8話 人種村襲撃会議
魔人国は6種の中でもっとも北にある国だ。
魔人国が隣接する国はドワーフ王国と人種王国である。
ドワーフ王国は魔人国のすぐ下にある国だが、間に山々が存在した。
そのためドワーフ王国と魔人国の交易は陸路ではなく海路が基本で、港同士を船舶が行き来し経済活動をおこなっている。
ドワーフ王国のすぐ隣にある人種王国とも長い国境線を持っているが……その半分がまだ手つかずの原生林だ。
とはいえ、残り半分は平野の国境線が存在し、互いに関所を設けている。
故に武装済み兵士達が誰にも知られず、関所を通って大量に人種王国へ入り込むのは物理的に不可能だ。
少し前に魔人国が主導し開いたシックス公国会議で、騙し討ちするようにリリスが人種王国の女王の座を得た。
さらに対『巨塔の魔女』の話し合いの場に『巨塔の魔女』本人を連れて来て、シックス公国会議を台無しにされた。
潰されたメンツのためにも、魔人国としては人種王国にはお灸を据えなければならない。
故に再度立場を理解させるため、『人種王国領土に入り麦の強奪、人種奴隷狩り、村の焼き討ち、見せしめによる略奪、虐殺等をおこなえ』と命令が下ったのだ。
しかも『魔人国がやったとは分かり辛くするように』と無茶振りをされる。
上からの命令に従わなければいけないのが宮仕えの辛いところ。
今回の『人種王国報復作戦』に抜擢された魔人国軍部が出した結論は……。
『ドワーフ王国、人種王国を跨ぐ山々の一部を越えて、魔人国国章を消した兵士達に国境越えをさせて村々を襲う』というものだ。
魔人国、ドワーフ王国、人種王国の国境を重なる山々の一部がある。
3つの国家と重なっているため、『誰の領土なのか』は曖昧になっていた。その山を越えて誰にも見られず人種王国に侵入しようというのだ。
魔人国国境近くにある街の一室に、山を越えて人種王国の村々を襲うための一部隊が集められる。
当然ながら統率をとるために全員が魔人国兵士だ。
角が生えた悪魔の容貌をした隊長が、資料を部下達に読ませつつ説明する。
「これから我々は山を越えて人種王国に侵入、近くの村々を襲う任務を開始する。基本的に賊の手口に見せて、ヒューマン共を襲う予定だ。そのため魔人国国章が入った装備品、またはそれと分かる物を持ち込むのは禁止する」
「隊長! 資料によれば、ぼかしながらも魔人国が懲罰としておこなったように伝える必要性ありと記されていますが、国章がまったく無しなら今回の作戦に意味はないのではありませんか?」
作戦に参加する兵士の1人が挙手して質問を飛ばす。
隊長は予想通りのため、すぐに返事をした。
「その点は問題ない。いくらヒューマンでも、賊に見せかけて村々を襲っている我々の練度を前にすれば『ただの賊』とは思うまい」
つまり賊の手口と見せかけて村を襲うが、生き残った者達から自分達の装備の良さ、練度、統率が伝わることで『ただの賊ではない』と人種王国上層部に伝えるのが狙いらしい。
「だとすると、ほどほどに襲って村人達も皆殺しにする訳にはいかないということですか……」
他兵士がどこか残念そうに質問する。
隊長は笑って返す。
「馬鹿をいえ、賊が目撃者を残すとでも? 基本的には皆殺しでいいぞ。ヒューマンは虫のように隠れるのが上手いからな。適当に村を襲えば1匹や2匹ぐらいは生き残りが出るだろう。その奴らの口から情報が伝わればいいんだ。遠慮無く、目に付いた端から殺してかまわん」
「さすが隊長!」
「魔人国バンザイ!」
「憂さ晴らしにヒューマンを殺しまくれるぜ!」
隊長の言葉に魔人国兵士達が拍手喝采を贈る。
彼らは人種を殺害することに抵抗はなく、一種の娯楽として捉えていた。
隊長が騒ぐ学生達を静かにさせる教師のように手を振る。
静かになったところで告げた。
「それ故、今回の作戦上、奴隷を連れて帰ることは不可能だ。ヒューマン女とその場でやるのは構わないが、国に連れて帰ろうとせず殺しておけ。持ち帰るのは金品、装飾品、武器類など物品のみに限定する。これを破った者は処罰の対象になるから気を付けろよ」
まるで遠足の注意事項を伝えるような気楽さで、隊長が伝える。
この言葉に兵士達も気軽に返事をした。
他にも細かなやりとりを伝えて、最後の通達をおこなう。
「山を越えるのは厳しいかもしれないが、オマエ達なら問題なくこなせると信じている。途中で挫けるような不甲斐ない所を見せるなよ! では解散!」
兵士達が返事をすると、当日まで思い思いの準備をするためその場は解散となった。
魔人国兵士達はまるで旅の日程を話すように『どうやってヒューマンを殺すか』、『子供の前でヒューマン女とやるのが気持ちいい』、『いや、恋人や兄弟、姉妹の前の方が』、『恋人との結婚資金のためにもガンガンヒューマンを殺して財産を奪おう』など楽しそうに会話を重ねる。
誰も彼も罪悪感など感じてはいなかった。
☆ ☆ ☆
作戦当日――誰一人欠けることなく兵士達が集まり、三ヶ国の国境が重なる山を越えるため装備を担ぎ移動を開始する。
普段、誰も通らない山の中を、賊に変装した魔人国兵士達が移動した。
一応、過去、秘密裏に念のためにと地図は作製されていたが、昔過ぎてどこまで適切なのか信用度は低い。
魔人種は肉体、魔力、能力のばらつきが非常に激しい種だ。
だが今回参加した魔人国兵士は、その中でも上位に位置する者達が選ばれているため能力などは非常に高い。
地図も怪しい山中を移動することになったが、誰一人弱音を吐く者はおらず、むしろ『ヒューマンをどう殺すか』などを楽し気に会話を交わす余裕すらあった。
そんな彼らが数日をかけて山中を移動し、国境を越えて無事、人種王国領内へと辿り着く。
偶然の産物だが、数日山中を移動したお陰で程ほどの感じに汚れて、髭が伸び、如何にも『賊です』と説得力がある見た目となる。
隊長が人種王国の地図(間者に盗み描きさせた物の写し)を取り出し、現在位置を確認。
近くに村がある可能性が高いことを理解した。
「今日はこの森林内部で野営だ。休息をとって早速ヒューマン共の村を襲うぞ」
兵士達は小さく返答の声をあげる。
誰も彼も飢えた獣のように目をギラギラと輝かせて、明日村を襲う喜びを胸中に宿していた。
――その先にメラ達が待っているとも知らずに、だ。
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