30話 2階での戦い2
今日は29話を昼12時、30話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は30話)。
『巨塔』2階は、他階層に比べて一番天井が高い。
常人の視力では暗く、霞んで見えないほどだ。
また1階とは違って身を隠すのに適した柱が多数乱立しているのが特徴である。
「ひゃっほーっす!」
「…………」
乱立する柱をくねくね避けて、動きながらシャープハットが不可視の矢を乱れ撃つ。
彼が楽しげに攻撃をし続ける一方、スズはロックを抱えて走り回り、柱を盾にして逃げに徹していた。
とはいえ、悲壮感は無くシャープハットの動きをじっくりと観察する余裕すらある。
だが余裕があるのはスズだけではない。シャープハットも結んだ長髪を靡かせ声をあげる。
「準備運動はこれぐらいにして、本番といこうか子ウサギちゃん!」
シャープハットは右腕をスズに向け不可視の矢を発射!
さらに立て続けに彼女(?)を狙わず頭上へ、左、右、はては彼自身の背後に向けて立て続けに矢を発射する。
別に遊びや悪ふざけで出鱈目に発砲しているわけではない。
全て計算ずくで撃っているのだ。
不可視の矢が鳴らす風切り音から、ロックが声をあげる。
『見エナイ矢ヲ上下左右、果テハ相方ノ背後ヲ狙ッテ迂回シテ飛バストハ……えるふ種ニシテハ、ヤルナ!』
「ありがとっす、ロック! だが本番はこれからっすよ! よっと!」
先程は上下左右、背後など1発ずつ狙って発射した。
次はそれを踏まえた上で速射で空間を埋めるように不可視の矢を連射する。
まるで詰め将棋のごとく、矢を高速連射してスズの逃げ道を塞いでいく。逃げる先を限定し、さらに逃げ道に矢を置いていくのだ。
結果、スズの逃げ道はさらに限定され、苦しくなる。まさに悪循環だ。
そんな矢の檻を作り出せるのも、シャープハットに高い技量があるからだ。
そして、彼が愛用する秘宝級、『不可視のクロスボウ』の力も大きい。
見た目は――本体丸ごと不可視のため装備者以外には見えないが、手に着ける小手型の小型クロスボウで使用者の魔力を矢に変化させて発射する。
威力は込める魔力に比例し、発射後もある程度は誘導が可能だ。
何より特徴的なのは、速射力である。
一般のクロスボウと違って自分の手でわざわざ弦を引いて、矢を取り出し、設置する必要がない。
『不可視のクロスボウ』が全て自動的にやってくれるため、使用者は魔力を込めて、狙いを付けるだけでいいのだ。
発射する矢の速度も変えることが可能だ。
非常に強力な魔術武具だが、完全に使いこなすのは非常に難しい部類に入る。
ただ魔力を込めて撃つだけなら、ある程度以上のレベルならば誰にでも出来る。
威力、速度の強弱、発射後の誘導や相手の逃げ道を潰して、狙いに違わずヒットさせる技術力。
シャープハットが射撃手として高い技量を持つからこそ、相手を追い詰めるような射撃ができるのだ。
「子ウサギちゃん、速い男は嫌いっすか! 逃げてばかりじゃないっすか」
「…………」
「それじゃ自分ッチを倒すことなんて出来ないっすよ。それとも魔力切れを狙っているっすか? 消極的過ぎっすよ。それに――そこ!」
「!?」
スズがミスを犯す。
シャープハットの射撃技術が優れているとも言えるが、誘導され逃げ道を失った場所へと足を踏み入れてしまった。
結果、彼が今までと違って魔力を注いだ強撃の一矢が、スズの着地と同時に叩き込まれる!
『ドンッ』とその場の空気を全て吹き飛ばすような衝撃波。
材質が分からない硬い床を余裕で砕き、煙を巻き上げる爆発を起こす。
「ッゥ!」
巻き上がる煙を内側から破り、顔と服をシャープハットの一撃で汚したスズが床へと着地する。
元気に動く様子から怪我は無さそうだが、汚れたスズを前にヘラヘラとシャープハットは余裕の態度を取る。
「ちょっと強く攻撃し過ぎたっすね。めんご、めんご。もしかしたら今ので殺しちゃったかと焦ったっすけど、無事でよかったっすよ。ちょっと顔や服とか汚しちゃったようっすけど……汚れたスズちゃんも綺麗っすよ。――なんちゃって!」
「!?」
スズは指摘されて気付く。
シャープハットの攻撃、敵の攻撃で衣服を汚していたことを。
敬愛するライトの恩恵『無限ガチャ』カードから召喚された時に得て、ライトより与えられた衣服を汚されたのだ。
エルフ種最高の射撃手と言われている相手のため、『見』に徹していた。ライトの言葉に従い攻撃を加えず回避に専念していたのだ。
参考にするべきところは無かったが、曲芸的、遊び的な攻撃に気が緩んだのは否定しない。
結果、ライトの恩恵『無限ガチャ』カードから召喚された衣服を汚したのだ。
服など洗えばいい――確かにそうだ。
顔もただ汚れただけでダメージはゼロ。洗えば落ちる。
しかし誰よりも、スズ自身がライトによって与えられた服を汚されたことを許せなかった。
空気が一変する。
菫色の瞳が殺意に濡れる。
(殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころスころスころスこロスこロスこロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……ッ!)
『オイ、馬鹿、落チ着ケ相方!』
「……へぇ?」
ヘラヘラと笑っていたシャープハットも空気の変化に気付く。
ロックの制止を無視して『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』のスズがその本性を現す。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
『マスケット銃』の銃口を天井へ向けている。
銃口からシャープハットの連射がお遊び、玩具レベルに見えるほど絶え間なく銃弾が発射された。
分間1000発を超えるレベルの速射だ。
あまりに速すぎて聞こえてくる発砲音が途切れず、一つに繋がっているように聞こえるほどだった。
そして、その弾全てが――空中で止まり、シャープハットに向け、待機する。
「……ッ!?」
空間を埋め尽くすほどの静止した弾丸に狙いをつけられたシャープハットは、息を呑む。
約10秒かからず数百の銃弾を吐き出したスズは、菫色の瞳を殺意で満たし、シャープハットを睨みつけたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は29話を12時に、30話を17時にアップしております!(本話は30話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




