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27話 1階での戦い2

今日は27話を昼12時、28話を17時にアップする予定です(本話は27話)。

 レベル1800を超える『白の騎士団』団員であるニアとキアの殺意を正面から受けているにも関わらず、メラは心底愉快そうに笑う。


「ケケケケケ! おー剣呑剣呑。口だけじゃなくて、ちゃんと楽しませてくれよな、チビのエルフしゅ――」


 メラが言い切るより先に、2つの突風――両手にサーベルを持ったニアとキアが地を駆ける!


「おっと!」

「ふっ!」


 メラ、アイスヒートが左右に散り、ニアキア兄弟の一撃を避けた。

 ニアキア兄弟は止まらず、実体を持った風のように高速移動を繰り返す。

『巨塔』内部にある太い柱も足場にして3次元的に襲いかかってくるのだ。


「ケケケケケケ! アイスヒート、どうやらネズミじゃなくて、小リスだったようだな」

「余裕の態度を崩さないようだけど」

「自分達の不運を呪うんだね!」

「不運?」


 ニア、キアの言葉にアイスヒートが小首を傾げる。

 2人は高速移動を繰り返しながら得意気に語った。


「どんなつもりでこんな馬鹿でかい『巨塔』を建てたかは知らないけど」

「ボク達に柱――多数の足場、地の利を与える結果になるなんて不運としか言えないよ!」

「ケケケケケケ! なるほど……器用に飛び回る場所を与えたことを『不運』って言っているのか。この程度が『不運』とか本気で言っているのか?」

「すぐにボク達の言葉の意味を理解するさ――ウィンドカッター!」

「ウィンドカッター!」


 ニアとキアが高速移動しながら、戦闘級(コンバット・クラス)の風攻撃魔術を詠唱破棄。

 真空の刃がメラとアイスヒートに襲いかかる。


「まぁエルフ種ならこれぐらいは出来るでしょうね」

「ケケケケケケ! おいおいこれが『不運』かよ。がっかりだな」


 アイスヒート、メラは2人の攻撃魔術をあっさりと回避する。

 しかしニアとキアに慌てる様子はない。

 2人は1度ならず、2度、3度、4度――高速移動しながら『ウィンドカッター』を詠唱破棄して攻撃し続ける。


「「ウィンドカッター! ウィンドカッター! ウィンドカッター! ウィンドカッター!」」

「ケケケケケケ! おっとこれは!」


 メラが帽子を片手で押さえつつ、地面を除いた全方位から降り注ぐ『ウィンドカッター』を回避し続ける。

 アイスヒートも同様に回避に専念しつつ、注意を飛ばす。


「メラ! この動きを続けながら、攻撃魔術を唱え続けることは出来ないはず! 相手が疲労するまで回避に専念しなさい!」

「残念でした! ボク達はこれでも『白の騎士団』団員だよ?」

「この程度の動きと攻撃ぐらいなら半日ぶっ続けで出来るんだよね。そして!」


『ビュ!』という風切り音。

 ウィンドカッターより発射速度が速い投げナイフが、メラの左太股を射抜く。

 動きが止まるのを見越していたキアが、既に攻撃態勢に入っていた。

 メラとすれ違いざま彼女の左足首をサーベルで刎ねる。


 合図も出さず、阿吽の呼吸で攻撃をしかける。

 まさに双子らしい連携だ。


 メラの足首を刎ねたキアがすぐさま、その場を離脱。

 再び捕捉されないようニアとキアは高速移動を繰り返す。


「きゃははははは! まずは左足を奪えたね、キア!」

「次はのっぽのお姉さん、赤青髪のお姉さん、どちらの四肢を斬り取ってあげようか、ニア!」


 ニアとキアは心底楽しげに笑い声をあげる。

 自分達を見下した人種(ヒューマン)をいたぶり、例えどれだけ許しを請おうとも宣言通り四肢を切り刎ねるという強い意思がその声には宿っていた。

 だが熟練の冒険者でも、心底怯え、覆せないであろう状況にもかかわらず、メラとアイスヒートは余裕の態度を崩さない。


 メラは切り飛ばされた自身の左足首を事も無げに拾う。

 彼女は手のひらで自身の足首を弄びながら、アイスヒートに問う。


「アイスヒート、どう思う? 大道芸はもうおしまいかね?」

「大道芸って……まぁ実力はだいたい分かったわ。まさかここまで弱いとは……。アイスヒート達の力が地上に通用するかどうか実験するようにってエリー様は仰っていたけど、本当に必要だったのかしら」


 生真面目なアイスヒートですら、実験に疑問を抱きごついガントレットを着けたまま片手で顔を覆う。

 それほど自分達と現在戦闘中のニアとキアの実力格差を嘆いているのだ。

 この反応にさすがのニアとキアも足を止める。


 挑発やはったりではなく、彼女達の声音から本心で語っていると伝わってくる。

 彼女達に拭えない不安感を抱き思わず問いかけてしまう。


「お、オマエ達、本気で言っているのか? はったりは通用しないぞ!」

「て、手も足も出ないくせに調子に乗って! ボク達に触れることも出来ない癖に! オマエ達は文字通り手も足も出ず、刻まれるだけなんだよ!」

「ケケケケケケケ! ぼんくらが。どうやら勘違いしているようだが、オマエ達のナイフは刺さっていないし、足首も別に切れていないぞ? 床にも、剣にも血の一滴ついていないことに気付かなかったのか?」

「「!?」」


 メラの指摘に慌てて彼女の左足首を切ったキアが自身のサーベルを確認する。

 指摘通り、彼のサーベルには血の一滴も付いていなかった。

 さらにメラは『あーん』と大口を開けて手にした自身の左足首を食べ始める。


 ぐぎゃぐちゃ、ゴリ、バキ、クギャ、ごくん――と、音を立てて飲み込む。

 ショッキングな光景はこれだけでは終わらない。

 咀嚼し終えると、メラの足首はすぐさま生えてきたのだ。


 本物であることを示すように2、3度足を振ってみせる。


 さらに彼女は自身の首を両手で掴むと、力任せに引きちぎってみせた。

 自らの首を千切るという行為――これには流石にニア、キアも絶句する。


 千切った首を両手で弄びながら、メラは生首状態で語り出す。


「そういえば挨拶が遅れたな――アタシは『UR、キメラ メラ レベル7777』。名前の通り体は多数の生物によって構築されている。体の部位、細胞ひとつひとつが独立した生物になっているんだ。だから、切られたように見せた左足を取り込んでまた生やすことも容易いし、こんな芸当も出来るのさ」


 左足に刺さったように見せたナイフも、いつのまにか体内にいる強力消化能力を持つモンスターによって取り込み消化、吸収してしまう。

 カチカチとニア、キアの歯が鳴る。

 彼らは目の前の現実を認めたくなくて叫び出す。


「ば、馬鹿な! 馬鹿なッッ!! レベル7777なんて団長の倍以上じゃないかッ! そ、そんな狂ったレベルありえないよ!」

「そうだ! そうだ! ニアの言う通りだッ! そ、その頭を取るのもぼ、ボク達を脅すための手品かなんかなんだろ! 騙されないぞッ!」

「ケケケケケ! 手品ね! 種も仕掛けもありませんってか!」


 メラが心底可笑しそうに生首姿で笑う。

 その姿にニアとキアは怖気を震わせながらも、手にしたサーベルを突きつける。


「だいたいもし本当にレベル7777の化け物なら、どうしてボク達の攻撃をあんな必死に回避していたんだ! 可笑しいだろ!」

「そうだ! そうだ! キアの言う通りだ! あんな必死に回避した姿こそはったりの証拠じゃないか!」

「あれは貴方達の実力を確かめ、手の内を知るための演技だが? むしろ、メラの演技が適当すぎて途中でばれないかハラハラしたぞ。メラ、頼むからもうちょっとそれらしく演技をしてくれ!」

「ケケケケケ! いいじゃないかアイスヒート、結局目的は達成できたわけだし」


 アイスヒートはニアとキアの実力を確かめるため、高速移動にもそれっぽく驚き、『ウィンドカッター』も必死の演技をしつつ回避していた。

 そうした演技よりも、全て適当にやっていたメラの姿にハラハラしてしまったようだが。

 思い出し、注意を飛ばすがメラは『ケケケケケ』と笑い流してしまう。


 2人のじゃれ合いに腹を立てつつ、今までの言動がはったりだと証明するためニア、キアは再び攻撃を開始する。


「はったりじゃないのなら、攻撃を受けてみろよ! ウィンドカッター!」

「口ではいくら言っても、受ける勇気があるか! ウィンドカッター!」


 双子らしいほぼ同時の詠唱破棄、戦闘級(コンバット・クラス)攻撃魔術がアイスヒートとメラに直撃する――が、回避していた姿が嘘のように2人は身動き一つしない。ウィンドカッターは確かに当たったのに、まるで効いていない。そよ風を受けただけかのように、傷一つついていない。

 むしろ気にせず、じゃれ合っている。


 その姿に今度こそ、ニアとキアが絶句してしまった。

 2人の絶句する姿に、アイスヒートが気付き、残酷な事実を告げる。


「挨拶が遅れたが『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』だ。アイスヒートを含めて、メラにもそんな低級攻撃魔術など効かないぞ?」

「ケケケケケ! だな。魔力防御値が高すぎて、防ぐマネすら必要ないレベルだな」

「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! ウィンドカッター! ウィンドカッター! ウィンドカッター!」

「効けよ! 効いてくれよ! ウィンドカッター! アイスソード! サンダーアロー!」


 ニアが狂ったように『ウィンドカッター!』を連発し、キアは詠唱破棄できる戦闘級(コンバット・クラス)攻撃魔術を狂ったように連発した。


 しかし、アイスヒートとメラは避ける素振りも見せない。

 戦闘級(コンバット・クラス)でも初級レベルの攻撃魔術など文字通り、そよ風以下の攻撃でしかない。

 なんの痛痒も受けないのだ。


「な、なら直接切り刻んでやる!」

「串刺しにしてやる!」


 ニアキアは攻撃魔術を諦め、大地を蹴る!

 ニアが手にしたサーベルで斬りつけ、キアはナイフを抜くと全力で投擲するが――サーベルはメラの服一枚切れず、ナイフはアイスヒートの皮膚一枚傷つけることが出来ず地面に落ちる。


「ケケケケケケ! 無駄無駄! ただの剣でアタシ達に傷を付けることなんて不可能だぜ。巨大な岩を子供が紙で作った剣で切り裂く方がまだマシってレベルだぞ?」

「むしろ、この程度の武具しかないとは……。エリー様の頭脳を疑うつもりはないが、弱すぎてこんな実験に本当に意味があったのか疑わしくなるわね」


 メラは笑い、アイスヒートが不満げに溜息を漏らす。


 自分達の全力攻撃が一切通用しないことを理解したニアとキアは、


「「あぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁっぁぁぁぁぁッ!!」」


 悲鳴を上げ全力で逃走を選択する。

 その逃げる背中を2人はのんびりと見守る。


「ケケケケケ! 出口目指して逃げちまったな。もっとも出口は既に閉じて外になんか出られないけど!」

「……もしかしたらこれは彼らの罠? わざと打つ手がなく逃走している振りをして、アイスヒート達の油断を誘っている?」

「んなわけないだろ。真面目に考えすぎだ」


 メラは思わずツッコミを入れてしまう。

 それでもアイスヒートは真面目な表情を崩さない。


「可能性はゼロではないでしょ? 油断はせず、全力で相手をするわよ」


 アイスヒートは真剣な顔つきで、右手のガントレットに力を込める。

 真面目な友人にこれ以上何を言っても無駄だと理解しているメラは、肩をすくめると彼女から距離を取った。

 両手を隠すほど長い裾口から、対熱防御特化の真っ赤な鱗が生えたドラゴンの腕が出現し、メラの体を包み込む。

 ニアキアの攻撃など一切気にしなかったメラが、防御態勢に入ったのだ。


 それを見届けた後、アイスヒートが高らかに叫ぶ。


「我が右手に宿れ! イフリート!」


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


バトル回は書いていて楽しいですね!

気付くと分量が増える増える(笑)

まぁバトル回だけではなく、楽しい回はついつい書きすぎてしまうんですけどね。

今日もまた2話をアップしますのでよろしくお願いします!

27話を12時に、28話を17時にアップする予定です!(本話は27話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言]  メラちゃん、残忍な子供を躾けるには最適な人選だったんですね…
[良い点] 敵に油断させておいて絶望させる。最高ですね。
[一言] レベルの差が戦力の決定的な差なのですか。
感想一覧
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