8話 モヒカン冒険者達
今日は7話を昼12時、8話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は8話)。
「うぐぅッ、ぐすっ、うぅ……」
「トロトロ歩かずさっさと進めよ! ヒューマンが!」
エルフ種、1人前冒険者達がエルフ王国首都の近くにある原生森林へと足を踏み入れていた。
冒険者3人の前を、人種少女が裸足に粗末な服を着せられ彼らの先をガタガタと震えながら歩かされている。
怒声を上げたエルフ種リーダーを、盾と剣で武装したパーティーメンバーの1人が称賛する。
「しかしリーダーも考えたよな。最初、ヒューマンの子供を買った時『幼女でヒューマンとか女の趣味悪い!』と思ったけど、まさか森を進むための先導役兼エサに使うとはよく思い付いたよな」
「まぁな。やっぱりリーダーとして頭を使わないとな」
リーダーと呼ばれたエルフ種男性が自身の頭を指先で叩く。
早い話が、人種奴隷少女を買い、自分達より先に森を歩かせて、危険なモンスターがいないか調べるための斥候役&喰われている間に戦う、または逃走するためのエサとして使っているのだ。
まさに『坑道のカナリヤ』状態である。
「問題があるとするなら、ヒューマンのガキがビビっているから進む速度が遅いってことだな。おら! さっさと歩け、それともさっきみたいにぶん殴られたいのか!」
「ひぃ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい! な、殴らないでください!」
「だったら泣いてないでサッサと進め!」
背後からエルフ種冒険者に怒声を飛ばされ、少女は泣きながら進む速度を上げる。
逃げようにも相手はエルフ種で、2人が弓を持っている。盾持ちエルフが敵を足止めして、他2人が弓矢で仕留めるスタイルらしい。
逃げようとしたら足を射抜かれ、さらに酷い目に遭うだろう。
少女はいつモンスターが飛び出し、自身を襲うか分からない恐怖に耐えながら森を進む。
彼女が進む道に合わせてエルフ種冒険者が後へと続いた。
「今日はお試しでヒューマンのガキを使ったが、成果が出るなら次は複数買い込んで使うのもありだな」
「ヒューマンの雌ガキならたいした値段じゃないから使い潰すにはうってつけだからな」
「ほんと、ヒューマンって奴は見た目こそ俺様達に似てるけど、喋る家畜っていう言葉がぴった――」
リーダー以外、もう1人の射撃手担当のエルフが喋っている途中で、頭部を失う。
噴き出た血がリーダー、盾役エルフの顔に飛び散り端正な顔を汚す。
木の葉1枚、枝1本揺らさず、折らずまるでその場に突然姿を現したかのようにぬるりとモンスターが姿を現しバックアタックを決めたのだ。
突然のモンスター登場、そして仲間が喰われた姿を見てエルフ種冒険者達はフリーズする。
モンスターは体長が10mもありそうな巨大な4足獣で、少女の胴体より太い蛇が尻尾になっていた。
シュルシュルと伸び、真っ赤な舌をチロチロと出し入れする。
彼らは知らない。
この魔物が『スネークヘルハウンド』で、レベル1000だということを。
「ふ、巫山戯るな! 襲うならヒューマンのガキをおそ、ぎゃぁぁっ!?」
「リーダー!?」
冒険者リーダーが奇襲から意識を立て直し、距離を取ろうと下がりつつ罵倒を飛ばす。弓矢を手に、攻撃を加えようとするが、尻尾の蛇はそれ以上速く動く。
肩に噛みつかれ防具、皮膚、骨、肉など関係なく潰されてしまう。
「クソ! クソ! クソォオオ!」
盾役エルフが破れかぶれで剣を振り上げ、襲いかかろうとするが『スネークヘルハウンド』の体表であっさりと剣を弾かれる。
想像以上に硬い体表に驚きバランスを崩したが、それを逃すほどモンスターは愚かではない。
「ひぎゃぁぁぁぁッ――」
悲鳴は途中で強制的に停止する。
なぜなら上半身を一口に囓られたからだ。
『残すのはもったいない』と言いたげに、残った部分も『バキボキグチャ』と音を立てながらしっかりと食べ、咀嚼する。
「ヒィッ、ヒィッ、ヒィッ、ヒィッ! た、た、た助けて、誰かたすけ――」
最後に残った肩を砕かれたリーダーは涙、鼻水、涎を垂らし命乞いをするが、モンスターに通じる筈もなく蛇に足先から飲み込まれていく。
『助けて、助けて』と繰り返しながら、蛇にぺろりと飲み込まれてしまった。
「…………」
現場にはあっという間に少女しかいなくなってしまう。
『スネークヘルハウンド』の目が少女を捉える。
少女は悲鳴も上げられず、その場にぺたりと座り込んでしまった。
力の無い人種の農民出の少女にとって絶対に抗えない存在のエルフ種冒険者達を、地を這う虫のように潰し、食べてしまった存在だ。
無知な人種少女でも理解できる。
今目の前にいるモンスターはお伽噺に登場するような怪物だと。
でなければエルフ種冒険者を一瞬で倒し食べたりできない。
「…………」
『スネークヘルハウンド』は腹が満たされたお陰か、ぷぃと少女から視線を外すと再び音もなく森へと進んでいく。
すぐにその巨体は木々によって見えなくなってしまった。
「……わ、わたし、助かったの?」
未だ信じられず、少女は座り込んだままぽつりと独り言を漏らした。
しかし、その言葉を直ぐに否定するような下品な笑い声を少女は耳にすることになる。
「へっへっへっ! こいつはとんでもないお宝だぜ!」
「ッゥ!?」
助かったと安堵したら、次は見るからに乱暴そうな人種冒険者達がタイミング良く姿を現す。
全部で5人。
なぜか全員、髪型がモヒカンでそのウチの1人は髪が赤色だった。
薄暗い森の中にもかかわらず、皆、黒い眼鏡を掛けて下品な笑い声を漏らしつつ、少女へ歩み寄る。
「まさか森を探査していたら偶然、主が殺されてフリーの奴隷を拾うとは俺様達はツイているぞ!」
「うぅうぅッ……」
少女は絶望する。
先導兼モンスターのエサ役としてエルフ種冒険者に買われた。エルフ種冒険者達がモンスターに喰われたが、運良く自分は助かった。しかし、人種のガラが非常に悪い冒険者に見つかってしまったのだ。
エルフ種は『醜いヒューマン』と蔑み暴力は振るうが、性的に襲ってくることはなかった。
だが、相手は同じ人種。
自分を捕まえて性的に襲ってくるだろう。
逃げる選択肢もあるが、先程の神話に出てきそうなモンスターが闊歩する森の中だ。下手に逃げて再びあの怪物に出会ったら次こそは命がない。
(あんな風に生きたまま苦しんで食べられて死ぬより、まだこの人達に乱暴されても森を抜け出た方がいいよね……)
エルフ種冒険者達が生きたまま食べられる姿は未だ瞼の裏に焼き付いている。耳にも悲鳴と助けを求める声がこびりついていた。
あんな死に方をするぐらいなら、乱暴をされてもこの森から抜け出た方が何倍もましである。
胸中で観念した少女にモヒカンの冒険者がニタニタ笑いながら近付いてくる。
「へっへっへっ! 傷だらけのままじゃ売り払う時に値段が下がっちまう。まずは傷を癒さないとな! はい、ポーション」
「?」
モヒカンが取り出したポーションを渡される。
しかも効果が出るのか怪しい最下級ポーションではない。
熟練した冒険者が使用するようなしっかりと効果が出る中級ポーションを手渡される。少女自身を買うより高い値段が付く代物だ。
他モヒカン達も次々行動を開始した。
「次は素足のままじゃまずいから、この布で簡易的な靴を作るぜ!」
「なら俺は歩きやすいようにその辺の枝で杖を作るぜ!」
「風呂は森を抜けるまで我慢するんだな!」
赤色のモヒカンは小鳥を手に乗せて、丁寧に頭を下げ何か呟いている。
「はい、はい、はい、そうです。無事、合流しました。はい、それではいつもの流れで、はい」
少女は目の前の光景が意味不明過ぎて、恐怖より混乱が先立ってしまう。
(……もしかしてわたしは既に死んでいて夢を見ているのかな?)
少女は渡されたポーションを両手にしたまま、ぼんやりそんなことを考えてしまった。
混乱する少女にポーションを飲ませて傷を癒した後、モヒカン達は彼女を丁寧に連れて森を後にしたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日はアオユキ&エリーが登場するので是非お楽しみに!
また明日も頑張って2話をアップするので、読んで頂けると嬉しいです。
今日は7話を12時に、8話を17時にアップしております!(本話は8話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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