20話 アオユキの怒り
『奈落』最下層執務室で僕は報告書を読んでいた。
その報告書の内容は対ディアブロ作戦についての報告書だ。
「どうやらかなり上手く推移しているようだね」
「はい、現地でメラ、モヒカン達が頑張っているお陰ですね」
報告書を持ってきたメイが、僕の発言に微笑みを浮かべ同意する。
――人種王国の王座を得たリリスの様子を窺いに行くと、魔人国から一方的な通達を受けた。その内容は本当に酷く、直接的な表現を避けてぼかしてはいるが『人種王国領土に入り麦の略奪、人種奴隷狩り、村の焼き討ち、見せしめによる強奪、虐殺等をおこなう』と宣言してきたのだ。
魔人国の兵士を退ける戦力を持たない人種王国女王リリスが、僕達に防衛を依頼。
僕はその依頼を利用してディアブロに対して嫌がらせ&破滅へと繋がる圧力をかける案を思い付いたのだ。
その内容は『ディアブロの関係者を厚遇し、魔人国に帰す。代わりに村を襲うという罪を犯した他の者は、見せしめとしてその場で処刑する』というものだ。
メラやモヒカン達の頑張りのお陰で、ディアブロは僕の作戦通り、寝たきりの国王に代わり采配を振るっているヴォロス第一王子に疑惑を持たれて、激しい言葉を浴びせられているとか。
完全にこちらの狙い通りに事が運んでいるため、僕は報告書を読む途中で笑い声をあげてしまったほどだ。
唯一不満があるとするなら、ディアブロが上から詰られ、見苦しく言い訳をしている姿をこの目で直接見られないぐらいだ。
「『SSR 千里眼』カードでその時の現場を見られたらよかったけど、僕もそこまで暇じゃないし、距離があるせいか『奈落』最下層からじゃ彼の姿を見ることが出来ないんだよな……」
不満点はゼロではないが、概ね満足な結果が出た。
一通り堪能した後、僕は書類を置いて、次の話題に移る。
「ごめんねアオユキ、待たせちゃって」
「――否。主が待てと仰るなら配下は永遠に待つが勤め。問題ありません」
「アオユキを含めた皆の忠誠を僕は嬉しく思うよ」
あまりに高すぎる忠誠心に微苦笑を漏らしそうになる。別にそこまで極端でなくてもいいのに。
とはいえ水を差す訳にもいかず無難な返答をする。
また『報告があるから』と執務室に顔を出したアオユキは珍しく、ずっと緊迫した状態だった。
僕の前だからと抑えているが、内側に今にでも溢れ出そうな殺気を滾らせている。それでも抑えきれない殺気が漏れ出て、空気が物理的に重く触れたら切れそうなほど鋭くなっている気がした。
レベル9999のアオユキが殺気を漏らせば、こうなってしかたない。
(しかしこれだけ怒っているアオユキを見るのも珍しいな。一体何があったんだろう?)
僕は内心で首を捻りつつ彼女に問う。
「報告があるらしいけど……」
「――是」
アオユキが同意の声をあげると、早速報告を口にする。
その内容は――緊急でアオユキのテイムモンスター経由で連絡が入った。
どうやら一部の者達が『黒の道化師』パーティー、特に『ダーク』について調べているらしい。
冒険者ギルド内部に食い込んでいる僕の配下からの報告だ。
単純に『黒の道化師』パーティーへクエスト依頼をするための情報集めなら報告の必要は無かったが……どうも探りを入れている者達は真っ当な人物ではないようだ。
正規の手順で冒険者ギルドに情報を求めるだけではなく、非合法な方法でも情報を集めているとか。
その手口から十中八九、僕『ダーク』の暗殺を目的としての情報収集だと推測できた。
なぜ『暗殺を目的とした情報収集』と分かるのかと言うと、過去にも何度か僕の暗殺を目的として情報収集がおこなわれたからだ。
その手口と酷似している点が多いため、すぐに情報収集の目的が判明したのである。
(地上世界で劣等種と蔑んでいる人種達が冒険者として目立ったということで、嫉妬心や他の人種が調子に乗らないよう見せしめの為等で僕達の暗殺を実行しようとする輩が結構出たからな……。当然対策を取っていたからまったく相手にならなかったけど)
過去、暗殺を実行しようとした者達は、皆、既にこの世にはいない。全て対処済みだ。
とはいえ意外にも一番暗殺や襲撃の理由として多かったのは人種達が調子に乗らないように等ではない。
むしろ『妖精の姫様のように美しいネムムを手に入れるため、邪魔な僕とゴールドを始末しようとした者達』の方が多かった。
これも『痴情の縺れ』と言っていいのだろうか?
『僕の運命の人を束縛する悪党共!』
『ネムム姫! 貴女の王子が助けに来ました!』
『囲まれている監獄から必ず助け出してみせます!』
冒険者や太った商人、職人の弟子などネムムの美貌に心酔した男達が手に武器を持って、叫び襲いかかってきたことが何度もあったのだ。
一応、これも暗殺といえば暗殺である。なのでこれらを加味すると、『ネムム関連での暗殺案件』の方が多い。
さすがにこの手の輩は殺す訳にはいかず、主にゴールドが殴り気絶させてその地を預かる警備兵に身柄を引き渡した。
その影響もあって、ネムムは地上の人々に対して意固地になり、態度が悪くなった面があるのかもしれないな。
だがアオユキの話を聞くと、今回の暗殺はそんな『痴情の縺れ』的笑い話ではない。
いつもとは毛色が違って、裏で非常に有名な暗殺集団が僕の命を狙っているとか。
「『世界最高の暗殺結社』のひとつ『暗殺結社処刑人』か……。『種族の集い』時代、酒の席でその手の都市伝説を聞いたことがあるような、ないような……」
僕は片手でこめかみをグリグリ抑えつつ過去を思い出そうとする。
だが、その手の都市伝説は多種多様にあるため、僕の勘違いかもしれない。
メイが聞き返す。
「その『暗殺結社処刑人』の腕利きが、ライト様のお命を狙っていると?」
「――是。『死剣』と呼ばれる有象無象共が自身の立場も弁えず主のお命を狙っている」
アオユキの殺気が増す。
どうやらこの情報、『僕の命を狙っている』という内容を聞いて、彼女はずっと激怒し続けているようだ。
アオユキの怒ってくれる気持ちが嬉しくてついつい笑みがこぼれそうになった。
彼女は気にせず殺気を漏らしながら、進言する。
「――主、今すぐこのアオユキに、身の程も弁えない救いがたい愚物共を皆殺しにするご命令をお与えください。地獄の猟犬の如く、一匹残らず命を狙う愚物共を捕らえ、主の前に引き連れ生きたまま犬共のエサにする様をお見せいたしますので」
「ライト様、是非私にもご命令を。アオユキ共々、そのような無粋な輩、纏めて首を取って目の前で誰の命を狙ったのか後悔させるほどの苦痛、絶望、死を与えてみせます」
アオユキはパーカーで視線を隠しつつ、淡々と怒り殺気を込めて告げる。
彼女の台詞にメイも共感して自身も立候補した。
僕は微苦笑を漏らしつつ、2人を落ち着かせるため手を振る。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。2人が本気を出せば、暗殺しか能がない輩なんて敵ではないと知っているし、僕のために怒ってくれる気持ちも非常に嬉しく思うよ。でもとりあえずいつも通り捕らえて、まずは誰が依頼したのか情報を吐かせないと。……正直、このタイミングなら誰が依頼人か調べる必要もないけど」
僕は遠くに視線を向け、見えない筈のディアブロの姿を捉えた。
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