表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/572

2話 追いついた過去

今日は1話を昼12時、2話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は2話)。

 雇い主であるサーシャの声に御者が答える。


「商会の前で荷物を積んでいた人種(ヒューマン)奴隷が崩したせいで、荷物が街道にも飛び散ってしまったんで止めたんですよ」

「うわぁ、最悪……」


 婚約者である『白の騎士団』の副団長ミカエルとの逢瀬の後、サーシャは馬車に乗って帰り道を急いでいた。そこで起きたトラブル。


 御者の返事を聞いたサーシャが窓から外を覗くと、確かに商会前に停められていた馬車の積み荷が崩れ、街道まで落ちてしまっていた。

 そのせいで進めず、馬車を停めるしかなかったのだ。


 積荷を崩した人種(ヒューマン)奴隷が商会の関係者に鞭を打たれる。


「巫山戯るな! 役立たずのヒューマン(劣等種)が! さっさと積荷も元に戻せ!」

「お、お許しを、お許しを……っ。ずっと働いているせいで疲れが溜まって……もう少しだけ休ませてくだせぇ……」

「喋る家畜の分際で、休みを欲するとは贅沢な! いいから動け!」


 店員が激昂し、倒れた人種(ヒューマン)奴隷に鞭を打ち続ける。

 それを見つめるエルフ種達は誰も『可哀相』とは考えない。


 エルフ種にとって人種(ヒューマン)は割と安価に購入できる奴隷である。

 故に先程の店員の発言通り『喋る家畜』という感覚に近い。

 人種(ヒューマン)王国の9割が農民だ。よって外貨稼ぎの殆どが農作物で、買い叩かれやすい。そのため、他に養いきれない子供達や、何らかの理由で奴隷落ちした大人達までもが人種(ヒューマン)王国から売られてくるのだ。


 そのため一般的なエルフ種は6種の中で一番能力が低い人種(ヒューマン)を下に見る傾向が強い。


 メイドも呆れたように溜息を漏らす。


「まったくこれだからヒューマン(劣等種)は……。荷物を運び積み上げることも出来ないなんて……」

「その上、醜くて、汚くて……本当に嫌になるわ」


 彼女の意見にサーシャも同意し胸中で考える。


(もしライトが本物の『ますたー』だったらあたしが体を使ってでも引き留めないといけなかったのよね。愚図で下等な人種に体を許さないといけないとか! うぅぅ……考えただけで気持ち悪い。本当にライトが偽者で、死んでくれてよかったわ)


 お陰で美しい王家の血を引き、白の騎士団副団長の肩書きを持つミカエルと婚約することが出来たのだ。

 ライトが偽者で処分することが出来たから、こうして自分は幸せを享受することが出来るのだ。


(その点だけはお礼を言いたいけど、ね。ガルーなんかは最後まで『ますたーとは何か?』なんて考えていたみたいだけど。あいつは馬鹿よね、どうしてそういう無意味なことに頭を使うのかしら。あたし自身が幸せになることが一番大切なのに。本当に意味が分からないわ)


 過去を思い出し、獣人ウルフ種の次期トップ最右翼に選ばれた元メンバーの顔を思い出す。


(今頃は、『種族の集い』時代と変わらず酒と女にうつつを抜かしているんでしょうね)


 その姿が簡単に想像がついてしまい思わず苦笑を漏らした。

 約3年前の過去を思い出していると、視界の端に懐かしいモノが映る。

 ソレは裏路地に通じる建物の陰にひっそりと立っていた。

 サーシャの瞳が反射的にソレを追う。


(黒髪に、背の低い子供、人種の少年かしらまるで――ッゥ!?)


 サーシャは『ガンッ』と鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。


「崩れた荷物を避けるため大きく馬車を動かすので、しばらくは立ち上がらず座っていてくださ――お嬢様!?」

「お、お嬢様!?」


 サーシャはメイド、御者の声などを無視して馬車から飛び出す。

 ミカエルとの茶会用にあつらえた気合を入れたドレスのスカートを摘み反対車線の裏路地目掛けて駆け出す。


 途中、反対側方向から来た馬車が悲鳴を上げるが気にせず駆ける。

 背後から『お嬢様、危ない』とメイドの悲鳴じみた声が聞こえるが無視。

 彼女はドレス姿のまま路地裏へと飛び込む。


 サーシャは青い顔でブツブツと繰り返し呟く。


「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘よ、嘘よ! あれはライトじゃない! きっとあたしの見間違いよッ!」


 口と感情は否定するが、裏路地に通じる建物の陰にひっそりと立っていた人影を追わずにはいられなかった。

 先程まで黒髪人種(ヒューマン)少年が立っていた場所には誰もいなくなっていた。


 斥候として鍛えた技術、耳が路地裏を移動する小さな足音を捉える。

 その音に引っ張られるようにサーシャは追いかけた。

 高級ドレス姿だが、レベル500を突破しているため、一般男性以上の脚力で後を追う。


 角を曲がると――足音は夢か、幻、幻聴だったかのように消えてしまう。


「い、行き止まり……どこにも姿を隠す場所なんてないわよね……」


 サーシャが長年鍛え、『種族の集い』の斥候職として培った技術を遺憾なく発揮して辺りを見渡し、気配を探る。

 元々隠れるスペースどころか、荷物一つ捨てられていない行き止まりのため、一般人でさえ一目見れば誰も隠れていないことなど理解できる。


 きょろきょろと見回し、誰も居ないことを確認すると、サーシャはゆっくりと冷静さを取り戻していく。


「あ、あれはあたしの勘違いだった? ……そ、そうよね、ヒューマン(劣等種)でレベル15のライトが『奈落』を無事に抜け出すなんてありえないし、あれからもう3年近く経っているのよ。普通、もっと大きくなっているわよね」


 冷静に考えれば、よしんばライトが無事だったとしても約3年経っているのだ。

 人種(ヒューマン)の男子が12歳から15歳になったら、以前のままの背丈で居続けることなどありえない。

 もっと背丈が伸び、幼さが抜け、筋肉も付き大人の顔立ち、雰囲気になるだろう。


「普通に考えれば三年前の12歳のままなんてありえないじゃない……。ミカエル様と楽しくお話ししたのと、ガルー達のことを思い出したせいでヒューマン(劣等種)の子供をライトと見間違えたみたいね」


 サーシャは自分が納得できる理屈を立てる。

 彼女から逃げるように裏路地を駆けた足音は、都合が悪く、理屈に合わないため無意識に考えないようにした。

 しかし――彼女は壁に貼られた紙に気付く。


 エルフ女王国首都の建物が白を基調にしているのと、サーシャが『人種(ヒューマン)の子供』を探していたため、貼られている白い紙の存在に気付くのに遅れてしまったのだ。

 彼女は震える手で口元を押さえ、ゆっくりと行き止まりの奥。

 壁に貼られている紙に書かれた文章を読む。


『巨塔で待つ。ライト』


「いやぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁッ!」


 この日、過去がサーシャに追いついた。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!

今日は2章1話を12時に、2話を17時にアップしております!(本話は2話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒューマンに対する他種の考え方がよく分かりました。 [一言] 最後の一文、痺れた。美しい終わり方。一言で、サーシャの罪が表されている。すごい。
[良い点]  最後の一文が痺れますね  四ツ谷怪談的なおどろおどろしいカッコよさがあります
[一言] 過去がサーシャに追いついた………かっこぇぇぇぇぇえぇえええええ 本日も楽しく読ませていただきました!また明日も楽しみにしております!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ