29話 2階での戦い1
今日は29話を昼12時、30話を17時にアップする予定です(本話は29話)。
「自分ッチが転移トラップを見抜けないとかありえないっすよ。なんなんあれ。あー、国に戻ったら団長にどやされるっすよ。マジ、ヤベー……」
『白の騎士団』団員、射撃手のシャープハットは転移トラップ後、気付けば見知らぬ空間に放り出された。
『巨塔』1階に比べて柱は細く、乱立している。
明らかに1階ではないと一目で気付く。
部屋の材質から、『巨塔』内部のどこかだとは把握できた。
「1階でないとするなら、2、3、4階のどこかってところっすかね。その辺、どうなんすか?」
シャープハットが乱立する柱の一角に視線を向けて問う。
普段、チャラチャラとした態度を取っているが、彼はレベル2000前後。エルフ女王国最強の騎士団団員であり、女王国で3番目の強さを誇る存在だ。
予定外の転移トラップで見知らぬ場所に飛ばされても、愚痴は零すが新人団員のように慌てふためかない。油断せず、すぐさま周囲を把握、外敵の有無を確認する。
そして、その気配察知に引っかかる影があった。
転移した団員達ならば、すぐに声をかけてくるだろう。
気配の大きさからドラゴンではなく、人だと判断できた。
『巨塔』内部に居る自分達以外の人型は、恐らく人型モンスターか、敵対的思考を持つ者だろう。
どのような攻撃、魔術が来ようと対応できるよう警戒しつつ、シャープハットは問いかけたのだ。
「…………」
柱の陰からシャープハットを観察していた者が姿を現す。
警戒していたシャープハットは姿を現した者を前に大きく目と口を開いてしまう。
身長は低く、幼げな雰囲気の女性。
黒髪を短く切り、マントを羽織っている。
上着に腰をギュッと締めるようなコルセットを身に着け、丈の短いスカートに黒いタイツ。臑まで覆ったブーツを履いている。
菫色の大きな瞳に、薔薇色の唇から微かに覗く歯は真珠のように艶々としていた。
手には槍のような長い得物を手にしている。
見た目、エルフ種女性など足下にも及ばない人種美少女(?)が姿を現す。
シャープハットは無意識に声を漏らす。
「か、可憐だ……」
この一瞬だけは周囲の警戒を忘れて人種美少女(?)――スズに見惚れてしまう。
シャープハットは意識を取り戻すと、乱れた髪、衣服の汚れ、埃、全体を直しつつ咳払いをして声の調子を整える。
自分が一番格好良く見える笑みを浮かべ声をかけた。
「美しいお嬢さん、是非お名前と、こんな『巨塔』に居る理由をお教え頂けませんっすか? もし迷子になって出られなくなったのでしたら、このシャープハットに外までエスコートさせてくださいっす」
「…………」
「お嬢さん?」
シャープハット渾身のイケメン笑顔にスズが気持ち悪そうな表情で半歩下がる。
地味に気持ち悪がられたのがショックだった。
エルフ女王国に居る虐げられてきた人種相手ならば、この笑顔で100戦100勝してきた。
既に処分したソーシャもこの笑顔を浮かべると頬を赤く染め、うっとりとした表情をしていたのにだ。
スズの手にした長い得物がカタカタと動く。
『悪イナ色クズ男。相方ハ無口ナンデナ』
「……インテリジェンスウェポン?」
手にした得物がカタカタと喋り出しても、シャープハットはそこまで驚かない。
ごく稀に、遺跡や宝箱から出るマジックアイテムや武器に、喋る物が存在するからだ。アイテムなら『インテリジェンスアイテム』、武器・防具なら『インテリジェンスウェポン』と呼ぶ。
珍しくはあるが、そこまで騒ぐ物ではない。
『相方ハすず、おいらハろっくッテ言ウンダ。短イ間ダカラ憶エナクテモイイケドナ』
「……それはどういう意味っすかね」
さすがに不穏な単語、雰囲気が漂ってきたためシャープハットは気持ちを締め直す。
『インテリジェンスウェポン』ロックは、相方であるスズに代わってカタカタと、情報を説明する。
『ドラゴンは白の騎士団を誘き寄せるエサ』
『今頃、分断された仲間達は自分達同様、実力を計るための物差し代わりに使われている』
『助かりたければ自分達を倒すしかない』と。
一通り説明を聞いたシャープハットが一杯喰わされたという表情で溜息を漏らす。
「全部、そっちの手のひらの上ってことっすか……。宮廷内部で互いに足を引っ張り合っているからこんな罠にかかるっすよ……本当にマジ最悪なんすっけど……」
肩を落としたシャープハットは気持ちを切り替え訴え出す。
「自分ッチ達が戦う理由は分かったっす……でも、自分ッチ、マジスズちゃんに激惚れしちゃったっす! 戦うとかちょっと脇に置いて自分ッチと愛を交わし合わないっすか!」
「!?」
スズはシャープハットの告白に心底気持ち悪そうに身震いし後退る。
彼自身、冗談や駆け引きで告白した訳ではない。
了承してくれるなら処分したソーシャの代わりに、本気でスズを一時の恋人として受け入れるつもりだった。
彼女の持つ情報を吐いてもらうことは避けられないが、だ。
しかし当然ではあるがスズにまったくその気はない。
ぼそぼそと手にした得物、ロックに伝える。
『相方曰ク、全ク好ミデハナイシ、生理的ニ無理、ラシイゾ』
「なら好みになるよう頑張るっすよ! だから、スズちゃんの好みを教えてくださいっす!」
シャープハットは『生理的に無理』とはっきり振られているにも関わらず、オーバーリアクションを取りつつ、スズへ訴えかける。
一方、スズはさらに後ずさり、好みをロックへと伝える。
その時のスズは恋する乙女のように頬を真っ赤に染めた。
『相方ノ好ミハ……黒髪デ、可愛ラシク格好イイ顔立チデ、皆ニ優シク凛々シイ殿方ッテ……コレ、ドウ考エテモらいと様ダロ。イクラ相方デモ無理目ジャ――アイタ! ヤ、止メロ相方! おいらハコウ見エテ精密ナンダゾ! 銃身ガ歪ムカラ止メテクレ!』
恋心を即座に否定されたスズは涙目でロックを、柱にガンガンとぶつけ出す。
ロックは騒ぐがこの程度で歪むほど柔な作りはしていない。
見た目は『マスケット銃』だが、『インテリジェンスウェポン』である。地球産『マスケット銃』と同じ物質で作られていないのだから、当然と言えば当然だ。
ロックを涙目で柱にガンガンとぶつけるスズを前に、シャープハットが肩をすくめる。
「自分ッチの告白を受け入れて降参してくれるのが一番ありがたかったっすけど……しゃーないっすね。なら力尽くで自分ッチの物にさせてもらうっすよ!」
刹那、右腕を突き出す。
同時にシャープハットの腕から不可視の矢が発射される。
彼はスズをナンパしつつも、大袈裟な動作の中に紛れて発射準備を整えていたのだ。
不可視の矢を発射するシャープハット愛用の秘宝級の武具だ。
矢の威力は成人人種の頭を1発で吹き飛ばすほどの威力がある。
そんな1発をスズは視線も向けず殴り落とす。
返答代わりにロックの銃口を向けて――発砲!
発射音と共に魔力で作り出された銃弾がシャープハットへと飛翔する。
「うおっとっす!」
彼も逃げず、正面から再装填した不可視の矢で撃ち落とした。
ガンナー、射撃手の戦いは互いに発砲することで始まった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
スズvsシャープハット戦に突入!
話は変わりますが……毎日2話更新は、明鏡自身の想像以上に消耗が激しく、リアルでも世の中的にも苦しいことが続いているので、正直若干心が疲れておりました。しかし、皆様が楽しんで下さり、本当に多くの方が読んで下さっているのをひしひしと感じ、やる気というか、エネルギーをもらい『まだまだ頑張って書こう!』という気力が湧いてきました。
よく『応援してくれる皆様のお陰です』というコメントがありますが、明鏡自身本当に『皆様の応援のお陰で執筆の力が湧いてきます!』の状態です。
正直、改めて『自分が如何に読者様に支えられているのか』を認識した次第です。
なのでこれからも出来る限り頑張って毎日更新を続けたいと思います!
その際、シナリオ、プロット作製でどうしてもそちらに時間・労力を取られるため、感想返答などが遅れることがあるかとますが、ご容赦頂ければ幸いです(感想を下さった皆様、本当にありがとうございます!)。
どうか全力で頑張って書いていきたいと思いますので、『無限ガチャ』を今後とも何卒宜しくお願い致します。
ちなみに今日もまた2話をアップしますのでよろしくお願いします!
29話を12時に、30話を17時にアップする予定です!(本話は29話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




