3話 エルフ種、サーシャへの復讐方法は?
――時間は少しだけ遡る。
獣人種、ガルーへの復讐を終えて数日後。
僕達は『奈落』を改造し作った執務室に集まっていた。
僕は1人席に座りながら、目の前に立つLVフォーナイン(9999)の仲間達――黒髪ポニーテイルでメイド姿の『探求者メイド』のメイ、背丈が低くネコミミパーカーを羽織った『天才モンスターテイマー』アオユキ、金髪を2つに結んだゴスロリ服の『禁忌の魔女』エリー、赤い瞳に銀髪で甲冑姿の『真祖ヴァンパイア騎士』ナズナへと向き直る。
「無事、ガルーへの復讐を終えた訳だが、次の方針は――情報収集だ」
ガルー相手にあれだけ大見得を切ったが、何も考えずにいきなり世界を相手に戦争をしかけるのは愚策である。
相手にまずどれだけの戦力があるのか情報を集める必要があった。
「もちろん復讐は忘れない。しかし情報収集を怠れば残り4人への復讐、『ますたー』の情報、なぜ僕が殺されそうになったのか、そして僕の故郷を滅ぼしたのは誰なのか――最悪、何も出来ず敗北する可能性もあるからね」
僕の発言に綺麗な金髪を2つに結び流し、魔女帽子に黒いゴシックロリータ服を身につけたエリーが項垂れる。
彼女はSUR、『禁忌の魔女エリー レベル9999』。
あらゆる魔術や精霊術を極め、皆への作戦指揮・立案が任されている、副官ポジションの少女だ。
「申し訳ございませんわ。わたくしがもう少し早く『ダンジョンコア』の調整を終えていれば、ライト神様の故郷をお救いすることが出来たかもしれませんのに……」
「エリーのせいじゃないよ。むしろ『奈落』がこれほど広く、攻略に時間がかかる上、転移のカードも最初は使えないとか……。予想外の事態が多すぎたせいだから」
『種族の集い』時代、『奈落中層云々』とか口にしていたが、あんなのまだ表層もいいところだった。
ダンジョン階層で表現するなら最下層が100階。『中層云々』と口にしていた場所は10階層程度だったのだ。
しかも『奈落』を攻略した後も、転移カードによる移動は不可だった。
原因は『ダンジョンコア』にあった。
では『ダンジョンコア』とは何か?
その説明をするためにはまずこの世界の創世神話について触れなければならない。
最初、世界は何もないドロドロとした黒い渦だった。
女神様が光を当てると大陸が出来て、6つの種が誕生した。
人種、獣人種、竜人種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種だ。
黒い渦から分かれた澱が固まり、邪神を形つくる。
邪神は女神様を愛して、自身のモノにしようとしたが大地が塞がって表に出られなかった。
だから隙間である暗い穴(一般的にダンジョンの比喩とされている)から、自身の体で作り出した魔物を大地に吐き出す。
魔物を積み上げて、女神様まで手を伸ばそうと考えたのだ。
女神様の光から作られた人種、獣人種、竜人種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種は、彼女を護るために魔物と戦う。
魔物は邪魔する人種、獣人種、竜人種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種を排除しようとする。
この戦いが現在までずっと続いているのだ。
以上がこの世界を作った創世神話だ。
夜に魔物が強くなるのは、地下の邪神の力が強まるため。
地下に行けば行くほど魔物が強くなるのは、邪神の力に近付くためだと言われている。
僕は『奈落』を自分達の基地化することを大分前から考えていた。
世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』と呼ばれているだけあり、最深部まで到達するのは困難を極める。
反対に僕達は恩恵『無限ガチャ』から出る『SSR、転移』カードの力を使えば地上と地下を行き来することは難しくない。
しかし僕の案を実行するには多数の問題があった。
まず『ダンジョンコア』がどのような物なのか理解できなかった。
一般的に『ダンジョンコア』とは邪神の力の塊とも、命の一部とも言われている。
ダンジョンコアを破壊すればダンジョンは停止する。破壊した者は力を得て、邪神の力を弱めることが出来るとも考えられている。
皆と自分の力を結集し『奈落』を制圧した後、僕達の中で一番魔術に詳しい『禁忌の魔女エリー』が『奈落』のダンジョンコアを調査したが、理解できるモノではなかった。
エリー曰く、ダンジョンコアは自分達が居る星のエネルギーや魔力を吸い上げてダンジョンをなぜか形作り、鉱物や素材を引き寄せて宝箱やアイテムを作り出し、魔物も産み出し、罠を作り、多種多様な環境――ひとつの世界を作り出す。
ただ『なぜそんなことが出来るのか?』はエリー自身ですら分からなかった。魔術に詳しい彼女が分からなければ僕の配下に理解できるものは存在しない。
最終的にエリーの努力によって最低限ダンジョン維持に絞り、転移阻害をどうにか誤魔化し、ダンジョンを要塞化することに成功する。
その過程でアイテムや魔物などを産み出さなくなったため、僕の恩恵『無限ガチャ』で補うことでなんとか誤魔化しているのが現状だ。
そして約半年前、ようやく外に出られるようになって最初に故郷の確認に向かったら――滅茶苦茶に壊滅していたのである。
「僕の村を滅ぼしたのが魔物だろうが、山賊だろうが――それこそ僕が『ますたー』ではないと判明した後に念のために殺そうとした奴らなら、様々な手を使い魔物や山賊を使役して故郷まで手を伸ばした可能性は十分考えられる。例え犯人が国だったとしても、家族を手に掛け、故郷を滅ぼした対価はしっかりと払ってもらうだけだ」
『ッゥ!』
目の前に立つメイ達の顔色が悪くなる。
僕の殺気が溢れ出て、彼女達にまで影響を与えてしまっているようだ。
執務室の空気が殺気の圧力で『ギシギシ』と物理的に音をたてるように軋む。
「ふぅ……」
気持ちを落ち着かせる。
怒りに身を任せても犯人が特定できる訳ではない。
今はまだ情報を集めるしかないのだ。
「……情報収集と並行して、次の復讐する相手も考えている。次の復讐相手はエルフ種のサーシャだ」
元『種族の集い』のメンバー、エルフ種のサーシャ。人種の僕を欺き、頭が悪いと嘲笑い、そして最後にはその手で殺そうとした相手。
この発言にメイを除く他少女達が目の色を変えて名乗りを上げる。
「ライト神様! ガルーの時のように裏切りエルフを釣るなら次は是非このわたくしにお任せくださいですわ!」
「いいや、あたいがその役目をするぜ!」
「にゃー!」
皆のやる気はありがたいが、僕は首を横に振った。
「皆の気持ちは嬉しいけど、ガルーの時のようなマネはしないよ。彼の場合、復讐もあったが僕達の戦力確認、人種を除いて最も力が無い獣人国家出身、そして復讐相手5人の中で最も釣りやすい相手だったからメイをエサに釣り上げたんだ」
ガルー達の戦闘や彼の反応から、僕達の力を把握することが出来た。
例え世界が相手でも僕達の力は十分通じる手応えを感じた。
だからと言って、情報収集もせず世界に喧嘩を売るほどアホではないが。
「サーシャはガルーのように『奈落』まで連れてくるのは難しい。それに彼と同じやり方で復讐してもつまらないだろ? 彼女には是非僕と同じ絶望を味わってもらわないと」
「ライト様と同じ絶望ですか?」
メイが小首を傾げる。
彼女の長い黒髪ポニーテールが尻尾のように揺れた。
僕は彼女の疑問に、にっこり天使のような笑顔を浮かべて答える。
「地上で情報収集をおこなっている配下曰く、サーシャはそろそろ王族と血縁のある副騎士団長の婚約者と結婚式を挙げるそうなんだ。幸せ絶頂中の彼女には元パーティーメンバーとして盛大に復讐をしないといけないと思うんだよ」
僕はサーシャへの復讐を考えて、自分でも分かるほど満面の笑みを作ってしまう。
「だから彼女のためにこんな復讐方法を考えたんだ」
僕はメイ達にサーシャ用に考えた復讐案を話して聞かせる。
一通り聞き終えると、一番最初にエリーが諸手をあげて喝采を贈った。
「素晴らしい案ですわ! さすがライト神様! ですがわたくしにお任せ頂ければよりライト神様のお望みに近い結果をお約束致しますわ」
「へぇ……是非聞かせてよ」
「はい! では――」
エリーがたった今聞いた僕の案を改変し、新しい復讐計画案を提示してくる。
その内容は復讐案を踏襲しつつ、より僕の望むモノに近く、メリットが多い計画になっていた。
エリーは一通り説明を終える。
「まだ詳細は詰めておりませんが大枠はこのような感じかと。如何でしょうかライト神様?」
「素晴らしい! 素晴らしいよ! さすがエリーだ! 僕以上の案だよ!」
「いえ、ライト神様の案が在ってこそですわ」
僕が手放しで褒めると、エリーは恐縮したように一礼する。
「この計画を実行するためにはライト神様の恩恵『無限ガチャ』のお力と多数の人手を必要とします。不躾で申し訳ありませんが、ライト神様のお力をお貸し頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。この計画に必要な物資、人手、情報、他にも必要なモノがあったら無制限に使用していいよ。僕の名前で許可する」
「ありがとうございますわ!」
エリーは許可を得ると再び、深々と一礼する。
顔を上げる際、メイに向かって勝ち誇った表情を零す。
エリーがメイをライバル視しているのは知っているため、僕は気付かない振りをして流した。
「…………」
メイ自身も何も言わない。
同じく気付いたアオユキも『にゃ~』と小声を漏らすだけだ。
唯一、彼女の態度に気付かないナズナは、
「この計画が上手くいけばあたいの出番もありそうだな! くぅ~燃えてきたぜ! エリー! ちゃちゃっと準備してくれよな!」
「分かっていますわ、オチビ! 貴女に言われずともライト神様のため早急に、完璧に準備してみせますわ!」
空気が悪くなりそうになったがナズナの態度が雰囲気を変える。
彼女は色々考え無しだが、『ムードメーカーとして非常に重要な存在だ』と僕は改めて認識した。
軽く咳払いしてから皆の注目を集める。
「僕はそっちの準備が整うまで以前から案として出していた情報収集のひとつ『冒険者計画』を実行に移すよ。エリーは『サーシャ復讐計画』に全力で当たってくれ。もし手を貸して欲しかったり、問題が起きて相談が必要になったら遠慮無く言ってくれ。そっちの方が重要度は高いからね」
「畏まりましたわ」
「ライト様、冒険者として再度ギルド登録をするのなら、是非私をお側に加えて頂ければと」
エリーに対して指示を終えると、メイがすぐさま訴えてきた。
彼女に刺激され他2人も声をあげる。
「にゃ!」
「メイやアオユキよりあたいの方が強いぞ! だからご主人様! あたいを相棒に選んでくれ!」
「3人とも気持ちは嬉しいけど、エリーが作戦にかかりっきりになるからメイはダンジョン管理を頼む。ガルー達を殺して捕らえたから、捜索に来る部隊が出るはずだ。まだ『奈落』に注目が集まるのは避けたいから捜索者は半分は殺して、半分は帰してくれ」
「畏まりました。我がメイド道に懸けてライト様が望む最高最善をお約束いたします」
この説明だけでメイは理解する。
ガルー達捜索隊の半分を残酷に殺し、もう半分も痛い目に遭わせて追い返すことで当分の間は『世界最大最強最悪ダンジョン「奈落』はやはり危険である』とカナリアの如く宣伝させる必要があるのだ。
「アオユキは引き続き『奈落』周辺の原生林調査を頼む。下手に危険な者や魔物なんかが居ても困るからね」
「にゃ~」
アオユキはいつもの猫耳パーカーを揺らし、了承の返事をする。
「ナズナは――」
彼女は『どんな仕事を任せられるんだろう』と輝く大きな瞳で見つめてくる。
ナズナは近接戦闘最強で、魔術攻撃を防ぐ最高位マジックアイテムを装備させれば僕達の中で一番強い。
ただ冒険者として連れて行くには強すぎるのと臨機応変な状況が求められる現場には向かない。
ダンジョンのムードメーカーとしては非常に買っているのだが、人には向き不向きというものがある。
しかしここで『何も無し』と言うわけにもいかなかった。
「ナズナは……僕がいない間のダンジョンを護って欲しい。『奈落』最深部まで到達する者達は居ないと思うけど、念のため用心しておくに越したことはないからね」
「了解だ! 任せてくれご主人様! あたいがみんなを護ってやるぜ!」
ナズナが僕の指示に元気よく答える。
僕の冒険者仲間は盾役として『UR、レベル5000 黄金の騎士 ゴールド』を。
この世界で名前を上げようとするならダンジョンに潜るのが一番早い。
故に斥候、罠解除、敵感知などに長けた『UR、レベル5000 アサシンブレイド ネムム』を連れて行くのが妥当だろう。
こうして今後の方針が決定されたのだった。
本作『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日は3話を昼(12時)に、4話を17時にアップする予定です(本話は3話)。
是非引き続き夕方アップ分の方もチェックして頂ければ幸いです。
また本編中にもありましたが、ガルーと同じように倒してもつまらないですよね?
エルフ種、サーシャに対してガルーとはまた違った方法で盛大に復讐する予定です。
なのでその復讐方法を予想しつつ、彼女がどう追いつめられていくのかを是非お楽しみに!(まだ少し先ですが)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




