6話 白の騎士団2
今日は5話を昼12時、6話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は6話)。
「ニア、キア。片づけろ」
「「はーい、団長」」
買ってきた人種の奴隷をいたぶり五月蠅くしたことを怒られた双子は、渋々死体の片づけをする。
幹に縛り付けていた縄を切り、2人が死体を担ぎ特別宿舎の裏手へと向かう。
命令だからと言って何の躊躇いも無く、一瞬で人種男性奴隷の頭を潰し殺したシャープハットにソーシャが小刻みに震える。
そんな彼女に気付きシャープハットは慌ててフォローした。
「ごめんな、ソーシャちゃん、怖がらせて。でも自分ッチも騎士団団員として団長には逆らえなくてさ~。その辺、理解してくれると嬉しいっすよ」
「は、はい、だ、大丈夫です」
全然大丈夫ではないが、彼女からすればそう言うしかない。
完全に怯えているのを理解したシャープハットは微苦笑を漏らしながら、彼女がこの場を立ち去るための方便を口にする。
「そろそろお茶のお代わりが欲しいからお願いしてもいいっすか? それが終わったら宿舎の部屋に戻ってていいっすからね」
「は、はい! それでは失礼します!」
この場から離脱できる理由を与えられ、ソーシャは膝から下りると足早に特別宿舎の台所へと向かう。
ソーシャが十分席を離れたタイミングで、ハーディが漏らす。
「……カイトは態度が悪く、品性に欠け、レベルが伸びきった三流だが、一時は『白の騎士団』に入団していた団員だ。他種に後れを取るような恥辱は避けたい。我々の手で始末をつけるぞ。これ以上、女王陛下のお顔に泥を塗るようなマネはさせん」
「うーす。しかしカイトも最初はレベルがガンガン伸びて『将来の団長候補』とか持ち上げられていたのに、結局すぐ成長限界を迎えちゃいましたっすからね。団員採用試験はちゃんとして欲しいっすよ。天下の『白の騎士団』の看板が安くなるっすから」
「……シャープハットは狙わないのか?」
「狙うって……団長の席をっすか? ははははは! ないない、ありえないっすよ」
シャープハットは可笑しそうに笑い、手を振り答える。
「射撃手として撃ち落とせる獲物は逃さないっすけど。撃ち落とせない獲物はわざわざ狙わないっすよ。副団長は未だに団長の席を狙っているみたいっすけどね」
一通り笑った後、彼は手にある冷めたお茶に口をつけた。
「そりゃ若気の至りで、入団当初は目指しましたっすよ、天辺ってやつを。『ますたー』の血を引き血に目覚めた『さぶますたー』なら嗜み、はしかのようなものっすから」
エルフ種は他5種の中で最も『ますたー』の血を引き込んだ種族である。
『ますたー』の血を引くからと言って、必ずしも強くなる訳ではない。
時代が進み血が薄まれば、当然弱まる。
しかし時折、『血に目覚める』者達が出る。隔世遺伝で『ますたー』の血が濃く出る者達が出るのだ。
それをエルフ種達は『さぶますたー』と呼ぶ。
『さぶますたー』に目覚めると、レベルは上がりやすくなり、一般的に言われているエルフ種の成長限界レベルを楽々突破し、どこまでも成長し続けると考えられている。
実際は『本人の資質、目覚めた血の濃さによってレベル上限が決まっているのでは?』と考えられていた。
証明するようにシャープハットのレベル2000前後。
副団長ミカエルはレベル2500前後。
ニア、キア兄弟はレベル1800前後で止まってしまっている。
もちろん彼らのレベルは一般的には公表されていない。機密扱いである。
カイトはこの事実を受け入れられず、宝剣『グランディウス』を盗み出し姿を眩ませたわけだが……。
ちなみにおおよそ最大値とされるのは人種でレベル100、獣人種で200~300、ドワーフ種が500、魔人種が300~1000、エルフ種と竜人種が1000だ。
あくまで一般的に言われている上限だ。それに誰でも到達できるものではない。
日本で例えるなら『オリンピック選手が100mを9秒台で走れる。だから、人類なら誰でも訓練すれば9秒台で走れる』とは言えない、ということだ。
いくら同じ人間が100mを9秒台で走れても、一般人が訓練して同じように走れる訳ではない。
さらにあくまでこれは一般的に言われている上限であり、絶対ではない。
『ますたー』の血を引く『さぶますたー』である『白の騎士団』団員達は例外――いや、正直『異常な存在』と断言しても良いレベルである。
『さぶますたー』でこれなのだ。
『ますたー』がどれだけ規格外だったのか、想像も付かない。
エルフ女王国最強の騎士団『白の騎士団』の入団はエルフ種男子の夢だ。
入団条件、資格は公表されていない。
流石に『さぶますたー』に目覚めるのが条件とは世間一般に公表できない。あくまで『ますたー』、『さぶますたー』などは一部しか知らない秘匿情報だ。
そういった意味で、『白の騎士団』は軍隊というより、ごく一部の選ばれた者しか入れない特殊部隊的な側面の方が強いかもしれない。
シャープハットは『ますたー』の血に目覚め、『さぶますたー』として白の騎士団に入団した。
最初こそ本人の言葉通り、上を夢見たが、
「団長の――『静かなるハーディー』の実力を見ちゃったら無理っすよ。こんな化け物の後釜狙うとか頭可笑しいっすわ」
シャープハットはケラケラと笑い断言する。
周囲から『天才』、『将来の団長候補』ともて囃された果てに辿り着くうちの1つ、『限界を知り今を楽しむ』だ。
カイトはプライドが許さず暴走し、宝剣を盗み出して国を飛び出た。
副団長ミカエルは下について淡々とハーディーに対して下剋上を狙っている。
シャープハットはさっさと見切りをつけて人生を謳歌している。
言ってしまえばそれだけの違いでしかない。
話に区切りが付くと、人種であるソーシャがお茶を淹れて戻ってくる。
テーブルに置くと彼女はそそくさと特別宿舎、シャープハットの部屋へと戻っていく。
シャープハットはそんな彼女の背に手を振って見送る。
「……ニア、キアではないがヒューマンを恋人にするのは趣味が良くない。血が汚れる」
ハーディー的には、折角『ますたー』の血を引き、目覚めて『さぶますたー』になったのにその力を薄めるようなマネをすることに感心しなかった。
ここ数千年、『ますたー』は現れず、血を得ることはできていない。そのため『さぶますたー』の数は本当に少ない。
ハーディー達を含めてもエルフ女王国が把握しているだけで20人居ないのだ。
なのに人種を愛でて折角の才能、血を薄めるようなマネをするシャープハットに思わず苦言を呈する。
彼は団長の心配に気軽に笑う。
「そうっすか? 見てくれは悪いけど、選べば我慢できる愛嬌のある子も居ますよ。そして自分が『エルフ種男に選ばれた』と舞い上がった姿を見るのが面白いんじゃないっすか。しかも捨てられないように必死に頑張っちゃうのが、爆笑できるぐらい笑えるんっすよ。第一、団長が心配するようなヒューマンとの間に子供を作って血を薄めるようなことはないですって。これはあくまで趣味、ただの趣味っすよ。あーでも最近、あの子にも飽きたからそろそろ処分っすかね。最後に街の外に連れ出して獲物に見立てて逃げるのを撃ち殺すのが面白いんすよ。『なんで裏切ったの!?』って顔をしながら命乞いしつつ逃げる姿が爆笑もんっすよ。団長も折角だから今度ご一緒しませんか? マジで楽しいっすよ」
「……いい。カイト殺しの勅命は近いだろう。それまでに済ませろ」
「へいへいっす」
ハーディーは興味なさげに拒否する。
シャープハットは無理に食い下がらず、すぐに引いた。
しかし結局、『カイト討伐命令』は見送られた。
深夜、大きな地震が起きて建物の一部が崩れる。
後日、エルフ女王国首都からそう遠く離れていない原生森林の奥に『謎の巨塔』が姿を現したからだ。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は5話を12時に、6話を17時にアップしております!(本話は6話です)
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