16話 3人
今日は15話を昼12時、16話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は16話)。
「おれ達から逃げられると思うなよ!」
「昨日の借りを返させてもらうぞ! その金ぴかはサッサと殺して、ガキと女のヒューマンはいたぶりながら殺してやるからな!」
「…………」
僕は思わず哀れみの視線を向けてしまう。
目の前に剣を握ったのと、弓に矢をかけたエルフの2人組が完全な悪役台詞を叫ぶ。
僕達は『謎の巨塔調査』クエスト受注後、巨塔を目指して森に入った。
昨日、冒険者ギルドで絡んできたエルフ種2人組も、僕達の後を追うように森へと入る。
しかし僕達は既に森の地理情報をエリー達から入手済み。
森に入って目的地を目指せば、勝手に脱落するだろうと考えていたが――エルフ種2人組は必死に食らいついてきて、人目が完全に無くなったのを確認するとこうして襲ってきたのだ。
僕だけではなくゴールド、ネムムもマヌケな行動をする動物を見るような視線を向けている。
一方で男性エルフ種達は、僕達の態度を前に勘違いする。
「どうやらビビって声も出ないようだな!」
「今更後悔しても遅いがな。ほら、命乞いしろよ! 俺達が笑える命乞いが出来たら、もしかしたら助けてやるかもしれないぞ?」
手にした剣と、弓につがえた矢をちらつかせてニヤニヤと意地の悪い笑みを零す。
2人の態度に、ゴールドとネムムが苛立ち、武器に手を伸ばした。
「主よ」
「ダーク様……」
「……本人達が選んだ選択だ。甘んじて受け入れてもらおう。メラ、悪いけど死体が残ると面倒だから、全て処理したいんだけど出来る?」
僕の言葉にエルフ種冒険者達が怪訝な表情を浮かべる。
僕の側に居るゴールドとネムムではなくまったく知らない人物の名前を上げたため、訝しんだのだ。
「このガキ、何を言ってるんだ? もしかしてはったりで誤魔化そうとしているのか? だとしたら無駄だぞ、新鋭パーティー『黒の道化師』さん達よ!」
「オマエ達のことは調査済みなんだよ。ちょっとドワーフ王国のダンジョンで活躍したからって、エルフ女王国の冒険者ギルドではしゃぎやがって! ヒューマンはヒューマンらしく、俺達に頭を下げて大人しくしてれば死なずに済んだのにな!」
「ケケケケケケケ! ならオマエ達は、アタシ達のご主人さまに無礼な口と態度を取ったから死ぬことになるんだな」
「は?」
「はぁ!?」
ポン、と背後から2人の肩を叩く人物が居た。
エルフ種冒険者2名が背後を振り返ると、いつの間にか2m以上ある長身の女性が立っていた。
帽子を被り、ざっと背中まで伸ばした髪に、赤い目。顔立ちは非常に整っているが、やや口が大きく笑うとギザギザの歯、口端が耳まで届きそうなほど広がりそうだった。体格も合わさって、一般人が彼女を前にしたら肉食動物が獲物を見て笑っているような威圧を感じるだろう。
彼女が着ている衣服も少々変わっている。
足首まで隠すロングスカートは一般的だが、両手は隠れるほど袖が伸び、大きく袖口も広がっているのだ。
その両手がエルフ種冒険者2名の肩に左右片方ずつ、それぞれ置かれている。
彼らが振り返ると、袖の中の何かが音を立てて2人を左右の肩口から咀嚼し始めた。
「ぎぎぎぁやぁあぁぁぁっ!?」
「なんだ! なんじゃがいぎぁあっぁぁ!?」
先程まで弱者をいたぶることを心底楽しむ、嗜虐的な表情を浮かべていたエルフ種冒険者2名が装備ごと、血の1滴、肉片の1つも零さず彼女――メラの袖に隠された両手に咀嚼されていく。
あまりの激痛に最初は悲鳴をあげていたが、すぐに肩、上半身、頭部と飲み込まれてしまったため、悲鳴はすぐに途絶えた。
数十秒で、剣と弓、撃ちそこねて落ちた矢だけが森に残る。
その剣、弓、矢もメラはひょいと両手で拾い、飲み込んでしまう。
僕達の前に立っていたエルフ種冒険者2名は死体、装備も残さずこの世から消滅してしまった。
処理を終えたメラに声をかける。
「ごめんね、メラ。森に入れば彼らも諦めるだろうと放置してたんだけど、まさかここまでしつこく追ってくるとは思わなくて。余計な手間をかけさせちゃったね」
「ケケケケケケケ! 気にするなご主人さま。たしかに不味かったがご主人さまのためなら、1万だろうが、10万だろうが貪り喰ってやるさ」
「メラ殿は頼もしくはあるのだが……相変わらず怖い御仁だな」
「ゴールドと意見を一致させるのは嫌ですが、同意です」
「ケケケケケケケ! 別にアタシ達はお仲間なんだ。怖がる必要は無いだろうに」
ゴールド、ネムムの感想に愉快気にメラが笑う。
彼女の笑い声に引っ張られるように僕達の目の前に追加で2つの気配が姿を現す。
「メラ、ご主人様にその口の利き方はなんだ。いつも言っているだろう。口調を改めろと! それともこの場で規律を叩き込んでやろうか?」
「…………」
『アー無理ダロウ。めらガマトモニ話ヲスルナンテヨー。ウチノ相方モ人ノコト言エナイガ』
メラに続いて、美女と美少女(?)が姿を現す。
僕はメラを含めて久しぶりに顔を合わせた2人に笑顔を向ける。
「アイスヒート、スズ。久しぶりだね」
「ンンゥ――ご主人様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。アイスヒート、メラ、スズ、お迎えに上がりました」
僕に名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、顔を真っ赤にして体を震わせたアイスヒートが、落ち着きを取り戻すと生真面目な彼女らしい声音で膝を突き頭を垂れる。
彼女アイスヒートは『奈落』ではメイドをしてくれているが、今は本来の姿――軽鎧に大きなごついガントレットを装着している。
髪型は右半分が炎のような赤、左半分が氷のような青と、名前の通りに特徴的な髪色をしている少女だ。
アイスヒートに倣ってメラ、スズも遅れて膝を突いた。
僕は彼女達に笑顔を向けて答える。
「ごめんね、約束の合流地点に辿りつく前に変なのを連れて来ちゃって。森に入れば振り切れると思っていたんだけど、僕の見通しが甘かったよ」
「いえ、滅相もありません。約束の合流地点はあくまで目安。周囲300mに人影が無いのはスズが確認済み。むしろ機転を利かせてもっと早くこちらが動くべきでした。申し訳ございません」
「アイスヒートの真面目さは美点だけど、むしろ謝るのは僕だから気にしないで。それよりエリーとアオユキ、ナズナが待つ『巨塔』まで案内頼むね?」
「はい、お任せください! スズ」
「(こくり)」
スズは黙って頷く。
彼女は背が低く幼げな容姿で、艶のある黒髪を短めに切り揃えている。菫色の瞳、そして上着にコルセット、ブーツとタイツに丈の短いスカートを身につけている。
その態度に生真面目なアイスヒートの表情が僅かに歪む。
真面目で規律を重んじる彼女的には、スズの黙ったままの態度が許せなかったようだ。
慌ててスズの手にする長い槍のような『マスケット銃』と呼ばれる武器がフォローする。
金属部分がカタカタと揺れた。
『スマネェ、らいと様、アイスヒート姉サン、相方ハ極度ノ恥ズカシガリ屋ダカラナ』
「気にしないよ、ロック。それよりエリー達を待たせるのも可哀相だから移動しようか」
「はい! こちらです、ご主人様」
僕の一声で皆が動き出す。
スズを先頭に僕達はエリー、アオユキ達が待つ『巨塔』へと歩き出したのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
また今日は15話を12時に、16話を17時にアップしております!(本話は16話です)
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