20話 サーシャ、森へ
今日は19話を昼12時、20話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は20話)。
――少しだけ、時間が戻る。
婚約者である『白の騎士団』副団長の許可を得た後、早速サーシャは『巨塔』へ潜る準備を開始した。
『ますたー』候補、ライト殺害で得た報奨金で彼女が使う武器、防具を購入。
同時に冒険者ギルドを通して、腕に覚えがありレベルの高いエルフ種男性冒険者達、つまり護衛であり最悪の場合は囮とするための、足止め役を雇う。
「レベルは最低でも300以上。エルフ種男性で、顔も良くないと絶対に嫌だわ」
サーシャは醜いモノを嫌う。
故に命の危険があるとはいえ不細工な男性と一緒に行動し続けるなんて苦痛だし、自分以外の女が側にいるのも嫌だ。
資金は自分が出すのだから、最大限自身のわがままを詰め込んでも罰は当たらないだろう――という考えだ。
結果、サーシャの希望通り顔立ちが整ったエルフ種男性冒険者2名、レベル300前後をなんとか捕まえる。
報奨金が今回の準備で約四分の一溶けてしまったが……。
サーシャは親指の爪をガジガジと噛みながら、自身に言い聞かせる。
「出来ればミカエル様のようにレベルが高く、顔立ちが良いエルフが居ればよかったけど……ここら辺がやっぱり限界よね」
彼女の希望通りではあるが、上を知っているためどうしても不満が零れ出てしまう。
実際、エルフ種レベル300前後はそこそこの分類だ。
モンスターを倒せばレベルが上がるが、危険度は高くエルフ種冒険者の平均到達レベルは300~400前後だと考えられている。
理論上、エルフ種の最大レベル値は1000前後だが、ほぼ一生を捧げて危険なモンスター退治を繰り返してようやく辿り着くレベルである。
むしろ、『ますたー』の血を引き『さぶますたー』に目覚めたミカエル達のレベルが異常なのだ。
非『さぶますたー』であるサーシャが、『種族の集い』メンバーとしてエルフ種としては短期間でレベル300前後まで上げたのがどれほど凄いか。
また約3年で副団長ミカエルに相応するためレベル500まで上げるのがどれほど危険で、多大な苦労をしたか理解できるだろう。
「逆に考えましょう。あたしよりレベルが低い分、手綱を握れると。下手にあたしよりレベルが高かったら、逆に足止め役や囮に使われるかもしれないもの。それにあたしの体はもうミカエル様のモノ。下手にあたしよりレベルが高いせいで、無理矢理襲われても怖いもの。貞淑な婚約者としてミカエル様以外に体を許すわけにはいかないものね」
勝ち誇った笑みで長い金髪を弾く。
サーシャは国から『ますたー』確保要員として声がかかるほど実際に容姿が良い。
彼女も自身の見た目に自信を持っている。
『容姿の良さなら腹違いの姉妹にも負けない』というのが、虐められていた屋敷住まい時、サーシャのプライドを支えたひとつだ。
準備を終えると、原生森林へと馬車で向かう。
馬車には雇い入れた金髪と銀髪の冒険者2名も同席していた。
エルフ種だけあり容姿は整い雇い主であるサーシャにも紳士的な態度を取る。イケメン2人にとってサーシャは女性で雇い主ということもあり、お姫様のように自身を気遣ってくれる。
そのシチュエーションにサーシャは興奮を隠しきれなかった。
(ミカエル様の知的なのもいいけど、彼らのようなワイルドな冒険者タイプからちやほやされるのも最高ね! ライトの問題でストレスがたまっていたけど、これぐらいは役得よね)
胸中で金髪、銀髪冒険者に興奮しながらガタゴトと原生森林を目指す。
原生森林へ到着すると、2人から手を借り馬車を下りた。
「夕方まで待って戻ってこなかったら、先に屋敷へ帰ってちょうだい。そして翌日の朝にはまた迎えに来て」
「畏まりましたお嬢様」
伯爵家養女として御者に指示を出し終える。
金髪、銀髪冒険者を侍らせながら頭を冒険者脳に切り替えた。
2人と歩きながら、打ち合わせを始める。
「あたしが斥候として先行するから、付いてきて。一応、2人から距離を取りすぎないよう気を付けるけど、最悪はぐれた場合は一度森を出て再度合流しましょう」
「サーシャ様、すぐに『謎の巨塔』へ向かうのですか?」
「いいえ。最初は森の感触、変化を確かめるのに使うわ。昔、この森で活動していた時期があるから大まかな地理は理解しているし、レベルも以前に比べて大分上がったからそんなに時間がかからず勘を取り戻せると思うけど。魔物が出たら対処は任せるわ。斥候に集中したいから」
「お任せください、私共はそのために居るのですから」
金髪と銀髪の冒険者はC級で、もうすぐ『B級に昇格するかも』と噂されているだけあり、話し合いも非常にスムーズにおこなわれた。
サーシャ自身、久しぶりの冒険者らしい会話をこれはこれで楽しんでいた。
(伯爵家令嬢もいいけど、こういう冒険者らしい会話も嫌いじゃないのよね)
昔を思い出し、楽しい気分に浸っていると、視界に見過ごせない者がかすめる。
「!?」
「さ、サーシャ様!?」
立ち止まり首が折れてしまうと心配になる勢いで、顔を動かす。
サーシャの視線が黄金甲冑と褐色美少女と打ち合わせをしている人種の子供に固定される。
気付けばズンズンとその子供に向かって歩き出していた。
背後から慌てて2人のエルフ種冒険者達が追いすがる。
(嘘! 嘘よ、嘘!? まさかライトがこんな所にいるの!?)
近付くたび人種冒険者と打ち合わせをしている子供がライトに似ている気がした。
似たような背丈、黒い髪の毛、雰囲気――サーシャの心臓が痛いほど鳴り出す。
「ちょっとそこの人種!」
「……なんでしょうか?」
声をかけると迷惑そうな声音で子供が振り返る。
仮面を被っているため顔が分からない。
焦る気持ちでサーシャが告げる。
「そこの子供、その変な仮面を外して顔を見せなさい」
仮面の子供、黄金甲冑、褐色美少女達があからさまに迷惑そうな空気を醸し出す。
だが、サーシャは気にすることなく催促した。
案の定少年の隣にいた褐色少女が不満そうな声をあげる。
「聞こえなかったの? 自分達はこれから森に入るための大切な打ち合わせ中なの。突然話しかけてきて用件だけ告げるとか、常識が無いの?」
「貴女には言ってないでしょ! ヒューマンの癖にちょっと顔が良いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「別に調子になんて乗っていないけど。むしろ自分より美しい、可愛らしい人など多数知っているから、調子になんて乗れるはずないんだけど……。むしろ自身の容姿に自信が無いのをこちらのせいにしないでくれない?」
「こ、このヒューマン……ッ」
褐色美少女の指摘通り、サーシャ自身、彼女に美しさに内心で『負けた』と自覚していた。
エルフ種である自分が、人種の女性相手に美しさで負けたのだ。
プライドが大きく傷つく。
さらに雇い入れた金髪、銀髪冒険者、他の周囲に居る男性冒険者達が、自分より褐色美少女に視線を向け、頬を染めているのが心底気に食わなかった。
先程までの楽しい気分など吹き飛び、爆発寸前の火山のように気持ちが高ぶる。
サーシャのヒステリーに気付いた子供が溜息混じりに声をかけてきた。
「分かりました。仮面を外せばいいんですね。でも僕は火事で酷い火傷を負ったので仮面で顔を隠しているんです。正直、人様に見せるようなモノではないのですが、それでもいいんですか?」
「『白の騎士団』副団長の婚約者であるあたしが命令しているんだから、ごちゃごちゃ言ってないで取りなさいよ!」
「……分かりました」
「ひぃっ!? うげぇえぇッ! 気持ち悪い!」
ライトかと思い子供の顔を確認しようとしたが――醜いのが嫌いなサーシャが耐えきれないほど、火傷を前にすぐさま顔を背けてしまった。
ライトだと確認する余裕もない。
思わず反射的に叫んでしまっていた。
「は、早くその気持ち悪い顔を隠しなさいよ!」
「…………」
仮面達の不承不承な態度に、サーシャは自身の発言を誤魔化すように声を荒らげ、その場から離れる。
「気持ち悪いモノ見せるんじゃないわよ! 本当にこれだからヒューマンは嫌なのよね!」
「さ、サーシャ様、お待ち下さい!」
あわあわと雇い入れた金髪、銀髪冒険者が追いかけてくるが気にせず歩き続けた。
歩きながら呼吸を繰り返し、熱くなった頭を冷ます。
「考えてみればライトの筈ないわよね。3年近く経っているんだから……。ヒューマンならもっと成長しているはずよね……」
当時ライトは12歳で、あれから約3年も経っているのだ。
3年も経てば人種は大きく成長する。
仮面の子供はどう見ても12、3歳だ。
髪の色、背丈、雰囲気は似ていたがそれだけだ。声も違うし、15歳には見えない。
(あたしの勘違いよね……)
しかし斥候職の勘が疼く。
まるで凶悪な肉食動物に捕捉されているかのように首筋が寒いのだ。
(あの紙を、『白い巨塔で待つ』というあの紙を受け取ってから、全てがおかしくなってる……)
サーシャはギリッと唇を噛む。
(あたしの足下がぐらついている……。どうしてこうなったの!? なんで過去が追いかけてくるの……なんでライトが生きてるかもしれないの!? あたしが殺そうとしたから、復讐してくるっていうの? どうして……どうしてこうなったの!?)
『自分は悪くない』とぶつぶつと呟き、サーシャは落ち着かない気持ちを押さえつけながら歩き続けたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は19話を12時に、20話を17時にアップしております!(本話は20話です)
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