25話 巨塔への突入
今日は25話を昼12時、26話を17時にアップする予定です(本話は25話)。
『白の騎士団』は朝日も昇らぬ早朝から、エルフ女王国を出発。
馬車で移動して、近郊にある原生森林近くまで移動するが、隠密行動中のため他の冒険者達に姿を見られるわけにはいかず、途中から街道を外れる。
冒険者達が屯する原生森林から離れた位置から、森へと足を踏み入れた。
そして、サーシャの先導で目的地である『謎の巨塔』へと到着したのだった。
すっかり陽が昇り、出入口から2匹の『尻尾が蛇で巨大な4足獣』が姿を現し、森へと消える。
情報によれば『尻尾が蛇で巨大な4足獣』は、5、6匹ほどだとか。
それを証明するかのように『尻尾が蛇で巨大な4足獣』3匹が『謎の巨塔』から姿を現し、思い思いに寝転がり日光浴を始める。
サーシャを含めた『白の騎士団』は息を潜めながら、様子を窺い続けた。
(報告書通りレベル1000前後ってところっすね。団長、全部は無理っすけど、今なら自分ッチの狙撃で先制出来ますっすよ?)
(……本命はドラゴンだ。無駄な戦闘は避けておくべきだ)
団長ハーディーは一瞬考え込んだが、却下した。
シャープハットはレベル2000前後。彼の実力なら、目の前の緩みきった『尻尾が蛇で巨大な4足獣』へ奇襲をしかければ致命傷か大きな傷をあたえることが出来るだろう。
自分達のレベル的に、弱った『尻尾が蛇で巨大な4足獣』など相手にならない。
しかし、『巨塔』内部に居るドラゴンがどれほどのレベル、強さなのか分からない以上、無駄な消耗を避けるのが賢明だ。
なにより、
(……そろそろ時間だ。始まるぞ)
ハーディーの指摘に合わせるが如く、森林上空に火の玉が上がる。
火の玉を皮切りに遠くから複数の人々の声が、息を潜めるサーシャ&『白の騎士団』が居る場所まで微かに響いてくる。
サーシャの他に『謎の巨塔』情報を持ち帰った人種冒険者を中心とした陽動部隊が、時間通り騒ぎ始めたのだ。
『グルルルルル……』
日光浴をしていた『尻尾が蛇で巨大な4足獣』達が、自分達の縄張りを荒らす不埒者達の存在に気付き不機嫌そうな声音を漏らす。
『謎の巨塔』出入口からもう1匹姿を現し、合計4匹となる。
彼ら4匹はそのまま声がする方角へ向けて移動を開始する。縄張りを荒らす者達を排除するためだ。
(巨塔から出てきた『尻尾が蛇で巨大な4足獣』は全部で6匹。報告書通りならあれで全部のはずだ)
(は、はい。あたしが確認した限りでは……)
団長であるハーディーの問いかけにサーシャが答える。
『巨塔』出入口を発見してから朝から夜まで数日見張って数をカウントしていたのだ。
さらに奥に居る可能性はあるが、彼女が知る限りではこれで全部である。
ハーディーが頷くと、指示を出す。
(ではこれより『謎の巨塔』内部に突入し、レッドドラゴンを狩る。フォーメーションはいつも通りだ。サーシャ殿は自分で身を守って欲しい)
『白の騎士団』の標準的なフォーメーションは、団長ハーディーが指揮、副団長ミカエルが盾役で、シャープハットが射撃手を務め、ニア&キア兄弟が遊撃手として動き回り、攪乱する。
レベル1000~2000程度のレッドドラゴンならばこれで確殺できる自信が彼らにはあった。
(? 団長、サーシャちゃんも『巨塔』に連れて行くつもりっすか?)
(何があるか分からないこの場に残すのは不安があります。ワタシ達と一緒の方が安全性は高いですから。それに彼女は伯爵家から幻想級の武器を預かっていますから、足を引っ張ることは無いと思いますよ)
団長ハーディーではなく、副団長ミカエルが答える。
『自分達の側が一番安全』。
これを否定するのは『白の騎士団』の団員であるシャープハットには躊躇われた。
実際はサーシャがより確実に実績を積むための後押しだ。
サーシャとしても自身の手で『ライトを始末する』ためには『巨塔』内部に入る必要がある。まさに渡りに船だ。同行を拒否する理由はない。
シャープハットは気分悪そうに眉根を顰めたが、それ以上は何も言わなかった。
団長ハーディーが話を続ける。
(巨塔内部にまだドラゴン以外のモンスターが居る可能性が高い。各自、心して行動してくれ。では行くぞ! サイレント!)
ハーディーが魔術を唱える。
戦闘級の『サイレント』だ。
外部に自分達の音を漏らさないようにするための魔術だが、ハーディーはレベル3000を超える。
その結果、戦闘級の『サイレント』が変質し、外部だけではなく、自分達の心音すら聞こえないほどの静寂に包まれた。
サーシャが背筋を震わせ胸中で漏らす。
(これが『白の騎士団』団長、『静かなるハーディー』のサイレント……)
自身の心音すら知覚できない完全な無音。
彼を中心とした周囲も強制的にその影響下に入る。
さらに言えば音がしないだけではない。噂では常人がこの状態で居続けると早い者で3分、遅くとも10分ほどで魔術に侵食されて精神に異常をきたすとか。
一方で術者のハーディーは特に影響がないというのだから反則である。
精神に異常をきたした状態で、命のやりとり、ギリギリの戦いなどできる筈がない。
ハーディーはこの力で何人もの強敵やモンスター達を屠ってきたのだ。
故に『静かなるハーディー』の2つ名が付いたのである。
彼のようにレベルが上がったせいで、魔術、能力、身体など一部が強化される現象が確認されている。
このような強化された現象を、特殊技能と呼ぶ。
――とはいえ『静かなるハーディー』はただ相手から音を奪い精神を狂わせるだけではない。他にも効果があるのだが、それは部外秘として扱われているため流石にサーシャでも知らなかった。
(行くぞ!)
音が出せないため、ハンドサインでハーディーが指示を出す。
団員達は慣れたように頷き、ミカエルはサーシャを抱きしめ、準備完了の合図を送る。
『サイレント』の効果で何の音もしなくなっているため、木々の揺れ、足音など気にせず『白の騎士団』は『謎の巨塔』出入口まで一気に駆ける。
森林境界まで約15m。
まるで巨大な倉庫の搬入口のように開いた出入口まで均された地面は約50mある。
合計、約65mを『白の騎士団』は誰も遅れず、無音で数秒もかからず走破した。
「…………」
出入口に到達したがすぐには入らず、中を窺う。
中は暗くて様子が分からない。
気配も近辺には無かった。
ハーディーがハンドサインで全員中へ入ることを指示する。
そのまま出入口壁沿いを伝い、巨大な柱の陰に隠れながら奥まで移動することを命じた。
団員達が首肯したのを確認した後、本来の斥候役であるシャープハットが罠に気を付けつつ、最初の一歩を踏み出す。
彼の後に続いて、『白の騎士団』は魔王の口の中のように広がる『巨塔』内部の闇へ足を踏み入れて行く――が、すぐに事態は急変する。
(転移トラップ!?)
誰もが気付くが遅い。
レベル2000を超えるシャープハットでさえ気付くことができない罠、転移トラップ(エリー特製)が起動。
サーシャ含めた『白の騎士団』が、まるで『奈落』で転移したライトの如く、バラバラに分断されてしまったのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
0話のライトの如く転移トラップで移動、分断。
まさに意趣返しですね!
また今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
25話を12時に、26話を17時にアップする予定です!(本話は25話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




