12話 サンダーアロー
今日は11話を昼12時、12話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は12話)。
エルフ女王国首都冒険者ギルドの扉を僕達3人はくぐった。
「さすがエルフ種の首都、冒険者ギルドもお洒落だね」
「主の言葉通り、洒落ているな。国によって意外とギルドも内装が変わるのだな」
「ダーク様、ダーク様、クエスト依頼の貼り紙があっちにあります。どうやら基本的な運用方法は変わらないみたいですよ」
僕は『SSR、道化師の仮面』越しにきょろきょろと室内を見回す。
後から続くゴールドも僕の台詞に同調し、感心したように声音を漏らした。
口元をマフラーで隠したネムムが、壁に貼られた掲示板を発見し、子犬が飼い主に狩りの成果を示すように指先を向ける。
その際に揺れるマフラーが文字通り子犬の尻尾のように見えた。
ネムムの指さす先に掲示板があり、一番目立つ場所に『謎の巨塔』についてのクエスト内容が貼られてあった。
時間はお昼過ぎ。
冒険者達は出払っているため閑散としている。
お陰で掲示板に貼られた『謎の巨塔』についてのクエスト内容を楽に確認することが出来た。
仮面越しに文字を追う。
「ふむふむ……噂通り『謎の巨塔』についてどんな情報でも持ち帰るだけで結構な良い値段になるようだね」
「わはははは! 主よ、活動場所を変えて正解だったな!」
「ダンジョンでの狩りも悪くはありませんでしたが、雰囲気が悪くなったのと、同じことの繰り返しで単調になってしまっていましたからね」
本当にドワーフ王国ダンジョンでの狩りが単調化したから、場所を変えた訳ではない。
あくまで『謎の巨塔』の話を聞きつけて場所を移した風を装いたいため、このような会話をしているに過ぎない。
今回、僕達がわざわざ冒険者の格好をしてエルフ女王国首都に来たのは、サーシャへの復讐のためと冒険者ランクを上げる後押しになる実績を作るためだ。
エリー発案の作戦で創られた『謎の巨塔』へは、1人の冒険者も近づけていない。
まだ誰も到達していない『謎の巨塔』へと至り、僕達が情報を持ち帰る。この成果は今後の冒険者ランクを上げる実績になり、さらにサーシャと『白の騎士団』を引っ張り出すことに繋がるらしい。
どうして僕達が情報を持ち帰るだけで、サーシャと『白の騎士団』を引っ張り出すことになるかは分からないが、エリーには今回の作戦を全面的に任せている。
故に彼女の作戦にそって僕達はエルフ女王国首都冒険者ギルドに来たのだ。
「クエスト内容も確認できたし、暗くならないうちに宿屋を探しに行こ――」
「こんにちは、彼女、めっちゃ可愛いね!」
掲示板を確認して、暗くならないうちに宿泊するための宿を取りに向かおうとした直後、若いエルフ種冒険者2名がネムムの前に立ちはだかる。
2人ともエルフ種男性だけあり、顔立ちは非常に整っている。身長も175cm前後で体のバランスもいい。
ただ声音が軽薄で、さらにネムム以外の僕達2人をあからさまに下に見ているのが視線で分かる。
若いエルフ種冒険者2名は僕とゴールドを無視してネムムに声をかけ続けた。
「おれ達、ここで冒険者をやってるんだけど、人種なのに君みたいな可愛い子、初めて見たよ。ねぇ、名前を教えてもらえない?」
「ダーク様のお言葉を遮って話しかけてくるとは……不敬なッ」
「ふけい? 何それどういう意味? 君、面白いね! クエストを探していたようだけどよかったら俺達と一緒にパーティー組まない?」
「こう見えておれ達、レベル150超えてるんだよね。だから一緒にパーティーを組んでくれたら君のことをお姫様のように護っちゃうぞ☆」
「それに俺達、エルフ種だから人種に比べたらハンサムだろ? 一緒にパーティー組めばいつでも君にイケメンパワーを注入しちゃうぞ!」
2人の勧誘にネムムが青筋を立て、ゴールドが『イケメンパワー(笑)』とフルフェイス越しに口元を抑えて肩を震わせて笑いを堪える。
ネムムは腹が立つだけのようだが、どうやらエルフ種男性の勧誘台詞がゴールドはツボに入ったらしい。
レベル5000のネムムが本気で威圧した場合、前を遮るエルフ種男性だけではなく、僕達を除いた冒険者ギルドに居る者達の心臓が危険になる可能性がある。
それを避けるためネムムは内心の憤激を押さえ込みつつ、怒りをにじませた声音で拒否する。
「ダーク様と一緒に居る以上、貴様達と話すつもりもパーティーを組むつもりもない。失せろ」
「だーく様って、この変なお面をつけたヒューマンのガキのこと?」
「いやいや、こんな子供と一緒に居るより俺達と一緒の方がマジで安全だし、君も幸せだから! エルフ種の俺達にこんな声をかけられるなんて一生に一度あるかないかだよ? マジで今がチャンスだから!」
ネムムが拒否しても食い下がるエルフ種男性2人。
いい加減、今夜宿泊する宿屋を探さなければならない。
僕は手にした杖をネムムと2人の間に割り込ませる。
「申し訳ありません。ネムムは僕達の大切な仲間なので、これ以上勝手な勧誘は止めて頂けませんか?」
「だ、ダーク様……ッ」
エルフ種男性達に声を掛けられている時、ネムムは心底嫌そうな表情をしていた。
一転、僕に庇われると顔を真っ赤にして瞳を潤ませ、恋する乙女のような表情を作る。
第三者から見てもネムムが僕とエルフ種男性2人、どちらに好意を持っているか一目瞭然だ。
エルフ種男性2名は人種女性にあっさり振られ、人種の子供に負けた事実が気に喰わず、笑顔から一転、柳眉を逆立たせる。
「こ、んの……ヒューマンが下手に出てれば調子にのりやがって……」
「ガキもしゃしゃり出てくるんじゃねぇぞコラ!」
1人は怒りに震える声音を吐くだけで済んだが、もう1人は激昂し僕へ向けて拳を振るう。
ネムム、ゴールドが咄嗟に庇おうと動くが短く名前を呼んで釘を刺し、彼の拳を正面から片手で受け止める。
「サンダーアロー」
「ぐギギィ!?」
片手で受け止めた拳を通して、恩恵『無限ガチャ』カードの攻撃魔術『R、サンダーアロー』でエルフ種男性を撃つ。
自称レベル150もあるのだから、この程度の攻撃なら体が痺れるだけで済むはずだ。
予想通り、不意打ちの『サンダー』だったため死にはしないが、体が痺れて床に倒れ込む。
「う、嘘だろ……ヒューマンのガキが、拳を受け止めた上、戦闘級のえ、詠唱破棄をするとか!? ありえないだろう!?」
怒声を上げたエルフ種男性が、今度は驚愕の声音をあげる。
本来、詠唱破棄は熟練者魔術師がおこなう高等技術だ。
にもかかわらず人種で見た目12、3歳の子供の姿である僕が自称レベル150の拳を軽く受け止め、詠唱破棄までした事実に驚愕しているようだ。
様子を窺っていたエルフ種受付嬢達も驚愕の表情を作っていた。
「では僕達は暗くなる前に宿を取らないといけないので。ネムム、ゴールド行くよ」
「はい! ダーク様!」
「ではな、イケメンパワー殿(笑)」
僕が歩き出すと、不気味な得体の知れない者を前にしたかのようにエルフ種男性が引き下がり道を空ける。
僕はそのまま遠慮無く通らせてもらった。
その後をネムムがキラキラと王子様に護られたお姫様のような満ち足りた笑みと幸福オーラを撒き散らし続き、ゴールドも微妙に挑発した台詞を残し歩き出す。
(ちょっといざこざがあったけど、僕らが冒険者の姿でここに来たことを印象づけられたし、冒険者ギルドでクエストの確認はした。次は……)
僕は胸中でそんなことを考えながら、今夜泊まる宿を探すためギルドを後にするのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は11話を12時に、12話を17時にアップしております!(本話は12話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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