7話 謎の巨塔
今日は7話を昼12時、8話を17時にアップする予定です(本話は7話)。
エルフ女王国首都は国土のほぼ中央から、西よりに存在している。
東に寄りすぎると、獣人連合国に近くなりすぎるため、西寄りに作ったのだ。
西にはドワーフ王国があるが、基本山岳と原生森林に阻まれているため、侵攻を気にする必要がないというメリットがあった。
その原生森林の奥地に、深夜の地震と共に『謎の巨塔』が姿を現した。
エルフ女王国首都で最も高い尖塔の上から、良く晴れた日に目を凝らすと、『謎の巨塔』の尖端が微かに見えるほど大きい。
立地さえよければ一大観光スポットのひとつにもなっただろう。
しかし、当然、こんな意味不明な巨大建築物が姿を現したら、問題が起きる。
まず『謎の巨塔』が姿を現した影響で、普段は原生森林の奥に居るモンスター達が浅い部分に移動。押し出されるかのように森の浅い部分にいたモンスターが街道にまで姿を現すようになった。
街道にモンスターが大量に姿を現したら、当然物流が途切れる。
エルフ女王国首都を南に真っ直ぐ下ると、海があり、開発された港街が存在する。
沿岸で塩が作られ、港街で竜人種帝国、ドワーフ王国、魔人国、獣人連合国と貿易がおこなわれているのだ。
そんな港街を繋ぐ街道にモンスターが姿を現し、物流を阻害。
当然、エルフ女王国首都の物価が高騰する。
日本で例えるなら、シーレーンに海賊がわらわら現れ妨害し始めたようなものだ。そうなれば原油が止まりガソリン、食料品、工業製品などが滞り、値段が上がったり、輸出が滞ったりしてしまう。
控えめに言って国家危機、死活問題である。
問題はモンスターが街道に溢れ出ただけではない。
突然、姿を現した『謎の巨塔』について調査する必要がある。
深夜、地震と共に現れたと考えられている『謎の巨塔』を為政者として放置する者など1人もいないだろう。
しかし現在、騎士団はエルフ女王国首都から港街までの安全確保に忙しい。
『白の騎士団』は国家最大戦力である。
軽々と動かすことなどできない。
故に現在、捨て駒役的な冒険者達が導入されている。
しかし、状況はあまりよろしくない。
どうも深部から姿を現したモンスターが、元居た場所に戻ろうとしないのだ。
最初は『謎の巨塔』が地震と共に姿を現したから、その驚きで深部のモンスターが街道近くまで逃げてきているが、その内元に戻るだろうと推測されていた。
にもかかわらず、日にちが経っても戻ろうとしないのだ。
さらに『謎の巨塔』の調査に向かった冒険者一行が半壊滅。生き残り曰く『今まで森で見かけたことがない、尻尾が蛇で巨大な4足獣なモンスターに襲われた』と証言している。
どうも森深部に居たのよりも強いモンスターが突然、姿を現し暴れ回っているため元居た場所に戻ろうとしないようだ。
仮にその『尻尾が蛇で巨大な4足獣』が『謎の巨塔』から姿を現したとするなら……。謎のモンスターはこれだけとは限らない。
エルフ女王国により大きなダメージを与えうる力を持つモンスターが姿を現す可能性もある。
しかし依然、冒険者は1人として『謎の巨塔』まで近付くことが出来ず、まともな情報は一つとして入ってきていないのが現状だ。
――以上が、『謎の巨塔』についての最新情報である。
「嘘でしょ……あたし、ここに行かないといけないの……?」
サーシャは伯爵家養女としてのツテを使い、『謎の巨塔』についての最新情報を入手。
『ますたー』候補として疑われ、取り込み、調査。結果、シロと判明したが念のために殺したはずのライトが生きていた。
さらに『巨塔で待つ。ライト』という紙を残したのだ。
紙に書かれている文の通りなら、彼女はライトと出会うために未だ冒険者が1人も到達していない、怪しいモンスターが蠢く『謎の巨塔』まで向かわなければならない。
「森深部のモンスターは確かレベル150~200前後だったはず。そんなモンスターが1匹、2匹ならともかく大部分が戻らず、浅い部分に残っているとか。その『尻尾が蛇で巨大な4足獣』ってどれだけ高レベルのモンスターなのよ!」
サーシャ自身、レベル500前後ある。
レベル150~200前後のモンスターなら1、2匹相手なら問題無く倒せるが、当然数が多く物量で押し切ろうとするのも居るため油断はできない。
そんなモンスターが一向に森の奥へと戻らないのだ。
まともな情報も無しに『謎の巨塔』へ向かうなど自殺行為である。
「……ここで素直に現状を白状したとしたら。国家も『処分した』と判断を下した『ますたー擬き』が生きていると知ったら、他国に対するメンツ、貸しを作るためにもミカエル様達『白の騎士団』を動かすだろうし。そうすればあのヒューマンも確実に始末できるわ」
しかし、その場合、サーシャの身が破滅する可能性が高い。
再び義母や腹違いの姉妹に見下され、伯爵家養女を追い出され、借金を背負い冒険者稼業に戻らされるかもしれない。
「ウゥッ!」
想像しただけでプライドが高いサーシャには我慢できず、気分が悪くなり反射的に口元を抑える。
「いや、いやいやいや! 落ちぶれて、アイツ等に見下されて生きていくなら死んだ方がマシよ!」
エルフ種特有のプライドが邪魔をする。
寝不足で濃くなったクマ、肌は荒れ、髪からも艶が失われたサーシャは自身に言い聞かせるように誤魔化しの台詞を吐き出す。
「だいたい『ライトが生きている』って伝えても信じてもらえるか分からないじゃない。証拠はこの紙とあたしが姿を目撃しただけで、本当に『謎の巨塔』に居るかどうかさえ分からないもの。こんなあやふやな情報をミカエル様や国に伝えるなんて出来るわけないわよね! そうよ! まずあたしがちゃんと確かめないといけないわよね!」
寝不足で沈んでいた気持ちが、前向きな言葉を口にし出すとだんだんテンションが上がってくる。
サーシャはやや狂いだした瞳で、ブツブツと『謎の巨塔』へと向かう方策を打ち出す。
「とにかく残りの報酬を全額突っ込んでもいいから腕の良い冒険者を護衛兼囮として雇わないと。そして、少しでも『謎の巨塔』に関して情報を集めて――」
腐っても『奈落』近辺では名の知られたパーティー『種族の集い』の元メンバーだ。
資金、コネ、知識などを総動員して、最高の準備を整えていくのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は7話を12時に、8話を17時にアップする予定です!(本話は7話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




