44話 踊る会議
今日は43話を昼12時、44話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は44話)。
「…………」
エルフ女王国宮殿会議室は、苛立ちと不安の静寂に包まれていた。
上座に女王リーフ7世が腰を下ろし、手にした扇で自身を仰ぐが、眉間に皺を寄せ、柳眉を逆立て一目で『不機嫌』だと分かる表情をしていた。
彼女から見て左に座る宰相は、不安そうに流れる汗をハンカチで拭っていた。モノクルの位置を居心地悪そうに動かし、落ち着かない様子で貧乏揺すりをする。
本来ならば、女王リーフ7世から見て右手に座っている筈の『白の騎士団』団長ハーディーの姿が無い。
南の港街と首都を繋ぐ街道警備を担当する騎士団責任者が、居心地悪そうに報告を続ける。
「――数日前におこなわれた『謎の巨塔攻略作戦』について、モンスターを誘き寄せる人種冒険者達は、ほぼ完璧にその役割を全うしたと考えて問題ないかと」
作戦当日、エルフ種サーシャより早く『謎の巨塔』の情報を持ち帰ったパーティー『黒の道化師』が先導し、他冒険者を連れて陽動役を務めた。
彼らの活躍で資料にあったレベル1000前後の『尻尾が蛇で巨大な4足獣』を見事に誘き寄せることに成功した。
誘き寄せた後も、『巨塔』に戻らせないため足止めに徹し続けた。
特に先導役も務めた『黒の道化師』パーティーが大活躍したらしい。
黒髪の道化師仮面を被った人種少年は詠唱破棄の戦闘級攻撃魔術を連発。仲間の危機だけではなく、陽動作戦に参加した冒険者達の危機を何度も救った。
彼だけではない。
メンバーも『妖精姫』と呼ばれる褐色美少女は索敵で、『黄金騎士』が盾で他冒険者の危機を救った。
「他にも珍妙な髪型である『モヒカン』とやらの人種冒険者が絶妙な支援を入れることで、陽動作戦に参加した冒険者に怪我人は多数出たものの、死者は出ませんでした。陽動の役目に点数を付けるなら想定以上、満点の出来かと」
普段からヒューマンと見下すエルフ種でも、手放しで絶賛するほどの完璧な陽動役だった。
現場に立ち会ったエルフ種兵士からの報告では、まるで『物語に出てくるような』手に汗握る熱い展開が繰り返されたらしい。
――当然である。『尻尾が蛇で巨大な4足獣』こと『スネークヘルハウンド』は、アオユキの指示で動いていた。
『スネークヘルハウンド』だけでは怪しまれるため、森のモンスターも追い立てて多すぎず、少なすぎない数で現場へと投入した。
ライト(偽)やネムム、ゴールドの活躍も仕込みだ。
珍妙な髪型――モヒカン達の活躍も、普段の頑張りに応えたアオユキなりのサービスである。
八百長……いや、言い換えると『素晴らしい演出』のお陰でライト(偽)達、モヒカン達の評判が上がった。
他種冒険者達は嫉妬心が先立っていたが、人種冒険者達からは一目置かれる存在になったほどだ。
陽動作戦についての報告が終わる。
次の『謎の巨塔攻略作戦』の本体。『白の騎士団』についての話になると途端に口が重くなった。
彼は汗をハンカチで拭きながら続ける。
「『謎の巨塔』に向かった『白の騎士団』団員達の詳細は未だ不明です。過去の事例から推測するにお、恐らく、全滅したかと……」
「……ッ!」
リーフ7世が、『全滅』の報告に瞼を限界まで開き、歯を食いしばり、般若顔を作った。
愛しい息子、エルフ種最強の自慢の息子が死亡したと報告されたら、怒りの表情にもなるというものだ。
宰相が冷や汗をさらに流し聞き返す。
「そ、その推測は本当に正しいのかね? 『謎の巨塔』に向かったのはエルフ女王国最強の『白の騎士団』なのだぞ? そうそう簡単に全滅などありえるのか?」
「可能性は非常に高いかと……」
元々、1日かかるかどうかの短期決戦なのだ。
だから、食料、水も最低限で、装備だけ纏って向かったのである。
エルフ女王国最強の『白の騎士団』を投入して、短期で決着が付かないと判断したら団長であるハーディー達は撤退してくるだろう。
数日経ってそれすら叶わないとなれば……全滅と考えるのが自然だ。
つまり『白の騎士団』を投入しても勝てない存在がエルフ女王国首都近郊に存在するということである。
さらに付け加えるなら――宰相と伯爵家のみ知る事実として、家宝である幻想級武具×2を投入しているのだ。
通常の『白の騎士団』よりも1段階以上強くなっている戦力である。
幻想級は本来国宝級で、かなり希少性が高い。
そんな幻想級武具を2つも所持した彼らが全滅したのだ。
エルフ女王国を滅ぼすことすら可能だった最強戦力の『白の騎士団』がだ。
『母権制を破壊し、男性有利な社会構造に変えようと云々』など言っている場合ではない。
ことは国家存亡の危機にまで膨れあがっている。
宰相が顔色悪く冷や汗を流すのも致し方ないだろう。
会議室に集まる者達は『幻想級武具2つを投入』の事実は知らなくても、皆が『国家存亡の危機』に陥っていることは理解していた。
今後の対応について熱い議論が交わされる。
「他国、竜人帝国か魔人国に救援を求めるべきでは?」
「馬鹿な! 自国戦力の大幅な減少を、馬鹿正直に他国に伝えろというのか!?」
「然り、何よりそれでは我々のメンツが立たぬ」
「『白の騎士団』が未だに生存している、もしくはあの『巨塔』内部から別の場所に飛ばされた可能性は無いのかね?」
「可能性はゼロではないだろうが……」
「『白の騎士団』予備団員達が残っているはずだ! そいつらを纏めて残る戦力を掻き集めて突撃すれば、如何に『巨塔』に住まうレッドドラゴンといえど太刀打ちできまい!」
「正気か!? 『白の騎士団』でも敵わなかったのだぞ!? まして大軍で森を移動すればすぐに気付かれる上、他モンスターを刺激して無駄な戦いで血を流すだけだ。現実的ではありえん!」
「冒険者ギルドに大金を積み、腕利きの冒険者を用意しては?」
「ハーディー団長以上の冒険者が居るとは思わぬが!?」
「だが――」
「しかし――」
会議が踊る。
議論は白熱するが、打開策などそうそう簡単に出るはずもない。
議論は息詰まり、一触即発の空気さえ帯び始めた――が、その会議を破る者は外から現れる。
衛兵が会議室に駆け込んで来た。
ノックもそこそこに、青い顔で部屋へと転がり込んでくる。
会議室に居る皆が不快そうに衛兵へ視線を向け、誰かが叱責を飛ばそうと口を開く。
だが、それより早く衛兵が叫ぶように報告した。
「ど、ドラゴンですッ! ドラゴンの大軍が城上空だけではなく、首都全域に飛び交っております。そ、そ、その数はおよそ100以上ッ!!」
『!?』
☆ ☆ ☆
ドラゴンの群。
その中でもひときわ大きな赤い鱗のレッドドラゴンの背中に乗った人種――フードを頭からスッポリと被り、魔術師風の衣装を纏った正体不明の少女が、眼下に見える城へ声をかけた。
「わたくしの『巨塔』に攻めてきたお馬鹿さん達に告げますわ。今すぐ責任者を出しなさい。さもなくば――この街を灰燼にしてさしあげますわよ?」
謎の少女の声音は不思議と大きく広がり、城だけではなく、エルフ女王国首都全域に広がったのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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また今日は43話を12時に、44話を17時にアップしております!(本話は44話です)
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