15話 サーシャとの会話
今日は15話を昼12時、16話を17時にアップする予定です(本話は15話)。
金糸のような髪を背中まで伸ばし、尖った耳が特徴的なエルフ種のサーシャは3年ぶりにもかかわらず顔立ちに変化がない。
人種ならもう少し変化があるだろうが、そこはエルフ種と言わざるを得ない。
内心の激情を抑えつつ、僕は冷静に返事をする。
「……今仲間内で打ち合わせをしているのですが、何かご用でしょうか?」
「そこの子供、その変な仮面を外して顔を見せなさい」
彼女はこちらの話など一切聞かず、自身の用件を一方的に告げてくる。
(ああぁッ、今すぐぶち殺したい感情が抑えきれない!)
もし仮面を着けていなければ、怒りの感情が完全に表に出ていただろう。
一方で僕の冷静な心の部分が『SSR、道化師の仮面』の力がちゃんと機能しているようだな――と判断を下す。
仮面越しというのもあるが、幻影・認識妨害効果がある『SSR、道化師の仮面』のお陰で、僕の声を久しぶりに聞いても彼女は気付いていないのだ。
ネムムが僕の感情に連動するように、低く怒りを押し殺した声音で遮る。
「聞こえなかったの? 自分達はこれから森に入るための大切な打ち合わせ中なの。突然話しかけてきて用件だけ告げるとか、常識が無いの?」
「貴女には言ってないでしょ! ヒューマンの癖にちょっと顔が良いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「別に調子になんて乗っていないけど。むしろ自分より美しい、可愛らしい人など多数知っているから、調子になんて乗れるはずないんだけど……。むしろ自身の容姿に自信が無いのをこちらのせいにしないでくれない?」
「こ、このヒューマン……ッ」
ネムムに容姿を遠回しにけなされ、サーシャが顔を真っ赤にする。
別にネムムはサーシャを意図的に煽っている訳ではない。
実際『奈落』にはメイやアオユキ、エリー、ナズナ、他妖精メイド達など彼女に負けず劣らない美女、美少女達が多数存在する。
また正直、身内贔屓が無くても、周囲に居る冒険者達に『ネムムとサーシャのどちらが美しいか?』と問われたら、好みの問題もあるが9対1でネムムに軍配が上がる気がした。
サーシャも理解しているため、反論出来ず顔を真っ赤にしたのだろう。
その姿に僕は内心で極僅かではあるが溜飲が下がる。
「ちょっ、サーシャ様……」
2人の諍いの声は意外と大きかった。
周辺冒険者達も『なんだ? なんだ?』と言いたげに視線を向けてくる。
サーシャのパーティーメンバーらしい金髪と銀髪のエルフ種冒険者達が諫めようと口を開くが、立場的に彼女より低いのか中途半端に手を伸ばし、口を出す程度だった。
女性同士の言い争いに割って入る勇気が無いとも言えるが。
ネムムとゴールドも僕の復讐相手であるサーシャを前に、感情を極力表に出さないよう努めていた。
だが、感情を抑えるのを優先し、他に手が回っていない印象を受ける。
……これ以上、下手に注目を浴びるのも面倒だな。
「分かりました。仮面を外せばいいんですね。でも僕は火事で酷い火傷を負ったので仮面で顔を隠しているんです。正直、人様に見せるようなモノではないのですが、それでもいいんですか?」
「『白の騎士団』副団長の婚約者であるあたしが命令しているんだから、ごちゃごちゃ言ってないで取りなさいよ!」
「……分かりました」
ヒステリーを起こして騒ぐサーシャの相手をこれ以上すればより注目を集めそうなので、素直に仮面を外す。
「ひぃっ!? うげぇえぇッ! 気持ち悪い!」
彼女は僕の顔――正確には『SSR、道化師の仮面』の力、幻影で作った火傷を目にした途端、口元を抑えて吐き気をもよおす。
サーシャの背後に居る金髪、銀髪のエルフ種冒険者2名も口元を抑えて視線を逸らした。
醜いモノが大嫌いなサーシャはすぐさま声をあげる。
「は、早くその気持ち悪い顔を隠しなさいよ!」
「…………」
自分で『見せろ』と言って、『隠せ』とか……。
幻影を見て騙されている上に、見た目にこだわりすぎる愚鈍な存在。何が本物かも知らず、偽物を間近で見ても何も気づかない。
本当に愚かすぎる。
僕は黙って仮面を被り直す。
サーシャは改めて僕達を睨みつけると、未だ火傷顔が脳裏にちらついているのか顔色悪く吐き捨てる。
「気持ち悪いモノ見せるんじゃないわよ! 本当にこれだからヒューマンは嫌なのよね!」
「さ、サーシャ様、お待ち下さい!」
彼女は一方的に吐き捨てると、怒りを漏らしつつ離れて行く。
その後ろを金髪と銀髪のエルフ種冒険者2名が追いかけて行った。
去り際、彼女の呟きが耳をかすめる。
「ライトの筈ないわよね。3年近く経っているんだから……。ヒューマンならもっと成長しているはずよね……」
どうやら僕の背格好が、『奈落』ダンジョンで殺害しようとした約3年前の姿に似ていたため声をかけてきたらしい。
(昔は人種に対して公平なフリをしていたが……。実際の本性はあんなに醜いとは……)
短い期間であれば演技し騙すことは容易い、ということなのだろう。特に田舎から出てきたばかりの冒険者になりたての10代前半の少年など、騙すのは簡単だっただろう。
その本質を見抜けなかった昔の自分が情けなくなる。
同時に『絶対にあの裏切り者エルフ種サーシャに復讐をする』という新たな気持ちも抱くことが出来た。
サーシャの背中を見送り、僕は改めてゴールド、ネムムへと振り返る。
「……余計な邪魔が入っちゃったけど、打ち合わせを続けようか。時間も勿体ないから、さっさと終わらせて森へ潜りたいしね」
「うむ、了解した」
「あの女、余計な手間を取らせて……。ダーク様の仰る通り、早急に終わらせて森へ入りましょう」
実際は森の大部分は事前にエリー、アオユキ経由で情報をもらって把握済みだ。そのため道に迷うことは無い。森の中で人目が少ない、ほぼ無い場所へ移動したらタイミングを計ってエリー達が遣わせた者達と合流する手筈にもなっている。
しかし、変に注目が集まっている中でなるべく不自然な行動は避けたい。
それ故、一般冒険者らしい打ち合わせをおこなう。
打ち合わせを終えた後、ネムムを先頭に僕達は森へと足を踏み入れる。
彼女の先導でまず目指すのは合流予定の人目の無い場所だった。
■後書き
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
15話を12時に、16話を17時にアップする予定です!(本話は15話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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