40話 仲違い
今日は39話を昼12時、40話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は40話)。
「す、素晴らしい強さだ。まさかこれほどの力を持つ人種が居るとは驚きですよ。この力に平伏してワタシから提案があるのですが……エルフ女王国をワタシと手を組んで、支配しませんか?」
「み、ミカエル様?」
全ての脱出手段を失って床に這い蹲るミカエルが、今まで大上段的態度から一転、媚びた笑みを作り僕へ提案してくる。
あまりの態度の変化にサーシャも困惑の声音を漏らす。
ミカエルは彼女の声を無視して口早に話を進める。
「ワタシはエルフ女王国最強を謳う『白の騎士団』の副団長を務めています。そこで無様にも気絶している団長のハーディーとは違い、政治にも精通しており、王族の血も引き、宰相とも親交があり自身でも非常に有能だという自負がありますッ!」
「…………」
僕は黙ってミカエルを見下ろす。
彼は冷や汗を大量に流しつつも、話を続ける。
「あ、貴方様は素晴らしくお強い! そのお力を正しく使えばエルフ女王国を手中に収めることすらできます! ワタシに任せて頂ければ、すぐにでも玉座へ押し上げてみせましょう! そうすればエルフ種の女性達を好きに扱えますよ!」
(……この期に及んで、まだ人種に対する偏見が捨てきれないようだな)
死ぬか生きるかの瀬戸際なのに、人種が相手なら男女関係無くエルフ種を宛てがえばいいという考えが透けて見える。
エルフ種の人種見下しには本当にうんざりする。
「――僕は言ったはずだけど」
「ッゥ!?」
ピリピリとした空気にミカエル、サーシャが息を呑む。
「約3年前、世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』で殺されそうになった。運良く生き残った後、『種族の集い』メンバーやサーシャ達に復讐するため、なぜ僕が殺されなければならないのか、そして『ますたー』とは何か? 国がどうして『ますたー』を探しているのか? その真実を知るため生きてきたんだ。……エルフ女王国を手に入れることができる、だと?」
僕はミカエル達を見下ろす。
彼らがガタガタと恐怖に震え、畏怖の視線を向けてくるのを自覚する。
「復讐を遂げるため、真実を知るためなら世界中の国々とだって敵対してみせる。エルフ女王国一国がどうこうなんて関係ないんだよ」
「――だ、だったら! ワタシは関係ない。関係ないワタシを解放してくださいッ!」
「み、ミカエル様!?」
わたわたと耳にかけている眼鏡を取り落としそうな勢いで、ミカエルがサーシャから距離を取る。
彼は平伏し、懇願を始める。
「ワタシは3年前に貴方様を殺そうとはしていない! 命令も国からで、ワタシは副団長とはいえ一団員です! それらの件、ワタシはまったく関係が無い部外者ではありませんかッ!」
「ミカエル様! 関係無いはずないでしょ! あたし達は未来を誓い合った婚約者同士じゃありませんか!」
ミカエルはサーシャの伸ばした手を汚いモノを伸ばされたように追い払う。
「気持ち悪いから触るな! ぶさいく! 婚約も上からの命令、政治的な理由だからだ! 本当は嫌だったんだ。下品な庶子との婚約など! この売女がいやらしくワタシの体に触れるたびに鳥肌が立っていたんだ!」
「酷い! あたしのことを愛しているっていってくれたのに!」
「あんなの嘘に決まっているだろう! 復讐されるなら勝手に死ね! ワタシを巻き込むな!」
命の危機を前に婚約者同士がついに醜い争いを始める。
ミカエルが完全に媚びを売り込んでくる。
「本当にワタシはこんな女のことなど何とも思っておりませんから! いや、もう既に何の関係もありません、ただの他人ですッ! もしお疑いになるなら証明のためワタシがこの女を殺してみせましょうか!?」
「ふざけるな! 裏切り者! 裏切り者! 裏切り者!」
「黙れ! 疫病神女! 貴様のせいでワタシまで殺されそうになっているんだぞ! いいから責任を取って死ね! 死んでくれ、頼むからッ!」
サーシャが涙を流し、『裏切り者』と叫ぶ。
一方、ミカエルも彼女のことを『幸運の女神』と持ち上げていたのに、今では『疫病神女』と叫び、必死に責任を彼女一人に押しつけ、自分だけは助かろうと足掻く。
彼は当然とばかりに気絶している仲間達すら売り出す。
「だ、団員達がこのまま死んでもワタシなら上手く口裏を合わせることができます! 『ドラゴンが強くハーディー達が辛くも相打ち』とか! 誤魔化してみせます! なんならエルフ種絶滅にだって協力します! 知っている『ますたー』、『さぶますたー』に関する情報も女神様に誓って全てお話しします! なのでどうか貴方様方のお仲間に、末席に加えてください! お願いします!」
「…………」
狙ったこととはいえ、まさに僕が『奈落』で『種族の集い』メンバー達に裏切られたことの再演だ。
サーシャは信じていた婚約者に裏切られ、ボロボロ涙を流し、絶望感に呵まれる。
サーシャもあの時、ミカエルと似たような台詞をポンポンと吐き出す。
(まさかここまで上手く嵌るとは……)
僕が感慨に耽っていると、ミカエルは泣き落としが通用しないこと気付き、今度は逆ギレを始めた。
「わ、ワタシは関係ないんだ! ここでワタシを殺したらアンタも毛嫌いするこいつらと一緒になるんだぞ! それでもいいのか!? 情報だって知っていることを全部話すって言っているだろ!」
「――確かにそれは嫌だな」
彼の指摘通り、僕は『種族の集い』メンバーと同じことは絶対にしたくない。
あんな奴等と同じになるぐらいなら、皆と大人しく『奈落』に引きこもっていた方が何倍もマシである。
ミカエルは僕の反応に光明を見る。
「でしょう!? だからワタシだけは助けてください! 他の誰かが死んでも構いませんから!」
「ミカエル様! ミカエルぅうぅううぅ!」
サーシャの涙、鼻水混じりの汚い怒声が響く。
彼の指摘通り、罪を犯していないならば僕から手を出すつもりはない。それでは『種族の集い』メンバーと同じになるからだ。
むしろ、そうならないため最初に2人とも助かる道すら用意したほどだ。
『2人一緒に命を差し出すなら、その愛の美しさに免じてこの場で楽に殺してあげるがどうする?』と。
仮にこの選択を2人がしたら、僕を『奈落』で殺してでも、手に入れたい愛が2人にあったのだと納得――はできないが、万が一そうなれば、振り上げた拳を下ろすぐらいの忍耐力はある。
仮にそうなれば、罪を犯していないならばという但し書きはつくが、即時解放は出来ないが、復讐を終えて僕が望む真実を全て知るまで『奈落』の客人として扱うつもりだった。
――まぁ醜く自らの利益を追い求め、プライドが無駄に高いエルフ種がこの選択肢を受け入れるとは思っていなかったが。一応は選択肢を用意しておいた。
しかし彼らはこの選択肢を拒否。
さらに……エリー達の前で散々僕を見下し、暴言を吐き続けたのだ。僕は気にしなくても、彼女達が許すとは到底思えない。
とりあえずミカエルについては、彼女達に任せる。
「僕はミカエル、君に関しては復讐するつもりは一切無いよ。彼女達がどうするかまでは関知しないけど。エリー、後は任せた」
「はい、ライト神様。お任せくださいですわ」
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
ちなみに……サーシャ&ミカエルの仲違いシーンは書いていてすっごく楽しかったです(笑)。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は39話を12時に、40話を17時にアップしております!(本話は40話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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