26話 1階での戦い1
今日は25話を昼12時、26話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は26話)。
「シャープハットの奴、トラップにも気付かないとか!」
「女の趣味が悪いだけじゃなく、腕まで落ちるなんて! もう最悪!」
ニア、キア兄弟が薄暗い『謎の巨塔』内部で互いに愚痴り合う。
『謎の巨塔』内部に侵入し、斥候役のシャープハットが罠を確認しながら先行し、『白の騎士団』団員達が後に続いた。
壁沿いを移動し、内部の様子を窺いながら目撃があった『レッドドラゴン』、他妨害してくるかもしれないモンスターなどを退治する予定だった。
しかしシャープハットが転移トラップを見落とし、全員がバラバラにどこかへ転移させられてしまったのだ。
罠を発見する役目を持つシャープハットの落ち度のため、ニアキア兄弟は思わず愚痴ってしまった。
本来ならば、レベル2000を超えるシャープハットなら大抵の罠を見過ごさない。
だが今回の転移トラップは、『禁忌の魔女 エリー』製である。
全ての魔術に精通し、レベル9999を超えた彼女が設置したトラップのため、発見するのはエルフ女王国に居る者の誰であっても不可能だ。
シャープハットに落ち度はなく、ただエリーの技量が優れていたに過ぎない。
とはいえそんな事情を知らないニアキア兄弟からすれば、文句の一つも言いたくなるというものだ。
その文句も、『白の騎士団』団長ハーディーの特殊技能化した『サイレント』から外れたため、普通に周囲に漏れる。
2人ともそれを理解しているため、実際は小声でやりとりしつつ、柱の陰に隠れ素早く周囲を索敵。
光源は上部の小さな四角穴から日光が差し込んでいる。とてもじゃないが全体を照らすほどの光量はない。
なにより樹齢1000年は超えている大木のような太い柱が規則的に並んでいるのだ。
例え光量があったとしても、物理的に全域を目視することは出来ない。
「柱の形状から、恐らくボク達はまだ『巨塔』1階に居るようだね、ニア」
「この広さだし、団長達もボク達と同じように1階のどこかに飛ばされている可能性もあるね、キア」
「だね。ドラゴン退治は一時中断。まず団長達との合流を考えよう、ニア」
「賛成だよ、キア。転移トラップに注意して進もう」
ニアキア兄弟は見た目こそ幼いが、多数の修羅場を潜っているし、ダンジョンにも潜っている。
慌てず冷静に、戦功に焦って自分達だけドラゴン退治を狙わず、まずは逸れた仲間達との合流を目指す。
最悪、ドラゴン退治は破棄して、『巨塔』外へ出ることすら視野に入れていた。
言動は幼いが彼らはエルフ女王国最強の『白の騎士団』団員なのだ。
問題があるとするなら――ただひたすら相手が悪かった。
「ケケケケケケ! あんたらがアタシ達の相手かい? 想像以上に弱そうだなー。アタシだけでよかったんじゃねーか?」
「おい、メラ! 規律を守れ! アイスヒートの獲物を横取りするようなマネはするなよ!」
「「!?」」
背後を振り返ると、いつのまにか2人の人種女性が立っていた。
1人は『ケケケケ』と不気味に笑い、身長も約2mはある。ニアキア兄弟より圧倒的に背丈は大きく、口端も耳まで届きそうだった。赤い目とギザギザの歯が恐怖心を煽るが、下手なエルフ種より整った顔立ちで、好みは分かれるがスタイルが良いとんでもない美人だった。
また彼女が着ている衣服も少々変わっている。
足首まで隠すロングスカートは一般的だが、両手は隠れるほど袖が伸び、大きく袖口も広がっているのだ。
メラと呼ばれた女性の隣りに立つ女性も人種にも関わらず美しい顔立ちをしている。
軽鎧に身を包み、手には金属の塊のようなガントレットを嵌めていた。
髪型はツインテールで、右側は炎色の赤、左側が氷色の青をしている。
隣にいる長身の女性に注意しているせいで鋭い目つきになっているが、美しい顔立ちは崩れずむしろ彼女の美点である『凛』とした雰囲気を強めているとさえ言えた。
彼女も身長はニアキアより高い。
約170cmはあるだろうか。
外見は美人だが、人種だ。
にもかかわらず自分達の気配察知に引っかからず、声をかけられるまで気が付かなかった事実に、ニアキア兄弟は警戒レベルを最大限まで上げる。
2人は腰に下げているサーベルに両手をかけた状態を維持。
ニアとキアの警戒心に気付いたメラが不気味に笑う。
「ケケケケ! そう怯えるなよエルフ種。別に今すぐ殺しはしないからさ。それにエリー様のお陰で力加減を間違って即死とかもないしな。アタシも正確には知らないがエリー様がダンジョンコアを研究して得た技術と知識、魔力で術式を組み上げたとか。死にそうなダメージを肩代わりするらしいぞ? 腕や足は千切れても死にはしないから安心しろよー」
「……えりー様? ダンジョンコア?」
「……『巨塔』に居るレッドドラゴンの名前? てかお姉さん達は何者なの?」
ニアキアが順番に答える。
メラが袖で隠した手をフリフリと揺らし否定した。
「ケケケケ! あれはエリー様が召喚したエサのようなモノだよ。もう気にしなくていいさ。目的は既に果たしているんだから」
彼女の発言でおぼろげながら、ニアキアは状況を理解する。
レッドドラゴンは自分達、『白の騎士団』を誘き寄せるためのエサ。本命は自分達だと。『今すぐは殺さない』という発言から、殺害ではなく、捕虜として捕らえたいのが『エリー様』と呼ばれるモノの目的のようだ。
一応、ミーティングで『レッドドラゴンを使役する存在』というのも検討していたため、驚きはしたが、冷静さを失うほどではない。
長身女性の隣に立つ、アイスヒートという美女がさらに眦を釣り上げる。
「敵に情報を与えるな馬鹿者が! 万が一逃げられたら、どうするつもりだ!」
「ケケケケ! 冗談だろ、アイスヒート。アタシ達がこんなエルフ種のガキに負けるとでも思っているのか?」
「負けずとも、アイスヒート達の知らない未知の技術で逃げられるかもしれないだろうが! 少しは頭を動かせ!」
「ケケケケケケケ! だったら、その未知の技術を使う前に潰せばいいだけだろうが。本当にアイスヒートは頭が固いなぁ~」
「『窮鼠猫を噛む』という言葉があるだろう。追いつめられたネズミですら猫に一矢報いるのだぞ。いくら格下のエルフ種が相手でも、全力で応えねば足を掬われてからでは遅いぞ」
人種女性達は完全に自分達を格下に見下していた。
ニアとキアは今まで人種を見下すことはあっても、人種に見下されることはなかった。
購入した人種を的当ての道具にするニアキアにとって、目の前の2人の態度は想像以上にプライドを傷つける。
何より2人は『ますたー』の血を引き『さぶますたー』に目覚め、レベル1800前後まで鍛えた自負がある。
ここまで見下され、馬鹿にされて逃げる選択は2人に無い。
腰からサーベルを抜く。
ニアとキアの防具は軽鎧で、両手にサーベルを持つ。
一目でスピード重視タイプだと分かる。
「ちょっとエルフ種女より顔が良いからって、ボク達が手加減するとでも思っているのかな、ニア」
「彼女達の言葉が本当ならすぐには死なないらしいけど、手足は切り落とせるらしい。だったら、逆にこいつの手足を切り落とし、連れ帰ろう、キア」
「それはいい考えだね、ニア。情報を引き出すためにも殺すわけにはいかないし」
「情報を引き出したら、ボク達の玩具にしようね、キア。『殺してください』と哀願しても殺してあげないほどたっぷり可愛がってあげるよ!」
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日はいよいよアイスヒート&メラvsニアキア兄弟のバトルになります!
お楽しみに!
さらに明日も張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は25話を12時に、26話を17時にアップしております!(本話は26話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




