18話 モルテ・スパーダ
『暗殺結社処刑人』屋敷地下にある『社交場』に、新たに暗殺者が姿を現す。
ボスである魔人国マスター、ギラを前に怯える者達とは違い、この5人は怯えることなく意見を口にする。
「最近の子達は腕が落ちて『暗殺結社処刑人』の暗殺者としてどうかと思っていたから、一掃するのは賛成だわ」
190cmを超える巨体に、がっしりとした筋肉を纏い男性が女性口調で話しつつ体をくねらせる。
それだけでも個性が際だっているが、さらに赤く丸い小さなボールを鼻につけ、髪は七色に彩り、顔を白く塗って星や月などを描き込んでいた。
まるでピエロのような恰好をした男がギラの意見、『全員、始末して、やり直す』に賛成した。
「ヒヒヒヒキ、いせんさ! いせんさ!」
先程から台詞を逆さまから叫ぶ男は、背が低く、腹が異常に大きい、ガマガエルのような顔つきをした魔人種男性だった。
彼は両手で腹を叩きつつ、無邪気に笑い声を上げる。
醜い外見と幼い言動のギャップに一種異様な雰囲気を醸しだしていた。
「身の程知らずにもボスに食ってかかっていた筋肉無能のように、最近本当に無能が増えたのよねぇ~。『暗殺結社処刑人』が大きくなりすぎて、才能が無い凡夫が増えたのが原因なのかしらぁ~」
長いウェーブヘアーに革製ボンテージ鎧を纏い、上着を肩にひっかけた妖艶な女性が気怠げに現状を分析する。
彼女は魔人種サキュバスのためか胸も大きく、腰もくびれ、男性が理想とする大人の女性的外見をしていた。
『社交場』には、男性暗殺者の相手をする高級娼婦顔負けの専属娼婦が常駐しているが、そんな彼女達ですら足下に及ばないほどの美貌、色気を振りまいている。
ギラに威圧されていた一部男性暗殺者など、自分達の危機を忘れて彼女を食い入るように見つめていた。
「然り! 『暗殺結社処刑人』が肥大化した結果、無能が増えた! ボス、命じて頂ければすぐにでも選別をおこなう所存ですぞ!」
無駄に大声で、ピエロ男より背丈も筋肉も発達した禿頭男が進言する。
身長は2mを超えて、上半身を裸に両腕を組んで佇む。
目が4つある魔人種で、その目よりも全身についた傷に注目してしまう。その傷だけでどれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか分かるというものだ。
「…………」
最後の1人、彼は『社交場』に入ってから一度も口を開いていないが、ギラが『今すぐこの場の無能共を殺せ』と命令すれば、すぐに動くであろう気配を漂わせていた。
身長は180cm前後と高いほうだが、ボロボロの黒いマントで顔と体を包み込んでいる。筋肉は無く一見すると、子供が棒で殴りつけただけで折れてしまいそうな古木のような雰囲気を漂わせていた。
しかし、腕が立つ者ほどギラに次いで最も剣呑な空気を漂わせていることに気付く。
5人全員が、『社交場』でギラに威圧されていた者達とは違うという自負を滲ませている。
実際、元からいた暗殺者達は『社交場』でギラと相対しているとはいえ、彼らの侵入に声をかけられるまで全く気付かなかった。
隔絶した実力故に、この場でギラによる選別がおこなわれても自分達だけは生き延びる自信が彼ら5人の全身から溢れ出ていた。
「……皆、来てたのか」
先程まで剣呑な空気を漂わせていたギラの雰囲気が緩む。
彼らと久しぶりに顔を合わせたことを喜んでいるようだ。
ピエロ達も喜びの声をあげ、ギラへと近づいて行く。
「うふふふふ、丁度お仕事も終わってボスがこっちに顔を出しているって聞いたから来ちゃったの」
「もでお! もでお!」
「久しぶりにボスと顔を合わせることが出来て嬉しいですわぁ~」
「然り! 然り! 久方ぶりにボスとお会い出来てこの身が震えるほど嬉しいですぞ!」
「…………」
「われも、オマエ達、顔、見れて嬉しい。活躍、耳に、する」
ギラは可愛がっているペット達を相手にするかのように、返答した。
ペットのような扱いを受けても、ピエロ達は機嫌を損ねるどころか、喜びを露わにする。
自分達を超越する実力者であるギラに認められるのが、それだけ嬉しいのだ。
ギラの機嫌が良くなったことにゴブリン顔青年を含めた、暗殺者達が胸中で安堵の溜息を漏らす。
彼らは『暗殺結社処刑人』でもトップ5の実力者達だ。
別名、処刑人の『死剣』である。
彼ら5人はギラのお気に入りで、時にマジックアイテムや武器、防具などを下賜。さらに実力を底上げさせている者達だ。
『社交場』に元々居た者達も世間的には一流の暗殺者だが、やはり彼らに比べると一枚も二枚も実力が下がる。
ボスであるギラと久しぶりに会えたのが嬉しかったのか、彼をソファーに移動、座らせ、囲み自分達がどれだけ頑張ったのか楽しげに報告し始める。
最初に座っていた者達は当然、ソファーから立ち、廊下に立たされた生徒のように直立不動の姿勢をとる。
不平不満はない。
むしろ、この楽しげな雰囲気そのままに『暗殺結社処刑人に相応しくない者達を始末する云々』を忘れて欲しいとさえ思っていた。
実際、最初と比較できないほどギラの機嫌が良く、ピエロ達の報告を聞いていた。
内容は――。
『ターゲットだけではなく、家族、親族を殺して裸で人目につくところにさらした』
『いやいや自分など、先に暗殺対象の目の前で子供を殺し、愛人、妻と順番に殺してみせた』
『ぬるいわねぇ、それでも処刑人なのかしら? あたしなんて暗殺対象を殺害するついでに村一つを皆殺しにしたわよ』云々。
とても一介の暗殺者が出来る規模ではない。
しかも内容がどれも悲惨で、無駄に残虐性が高く、暗殺対象以外を無駄に殺してまわっていた。
並の暗殺者ではどれも成し得ない規模だったが、『暗殺結社処刑人』のトップ5『死剣』なら、誰もが可能にする力を持つ。
伊達に『世界最高の暗殺結社のひとつ』とは呼ばれていない。
耳を傾ける暗殺者達は『死剣』達の実力に恐怖心を抱いてしまう。
――楽しげな会話だった筈がだんだん雲行きが怪しくなる。
原因はボスの前に『死剣』全員が揃ったせいだ。
1人、2人ならタイミングさえあえば起こりえるため、珍しくない。
しかし、呼び出しも受けていないのに5人全員がボスの前に揃うのは初だ。
故に気分が高揚し、ライバル視している他『死剣』に対する見栄もあり、『自分の成果の方が凄い』という言い争いに発展し始める。
先程までの和やかな空気が嘘のようにどんどん険悪になり、『死剣』の間に一触即発の雰囲気が漂う。
ソファーを囲み立つ暗殺者達の額から冷たい汗が流れ出る。
ギラほどではないにしろ、『死剣』が暴れ出したら自分達はまず命を落とす。
冷や汗を流すのは当然だ。
一方、『死剣』の中心で彼らの飛び交う殺気を浴びても、ギラは機嫌を損ねるどころか、心地良さそうに楽しんでいた。
これこそ彼が望んだ空気だと言いたげに。
そんな機嫌の良いギラが猛獣の群に生肉を放り込むような提案をする。
「口で誇っても無駄。なら、実力、示せばいい」
ギラの視線がゴブリン顔青年に向けられる。
「仕事ないか? なるべく、強い獲物が」
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