9話 一方的な殺戮
早朝、まだ薄暗い時間。
山中を越えて人種王国へと不法侵入した魔人国兵士達は既に起きて、村を襲う準備を開始していた。
野営道具などは地面に穴を掘り、埋めて隠す。
これから暫く寝床や食料、飲料水などは村を襲い略奪したものがメインになる。
「――よし、準備は整ったな。では行くぞ!」
『応!』
ミルクのように濃い霧が立ちこめる中、地図に従い魔人国兵士――賊の群が人種の村を目指し移動を開始する。
山中移動している時ですらへらへら笑って会話をしていた魔人国兵士達が、誰一人無駄口を叩かず、下げている剣やナイフ、手にしている短槍、弓が歩きぶつかって音を立てないように気を付けていた。
濃い霧によって遠目から姿を確認し辛く、音を立てないことで自分達の存在を極力気付かれないようにしているのだ。
一般的な賊の練度ではない。
普通は頭が事前に脅して怒鳴りちらしても、落ち着かなくこそこそ喋ったり、武器をガチャガチャ鳴らしてしまうものだ。
にもかかわらず、彼らは歩く際の音すら気を付けていた。
先頭を歩く斥候が動きを止める。
前が止まったことで、釣られて兵士達が静かに足を止めていく。
斥候が地図を2、3度確認してから隊長に声をかけた。
(隊長、地図によれば霧で分かり辛いですが、もう村が目と鼻の先にあります)
(ここではカシラと言え。カシラと)
(はははは、まさに賊のようですね、カシラ)
小声で斥候と隊長がやりとりを交わす。
隊長は村がもう近くにあると知り、背後に居る部下達へ伝達を送る。
(地図によればこの先に村が近いようだ。今まで以上に気を付けて前進するぞ)
兵士達に伝達が終わると、言葉通りさらに音に気を付けつつ、前進する。
――そんな前進が10分ほど続いただろうか。
薄暗かった空が朝日によって輝き、濃い霧も徐々に薄れていく。
それほど遠くない距離から、何かを落とす音、水音が続く。
兵士達が目を凝らすと、見た目は人種農民の子供達が家の手伝いで井戸水を汲んでいる音だった。
見た目、10~12歳の少女×3人が黙々と水を汲み瓶へと入れている。
隊長が弓を持つ者にハンドサインで指示を出す。
狙いは当然、井戸で水を汲む少女×3人だ。
霧も大分薄まり、村は簡単な木製の柵で区切られた程度で、周りは平野で隠れる所が無いが、少女達は真面目に仕事をしているためか未だ気付いていない。
弓兵がギリギリと弦を鳴らす音が微かに漏れる。他兵士達はニヤニヤと残虐な愉悦の笑みを浮かべつつ、各自得物に手をかけ合図を待つ。
隊長が合図を送ると、彼らは人種少女達に何の躊躇いもなく狙い矢を撃つ。
空気を切り裂き、位置的に一番近い少女の頭部、肩、足に矢が集中。さらに近くに居た少女の足に矢が刺さる。
他2人が盾になったお陰で無事だった少女が、驚きの表情を作り、矢が刺さった2人へと視線を向けて硬直した。
この矢を合図に魔人国兵士――見た目魔人種の賊達が、心の底から虐殺への歓喜の声をあげて突撃する。
「まずはガキ共を見せしめに殺せ!」
「村連中は目についた奴からガンガン殺していけよ!」
「女は手足を切り落とすぐらいはいいが、殺すなよ! たっぷり楽しんだ後、腹を割いて苦しませて殺すんだからな!」
「殺せ! 殺せ! 殺せえぇぇぇ!」
賊達は心底生き生きとした表情で駆け出し、村を囲う簡素な木製柵など軽々と飛び越え、まずは井戸で水を汲んでいた少女へと接近。
「!」
「ぎゃはははは! 今頃気付いて逃げても遅いんだよ!」
矢を頭部に受けた少女をさらに剣で串刺し、足に矢を受けて逃げるのが遅い少女も背後から短槍で躊躇いもなく突き刺す。
無傷だった最後の少女は足の早い賊の1人に楽々追いつかれ、押し倒される。
「おいおい、殺さないのか?」
「よく見ればなかなか可愛い顔をしているヒューマンのガキだから、殺す前にまずは楽しもうと思ってな」
「ヒューマンの雌ガキに欲情するとか。オマエ、変態かよ!」
「ガハハハ! 意外と悪くないし、元気よく泣きわめくのが最高に面白いんだぞ? 知らないのか、折角の機会だからオマエも試してみろよ。一度やると癖になるからさ」
「ケケケケケケケケケケケ! 悪いがオマエ達のようなゲスで、息が臭い、気持ち悪い奴にやられるのはいくら任務でも勘弁だぜ」
「……は?」
押し倒したはずの少女の口から、まるで別人がしゃべっているかのような声が響く。
例えるなら少女の口から、成人女性の大人っぽい声が聞こえてくるようなモノだ。
異常事態はそれだけでは終わらない。
押し倒した少女の頭がぱっくりと割れる。
ぱっくりと割れた中にある筈の脳味噌は無く、びっしりと生えた肉食獣のような牙、赤い舌がうねうねと動く。
当然ながら人種の頭はぱっくりと割れることはない。
あまりの異常事態に、押し倒していた賊、会話をしていた者達も動きを止めて硬直してしまう。
とはいえ例え素速く反応し、その場から全力で逃げ出してももう遅いのだが……。
頭が割れた少女の首が伸びて、押さえ込む賊の右手に囓り付く。
「――ぎゃあぁぁあっぁぁぁあぁぁぁ!」
遅れて賊の右腕から激痛が走り、村全体に響くほどの絶叫を上げる。
「うぎゃぁぁ! は、離せ! 離してく、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガリ、ゴリ、グチャ、と硬い、柔らかい、啜る音を響かせて頭が割れた少女が賊を右腕から囓り、皮膚、肉、血液、骨を噛み千切り砕き啜り喰っていく。
賊は悲鳴を上げて左腕で頭が割れた少女を引きはがそうとするが、非常に強い力でとてもではないが離すことは出来なかった。
「こ、こ、この化け物が!」
仲間の危機に、会話をしていた賊が剣を少女の首へと振り下ろすが、『ガンッ』と金属を叩いたかのような硬質な音が響き弾かれてしまう。
剣を振り下ろした賊は驚きつつも、何度も振り下ろす。
その間も構わず頭が割れた少女が賊を喰らって右腕を食べきると、右肩へと食いつく。
「うぎぁぁ! ごめんなさい! ごめんな、ぐぎゃ!? まま、あぁぁあぁっ、ぐげぇ!」
頭が割れた少女は右肩から鳩尾方向へと食らいつき、血の一滴も零さず賊を喰らっていく。
そこまで行くと、さすがに剣を振り下ろしていた賊も手を止めて、青い顔で引き下がる。
彼だけではない。
村の建物へ喜々として駆け寄ろうとした賊達が悲鳴に気付き、足を止めて振り返る。
仲間が1人生きたまま頭が割れた少女に喰われていく、悪夢のような光景を前に硬直してしまう。
まるで出来が悪い夢を見ている光景だった。
しかし悪夢はそれだけでは終わらなかった。
「ぎゃああぁぁぁぁ!」
「痛い! 痛い! 助け、たす、ギャアァ!」
矢で頭、全身を射抜かれ、剣も刺された少女。
足に矢が刺さり、背後から短槍を刺された少女も復活し、似たように近くに居た賊達にかじりつき、生きたまま喰い始める。
血を啜っているせいか地面に一滴も零れていないもかかわらず、濃い血の臭いが辺りへと漂う。
賊の1人が異常に気付き、青い顔で後退った。
「な、なんだよこれは……ここはヒューマンの村じゃなかったのか? 俺達はいつから化け物共の村に迷い込んだんだよ……」
彼の言葉が伝播したように、先程まで生き生きと村を襲おうとしていた賊達が青い顔で、犠牲になっている仲間を見捨てて逃げ出そうとジリジリ距離を取る。
だがやはり彼らの行動は既に遅かった。
村の家々の扉が開く。
中から首の無い胴体に口がある者、両手にびっしりと牙が生えた者、胴体に大きな口がある者――異形の怪物と呼んで差し支えない怪物達がわらわらと姿を現す。
賊達はそんな化け物達の登場に青を通り越して、血の気が一切ない真っ白な顔色になってしまう。
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