36話 2度目の復讐劇
今日は35話を昼12時、36話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は36話)。
「まさか本当に生きていたなんて……ッ! で、でも顔の火傷は? 体だって3年前から成長していないし……本物のライトなの?」
「顔の火傷は幻影でそう見せていただけだよ。体が成長していないのは『種族の集い』メンバー、サーシャ達に裏切られた絶望、悲しみ、怒りを忘れないため、この姿のままでい続けているんだよ」
「ひぃ……ッ」
正面から憎悪を向けられ、サーシャは小さく悲鳴を漏らす。
そんな彼女をミカエルが間に入って庇った。
彼は背後に庇ったサーシャへ視線を向けつつ、問う。
「サーシャ殿、彼は何者なのですか? 話し振りからすると貴女達が始末した『ますたー』候補のようですが……。殺害したのではなかったのですか?」
「そ、それは……」
サーシャが答え難そうに言葉を詰まらせる。
実際、彼女自身もなぜライトが生きているのか分からないため、説明のしようがなかった。
サーシャを助けるためではないが、ライトは彼女自身にもどうして生きていたのか説明するため口を開く。
「約3年前、世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』で殺されそうになったけど、転移トラップに引っかかって運良く生き残ることが出来た。生き残った後、『種族の集い』メンバー、サーシャ達に復讐するため、そしてなぜ僕が殺されなければならないのか? 『ますたー』とは何か? 国がどうして『ますたー』を探しているのか? その真実を知るため生き残ってきたんだ。アオユキやエリー、彼女達のような仲間を集めて、レベル9999まで鍛えて、地上で情報を集めたり、欺瞞情報を流したり、戦力を整えたりしながらね」
そう言ってライトは笑みを浮かべながら、『巨塔』の壁や床を指さす。
「この『巨塔』だって、わざわざサーシャに復讐をするために用意したんだよ。全ては、最高最善の復讐を遂げるためにね!」
「あ、あたしに復讐をするためだけにこんな『巨塔』まで準備して、しかもれ、ベル9999になんて……う、嘘、こんなのどうしようもないじゃない……」
サーシャは今にもその場で気絶しそうなほど顔色を悪くする。
ライトは彼女の絶望顔を前にしても、『まだ足りない』と満足しなかった。
彼の胸に燻り続けている復讐心はこの程度ではまだまだ満たされなかったのだ。
「ぷっ、ふふふふ……」
「み、ミカエル様?」
絶望感漂わせるサーシャとは正反対に、ミカエルが我慢しきれず笑い声を漏らす。
場違いな笑い声に、サーシャも困惑した表情を作った。
ミカエルは背後に庇ったサーシャへ完全に振り返ると、笑顔を作る。
「サーシャ殿、貴女はやはり素晴らしい。ワタシにとって幸運の女神ですよ。まさか生き残った元『ますたー』候補をワタシ達の手で殺せるなんて! 国をドラゴンで脅かす『巨塔』の主である彼の首を挙げれば、エルフ女王国でのワタシ達の発言力は確実に高まります! そうすればワタシ達の娘が女王候補筆頭ですよ!」
珍しく興奮気味にミカエルはサーシャへと話しかけた。
サーシャは彼の態度に困惑しつつ、反論する。
「で、ですがライトはこんな『巨塔』やドラゴンを準備できるほどの力を手に入れて、し、しかもレベル9999ですよ! 殺せるはずがありませんよ!」
「落ち着いてください、サーシャ殿」
ミカエルはそっと彼女の耳元に口を寄せる。
「確かにこんな巨大な建造物を造り出したのは驚きですが、彼の力とは限りません。恐らく彼の両隣に居る少女達の力なのでしょう。特に魔術師風衣装を着た少女の耳を見ましたか? 彼女、恐らくエルフ種です」
言われてライトの左隣手前に立つエリーへと視線を向ける。
魔術師風衣装姿で、帽子の下から覗く耳は確かに尖っていた。エルフ種より短いためすぐには気付かなかった。
この世界、他種同士で子供を作ろうとした場合、妊娠確率が同種より圧倒的に下がる。
さらに外見的特徴や能力は、両親の種どちらかのまま産まれてくるのだ。
つまり『人種×エルフ種』の場合、産まれてくる子供は見た目と能力が人種か、エルフ種のどちらかになるということだ。
人種『ますたー』の血を引く、『さぶますたー』は存在するが――極論すればハーフという存在はいないことになる。
ちなみにエルフ女王国では、『ますたー』の血を取り込み人種の子供が産まれた場合、そのまま外に出さず囲い込みを継続してエルフ種と婚姻を結ばせ血を取り込んでいく。
最終的にエルフ種のみしか産まれなくなるまでずっと繰り返すのだ。
なのでミカエルは、エリーを『ますたー』の血を引く『さぶますたー』のエルフ種と考えたのだ。
『ますたー』の血を引く『さぶますたー』で魔術に優れたエルフ種なら、この『巨塔』を作り出したとしてもおかしくないと考えているのだろう。
尖った耳が短いのも、障害だと推測した。
短い耳に産まれてしまったため、エルフ種から迫害を受けて排斥された。傷ついている所に人種のライトに優しくされたせいで彼に従っていると判断を下したのだ。
さらにミカエルが続ける。
「それにレベル9999はただのはったりでしょう。エルフ種最強の団長がレベル3000前後。その約3倍とか、常識的に考えてヒューマンが到達できるわけないじゃありませんか。子供が極端に、大袈裟に物事を主張する心理と同じですよ。雰囲気に飲まれてはいけません」
「た、確かに言われてみれば……常識的に考えてありえませんよね。レベル9999なんて……」
「見た目に変化が無いのもサーシャ殿達に裏切られて殺されそうになったショックのせいでしょうね。症例は少ないですが精神的に深く傷つくと、肉体が成長を拒み見た目が変化しないという病気があると以前本で読んだ記憶があります。きっとそのせいで肉体が成長しないのでしょう」
「なるほど……」
ミカエルの冷静さが移ったのか、サーシャの心がだんだんと落ち着いていく。彼女自身、『巨塔で待つ。ライト』の紙を手にしたが、彼が生きているかどうかについては心の底では半信半疑だった。
しかし実際、ライトの約3年前と変わらない姿を見て激しく動揺してしまった。
気持ちが落ち着くと、ミカエルの意見が常識的で正しい気がしたのだ。
一方、ミカエルは胸中でアオユキ、エリーについて考察する。
(元『ますたー』候補君を助けたのが彼女達なのでしょう。彼は見た目が幼く、顔立ちはエルフ種と比べても負けない容姿をしていますから、悲惨な生い立ちも合わせて彼女達の情、母性を刺激したのでしょうね。ご婦人の中にはああ言う『か弱く幼い少年』の方が良いという方が居ると聞きます。恐らく彼女達は弱い者が好き、そういう趣味を持っているのでしょう)
アオユキ、エリーが耳にしたら激怒し、八つ裂きにされるより酷い妄想をミカエルは考え込む。
彼はさらに斜め上の懐柔案を目論んだ。
(この『巨塔』を作ったのは恐らく彼女達でしょう。ワタシ達も知らない未知の技術は欲しいですね。他国に流すのは勿体ない。少年が好きなら、ニアキア兄弟をあてがえばこちら側に引き込める可能性が高いはず)
ミカエル自身『ヒューマン程度で満足しているなら、容姿に優れているエルフ種をあてがえば余裕で懐柔できる』と無意識に計算してしまっているのだ。
ライト、アオユキ、エリーに対する考察――その全てが『ヒューマンがエルフ種より優れているはずがない』という腐った土台から成り立っているのだ。
最初の1歩を間違えているのに、正しい答えに辿り着くことなど不可能である。
ミカエルはサーシャの耳元から顔を離すと、爽やかな笑みを作った。
「だから怯えず、あの元『ますたー』候補君を討ち取りましょう。そしてワタシ達の幸福な未来を一緒に勝ち取るのです」
「ミカエル様……はい! あたし、頑張って一緒にあの意地汚く生きている元『ますたー』候補のライトをぶち殺しますね!」
2人は魔王に対峙する勇者パーティーのごとくライト達へと向き直る。
その瞳は偽りの正義心と醜い欲望が混ざり合った混沌色を作り出す。
2人の会話が終わるまで待っていたライトは、望まれる自身の役割を全うするかのように語りかける。
「僕の目的はあくまで元『種族の集い』メンバー、サーシャに復讐することだ。『白の騎士団』副団長殿、大人しく彼女を引き渡せば貴方の命だけは助けよう。……もしくは愛しい婚約者を絶望の果てに殺されるのが我慢ならないと言うならば、2人一緒に命を差し出すなら、その愛の美しさとやらに免じてこの場で楽に殺してあげるが、どうする?」
2人が望む魔王のようにライトは酷薄に笑い、足を組み替えて、問いかける。
彼の問いかけにミカエル、サーシャも勇者パーティーになりきり高らかに告げた。
「どちらも断る! ワタシは愛しいサーシャ殿を手放すようなマネはしない! 醜いヒューマンを倒し、そこにいる彼女達をも助ける!」
「ミカエル様の言う通り! 今度こそあたし達の手で、ライト、あなたを地獄に送り返してあげるわ! 大人しく地下虫のごとく、こそこそ隠れて生きていれば見逃したのに……ヒューマンの癖に調子に乗って復讐を願ったから、身を滅ぼすのよ! 自身の愚かさを悔いながら死になさい!」
ミカエルがサーシャだけではなく、アオユキ&エリーも含めて『彼女達を助ける』と宣言。
サーシャは紙を渡されて以後、ずっと抱えていたストレスからの解放と今度こそ確実にライトを殺すことが出来る喜びから高々と叫ぶ。
2人の宣言にライトが笑う。
心の底から笑う――最高の最善、理想の復讐を成し遂げられそうな事実に歓喜する。
この瞬間、ミカエルとサーシャは自身の命を断ち切ったのだ。
「ならばもう言葉はいらない――復讐を開始しよう」
ライトは王座から立ち上がる。
ミカエル、サーシャが臨戦態勢を取る。
ライトのガルーに続いて2度目の復讐劇が始まった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
サーシャ&ミカエルがもう調子にのりまくっていますね(笑)。
次はライト自身のバトル回です!
どのような戦いになるのか是非お楽しみに!
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は35話を12時に、36話を17時にアップしております!(本話は36話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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