24話 本物の暗殺者?
ネムムが嘆く。
「そ、そんな……。どうして、こんな事って……ッ!」
『奈落』最下層、訓練場。
ネムムの慟哭が訓練場一杯に響く。
彼女は涙目で目の前の者達に向けて叫ぶ。
「き、貴様ら! 暗殺は遊びではないのだぞ!? なのにどうして真面目に対象を殺そうとしない! 何が世界最高の暗殺結社だ! これではゴールドの言う通り『世界最高のお笑い集団』じゃないか!?」
ネムムの目の前にはマッドピエロに加えて、他4名が椅子に座らされエリーの戦略級魔術、茨の束縛によって拘束されていた。
彼、彼女達は地上では『世界最高の暗殺結社』と呼ばれる『処刑人』のトップ5『死剣』達だ。
その全員が何も出来ず僕達に捕まり、『奈落』最下層、訓練場へと連行されたのだ。
ネムムの怒りは収まらず叫ぶ。
「おい、マッドピエロ! 貴様は無駄が多過ぎる! 毒に頼り過ぎだ! もう少し技術を磨け技術を!」
「は、はぃ……」
茨の束縛で拘束され身動きが取れないマッドピエロは、七色の髪を切られ丸坊主にされ、衣服も着替えさせられていた。
毒が残っていて僕達以外の『奈落』住人に影響が出ないようにするための配慮である。
「次! そこのカエルのようなヤツ! 貴様は腹に溜めた消化液で相手を融かすのだな?」
「はい、そうです……」
「他にもっと効率の良い方法があるだろう!? あるだろ! なんで消化液! あと逆さから喋るのはどうした!」
「あ、あれは他の彼らと差別化して、ボスの印象に残るためだったので……。頑張って喋ってました」
「頑張る箇所が違うでしょ!? もっと暗殺者なら頑張るところあるでしょぉ!」
ネムムはさらに隣りに座る女暗殺者に視線を向ける。
「あとオマエ! 自分の容姿を武器に男性に近付き、遅効性の毒で暗殺するのはいい。この中で一番暗殺者っぽかった」
「あ、ありがとうございます」
魔人種サキュバスらしい女性が、媚びた笑顔でお礼を告げる。
茨の束縛で拘束されて身動き出来ない以上、最善の行動と言えた。
ネムムが限界まで目を開き指摘する。
「だが昼間、自分達がお茶している時に、割って入るのは違うだろ! 衣服も娼婦の恰好のままだし! もっと空気を読みなさいよ! 空気を! ダーク様の見た目は12歳前後なのに、そんな恰好で昼間近付くとか……もっと頭を使いなさい!」
「ひぃいぃ!」
「次!」
女暗殺者が悲鳴を上げ、ネムムはこの中で一番ガタイが良い男性暗殺者へと顔を向ける。
「オマエが暗殺者として一番駄目だ! なんで昼間、正面から殺しに来るの!? 暗殺者じゃないの!?」
「い、い、今までこれで上手くいっていたので……」
「上手くいっていたからじゃないでしょ! 暗殺者! 貴方は暗殺者でしょ!? 正面突破過ぎるでしょ!? この馬鹿たれ! 暗殺者が手を抜くな!」
ネムムが全力で指摘するが、『種族の集い』時代、耳にした話で、『正面から対象を殺しにくる有名な暗殺者』が存在した。
当然、彼ではない。
過去、実際に存在した人物のことだ。
だから一概に『正面から乗り込み殺しにくる暗殺者』は存在しない訳ではないが……。
ネムムの美学的には許されないのだろう。
彼女が最後の『死剣』へと向き直る。
「オマエはなぜか知らないうちに倒されていた! 印象を薄くするのも暗殺技術の一つだが印象に残らな過ぎて何も言えないじゃない!」
「す……すみ、ません……」
ボロボロの黒いマントで顔と体を包み込んでいた彼は、ネムムの指摘通り『気付いたら倒されていた』のだ。
僕、ネムム、ゴールド、全員どうやって倒したのか分からない。
ある意味、僕達を一番上手く欺くことが出来たのは彼なのかもしれない。結果にはまったく繋がっていないけど……。
一通り指摘を終え頭を抱えるネムムに、ゴールドが彼女の声マネをしつつ台詞を再現する。
「『地上に出たら以後お気を付けてください。暗躍、暗殺、策略を用いてダーク様のお命を狙ってくるでしょう。相手のレベルが下とはいえ油断しないでください。その油断が致命的なモノになる可能性があります――「本物」とはそういうものですから』」
「……ッゥ!」
ゴールドの声マネ台詞を耳にして、ネムムが耳を赤く染める。
反対にゴールドは構わずネムムのマネを続けて、彼女をからかう。
「ぶふッ、くふふ……『本物の暗殺者が束になって襲いかかってきたとしてもダーク様の御身は自分が絶対に守らせて頂きます、キリッ』って……ぶふあははははははは!」
「ああぁぁぁぁああぁぁッ! ゴーーーールドーーーーーー!!!」
ネムムは羞恥心から来る怒りでナイフを抜き、柄部分でゴールドをガンガン叩き出す。
彼はネムムの攻撃を受けつつ、腹を抱えて笑い続けた。
「ネムムよ! これが笑わずにいられるか! オマエがあれだけ脅していたから『本物の暗殺者』に我輩も気を引き締めていたのに! 実際に姿を現したのがお笑い芸人共では、オマエのキメ顔と台詞の落差で笑ってしまうのは当然だろう!」
「ゴールド、あまりネムムをからかうのは駄目だよ」
「……『全身全霊を持ってダーク様をこのネムムが本物の暗殺者の薄汚い刃からお守り致します、キリッ!』」
「んぅふぅ!」
ゴールドのからかいを注意すると、彼が僕の方を向いてネムムの声マネで、以前の台詞を口にする。
ゴールドがネムムのマネをしているギャップと、台詞と現状の落差を思い出し、僕も思わず噴き出しそうになってしまう。
僕が噴き出しそうになってしまうのを見て、羞恥心が限界を超えたのか、ネムムがナイフを手にしたまま顔を押さえて、その場に蹲る。
耳と言わず褐色の肌が全身赤くなりそうな勢いだった。
さすがに申し訳なくて慰めの言葉をかける。
「ご、ごめんねネムム。別にネムムの忠誠を笑った訳じゃないから」
「にゃぁぁぁー……!」
恥ずかしすぎたのか、ネムムがアオユキのように鳴く。
まるで過去『自分は特別だ』と思って、怪しげな行動をして、大人になってその時の自分を思いだして悶える人のようだった。
(これは暫くネムムの感情が落ち着くまで触れてあげないほうがいいのかもしれないな……)
僕はその場にいる皆に、視線だけで釘を刺しつつ、意識を『死剣』へと向ける。
「こほん、それで彼ら『死剣』はどうしようか?」
『!?』
僕の言葉に『死剣』全員の肩が震える。
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