28話 『冒険者殺し』の終わり
今日は27話を昼12時、28話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は28話)。
「――んぅ、ッゥ!? お、お兄ちゃん!?」
「……おはよう、ミヤちゃん」
「だ、ダーク、さん? あれ、ここって……」
僕達が宿泊している宿屋最上階スイートルームの寝室。
そのひとつにミヤは寝かされていた。
僕はベッドの側に置かれた椅子に腰かけて彼女を見守っていた。
ミヤは目を覚ますと、『状況が分からない』と言いたげにきょろきょろと怯えた小動物のように周囲を見回す。
彼女が十分落ち着いたのを見計らって、僕は彼女に準備していた話を順序立てて聞かせる。
「昨晩、ゴールドが冒険者ギルドで飲んでいる際、『冒険者殺し』について情報を聞いてきたんだ――」
その情報を知った僕達は、名前を挙げるため他冒険者より早く『冒険者殺し』探しに乗り出す。
夜にもかかわらずダンジョンへと潜り、捜索していると偶然、エルフ種青年に殺されそうになっていたミヤを発見。
僕達に姿を見られ、奇襲を受けたエルフ種青年は警戒してダンジョン奥地へと逃走してしまう。
気絶したミヤを保護した後、周辺を調査すると瀕死の兄エリオと、残念だが遺体となっていたギムラとワーディを発見。
状況証拠からあの『エルフ種青年』が『冒険者殺し』だと判断を下した。
エリオには回復魔法をかけたが重傷だったのと、気絶したミヤの安全確保と情報を持ち帰るため、すぐさまダンジョンから帰投。
彼女は僕達が宿泊している宿屋へ。エリオは大事をとって街の治療院に連れて行き入院。
ゴールドは冒険者ギルドに向かい『冒険者殺し』の情報を伝えてもらった。
――当然、全て出鱈目である。
ミヤや冒険者ギルドが不審がらないためにでっち上げた偽話である。
ギルドはともかく、ミヤ自身は『SR、催眠』のお陰で前後の記憶があやふやなため、『奈落』に短い間だが居たこともまったく覚えてはない。
『エルフ種青年』こと、カイトはすでに『奈落』地下で情報を吐き出させている。
多少強引でも『ますたー』や『さぶますたー』に関する情報を引き出すよう厳命している。
今頃エリー達が絶大な苦痛が伴う禁忌魔術等で記憶を読み取ったりしているだろう。
僕は仮面で表情はごまかせるが、声音に不審が出ないよう気を付けつつ話を続ける。
「ギルドも状況証拠からその『エルフ種青年』が『冒険者殺し』の可能性が高いという判断を下した。ミヤちゃんが目を覚ましたら詳しい話を聞きたいらしい」
「わ、分かりました。はい、その人が『冒険者殺し』で間違いないです。わたし達のすぐ側に突然現れて……『冒険者殺し』の話をしたら、『次からはもう少し隠蔽に気を付けるべき』と言って、襲いかかってきて。お兄ちゃん達を……」
ミヤちゃんは上半身を起こした状態で、掛け布団を小さな手で強く握り締める。
僕はそんな彼女に懐から2つのハンカチを取り出し手渡す。
「これは?」
「ギムラとワーディの遺髪だよ。ごめん、エリオは助けられたけど、彼らは……流石に遺体まで持って帰ることは出来なかったから」
「!? あ、ありがとうございます! 遺髪だけでも嬉しいです! ありがとうございます、ありがとう――ッウゥウウウゥッ!」
仲間の死が現実だったとようやく認識したミヤちゃんが、遺髪を胸に抱きしめ涙を零す。
(あの時、犯人であるカイトと対峙しながら無限ガチャカードで回復と防護を彼らにかけたが、エリオは間に合ったがギムラとワーディは助けられなかったな……)
蘇生魔法も存在するが、万能ではなく諸々の条件があり、彼らを助けることは出来なかった。人の命は一度失われれば、どんな力を持っていたとしても、簡単に元に戻せるものではないのだ。
(この辺りが今日の限界だろうな……)
僕は判断を下し、それ以上は何も言わずソッと部屋を出る。
扉を閉めても高レベルのせいで、部屋の中で泣くミヤちゃんの嗚咽を耳が捉える。
(復讐を果たすため頑張ってレベルを上げたけど……耳が良くなるのは、こういう時はちょっと不便だな)
僕は彼女を1人にして、落ち着くまで静かに扉から距離を取ったのだった。
☆ ☆ ☆
『冒険者殺し』の一件で変わったことが二つあった。
一つ目は……冒険者ギルドが僕達の『冒険者殺し』に対する情報提供を評価して、ランクを一つあげてくれたのだ。
泣きはらしたミヤはその日の内に冒険者ギルドへ詳細な説明へと向かった。
僕達の目撃、撃退情報。
ミヤの詳細な供述で、『エルフ種青年』が『冒険者殺し』だとギルドが断言したのだ。
僕達とミヤの記憶を頼りに似顔絵まで作製し、冒険者達に注意を勧告。
ダンジョン奥へ逃げた(僕達の証言でそういうことになっている)『冒険者殺し』討伐隊まで組まれることになった。
僕の予想では『冒険者殺し』の身柄まで渡さないとランクは上がらないと考えていた。情報だけでC級にランクアップするのは予想外の幸運である。
では、もう一つはというと――ミヤとエリオが冒険者稼業を辞め、シックス公国魔術学校への進学を諦め故郷へと帰る決断をしたのだ。
エリオが退院し、2人は常宿に預けていた荷物を処分。
明日の早朝、商隊の護衛として、故郷を目指し街を出るらしい。
命を助けられ、世話になった僕達にわざわざ挨拶に来たのだ。
ミヤとエリオを宿屋最上階スイートルームリビングに上げて、話を聞いた。
ソファーに座った2人の前にネムムが淹れたお茶をテーブルに置く。僕は向かい側ソファーに座り、ゴールド達は部屋の隅で立って話を聞く。
ミヤとエリオは深々と頭を下げる。
「短い間でしたが兄の命を助けて頂いたり、色々お世話して頂きまして、本当にありがとうございました」
「本当にありがとうございました、助けてくださって……。命が繋がったのも、ダークさん達のお陰です」
「いえ、こちらもアドバイスをもらったり、火傷薬をもらったりしましたから。命を助けたのは……たまたまですし」
まさか『SSR、祈りのミサンガ』の力だとは言えない。それにあの時のことを思い出させてしまうといけないのでこちらからは言わないが、ギムラとワーディは助けられなかった。エリオを助けられたのは、ただ運が良かっただけだ。
僕のレベルがいかに高くても、全てのことが出来るわけではない――この力は万能ではないのだから。
話題を変えるため話を振る。
「冒険者を辞めて故郷に帰るって話だけど、努力家のエリオさんやミヤちゃんぐらい優れた魔術師なら、他の人達と組んで冒険者を続けられたんじゃないかな?」
「はい、実際、何人かの方々からお話は頂きました。けど、あんな目に遭ってもうダンジョンに潜るのは怖くて……」
ギュッと膝に乗せた手が震える。
目の前で仲間達が殺されて、兄も瀕死、自分も無惨に命を落としそうになったのだ。
ダンジョンに再び潜るのを怯えてもしかたない。
『それに』と彼女が困ったように笑う。
「皆と一緒だから冒険者になって、ダンジョンに潜っていたんです。2人だけじゃ無理ですから。ね、お兄ちゃん」
「ああ、だから今から他の人と組むのはちょっと違うかなって。それにギムラとワーディの遺髪もちゃんと故郷に帰してあげたいので。そして親戚のツテを頼って2人で自活していければな、と」
「そっか」
しんみりとした空気が部屋に漂う。
ミヤはそんな雰囲気を変えるため、空元気だが明るい声音で告げる。
「公国の魔術師学校に進学するのは難しいですが、兄と一緒に努力しながら諦めず独学で魔術の勉強をして、皆に笑われないような魔術師になれるよう頑張るつもりです。もしダークさん達が故郷にいらっしゃったら是非、声をかけてくださいね」
「うん、その時は是非」
「はい、お待ちしております。故郷の皆で、大歓迎しちゃいますね」
「絶対ですよ、ダークさん。待ってますからね」
2人は前向きな笑顔で返事をする。
その後、軽くゴールド達とも会話をすると、ミヤとエリオは宿屋を後にした。
部屋に僕達だけが残される。
「――『奈落』へと一度戻るよ。僕が目的で来客があったら一旦帰らせてくれ」
「畏まりました、ご主人様」
部屋にネムム、ゴールドを残して『SSR、転移』で一度、『奈落』へ帰還する。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
今日は27話を12時に、28話を17時にアップしております!(本話は28話です)
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