29話 次の復讐へ
今日は29話を昼12時、番外編1話を17時にアップする予定です(本話は29話)。
『奈落』、執務室へ一時帰還する。
ミヤとエリオの挨拶が終わったら、カイトから得た情報の途中経過を聞くため戻ると連絡しておいたのだ。
事前連絡をしていたため、執務室にはメイとエリーの2人が既に待ち構えていた。
2人には『どんな手段を使っても構わない』から、情報を得るように指示を出している。故に2人が執務室に待機していたのだ。
僕の姿を確認すると、2人が挨拶をする。
「お忙しい中、お時間を作って頂きありがとうございます。主君のお時間を頂戴できるとは光栄の至り。我がメイド道に悔いはありません」
「わたくしもライト神様とお会いできるのを楽しみにしておりましたわ! もうこの日を記念日にしたいぐらいに!」
数日ぶりに顔を合わせたせいか2人のテンションが高い。
僕は微苦笑を漏らしつつ、仮面を外し執務机に置き、椅子へと体を預ける。
「あははは、僕も久しぶりに2人に会えて嬉しいよ。それでカイトの方はどうなっているんだい?」
「もちろん万事問題ありませんわ! わたくしの禁術で頭を隅々まで、本人が忘れている記憶でさえ総ざらい致しましたから!」
「また真偽判明の魔術や詰問による確認作業をおこないました。エリーが抜き取った記憶と照らし合わせても齟齬はないかと。こちらが資料文書になります」
エリーが形の良い胸を張り、自身の得意な魔術技量を誇る。
一方、メイはというとメイドとして最善のサポートをするため丁寧な資料文書を作製。綺麗な指先で僕の机の前に並べて置く。
途中経過を聞くつもりが、この短時間にほぼ全ての情報を絞り出したようだ。
僕は2人にお礼を告げつつ、資料文書を手に取る。
中身は綺麗にかつ、僕にも理解できるほど分かり易く書かれていた。
資料文書を読み込むうちに僕の眉間の皺が深くなる。
「……これは本当のことなのか?」
「はい。エリーの禁術、真偽判明の魔術を使用した上でまとめた資料文書になります」
「もちろん偉大なるライト神様の恩恵『無限ガチャ』カードに比べればわたくしの禁術、魔術など塵芥同然ですわ。ですが、その上で資料はほぼ間違いないかと思いますわ」
『奈落』地下で内政、戦略などの頭脳労働を担当するメイ、エリーの2人が断言するなら、この資料に間違いはないのだろう。
しかし――。
「『さぶますたー』とは、『ますたー』の血を引く子孫で、強い力や魔力が高かったり、レベルが上がりやすい特徴がある。これらは予想通りだね」
世界各国が捜索するほどの存在が『ますたー』なのだ。
その子孫である『さぶますたー』が凡人なんてありえない。
だからカイトは、自身が『レベル1500程度で止まるはずがない』と信じ、将来英雄、勇者になると騒いで国外に飛び出し、殺戮を繰り返していたのだ。
「でも次にある、各国が『ますたー』を警戒している理由が『野放しにした場合、世界が滅ぶ可能性があるため』って……よく意味が分からないな。国が滅ぶなら分かるが、世界が滅ぶというのはちょっと」
メイ、エリーを疑う訳ではないが、にわかには信じられない話だ。
僕達の予想では『ますたー』が強い力を持つため、各国で軍事バランスを取る目的で探し、懐柔しているものだと考えていた。
『野放しにした場合、世界が滅ぶ可能性があるため』というのはちょっと予想外である。
体制を転覆し、自らの王国を創るというのなら分かるが、種族全てを根絶やしにする必要性が果たして『ますたー』にあるのだろうか。
ただ単に大げさに表現しているだけなのだろうか?
僕は思わず考え込んでしまう。
「いくら『ますたー』が強くても所詮は個人。個人が世界を滅ぼす、つまりあらゆる命を根絶やしにするということがあり得るのだろうか? 僕達のようなレベル9999をどれだけの数揃えられるかで話は変わってくるのかもしれないけれど……。世界を支配するならともかく、世界が滅亡するなんてありえるのかな?」
元貧農の次男の頭では答えなど思い付かず2人に話しかける。
「メイ、エリーはこの情報についてどう考えているの?」
「『野放しにした場合、世界が滅ぶ可能性があるため』は、エリーが禁術で記憶を漁った際、カイト本人も忘れていたモノでした。エルフ女王国、最上位にいる白の騎士団団長が漏らした呟きです。なので現時点では情報が不足し、判断は付きかねるかと」
「わたくしも悔しいですが、現状は情報不足でメイさんと同意見ですわ。気になったのでカイトの脳味噌の記憶を改めて掘り起こしましたが、他に有益な情報はありませんでしたの」
エリーが何度も禁術で記憶を探して見つからないのなら、これ以上調査しても糸くずほどの情報も得られないだろう。
僕は資料文書を机に置き、背もたれに体を預ける。
「……カイトは今どうなっている?」
「地下の独房に入れておりますわ。このように」
エリーが指を鳴らすと、空中に独房の様子が映る。
冷たい床にカイトだったモノが映っていた。
死んではいない。
ちゃんと意識もある。
だが激痛を伴う禁術をかけられた後に回復魔術をかけられたり等で目はうつろになり、口を開き小さく何事かをぶつぶつと呟いている。
僕はその様子を確認し、小さく頷く。
そして、エリーとメイに命令を下す。
「情報は手に入れた。これ以上は望めないだろう。なら――言っていたことを守らなきゃね。彼にはエリオとミヤを襲った罪、そしてギムラとワーディを含む多くの人種を殺戮した罪を償わせる。人種大量殺人の罪を以って、カイトの命を奪え。今すぐに」
「はっ。我がメイド道に懸けて」
「畏まりましたわ!」
不愉快な存在だが、カイトから非常に有益な情報も得られたのも事実だ。
十分苦しんだだろうから、これ以上彼は必要ない。
エリーが指を鳴らすと、映像が消えていく。
そしてその消え行く景色の中で――カイトの命は失われていった。
「……さて、他にも得られた情報が色々ある、か。これらも吟味していかないとね」
今回の一件で得られた情報は『ますたー』関連だけではない。エルフ女王国内部の情報など他にも多々ある。
それらの書類に目を通そうとすると、弟に激甘な姉のようなエリーが笑顔で一歩前に出る。
「ライト神様、他の情報と言えば……お耳に入れたいご報告があるのですわ」
「報告? 折角だから、話してくれ」
「はいですわ! 以前、ライト神様からご命令頂いた『エルフ種サーシャ復讐計画』の準備が無事に整いましたですの!」
「!? 本当かい、エリー!」
「はい! 後はライト神様のお声かけ一つでいつでも始められますわ!」
『さらに』と彼女は残酷に笑う。
「ライト神様を裏切った元パーティメンバーのエルフ種サーシャの婚約者が、カイトの所属していた『白の騎士団』副団長ですの。『ますたー』の血を引く『さぶますたー』達が集まった騎士団らしいですわ。情報不足を補うため、復讐計画に合わせて彼らについても確保させて頂きますわ」
「ああ! さすがエリーだ! それは良いアイデアだね。では早速、計画を実行に移して欲しい」
「畏まりましたわ、ライト神様」
先程まで少しだけ沈んでいた気持ちが『エルフ種サーシャにようやく復讐できる』と聞かされて、一気に浮き上がる。
高くなったテンションのままエリーに命令を下すと、彼女は片側のスカートを摘み優雅に一礼した。
態度は一見すると落ち着いているように見えるが、実際は命令を受けて体中を喜びで震わせているのが丸わかりである。
まるで信奉する神の祝福を一心に浴びたような幸福感がエリーの全身を覆っているようだった。
僕はそんな彼女の態度に微苦笑を漏らし、改めて心の底から笑みを漏らす。
「ガルーに続いて2人目、サーシャに復讐が出来るのか……。あぁ、彼女がどんな絶望的な表情でのたうち回って命乞いをするのか。今からとっても楽しみだよ」
僕は来たるべき未来を幻視する。
カイトの一件が終わり。僕は、こうして次の復讐へと進むこととなったのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
1章がこれで終わり区切りがつきました!
というわけで1章が終わってすぐ2章アップだと、構成的に性急になりすぎるので一旦一呼吸で間話を入れる予定です。
具体的には今日の17時に番外編1話を。
明日の2話アップに番外編2話、番外編3話を入れさせて頂き、明後日の5月3日から2章サーシャ復讐編を開始させて頂ければと思います。当然1日2話アップです!
ちなみに今日も2話を連続でアップする予定です。
今日は29話を12時に、番外編1話を17時にアップしますので、是非チェックして頂ければ嬉しいです!(本話は29話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




