21話 サーシャ、偵察へ
今日は21話を昼12時、22話を17時にアップする予定です(本話は21話)。
「あの女、むかつくッ。ちょっと顔が良いからって調子にのって。あのヒューマンのクソガキもライトに似てて気持ち悪いったらありゃしない。さっさとヒューマンなんて皆、死んじゃえばいいのに……ッ」
ブツブツと文句を零しながらサーシャが森へと潜る。
文句を呟きつつも『種族の集い』時代により磨いた斥候技術、レベル500の能力でスルスルと森を進む。
彼女からやや距離を取って金髪と銀髪のエルフ種男性冒険者2人が続く。
サーシャ自身、家を追い出された後、冒険者駆け出し時代にこの森を活動の場としてきた。
久しぶりに足を踏み入れたが、浅い部分は問題無し。技術もレベルも当時よりかなり上がっているため、森の深くへどんどん進んでいく。
「!?」
立ち止まり、やや距離を取って続くエルフ種冒険者に手で合図をする。
『その場にとどまり黙って動くな』と。
サーシャの視線の先、1匹のモンスターが幹に体を擦りつけていた。
体長が10mもありそうな巨大な4足獣で、彼女の胴体より太い蛇の尻尾がユラユラ揺れている。
蛇はシュルシュルと伸び、真っ赤な舌を暇そうにチロチロと出し入れしていた。
サーシャは知らない。
この魔物が『スネークヘルハウンド』で、レベル1000だということを。
遠目で見るだけで皮膚が粟立つ感覚を覚える。
(な、なんなのよ!? あのお伽噺に出てきそうな怪物は!? ッゥ! 確か『巨塔』に近づいたら『尻尾が蛇で巨大な4足獣』が出るって話だったけど、あれがそうなの!?)
彼女は気配、息を押し殺し『スネークヘルハウンド』の様子を窺いつつ、胸中で吐き捨てた。
(森深部のモンスターがレベル150~200前後なのに、あの怪物はどれだけレベルが高いのよ! レベル100や200じゃ絶対にきかないでしょうが! こんな怪物が跋扈する森の中を『巨塔』まで進まないといけないの? どんな罰よ! あたし、こんな罰を受けるほどの罪を犯したっていうの!?)
発見されたら即死の状況でストレスから胃がズキズキと痛み出す。
暫くすると、『スネークヘルハウンド』は森奥地へスルスルと歩き出した。
「……ぷっはぁぁッ」
気付けば止めていた息を吐き出す。
サーシャの緊張具合から、よほどのモンスターが出たのだと理解し金髪、銀髪エルフ種男性冒険者も揃って息、気配を止めていた。
(あ、あんな怪物が跋扈する森なんてこれ以上進みたくない! ……けど、『巨塔』に向かわなければあたしは破滅するし……)
「さ、サーシャさん、大丈夫ですか?」
彼女にソッと近付き声をかけるが、サーシャは考えに没頭しているのと、直ぐに返事ができないほど消耗していた。
「…………」
だが、逆に光明も見えた。
(とんでもない高レベルの怪物だけど、あたし達に全然気付かないんだから索敵能力は低いようね。それにあの幹の擦り跡。縄張りの主張か何かのようだけど、お陰で移動範囲、近くに居るかどうかの確認も容易いわ。あたしなら十分、あの怪物を避けて『巨塔』に近付くのは可能なはず……)
「サーシャさん?」
(最悪、鉢合わせしても囮には困らないし……)
心配そうに声をかけてくるエルフ種冒険者に冷たい視線を向けてしまう。
顔は好みだが自分の命、将来の幸せには替えられない。
「……ごめんなさい、大丈夫よ、先へ進みましょう」
怪物『スネークヘルハウンド』は怖いが、培ってきた技術なら問題なく『巨塔』へ近づけると確信したサーシャは、自身の将来と幸せのため探査続行を決意する。
だが実際、『スネークヘルハウンド』はサーシャの存在に気付いていた。むしろ現在進行形で、サーシャ達はアオユキがテイムしている隠密特化のモンスターに監視されている。
『スネークヘルハウンド』が気付かない振りをしたのも、無意味に幹へ体を擦りつけて縄張りアピールをしたのも、全てアオユキからの指示だ。
彼女はサーシャの心が折れて探査を諦めないギリギリを狙い、彼女にストレスを与えているだけである。
意図的にストレスをあたえるのはアオユキ自身の全て、魂、意識、体、血の一滴すら捧げている主を害そうとした女だからだ。
そのため嫌がらせとしてギリギリまでストレスをあたえているに過ぎない。
そうとも知らず、無駄に真剣な顔で再びサーシャが先頭を歩き斥候を務める。
――数日後。
「……あれが『巨塔』の出入口ね」
『巨塔』から約50mの範囲にかけて木々が抜かれて、地面が均されていた。
その森林境界から、15mほど離れた地点で消耗した表情のサーシャが顔を泥で汚し、体中に落ち葉、枝を貼り付け擬装した姿で観察し続ける。
護衛兼囮、生け贄役のエルフ種冒険者達は、『巨塔』近くまで一緒だと足手まといになるため、現在は大分距離を取って隠れ潜んでもらっていた。
観察を終えたら引き返し合流する予定だ。
ここまで来るのに非常に時間、精神、胃壁などを消費してしまった。
森を跋扈する高レベルの怪物。
その怪物『スネークヘルハウンド』が時折、予告無くすぐ目の前を横切ったりした。1mほど離れた距離を音を立てて歩かれた時、サーシャは悲鳴を上げそうになり慌てて口元を抑えたほどだ。
運悪く、幹に擦りつけた縄張り主張から外れた者が近くを通り過ぎたと彼女は考えたが――実際はわざとサーシャが居るのを理解してアオユキが嫌がらせをしたに過ぎない。
サーシャ本人は泳がされているだけとは知らず、必死に『巨塔』を目指し移動し続けていたのだ。
お陰で怪物『スネークヘルハウンド』の縄張りを縫うように進める安全だと思えるルートの地図、森に居るモンスターの種類、モンスターが集まる危険地帯などの地図を描きつつ、ようやく『巨塔』出入口が見える位置まで辿り着くことが出来た。
出入口を見張ってから数時間後、ようやく動きを捉える。
(……やっぱりあの怪物は巨塔に棲みついていたのね)
怪物『スネークヘルハウンド』が数体、『巨塔』出入口から姿を現す。そのまま森へと向かい歩き出した。
さらに衝撃的な出来事がサーシャの視界に入る。
(嘘でしょ!? ど、ドラゴン!? なんでドラゴンが『巨塔』から出てくるのよ!)
燦々と降り注ぐ太陽光を反射する赤い鱗を纏ったレッドドラゴンが、『巨塔』出入口から姿を現すと大きく伸びをする。
羽根を広げて、首、手を伸ばす。
その大きさは15m以上はあるだろう。
遠目からでも分かるほど高レベルだ。
ドラゴンは身震いすると、口を大きく開き欠伸をする。
どんなモノでも噛み砕きそうな刃のような歯が並んでいた。
ドラゴンは再び羽根を畳むと『巨塔』出入口から内部へと戻ってしまう。
サーシャはドラゴンの存在に冷や汗を流す。
(四足の獣もやばいけど、ドラゴンがこんな『巨塔』に住み着いているなんて!? 四足の獣と争わないの? もしかしてあの『巨塔』はダンジョンだから内部のモンスター達が争わないとか?)
ダンジョン内部のモンスターは無駄に争わず、食料も摂らず生き続けている。
一説によれば『魔力を得ているため食料を必要とせず、ダンジョンの意思を受け取りモンスター同士では争わないのでは?』と考えられていた。
(ここから首都までドラゴンの翼なら一っ飛び。あのドラゴンの気まぐれで街に来て暴れでもしたら、どれだけの被害が出るか……)
想像しただけで頭が痛くなる。
(あんなモンスターの巣穴のような場所にヒューマンのライトが居るっていうの? もしくはあたしを嵌めるための罠だったとか?)
副団長ミカエルとの婚約を妬んだ女性、勢力が仕組んだ罠――と一瞬考えたがすぐに否定した。
『巨塔』が姿を現したのは、紙を渡された後だ。
前後が逆である。
さすがに『巨塔』が出るのを予測して紙を貼るなど不可能だ。
(とにかく首都の近くにあからさまに高レベルっぽいドラゴンが棲んでいる時点で放置なんて出来ないわ。すぐに戻って報告しないと)
出来るならば『巨塔』内部も確認したいが、さすがにサーシャでも厳しい。
今は一刻も早く『巨塔にドラゴンが住み着いている』という情報を持ち帰るのが先決である。
ドラゴンがいつ気まぐれで飛び立ち首都に襲いかかるかも分からないのだから。
サーシャはソッと、影に紛れ、吹く風の音に自身の音を重ねてその場から離れる。
彼女の動きをジッと監視し続けるモンスターの存在に最後まで気付かずにだ。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
21話を12時に、22話を17時にアップする予定です!(本話は21話です)
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