荷物になるのと、邪魔なので魔石だけ回収する。
「エリオお兄ちゃん、お礼に……」
「まだ今日は使っていないから余裕はあるな。ミヤ、頼む」
赤髪妹のミヤは見た目通り魔術師だったらしく、意識を集中すると呪文を唱え出す。
「――魔力よ、顕現し水を作り形をなせ、ウォーターボール!」
空中に水の塊が姿を現す。
基礎的な水魔術だが、これが使えるとダンジョンで水に困ることが無い。
なので使える魔術師はダンジョンに長期潜るチームに引っ張りだこになる。
兄、エリオと呼ばれた少年がゴールドにうながした。
「騎士様、水を出したのでお手を洗ってください」
「わざわざ済まぬな」
「いえ、妹を助けてもらってありがとうございます。本当にささやかなお礼ですから」
「ミヤちゃん、俺っち達も失礼するッス!」
「…………」
お調子者のジャック、背の高いワーディと呼ばれた少年2人が、空中に浮かぶウォーターボールに手を突っ込む。
ブッシュスネーク、ゴブリンの血で汚れた手のひらを綺麗に洗い流す。
戦力的に貴重な魔術師にわざわざ魔力を消費させて、ダンジョンで貴重な水を手洗いに差し出す。
彼らなりの誠意を実感した。
これにはダンジョン経験者としてさすがにお礼を告げる。
「ありがとうございます、貴重な魔力を使って水を作り出して頂いて」
「いえ、むしろ妹を助けて頂き本当にありがとうございました。今朝といい、先程といい助けられてばかりで……もうなんと言ったらいいか」
「今朝の横入りは、僕達的にも被害を受けることですし、今回は偶然気づけて見過ごすのも違うと思い手を出しただけですから。本来、一声かけるべきでしたが、皆さん集中していたので逆にご迷惑かと思い、勝手にやらせて頂きましたが」
「本当にお心使いありがとうございます」
「ダーク様、敵が来たようです」
僕とエリオが、リーダー格同士会話をしているとネムムが割って入る。
レベル5000の暗殺者ネムムが言っているのだから『敵』は来るのだろう。
僕も会話から索敵に意識を向けると、すぐに敵を発見する。
敵は林の奥から四足で移動してきている。
その速度は目の前の少年少女達に比べて非常に速い。
「グルルルッ!」
「ぐ、グレートブッシュウルフ!?」
ひょっこりと2m前後の草色の狼、グレートブッシュウルフが顔を出す。
取り巻きのブッシュウルフも複数付いていた。
「1階層の中頃か、奥にいる筈のグレートブッシュウルフがどうしてこんな浅い部分にいるんだ!?」
先程まで僕と和やかに会話していたエリオが、慌てた様子で叫ぶ。
「俺達の敵う相手じゃない! ここは一旦引くぞ! 騎士様達も撤退のご協力をお願いします!」
「撤退ということは皆さん、アイツらの相手はしないのですか? なら頂いてもよろしいですね」
「そ、それは構いませんが」
エリオの言質を取る。
「ゴールド、ネムム、狼狩りだ」
僕の言葉に2人は武器を構えたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明鏡自身の予想の遙か上を行くほど皆様が読んで下さいまして、本当に感激しております。読んで下さり応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます! 感想も誠にありがとうございます!(全部読ませて頂いております、折を見て活動報告に感想返答を書かせて頂く予定です)
これからも頑張って書いていくので是非お付き合い頂けると幸いです!
とりあえず今日も2話を連続でアップします。
7話を12時に、8話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は7話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




