31話 2階での戦い3
今日は31話を昼12時、32話を17時にアップする予定です(本話は31話)。
スズが持つロックは、見た目こそ『マスケット銃』だが、喋る時点で地球産とはまったくの別物だ。
あくまで外見は『マスケット銃』だが、分類上は魔術的力を持つ武具――剣を振るうと炎が出たり、風の刃が出たりする武器と同じ、『魔術武具』だ。
その中で喋る武器、防具を『インテリジェンスウェポン』と呼ぶ。
『魔術武具』ロックは、シャープハットの持つ『不可視のクロスボウ』のように使用者――この場合はスズの魔力によって銃弾を作り出す。
さらに発射された銃弾は彼女(?)の意思で自由自在に動かすことが出来るのだ。
連射速度も『不可視のクロスボウ』の比ではない。
1分間に1000発以上も発射を可能とする。
文字通り桁が違うのだ。
「ッ!」
上空に撃ち出した『魔力で作り出した弾』――魔弾を待機させて、スズが殺意に満ち満ちた菫色の瞳でシャープハットを射抜く。
「……ヒィッ!」
あまりの怖気から幾多の修羅場を潜り抜けてきた『白の騎士団』団員であるシャープハットが反射的に小さく悲鳴を漏らしてしまう。
この場で唯一、思考がクリアなのはロックだけなのは皮肉だろう。
『相方! 一旦落チ着――』
「!」
ロックの制止も無視して上空に撃ち出した大量の魔弾を雨霰と撃ち下ろす!
「ちょ! 待って! 巫山戯んなこらぁぁぁッ!」
レベル2000のシャープハットは全身全霊で回避行動を取るが、先程まで立っていた場所を撃ち砕いた魔弾はその動きを止めない。
速度を落とさず、大量の魔弾がシャープハットに牙を剥ける。
「クソ! クソ! 魔力充填、最大連射! サミダレ!」
シャープハットが切り札の一つを切る。
通常は、1発撃つごとに魔力を補充して矢を発射している。魔力の無駄を抑え消費を抑えるのと、『不可視のクロスボウ』本体の負担をなるべく減らすためだ。
『魔術武具』である以上、乱暴な使い方や負担をかけ続ければ破損、最悪の場合は修復できないほど壊れてしまうこともある。
だがこの『サミダレ』は魔力は垂れ流し、『不可視のクロスボウ』の負担を無視して、速射のみを追求したシャープハット最速の連射だ。
逆に魔力を限界まで溜め込み、一撃を放つ奥の手もあるが、今回は手数が必要な場面のため『サミダレ』を使用している。
シャープハットは足を止め、追撃してくる魔弾達を撃ち落とすために連射し続ける――が、彼の切り札は、スズの通常技以下の性能しかなかった。
「『サミダレ』でも連射が追いつかないとか! 化け物っすか!」
降り注ぐ魔弾の数が多すぎて、シャープハットの全力全開の速射でも手が足りず、再び回避行動に移る。
まるで最初の戦闘の立ち位置を入れ替えたようだった。
最初の戦闘との違いは、スズが撃った魔弾の能力が極悪だった点だろう。
「ぐがぁっ!?」
魔弾がシャープハットの肩をかすめる。
軽鎧を濡れ紙のごとく裂き、皮膚を破き、血液を一部蒸発させる。
怪我は負ったが致命傷には程遠いかすり傷だが、シャープハットは悲鳴を上げてしまうほどの激痛を味わう。
痛みに悶えつつも、冷静な意識の一部が原因を究明するため動く。
(ただのかすり傷なのにこの痛みはどういうことっすか!? 体調も悪くなって……これは毒!?)
伊達に修羅場を潜っていない。
シャープハットは数秒もかからず原因を突き止める。
彼の予想通り、魔弾によって作られたかすり傷によって、体が『猛毒化』してしまったのだ。
『白の騎士団』で猛毒モンスター相手の戦闘で毒を受けてしまったことがあり、その実体験があったからすぐに気付くことが出来た。
その時に受けた猛毒以上に強烈な痛みが全身を襲ってくるが……。
『猛毒化』の痛みによって動きが鈍る。
その隙を逃すほどスズは甘くない。
「――――」
瞳孔が限界まで開いた爛々と殺意に輝く瞳を向けて、ロックを右手に持ち、構える。
マスケット銃(擬き)の引鉄を『闇夜に霜の降る如く』絞る。
魔力によって作られた魔弾がシャープハットの頭部を捕らえ、鮮血を散らす。
さらに蜂が獲物に群がるように発砲済みの魔弾達が一斉に彼の体へと群がった。
シャープハットの体は地面に倒れる暇もなく、魔弾に弄ばれるように蠢く。
魔弾が着弾するたび猛毒化だけではなく、出血、混乱、視界暗転、呪い、麻痺、催眠、幻覚、衰弱、意識混濁、etc――バッドステータスが追加されていった。
スズがロックから発射する魔弾は、属性を上乗せすることが出来るのだ。
例え軽い傷でも敵対者にバッドステータスを与える力を持つ。
まさに『魔弾』の名前に相応しい能力ともいえた。
「ぐががっがぎゃ……ッ!」
シャープハットは数百の銃弾を体に浴びて、数え切れないほどのバッドステータスも追加されてようやく床に倒れることを許される。
だがまだ死んでいない。
正確にはエリーの作り出した術式のお陰で『死ねない』のだ。
「ッ!」
「ぐごッ!?」
すぐさまスズは間合いを詰めて黒い革靴の爪先でシャープハットをサッカーボールのごとく蹴り飛ばす。
レベル7777の脚力で蹴られた彼は、まさしくボールのごとく吹き飛び柱をへし折り、床を転がる。
それでも気がすまないスズは彼の顔面をブーツの踵で踏み砕く。
シャープハットが最後に見た光景は、スズのブーツの底面だった。
ブーツの踵を顔面に振り下ろされた時点で意識が途絶える。
にも関わらずスズは何度も『ガン!』と繰り返し足を落とす。
ロックが、
『イイ加減、落チ着ケ相方! 第一、ソンナ状態デ蹴ッテイタラすかーとノ中身ガ見エテシマウゾ!』
「ッゥ!?」
ロックの注意に冷静さ――いや、この場合は羞恥心を思い出したスズが慌ててスカートを抑えて真っ赤な顔で虫の息のシャープハットから距離を取る。
落ち着いた彼女(?)に対してロックが小言をぶつける。
『マッタク派手ニヤリヤガッテ……らいと様ノオ言葉ヲ忘レタノカ? 実力ヲ確カメル前ニ倒シテドウスルンダヨ』
「!?」
ロックの指摘にスズが真っ赤だった顔を、真っ青に変える。
シャープハットはこの地上で、エルフ種の中でも最高位の遠距離タイプだ。
その技術、実力を確かめ、自身を計る試金石にするよう言われていた。
だからこそ、最初は攻撃をせず、回避に専念して相手の手の内を観察していた。
レベル7777とも明かさずにだ。
しかし、ライトから与えられた服を汚されたせいで頭に血が上り、最後は一方的に叩き潰してしまった。
スズは慌ててロックに訴える。
「!!!?」
『止メトケ止メトケ……例エ回復サセテモマトモニ戦エル精神状態ニハナラナイッテ。回復サセルダケ魔力ノ無駄ダ』
「~~~!」
スズはロックの正論に涙目でその場で膝を抱えて蹲る。
頭に血を上らせて暴れたスズの自業自得だが、相方として慰めない訳にもいかない。
『大丈夫、らいと様はお優シイ方ダカラ。コンナコトデハ怒ラナイシ、見限ラレナイッテ』
「……?」
『本当、本当! ロック、嘘ツカナイ!』
その後、シャープハットとの戦闘より、ロックが落ち込んだスズを慰める方が長かった。
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31話を12時に、32話を17時にアップする予定です!(本話は31話です)
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