11話 リーフ7世
今日は11話を昼12時、12話を17時にアップする予定です(本話は11話)。
エルフ女王国宮殿会議室。
上座に女王リーフ7世が腰を下ろし、彼女から見て左に宰相、右に『白の騎士団』団長ハーディー、他官僚や騎士団団長達がその他の席に座る。
議題は当然『謎の巨塔』についてだ。
モノクルをかけた男性エルフ種宰相が、神経質そうな声音で告げる。
「森に高レベルモンスターが溢れ出て冒険者達を殺して回るせいで、『巨塔』に関する情報がまともに手に入れられていないのが現状です。もし! このままその高レベルモンスターが街道に姿を現したら再び流通は止まり、臣民達は無用な苦しみを味わうこと必定! 故に確実に高レベルモンスターを駆逐し、『巨塔』の情報を得ることが可能な人材である『白の騎士団』を投入するべし! と我々は考えております」
宰相がモノクルを軽く押し上げる。
エルフ種男性だけあり歳を取り、皺が刻まれているが『渋いオジ様』といった風貌をしていた。
神経質な部分を除けば、渋いのが好きな女性なら見惚れるほどのナイスミドルだ。
そんな宰相が目の敵のように正面に座るハーディーへと視線を向ける。
ハーディーは宰相の視線を涼やかに受け流しつつ、手を上げ発言権を得ると静かに語り出す。
「女王陛下の臣民に対して無用な苦しみを与えたくない宰相殿のお気持ち、痛いほど理解できます。しかし情報が無い状態で我々『白の騎士団』を投入するのは無謀。やや見識を疑う発言かと」
「エルフ女王国最強の『白の騎士団』団長ともあろうお方が、そのような弱腰の発言をするほうが見識を疑わざるを得ませんな」
「内政の大先輩たる宰相殿ならば、正確な数字が分からずとも書類を作り出すことは容易いでしょうが、それを我々に求められるのは些か酷かと。正確な情報とは、我々にとって敵を見る目であり、気配を察知する耳に等しい。宰相殿は我々に五感を封じて剣を振るえと仰せか。どれだけ名剣でも敵に当たらねば切れませぬぞ」
「ぐぬぅッ」
意訳すると『オマエ達は適当に数字を弄って金をちょろまかすのは得意だろうが、戦闘は書類ではなく実際の情報が命なんだよ! 軍事のぐも知らない素人が口を出すな』と言われたようなものだ。
ハーディーの言葉に宰相が鬼を飲み込んだ表情を作る。
顔を真っ赤にしてブルブルと震え出す。
なぜ2人はここまで険悪なのか?
エルフ種社会は母権制だ。
そんな社会制度を面白く思っていない層は一定数存在する。
宰相は母権制を破壊し、男性有利な社会構造に変えようとする急先鋒である。
逆にハーディーは保守派筆頭のため、宰相にとってはエルフ女王国最強の騎士団団長が敵対派閥に属していることになるのだ。
武力では勝てずとも、何かあれば発言権や権力などを削ぎたいと考えるのは必然。故に2人はよく意見を違え衝突していた。
『謎の巨塔』出現も彼らにとっては宮廷政治の一つでしかない。
一通り話を聞いた女王リーフ7世が、手にした扇を畳む。
その音が会議室へと広がり皆の視線を集める。
「白の騎士団団長の言、いちいちもっとも。妾の名において命じる。冒険者に与える報奨金を増やし、より質の高い冒険者達を呼び寄せ情報収集に当たらせるがよい」
女王陛下の鶴の一声で方針が決定。
会議は解散となり、関係部署が忙しく動き出す。
そんな雑音に紛れて宰相の一言がハーディーの耳をかすめる。
「七光りめ――」
「…………」
ハーディーは足を止めず会議室を後にする。
自身の背中を忌々しそうに睨む視線を悠然と流し、別室を目指し歩き出した。
☆ ☆ ☆
『謎の巨塔』対策会議後、ハーディーは別室へと向かう。
そこは女王リーフ7世の私室だ。
彼は通い慣れた様子で私室へと入り、リビングソファーへと腰掛ける。
程なく、部屋の主であるリーフ7世が顔を出す。
にも関わらずハーディーは立ち上がりもせず、軽く手を上げただけで済ませる。
「さっきは後押し助かったよ、母上。お陰で碌に情報も無いうちに森へ突撃せずに済んだ」
「あんなのお礼を言われるまでもないわ。妾の愛しい息子、ハーディーちゃんに危険なマネなどさせられないもの」
エルフ女王国、最強の騎士団長が保守派筆頭なのには理由がある。
彼がリーフ7世の血を引く息子だからだ。
仮にライトが『ますたー』だった場合、その褒美でサーシャはハーディーと婚約、結婚することになっていた。
男子に王位継承権は無い。
王族の血を引いてるからと言って、特別な待遇がある訳ではないのだ。
ハーディーは『ますたー』の血が濃く出た『さぶますたー』で、実力が高いからこそ『白の騎士団団長』という地位に就いているのである。
リーフ7世が年甲斐もなくウキウキした様子で、お茶の準備をする。
母の背にハーディーは面倒そうに声をかけた。
「宰相にも困ったものだ。有能ではあるが、反女王派の考えが強すぎる。いつか太い釘を刺すか、場合によって一線を退いてもらう必要があるな」
「うふふ、あら怖い。ハーディーちゃんに睨まれる宰相が可哀相だわ」
「母上、笑い事でありませんよ……」
母の暢気さにハーディーは頭痛を堪えるように溜息を漏らす。
ハーディーはレベル3000を超えている。
文句無しでエルフ種最強の存在だ。
そんな彼が実の息子で、自分の味方だからこそリーフ7世は余裕の態度を崩さないのだ。
逆に宰相からすれば実力で排除しようとしても、宰相の仲間達などでは束になっても勝てないし、反撃で暗殺されるのを防ぐ手段が無い。
だからこそ、直接ぶつかりあうことを避けて面倒な搦め手に徹するしかなく歯痒い思いをしているのだ。
宰相にとってハーディーは国防の要であり目の上のたんこぶでもあった。
リーフ7世は手ずからお茶を淹れて、ハーディーの前に置く。
当然、彼の好みを把握した温度、濃さだ。
彼女はハーディーの正面ソファーに座る。
「宰相はハーディーちゃんが居る限りどうとでも出来る存在だわ。問題はやはり『謎の巨塔』。あれが姿を現してから、モンスターが活性化しているという報告があるわ。放置して国の根幹を揺るがす存在にでもなったら面倒この上ないもの」
「……魔王の再来でしょうか?」
「その可能性は捨てきれないわね……だとしたらヒューマンに勇者が誕生しているはずよ」
「……勇者はヒューマンからしか誕生しない、か」
宝剣を盗み出し暴走したエルフ種カイトは『英雄や勇者の血を引いているから、自分も勇者になれる』と考えていたが、実際は違う。
正確には勇者や英雄としての素質に目覚めるのは、人種のみである。
いくら『勇者や英雄』の血を引いても、エルフ種の時点で『勇者や英雄』に目覚めることはないのだ。
さらにその場合、『勇者や英雄』は『ますたー』である可能性が非常に高いとされている。
ハーディーは再び深い溜息を漏らす。
「『ますたー』は取り込むか、でなければ殺すしかない。なら『ますたー』が産まれないようにヒューマンを皆殺しにしようとすれば、魔王認定を受けて『ますたー』が産まれた際に逆にこちらが滅ぼされかねない。……痛し痒し、か」
ハーディーはリーフ7世が淹れたお茶に口を付ける。
「……母上。母上はヒューマンをどのようにお考えか?」
「? どういう意味かしら?」
「自分はヒューマンはこの世に害しか与えない害虫だと考えている。事実、『ますたー』を産み出し、この世に危険をもたらすのは歴史が証明している。ならば、5ヶ国連合で『ますたー』が産まれるより早く、ヒューマンを駆除すべきだ。ヒューマンは等しく害虫。生きて良い存在ではない」
「……ハーディーちゃんの気持ちは痛いほど分かるわ。ヒューマンは等しく害虫っていう気持ちも。けれど、『ますたー』が産まれるより早くヒューマンを1匹残らず消しさるなんて実際無理な話だわ。不可能よ」
今度はリーフ7世が深々と溜息を漏らす。
実際、大陸中に居る人種を短期間で皆殺しにするのは不可能である。
人数が多すぎる上に、5ヶ国連合の足並みが揃うとは限らない。時間をかけていいならばともかく、一つの種を短い間に根絶やしにするなどどう考えても無理な話だ。
ハーディーも馬鹿ではない。ただ鬱憤が溜まって母に愚痴を漏らしたに過ぎない。
彼は自身の愚痴を誤魔化すように茶を飲み干し、ふと思い出す。
「……3年前『ますたー』候補が居たと聞いたが」
「ええ、結局、『ますたー』ではなかったけど、念のために殺しておいたはずよ。あれ以来『ますたー』候補の1人も出て居ないけど……それがどうかしたの?」
「もし自分ならその任務について『ますたー』、または『ますたー』候補を前にしたら、直ぐには殺さず『ヒューマンは害虫だ』と体に刻み付けてから殺してやりたかったと思っただけですよ。機会があれば鬱憤晴らしにやってみたいものだ」
「うふふふ、もうハーディーちゃんったら。そういう下っ端仕事を団長の貴方が取っては駄目でしょ」
「ふふ、言ってみただけだよ母上。しかし、叶うならやってみたいものだ。『ますたー』、『ますたー』候補……いったいどれほど醜い姿をしているのだろうか?」
親子らしい談笑の時間を過ごす。
内容は非常に物騒で、仄暗いものだが親子の会話には変わりなかった。
――ハーディーの願いが通じたのか、エルフ女王国首都に元『ますたー』候補とその仲間達が顔を出す。
道化師のお面に黒いフードマントに杖の少年、黄金の騎士甲冑、口元をマフラーで隠した褐色の美少女。
非常に目立つ姿の3人が、エルフ女王国首都冒険者ギルドに顔を出す。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は11話を12時に、12話を17時にアップする予定です!(本話は11話です)
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