18話 狙い
今日は17話を昼12時、18話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は18話)。
アオユキがテイムしたモンスターと感覚をリンクさせて、森に入った冒険者を『巨塔』に近づけないようにしている。さらに魔術的にも対策はとっているため、基本的に周囲は人気が無く安全だ。
とはいえ僕達の知らない力で監視されている可能性も考慮して、早々に『巨塔』内部へと入る。
「巨塔内部はわたくしの魔術に『奈落』ダンジョンコアを解析して応用した技術が使われておりますわ。物理的、魔術的にも監視や盗聴は不可能ですので、安心しておくつろぎくださいまし!」
エリーが問題無いと言うなら安全なのだろう。
僕は巨塔1階に入った。
『SSR、道化師の仮面』を外し、杖と一緒にアイテムボックス内部へ仕舞う。
息苦しさ、視界を遮られることも無いが、やはり仮面を外すと気持ちがいい。
巨塔内部は樹齢1000年は超えている大木のような太い柱が規則的に並べられていた。
さらに目を懲らすと、『グルルル』と低い唸り声が聞こえてくる。
どうやら体長10~15mはあるレッドドラゴンが奥に体を丸め眠っていたらしい。
不意の侵入者によって眠りを妨げられ、怒りを滲ませた低い唸り声を漏らしたようだが――。
「貴様、少々飛べるトカゲ風情の分際で、ご主人様に唸り声を向けるとは……ッ」
代表してすぐさま声をあげたのはアイスヒートだが、他の皆も一様に殺気をレッドドラゴンに叩きつける。
レッドドラゴンは自身の命が崖っぷちに立たされていることに気付き、慌てて仰向けになってお腹を見せて媚びを売る。
『クーン、クーン……』
ウルウルとした瞳を向けて命乞いなのか、鳴き声を漏らした。
大きな犬のようで可愛らしい。
僕は微苦笑を漏らし、手を振る。
一瞬で向けられていた殺気は最初から無かったように霧散した。
「僕は気にしていないから、それ以上怖がらせる必要はないよ」
「も、申し訳ありませんわ。わたくしの召喚したペットが粗相をしてしまって……。一応、作戦に必要なため用意したのですが……後ほどきつく叱っておきますので」
エリーは恐縮した様子で頭を下げる。
見覚えの無いドラゴンだと思ったらエリーが召喚したモノらしい。
僕は笑みを浮かべつつ、
「本当に気にしてないから、怒るにしても軽めにね」とフォローを付け足す。
『クーン、クーン……』
ドラゴンが体を起こし、僕に向かってぺこぺこ頭をさげ始める。
その姿が本当に可笑しくて、ついつい笑みを漏らしてしまう。
しかしわざわざ『巨塔』にドラゴンを住まわせるなんて、いったい作戦の何に使うんだろう?
胸中で首を捻りつつ、ここからは『SSR、転移』で四階の最上階へ移動する。
エリー曰く、『ギミックを展開すると転移は阻害されるようになりますが、現在は使っていないので問題なく転移できますわ』と言う。
4階に移動後、通された部屋は玉座の間だ。
中央に巨塔と同素材の真っ白な玉座が置かれ、床に敷かれた真っ赤な絨毯以外に調度品は置かれていなかった。
エリーにうながされ僕はそのまま玉座へと腰掛ける。
僕から見て右側にアオユキ、ナズナが、左側にエリーが膝を突き頭を垂れる。
彼女達から1歩後ろに右端から順番にゴールド、ネムム、アイスヒート、メラ、スズが膝を突き傅く。
十分な間をおいてから、彼女達に声をかける。
「面をあげていいよ」
エリー達が顔を上げ、僕を見上げる。
浮かべる表情は様々だが、皆が共通しているのは僕に対する絶対的な敬意、忠誠心だ。
昔は色々戸惑いもしたが今は大分慣れたと思う。
気後れすることなく、話を進める。
「エリー、改めて皆に今回の『サーシャ復讐計画』について説明してもらえないか?」
「はっ、喜んでご説明させて頂きますわ」
エリーは軽く咳払いをしてから、朗々と『サーシャ復讐計画』について話を始める。
「元々、ライト神様が発案なされた『サーシャ復讐計画』をわたくしなりにアレンジさせて頂きましたの」
彼女の言葉通り大まかなプランは僕が考えた。
『地上で情報収集をおこなっている配下曰く、サーシャはそろそろ王族と血縁のある『白の騎士団』副団長の婚約者と結婚式を挙げるそうなんだ。幸せ絶頂中の彼女には、元パーティーメンバーとして盛大に復讐をしないといけないと思うんだよ』
その計画内容は、『サーシャと婚約者と対峙して、婚約者にサーシャを見捨てるか、それとも僕達と戦うかを選ばせる』というモノだった。
『ますたー』候補である僕を殺そうとしてまで得た幸せ、婚約者なのだ。きっと2人は堅い絆で結ばれているのだろう。
ならば『サーシャの婚約者に、サーシャを見捨てるか、それとも僕達と戦うかを選ばせる』か迫っても、きっと婚約者はサーシャを選ぶはずだ。
僕のように信じた『種族の集い』メンバーに裏切られ、殺されそうになる――そんな絶望をきっとサーシャは味わうことはない。
だが――もしも愛する婚約者に目の前で見捨てられたりしたら、少しは当時の僕と同じ絶望感が味わえるのではないだろうか?
――早い話が擬似的に僕が『種族の集い』メンバーに裏切られ殺されかけた状況を作り出し、サーシャに味わわせようというのだ。
「ライト神様のご提案は非常に素晴らしいものですわ。ですが、折角ですのでもっとわたくし達の利益を追求すべきと考えた次第ですの」
エリーは満ち足りた顔で告げる。
「裏切りエルフ種サーシャの死は絶対ですわ。どうせ殺すなら彼女の死をもっと効率よく、最大限の利益を目指して存分に利用して差し上げないと『勿体ない』ですもの」
『くすくすくす』と彼女は無垢な少女のように笑う。
その笑みは地上の男性なら100%誰もが惚れてしまうほど、無邪気で美しいモノだった。
語られる内容は酷く冷たく計算高いが。
「まずライト神様が最初に『巨塔』の情報を持ち帰ることで、冒険者としての実績を積むことができます。上手くいけば冒険者ランクをさらに上げることが出来るかもしれませんわ。次にわたくし達の実力が地上では非常に高いことは理解しておりますが、『巨塔』に敵が多数集まってくることによって『実際に戦ったらどうなるのか?』、『本当に通用するのか?』という実験になりますわ」
『さらに』とエリーは続ける。
「ドワーフ王国ダンジョンで捕獲したカイトの記憶から『白の騎士団』が有益な情報を持つ存在だというのが判明しました。彼らを捕獲することで『ますたー』などに関する情報を引き出せればと。また最大戦力である『白の騎士団』を撃滅することで、エルフ女王国の力を削ぎ、武力を背景にお話し合いが出来れば、より深い『ますたー』に関する情報を得ることが出来ると存じますわ」
エリーは笑みを浮かべ締めくくる。
「最後に6ヶ国の一角であるエルフ女王国を従属させることで、他国がどのような対処を見せるのか? 仮に他5ヶ国が攻めて来たとしてどの程度の戦力を投入してくるのか? わたくし達の把握していない奥の手、切り札があるのか? 場合によってわたくし達が全力を以てしても抗えない人材、兵力、戦力、マジックアイテム等があるのか? その辺りの試金石に出来ればと考えております。最悪、この『巨塔』を潰されても、わたくし達の本拠地である『奈落』には何の痛痒もありませんもの。捨て駒の拠点にするには十分かと。以上が今作戦の趣旨になりますわ」
エリーの説明を一通り聞いて、他の皆は口には出さないが感嘆の気配を漏らす。
彼女自身、皆からの無言の称賛により笑みを深くした。
実際『奈落』の頭脳、戦略を担当している彼女らしい効率・利益を最大限追求した素晴らしく効率的な作戦内容だ。
なにより今の所、机上の空論とならず上手く物事が推移していた。
ただやはり不安な点があるため、改めて尋ねる。
「素晴らしい、さすがエリーだ。けど、いくつか不安な点があるんだけど訊いていいかな?」
「もちろんですわ! どんなことでもお答え致しますわ」
「それじゃ――」
僕は早速エリーに気になった点を尋ねた。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は17話を12時に、18話を17時にアップしております!(本話は18話です)
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