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39話 ミカエルの切り札

今日は39話を昼12時、40話を17時にアップする予定です(本話は39話)。

 幻想級(ファンタズマ・クラス)、『天使のオカリナ』と盾『祝福と天罰』を破壊され、硬い床をサーシャとその婚約者ミカエルは転がったが、その表情はまだ絶望には至っていない。

 特にミカエルは表情こそ盾を破壊されて驚愕していたが、まだ余裕の態度を崩さなかった。


 彼は床から体を起こすと、ジリジリと僕から後退りつつ、サーシャへと近付いて行く。


「ははは……まさか本当に『祝福と天罰』を破壊されるとは……。こんな化け物の人種(ヒューマン)が存在するなんて想定外ですよ。本当に『ますたー』ではないんですよね?」

「そう国々が判断して、僕を殺そうとしたはずだけど? 君達の判断は間違っていたのかな?」

「はぁー……まったく、君のような危険人物をどうして確実に殺さなかったのでしょうか。どちらだろうが殺してさえいれば、何も問題なかったものを。サーシャ殿、これは大失態ですよ」


 ミカエルはサーシャを叱りつつ、さらに彼女へと近付く。

 どうも何か考えがあって、動いているようだ。

 彼らにとって圧倒的に不利なこの状況をどうにかする手段、切り札がまだミカエルには残っているらしい。

 だから諦めず動き続けているようだ。


(その切り札も見当がつくけど……)


 無駄な行為と理解しているため、僕はあえて見逃した。

 そうとも知らずミカエルは、サーシャの手を握り締めると懐から一枚の札を取り出す。

 札には魔法陣が描かれ、魔術文字がびっしりと書き込まれていた。天使、鳥の羽のようなデザインも施されていた。

 ミカエルは笑顔で告げる。


「貴方のような危険な存在を見過ごす訳にはいきません。一度国に戻り上と掛け合って、次は国家連合を率いて討伐をしに伺いますね。では、今日は一旦失礼します――『マジックカード、空を駆ける翼』!」


 手にした札が『ぶわっ』と炎に包まれる。

 同時にミカエル、サーシャも光に包まれるが――それ以上は何も起きなかった。

 余裕の態度を崩さなかったミカエルが動揺の声音を漏らす。


「……!? なぜだ! 『マジックカード、空を駆ける翼』はワタシの家に代々伝わる『ますたー』から引き継いだ長距離転移の札だぞ! 詐欺に使われる紛い物ではないはずなのに、どうして転移しないんだ!?」


 予想通り、最後の切り札は『長距離転移アイテム』だった。


(さっさと1人で逃げずにサーシャに躙り寄ったのも、転移後に今回の責任を全て彼女に押しつけるつもりだったんだろうな……)


 僕はつい冷めた視線をミカエルに向けてしまう。


「わざわざ『巨塔』を作って、ドラゴンをエサに貴方達を引き込んだんだよ? 獲物が逃げないように『長距離転移』を警戒して対策を取っておくのは、当然だと思うけど」

「ば、馬鹿を言うな! この世に転移阻害なんて魔術は無い! で、出鱈目を言うな!」

「確かに地上には『長距離転移』を阻害する魔術は無いね。『転移阻害』は極々一部のダンジョンで観測されるのみで、地上の魔術では再現されていない。なぜなら元々、『長距離転移』魔術の使い手がおらず、アイテムも稀少だから必要なかったためだ。……でも、無かったら別に作ればいいだけ。ねぇ、エリー」

「まったくライト神様の仰る通りですわ。無ければ作ればいい。道理ですわ」


 僕に声をかけられたエリーが心底嬉しそうに笑う。

 流れから分かるように転移阻害魔術の開発者はエリーである。

 彼女は自慢気に大きな胸を張り、苦労も漏らす。


「『奈落』のコアを解析して作り出したオリジナル魔術ですわ。本当に『奈落』の転移阻害には苦労させられましたわ……」


 あらゆる魔術に精通した『禁忌の魔女エリー』が、約1年かけて『奈落』ダンジョンコアを解析し、転移阻害を解除したのだ。

 エリーはその『奈落』にかかっていた転移阻害を本人なりに魔術へ落とし込んだのである。


「さて、転移は潰した。他に手は無いの?」

「くッ……!」

「み、ミカエル様……ッ」


 つい先程まで調子に乗って僕を散々こき下ろしていたサーシャ、ミカエルは幻想級(ファンタズマ・クラス)の武具も壊され、『長距離転移札』も無効化され、一転窮地に追い込まれる。

 僕を睨むだけで、行動をしないことから彼ら自身、もう手札は残っていないことが理解できる。


「ま、まだだ……ッ! まだ希望はある! 団長達が助けにくる筈だ! 団長はレベル3000を超える力を持つ! お前達なんて一瞬だぞ! 今なら許してやるッ、国にも報告しないでやる! だからワタシ達をここから解放しろ! ここから出せッ!」


 彼らにとって最後の望みは『巨塔』出入口で直ぐに分断された仲間達の救援――特にミカエル達にとって絶対的強者であるハーディーの存在。

 僕は完全に希望を砕くため、『SR、念話』カードを使用する。


『SR、念話』は名前の通り、胸中で言葉を発すれば相手に伝わるが、別に声に出しても問題は無い。

 今回、僕は胸中ではなく、口に出して指示を出す。


「アイスヒート、こちらの戦いは終わったから、入ってきてくれ」

『了解いたしました、ご主人様』

「? な、何を言っているの?」


 突然、1人虚空に向かって語り出した僕にサーシャが戸惑う。

 念話相手の声は第三者に聞こえないため、不思議がるのも致し方ない。

 僕は彼女の戸惑いに反応せず流していると、玉座の間の扉がゆっくりと開く。

 既に扉前に待機していたアイスヒート達が、意識を失っている『白の騎士団』団員達を連れて中へと入ってきた。


「ハーディー様! シャープハット様!」

「ッ……あの丸焦げは……ニアキア!? ま、まさか全員……ッ」


 サーシャ、ミカエルの順番に声をあげる。

 2人が玉座の間に入った後、僕が声をかけたら『白の騎士団』団員達を連れて中に入ってくるよう、エリーを通してアイスヒート達に指示を出していた。


 アイスヒートを先頭にメラがスカート下から伸びる触手で丸焦げのニアキア兄弟を、スズは顔が潰れたシャープハットを、ナズナが重甲冑を砕かれ白目を剥くハーディーの襟首を掴みズルズルと引きずって姿を現す。

 彼女達がサーシャとミカエルの前に『白の騎士団』団員達を放り投げると、サーシャ達は短い悲鳴を漏らした。


 そんな悲鳴など一切無視してアイスヒートが代表して膝を突き、頭を垂れる。


「ご主人様、遅くなり大変申し訳ございません」

「遅れてなんかいないよ。むしろナイスタイミングだ。面を上げて立って」

「ありがとうございます!」


 僕の許しを得て、アイスヒートがお礼を口にすると皆一斉に立ち上がる。

 まるで何百回と練習したかのような動きでだ。


 僕は仲間達に囲まれ、未だ床に這い蹲るサーシャとミカエル達を見下ろし問う。


「……最後の希望、命綱だと思っていた仲間達はこうして全滅した。さぁ他に手はあるかい?」

「ひぃッ!」

「……ッゥ!」


 サーシャは悲鳴を上げて、ミカエルは悔しげにだが『どうすれば生き残れるのか!?』と必死に頭を回転させている表情を作る。


 そんなミカエルの表情が焦り、必死から――媚びを売る表情へと変化した。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


レビュー頂きました、誠にありがとうございます!

今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!

39話を12時に、40話を17時にアップする予定です!(本話は40話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
まさに絶体絶命!
[良い点] このあたりの話を貸本で読みました。 それにしても、人類を導く天使の名を穢す知的生命体!
[一言] 絶望カウントダウンですね
感想一覧
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