32話 3階での戦い1
今日は31話を昼12時、32話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は32話)。
「あたいはナズナ! ご主人様の配下の中で一番強いナズナだ! さいきょーなんだぞ!」
「…………」
レッドドラゴン退治に『巨塔』へ足を踏み入れて直ぐ、転移トラップで『白の騎士団』+サーシャはバラバラに分断されてしまう。
団長であるハーディーが転移すると、目の前に甲冑姿の美少女が立っていた。
ナズナと名乗る美少女の背丈は低く、血のように赤い瞳をしていた。銀髪を長く伸ばし、背丈が低いのに胸はとても大きい。見た目は深窓の令嬢のように美しい容姿だが、重そうな甲冑を纏い、自身より巨大な大剣を手にしているため言動と合わせてギャップが激しかった。
転移トラップの影響のせいか『サイレント』の効果が失われている。
お陰で彼女の台詞を耳にすることが出来た。
体を動かし、周囲を確認すると身に着けた甲冑の音が響く。
(ここは……1階とは雰囲気が違うが『巨塔』内部のようだな)
1階で目にした謎の建築素材で出来た巨大な柱、床、壁の質感を思い出す。現在居る場所は広い空間だった。
円形で壁にめり込むように規則的に柱が埋め込まれているお陰で、サッカーグラウンドレベルに広い。
目の前に立つ美少女以外、人影も、隠れる場所も無く戦闘をするにはもってこいの場所だった。
「おい! おっさん、聞いているのか? 人の話は聞かないといけないんだぞ?」
自分を視界に捕らえつつも、周囲を確認するハーディーにナズナは苛立った声を飛ばす。
話をしているのに、一切反応が無いのが気に食わなかったのだ。
ハーディーは眉根も動かさず、背負った大剣に手を掛け外し告げる。
「……聞いている。敵でいいんだな?」
「おう! あんたエルフ種で一番強いんだろ? ご主人様にあんたと戦ってあたいがどれだけ強いか確認しろって言われているんだ!」
「そうか」
ハーディーは一切の動揺もなく大剣を構えた。
『白の騎士団』団長として数々の任務をこなしてきた。ナズナより幼い子供の姿に変装したモンスターとも戦った経験がある。
今更、彼女の見た目程度では動揺しない。
少女の言動から、彼女の『ご主人様』という存在が居て、意図的にこの『巨塔』を準備、転移トラップを用意して『白の騎士団』団員達を分断したのは簡単に予想がつく。
『強さの確認云々』以外に、『ご主人様』に狙いがあるかは分からないが……。
ただ目の前の少女は、相当な手練れでただ者ではない強さを感じる。
(だが、それだけだ……)
手練れだろうが何だろうが、自分に敵うはずがない。
自身は『白の騎士団』団長、エルフ種最強の男、『静かなるハーディー』。
さっさと彼女を無力化し、殺さないようにいたぶり情報を引き出す。
情報を引き出した後は、仲間達と合流、またはレッドドラゴンの討伐か、『ご主人様』という存在の捕獲、殺害をするだけだ。
ハーディーにとって、仲間達と分断され、単騎敵陣に取り残された状況も、いつもの仕事と変わらなかった。
「いくぞ」
「おうよ! 楽しい戦いをしようぜ!」
(……ヒューマンの子供ではないな。魔人種か? 大剣、甲冑、どれも業物の一品だな)
ナズナも手にした大剣を構える。
戦闘態勢を取ると瞳孔が縦に伸び、明らかに彼女より重い大剣、甲冑を身にまとっているにも関わらず楽々と構える姿から、人種ではないと判断を下したのだ。
剣を構える動作だけで、相手の力量が高いのを見抜く。
命のやりとり、殺し合い直前にも決してハーディーは冷静さを失わない。
奇しくも同じ大剣、重甲冑同士の戦いとなる。
先にナズナが仕掛けた。
「でやぁッ!」
「!?」
ナズナが気合一閃!
手にした大剣を振り抜く。
剣閃がハーディーへと飛び彼の持つ大剣、甲冑を切断、肉体にもダメージを与え、さらに後方奥にある『巨塔』壁を貫通し大きな亀裂を作り出す。
「…………」
ハーディーはこの一撃に耐えきれず意識を失いその場に倒れてしまった。
「……………………あれ、お終い?」
ナズナは大剣を振り抜いた姿勢のままぽつりと呟く。
彼女的に気合は入っていたが、あくまで牽制、小手調べ的な一撃だった。
剣閃を弾くなり、回避、受け止めている隙に、間合いを詰めて大剣を切り結ぶ予定だったのである。
故に予定が外れて、踏み出そうとした力が行き場を失い少しずつ抜けていく――が、念話が繋がる感覚に体全体を強ばらせた。
念話の相手は『禁忌の魔女』エリーである。
『ナズナさん! 貴女、早速巨塔の壁を壊しましたわね!』
「こ、壊してないし!」
エリーの声音は怒りに満ちていて、ナズナは思わず嘘を付いてしまう。
念話先のエリーの声音が一段低くなる。
『そんなすぐにバレる嘘をつくんじゃありませんの! 巨塔の修復はわたくしの魔力とリンクしていると説明しましたわよね!? こんな馬鹿みたいな魔力の持っていかれ方は壁の修復以外ありませんの! ライト神様の前で無様に尻餅を突くところだったのですよ! 尻餅を!』
「ご、ごめん! エリー、ごめんなさい!」
敬愛する主人の前で突然尻餅を突くという羞恥的場面を想像して、ナズナは流石に顔色を青くする。
また彼女の言葉通り、外が見えていた壁はエリーの魔力によって徐々に修復していった。
さらにエリーが追撃をしかける。
『どうせハーディーも力加減を間違えて既に倒してしまっているのでしょ? 地上に出て初めて任された仕事で気合が入るのは分かりますが、ナズナさんはもう少し力の抑え方を学びなさいな。ナズナさんの強さは皆が認めますが、手加減は苦手ですわよね? そんなんじゃ、ライト神様に地上で力を求められた時、被害が計算以上に大き過ぎてナズナさんに任せたくても、任せられない場面が出てくるかもしれませんわよ? 貴女はそれでもよろしいのですか?』
「よ、よろしくない、です……」
『はぁ……だったら、もう少し努力をなさいな。今回は仕方ないとして、次に機会がある時はせめて巨塔の壁を壊さないぐらいの力加減を覚えなさい』
「分かったよ……ごめんな、エリー……」
『分かればいいんですのよ、分かれば』
「ぐ、ぬぅ……ッ」
エリーと会話をしていると、倒れていたハーディーが意識を取り戻す。
彼は自身に『魔力よ、顕現し死に逝く肉体を癒したまえ。中級ヒール……』と魔術で戦術級の回復魔術を使い、傷を癒し始めた。
「なんか復活したぞ!?」
『……わたくしの術式のお陰で死なずに済んだから、傷を癒して再度立ち上がろうとしているのですわね。いいですか、次こそナズナさん自身の実力を確かめるのも含めて、手加減を覚えてくださいまし! 巨塔の壁を壊さないぐらいの力加減ですわよ!』
「分かってる! 今度こそ任せろ!」
念話を切りハーディーが傷を癒し立ち上がるのを待つ。
彼が立ち上がるまで約3分の時間を要した。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は31話を12時に、32話を17時にアップしております!(本話は32話です)
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