24話 それぞれの突入準備
今日は23話を昼12時、24話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は24話)。
「サーシャ殿、貴女の同行が無事に決定しましたよ」
「! 本当ですか! 嬉しいです!」
会議後、『白の騎士団』副団長ミカエルは、特別宿舎を出てエルフ女王国首都にある最高級レストラン個室でサーシャと落ち合う。
料理の腕もあるが、個室で機密性の高さがこのレストランの売りの一つだ。
互いに向き合い座りながら、食事を楽しみつつ会話を弾ませる。
サーシャは胸中で力強くガッツポーズをする。
(これでライトが居る『巨塔』内部へ入ることが出来る! 今度こそ確実にあたしの手で殺さないと!)
「宰相殿もワタシ達の頑張りを心から応援してくださっておりますから。その証拠に宰相殿家に代々伝わる 幻想級の武具を貸し与えてくださるとか。伯爵家もですよね?」
「は、はい! 義父からも伯爵家に代々伝わる幻想級の武器を貸して頂くことになっています。これで自身とミカエル様の身を守るようにと」
「これは心強いですね」
もちろん本当に善意から宰相、伯爵家が幻想級の武具を貸し与える訳ではない。
当然、双方の家の利益を考えてのことだ。
サーシャが人種冒険者に遅れたとはいえ、2番目に『謎の巨塔』に関する重要情報を得て、報告してきた。
これは大きなプラス材料だ。
さらに婚約者2人で国難に参戦し、活躍すればサーシャとミカエルの発言権は否応なく高まる。
2人の名声が高まれば『母権制を破壊し、男性有利な社会構造に変えようとする』宰相、伯爵家派閥は彼女達の娘を擁立し、次期女王候補筆頭に押し上げることが出来るのだ。
上手くすれば次期女王となり、ワンクッション置いて母権制破壊が可能になる。
そのため絶対に2人には活躍して欲しいため、宰相と伯爵家は秘蔵の幻想級の武具すら持ち出し貸し出したのだ。
どれだけ両家が意気込んでいるか分かるだろう。
サーシャからすればライトさえ殺し、自身の幸せな未来が約束されれば良い。
ミカエルも目の上のたんこぶである『静かなるハーディー』に勝利し発言権を拡大することが出来ればよかった。
故に4つの思惑が上手い具合に重なり合う。
(『白の騎士団』投入、そして宰相と伯爵家から貸し与えられた幻想級の武具。一国を落とせる戦力を投入するのだから失敗はありえないでしょう……しかし保険は常に用意しておくべきですね)
慎重派なミカエルは常に最悪を想定し、自身の懐を無意識に撫でる。
彼は傍流も傍流ではあるが、王族の血を引いているのは確かだ。宰相や伯爵家のように代々伝わる家宝が無いわけではない。
その家宝、保険を無意識に撫でてしまったのだ。
不自然な動きについサーシャが小首を傾げる。
彼女が問いかけるより早く、ミカエルは意識的に笑みを作りつつ、ワイングラスを手に取った。
「サーシャ殿、改めてワタシ達の輝く未来に乾杯をしませんか?」
「いいですね。では……」
上手く誤魔化されてサーシャはワイングラスを手に取る。
既にグラスには血のように赤いワインが注がれていた。
2人は表面上は仲睦まじい婚約者同士の表情でワイングラスを鳴らす。
「ワタシ達の輝く未来に――」
「乾杯!」
『チン』っと澄んだ硬質なガラス音が鳴り響く。
2人は音に耳を傾けつつ、薔薇色の未来を夢見てワインで唇を湿らせるのだった。
☆ ☆ ☆
「――エルフ女王国首都の冒険者ギルドから名指しで依頼要請が来たよ」
『巨塔』4階の王座の間。
玉座に腰をおろしながら、僕達の最高戦力を前に謳うように告げる。
「エルフ女王国はエリーの予想通りの作戦を採用したよ。『巨塔』の情報をもたらした人種の新鋭パーティ『黒の道化師』達――つまり僕達を陽動にして、本命である『白の騎士団』で巨塔に奇襲をしかけるようだ」
「予想が当たるのは嬉しいですが、あまりにも『予想通り』過ぎるのもつまらないものですわね。他の手で来た時の対応策も考えていたのに、あまりにも予想通り過ぎて無駄になってしまいましたわ」
僕の前に立つエリーが『くすくす』と冷たい笑みを零す。
僕も彼女同様に冷たい笑みを浮かべつつ、目の前に揃う『奈落』の現時点で外に出せる最高戦力を前に告げる。
「ようやくサーシャに対する復讐の舞台が整ったわけだ……。彼女はこの舞台でいったいどんな姿を見せてくれるだろうね」
僕はその姿を想像し、さらに深く笑みを作ってしまう。
その笑みのまま、皆へ順番に声をかけた。
「エリー、作戦全体の指揮と、『巨塔』内部に引き込んだ彼女達を絶対に逃がさないよう頼むよ」
「ライト神様のご期待を裏切らぬことを誓いますわ」とエリーが微笑む。
「アオユキ、作戦時サーシャと『白の騎士団』達以外の邪魔が入らないようにモンスター達を上手く動かしてくれ。あと陽動役の振りをするゴールド、ネムム達にも冒険者としての評判、知名度を上げるため演出を頼むよ。当日は僕の偽者がチームに入るから加減に気を付けてね」
「――主のお言葉のままに」とアオユキがパーカーで視線を切りながら告げる。
「ナズナ。ナズナの相手の『白の騎士団』団長は、エルフ女王国最強のエルフ種らしい。『奈落』最強のナズナが相手にするには小物だろうけど、自分の力が地上ではどの程度なのか物差し代わりに試してみてくれ」
「分かった! ご主人様のためにも頑張るぜ!」とナズナが元気よく答えた。
「スズの相手は弓を使うエルフ種の中では最高峰の遠距離タイプらしい。どれほどの技術力、実力があるのか同じ遠距離職同士、実際に相対して確かめるといいよ。そして存分に自身の実力を測る試金石にするといい。ただ例に漏れず人種を使い潰す典型的なエルフ種だとか。気分が悪い。情報を引き出すため殺しはしないが存分に叩き潰せ」
「…………」
『らいと様ノ願イ、最高ヲモッテオ応エシマス――トノコトデス』
「アイスヒートとメラの相手は双子エルフ種だ。この2人も人種を拷問にかけて殺すのが趣味らしい。不愉快極まりない――今度は自分達を同じ目に遭わせて、心をへし折ってから潰せ。出来るね?」
「アイスヒート、必ずやご主人様のご期待に応えます」
「ケケケケケ! アタシの得意分野だ。期待してくれ、ご主人さま」
皆に声をかけ終える。
僕は最後の獲物について触れた。
「サーシャと副団長は僕が相手をする。皆、手出しは無用だよ?」
各自からの返事を聞くと、僕は嬉しそうに頷き、満面の笑顔を浮かべる。
「さぁ楽しい、楽しい、復讐劇を始めようじゃないか……!」
僕が楽しげに笑う姿に、エリー達も心底楽し気な、愛おし気な表情を作る。
サーシャ達を出迎える準備は完全に調っていた。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は23話を12時に、24話を17時にアップしております!(本話は24話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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