13話 それぞれの思惑
今日は13話を昼12時、14話を17時にアップする予定です(本話は13話)。
「ミカエル様! あたしは冒険者に復帰いたします!」
「……えっ?」
婚約が決まってから定例となったお茶会の席で、サーシャが宣言する。
彼女は『巨塔で待つ ライト』というメッセージを受け取った事実を隠しつつ、自分の手で彼を始末するため、婚約者『白の騎士団』副団長であるミカエルに嘘八百を並べ立てる。
「『白の騎士団』副団長ミカエル様の婚約者として、将来の妻として国の危機にジッとなどしていられません。少しでもお国に貢献するため、元『種族の集い』メンバーとして鍛えた斥候技能を生かして『謎の巨塔』の情報を調べてまいります。なのでお茶会もしばらくは延期して頂ければと……」
実際は、国のためでも、ミカエルのために『謎の巨塔』について調べようとしている訳でもない。
残された紙のメモに従い、ライトと接触。
今度こそ確実に息の根を止めて、サーシャ自身の幸せを二度と脅かされないよう手を打ちたいだけである。
(絶対にあたしの幸せを壊させはしない……!)という強い執念から発した言葉だった。
故に例えミカエルから強固に反対されたとしても『お国のため』、『副団長ミカエル様の婚約者として、将来の妻として』と正論で押し切るつもりだった。
しかし、意外とミカエルからの反応は悪くなかった。
「――素晴らしいお考えですね。自身の得た地位に甘えず、お国のために最前線に赴こうとするなんて。白の騎士団副団長として、婚約者としてサーシャ殿を尊敬致します」
「そ、そんな尊敬だなんて……あたしはただ自分のやれることを考えただけですわ」
少しも反対されず、まさか手放しで絶賛されるとは想定しておらず、サーシャは思わず顔を赤くして畏まる。
例え本心が『自身の幸せのためライトを確実に殺す』ためだとしてもだ。
彼女好みの文武両道爽やかイケメンに褒められたら、顔を赤くしても仕方はない。
サーシャの本心が別にあるように、目の前に座るミカエルの胸中にも別の思惑があった。
(まさか彼女から『謎の巨塔』調査の志願をしてくるとは……。『ますたー』候補を見つけて、始末した手腕と豪運。上手くすれば彼女が誰よりも早く巨塔の情報を持ち帰ってくるか? そうすれば素晴らしい実績になるな)
ミカエルは爽やかな笑みの下、計算を立てる。
サーシャが『ますたー』候補であるライトを始末した褒美として、傍流だが王族の血を引く副団長ミカエルとの結婚が約束された。
ミカエルは確かに王族の血を引くが傍流も傍流のため、正直そこまで誇れるモノではない。
しかしミカエルは『さぶますたー』としての血に目覚め、順調にレベルアップ。
本人の才覚も合わさって、『白の騎士団』副団長にまで上り詰めた――が、彼の出世街道はそこで止まってしまう。
王族直系の血を引き、より強い『さぶますたー』に目覚め、『白の騎士団』団長でありエルフ女王国最強のエルフ種――『静かなるハーディー』という2つ名をもつレベル3000オーバーの怪物が居たからだ。
(ハーディー団長はワタシの持っていないモノを全て得ている……ッ)
王族直系の血を引き、レベルも自分より高く、『エルフ種最強』の名声も得ている。
全てにおいてミカエルはハーディーより下だった。
逆に言えばハーディーさえ居なければミカエルが、地位、名声、名誉、称号も全て得ていたのだ。
(ワタシのレベルは2500後半……これ以上、伸びることはない。ハーディー団長に実力で勝利するのは難しいでしょう。しかし、地位と権力は別です)
『ますたー』候補を始末した褒美として、サーシャとの結婚を決められた。
別にこの結果に不満はない。
むしろ、幸運、目の上のたんこぶであるハーディーを超えるとっかかり、奇貨としてとらえていた。
(サーシャ殿は『ますたー』候補を始末し、『謎の巨塔』調査にも自ら名乗りを上げた。あともう少し国に対する貢献度や実績があれば、ワタシとサーシャ殿の娘が次期女王候補に……上手くいけば女王の座に就くことが出来る!)
現状、ハーディーが結婚して女の子を得れば、その子が最も次期女王に近い。
だが、ハーディーは未だ未婚。結婚して、確実に女の子が生まれるかは不明。
ハーディーを嫌っている宰相と手を組み、ミカエルとサーシャが積み上げてきた実績で後押しすれば、将来産まれるであろうミカエルの娘が女王になるのは決して夢物語ではない。
なぜならミカエルにも傍流ながらちゃんと王族の血が流れているのだから。
仮に娘が女王の座につけば、ミカエル自身はエルフ種女王の父。上手くすれば娘を陰から操り、権力を振るえる可能性もある。
そうなればレベルや戦闘能力では勝てないが、国家権力の点から見れば圧倒的勝者と言えるだろう。
あの自分より全てが上の男、『静かなるハーディー』に勝利することが出来るのだ!
想像するだけで身震いするほどの喜びに襲われる。
(――ただ現状程度の実績ではまだまだ足りないんですよね。あと一押し、サーシャ殿が独力で『謎の巨塔』問題を解決してくれたらかなり助かるのですが……。それはいくらなんでも望み過ぎですね)
サーシャ、ミカエル、互いに綺麗な笑顔の下で自身の欲望をドロドロと蠢かせていた。
それを一切おくびに出さず、談笑する。
「サーシャ殿、ワタシは副団長として国からの指示で即時対応できるように待機を命じられている身。何も手伝うことができず慚愧の念に堪えません。しかし婚約者として、陰ながら応援させてください」
「ミカエル様に応援して頂けるなら百人力ですわ」
互いに笑顔で励まし合い、讃え合う。
一見するとそれは非常に美しい光景だった。
彼、彼女が胸中でどのような欲望を抱えているかは別の問題ではあるが……。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
次話でライト達が登場します。
モヒカンさん達もちょっとだけ登場します。本当にちょっとだけですが……。
ライト達が登場する話は書いていて楽しいんですが、分量が増える増える。
また今日は13話を12時に、14話を17時にアップする予定です!(本話は13話です)
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