6話 成長限界
今日は5話を昼12時、6話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は6話)。
「ブヒィイイイイィッ!」
ダンジョン1階層奥に生息するオークの雄叫びが響き渡る。
オークは雄叫びを上げ、手にした棍棒を振り下ろす。
1人の青年がギリギリで間合いを見きり回避して、オークの後方へと回り込む。
手にした幅広い両手剣を隙だらけのオークの背中を斬りつける。
「ブヒィ!?」
分厚い皮下脂肪に強靱な筋肉、硬い骨。
本来であれば剣で切り裂くのは非常に難しい相手だ。
にもかかわらず、青年が手にした幅広い両手剣はオークをまるで濡れた和紙のごとく、切り裂いてしまう。
オークは驚愕の悲鳴を漏らし、右肩から左腰にかけて切り裂かれ絶命する。
この一撃で動きに耐えきれず、被っていたフードがめくれ青年の素顔を晒された。
蜂蜜色の金髪を後ろで縛り、宝石のような緑色の瞳に尖った耳を露出させている。
顔立ちも女性と見間違えてしまうほど整っていた。
ある意味、典型的なエルフ種の青年である。
「これでようやく10体目か……」
青年はフードが取れたことも、血を流し倒れるオークに目もくれず自身のステータス画面をチェックする。
10体のオークが流す血生臭い匂いも無視して汗を拭い、切れ長の瞳に苛立ちと希望を抱きステータス画面を開く。
「――クソッ! やはりこの程度の相手ではレベルは上がらないか」
ステータス画面には『カイト、200歳、エルフ種、男性、レベル1500』と表示されていた。
カイトと言う名の青年は数値を見ると、ギリリと歯を鳴らすほど食いしばる。
レベル1500。
カイトが心底悔しげに歯ぎしりするほど低いレベルなのか?
否、この世界では『規格外』と断言していい数値である。
一般的にエルフ種、竜人種、魔人種(ばらつき有り)で最大レベルは1000と考えられている。
つまりカイトの『レベル1500』は、彼の年若い(エルフ種としては)年齢200歳を考えると、破格と言っていい。
なのに彼は納得せず、手にした両手剣を苛立たしげに地面へ突き刺す。
「勇者の……『ますたー』の血を引く僕様がレベル1500程度で成長限界を迎えるなんてありえない。こんなの絶対に間違っている!」
成長限界とは?
ある一定の数値に達すると、それ以上レベルが上がらないとされている。それを一般的には『成長限界』と呼ぶ
おおよそ人種でレベル100、獣人種で200~300、ドワーフ種が500、魔人種が300~1000、エルフ種と竜人種が1000と言われている。
あくまで常識的な目安で、絶対ではない。
カイトは『成長限界』を迎えた現実を受け入れられず、エルフ女王国を飛び出しダンジョンに潜ってレベル上げに勤しんでいるのだ。
彼はガリガリと右手で頭を掻く。
「そうだ僕様は勇者、英雄と呼ばれる『ますたー』の血を引く子孫なんだ。僕様もいつか勇者、英雄と崇められる存在になるんだ。『成長限界』? いいやこれは女神が僕様に与えた試練に決まっている! レベルアップすれば! レベル1500を突破さえすれば僕様は英雄! 勇者としてきっと女神に祝福されるんだ!」
ガリガリと血が滲むほど掻いていた右手を止め、晴れ晴れとした表情でダンジョンの青空を仰ぐ。
「僕様が女神に勇者、英雄と認められたら、本国で馬鹿にした奴等をまずは皆殺しにしてやる! 今朝、虫けらヒューマンの分際で英雄で勇者の僕様を注意したあの金ぴか達も、皆殺しにしてやる!」
カイトは今朝のことを思い出し、怒りが再燃したのか大声で叫び出す。
「何が『横入りは止めろ』だ! 僕様を誰と思っている! 将来、女神に英雄で勇者と認められるカイト様だぞ! なのに僕達エルフ種に奉仕する、踏み台になるために生きている虫けらの分際で僕様に舐めた口を利きやがって! 聖剣グランディウスの問題がなければあの場で全員叩き斬ってやれたモノを! 僕様が本気を出せば数秒もかからず皆殺しにしてやれたのに!」
カイトの動きが止まる。
「――いや、あの銀髪の女を殺すのは勿体ないか。ヒューマンの分際で本国でもお目にかかれない美貌の持ち主だったからな。特別に英雄で勇者の僕様に奉仕させる側仕えにしてやろう。飽きたり、醜くなったら棄てるけど。それまでエルフ種で将来の英雄、勇者である僕様が使ってやるんだからあの女もきっと涙を流して喜ぶだろうな」
彼は心底本気で銀髪女――ネムムがカイトの申し出を聞いて喜びで涙を流し、抱きついてくると信じ切っていた。
これは彼の頭が特別平和だからではない。
エルフ種は男女とも美貌の持ち主だ。
故に人種に声をかければ自分達の美貌で簡単に靡く、釣れるとエルフ種は一般的に考えられているのである。
『エルフ種に愛を囁かれて靡かない人種はいない』と豪語するレベルだ。
そんなエルフ種の彼からしても、見たことがない美貌の持ち主であるネムムに脳内で抱きつかれ、愛を囁かれる妄想を描くことで胸中から湧き上がっていた怒りが鎮火する。
カイトは気を取り直し、両手剣を手に取る。
「やれやれ……僕様がいくら将来の英雄で勇者になるからと言って、女神も面倒な試練を与えてくれたものだ。とりあえずダンジョン1階層の弱いモンスターをいくら相手にしてもレベルはあがりそうにないな。もっと深く潜って倒さないと」
ブツブツと自画自賛しながら、オークの肉、魔石なども取らず1人荷物を手に奥へと進む。
カイトはひたすらありもしない『女神の試練』を乗り越えるためダンジョン奥地を目指すのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
本日は5話を12時に、6話を17時にアップしました(本話は6話です)。
お昼にアップしたのをまだ読んでいないかたは、チェックして頂けると嬉しいです。
ちょっとだけ『ますたー』に関する情報が登場!
このエルフはどんな情報を所持しているのか?
またこのエルフに対してライト達はどういう行動を取るのか?
今後も是非お楽しみに!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




