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27話 『冒険者殺し』狩り5

今日は27話を昼12時、28話を17時にアップする予定です(本話は27話)。

 カイトの手のひらを返す姿に僕は苛立ちを覚えてしまう。

 故に問わずにはいられなかった。


「――なぜ抗わない」

「え?」

「あれだけ自身を英雄、勇者と嘯いていたのになぜ抗わない。ただの駆け出し冒険者、人種少年のエリオは妹を護るために貴様の前に立ち上がったのに。なぜ英雄、勇者と謳っていた貴様は立ち上がらないんだ!?」


 なぜ僕自身、彼の態度にこれほど腹が立っているのか?

 こんな自己中心的、薄っぺらい気概しか持たない存在にミヤやエリオ達が傷つけられたと思うとやるせなくなってしまったのだ。


『ギリッ』と思わず奥歯が鳴る。


「ヒィ、た、助けて――」


 足下でカイトが小さく悲鳴を漏らす。

 僕はそんな彼から足をどけて、背を向け歩き出す。

 ネムムに預けている宝剣『グランディウス』を受け取りに向かう。


「ネムム、剣を」

「はっ、失礼致します」


 ネムムは取り出したハンカチで『グランディウス』の柄部分を拭いていた。

 僕が受け取りに来ていると気付いた直後、丁寧に拭いてハンカチを仕舞う。その場で膝を突き、両手で剣身、柄を支えて差し出してくる。


 僕は『グランディウス』を受け取る代わりに、ネムムの手に『SSR、道化師の仮面』を外し、預ける。


 再び彼の下へ戻ると、体を起こし座り込んだカイトの目の前の地面に『グランディウス』を突き刺す。

 僕は素顔を晒し彼の瞳を覗き込む。


「もう一度、勝負をしろ。勝負に勝てば何もせず解放する」


 カイトから視線を外し、メイ達を見回し断言した。


「もし約束を違えて勝利した彼に手を出した者が居たら、僕は絶対にその者を許さないからな。勝負に彼が勝てば何があっても手を出さず、こいつを地上に解放する。いいな?」


 メイ達は僕の言葉に深々と一礼して了承の合図とする。

 彼女達の姿に僕は満足そうに頷き、改めてカイトを見下ろした。


「舞台は整えてやったぞ、将来の英雄で、勇者殿。絶体絶命の危機を乗り越え、自身の力で勝利しろ。切り抜けて見せろ。剣を取って立ち上がれ!」

「こ、こ、こんなのは卑怯じゃないか。数で囲んだりするなんて……」


 僕の言葉にカイトは視線を逸らし、もごもごと言い訳を口にする。

 そんな彼に対して彼女達が告げる。


「手出しはするなと主君が約束なされました。ならば絶対に(わたくし)達は手を出しません。ご安心を」

「もし手を出そうとする輩が居たら、わたくしが一応は護ってあげますから、安心して剣をとって頂いて構いませんわよ」

「――主の約束を違える者はいらない。その時は例え誰だろうと全力を以て殺す」


 メイ、エリー、アオユキの言葉を聞いてもカイトは剣を取らない。


「は、話す、話すと言っている。ぼくが知る全てを話すから……もし情報が足りないならエルフ女王国について手引きをしてもいい。だから――」

「ご主人様が戦えっていってんだから戦えよ。もしかしてびびってんのか? ダセー奴」


 ナズナの直球発言にカイトが逆ギレする。


「お、怯えて何が悪い! オマエ達のような見るからに得体の知れない輩共に囲まれて脅されているんだぞ! 怯えない筈がないだろうが! だいたい僕様は200歳だぞ! オマエ達はいくつなんだ! 人種(ヒューマン)は年上を敬う礼儀も知らないのか!?」


 しまいには唯一勝てそうな年齢を持ち出し叫ぶ。


 あまりに情けない姿に溜息を漏らしてしまう。


「今は歳の話をしてないだろう? 関係の無い話を持ち出されても困るんだが……。第一、歳をとっただけで敬えと言われてもね。年齢を経て限界が来て、人殺しに手を染めるような奴にそんなことを言われても、どこをどう尊敬しろと? 年を取っていれば何をしても許されるというのか!? ならばお前は年上に殺されそうになったら、素直に首を差し出すとでも言うのか?」

「ぐぅう、があぁッ……!」


 正論を告げられ、二の句が継げられず藻掻くような声音だけが漏れ出る。

 それでもカイトは諦めず叫んだ。


幻想級(ファンタズマ・クラス)の宝剣『グランディウス』も譲る! 情報も全て渡すと言っているじゃないか! いい加減、分かれよ! 許してくれてもいいだろうが! エルフ女王国の国宝だぞッ!」

「……幻想級(ファンタズマ・クラス)か。その程度の武器なら、正直、保管に困るほど持ってるんだよな。ほら」

「!?」


 僕はアイテムボックス経由で、カイトの目の前に幻想級(ファンタズマ・クラス)の大剣、剣、刀、小剣、槍、ハルバート、手斧などを突き刺し並べて見せる。

 一目で業物、下手をすれば同じ幻想級(ファンタズマ・クラス)にもかかわらず、明らかに雰囲気が違う武器まで混ざっている。

 その事実にカイトが瞳を大きく広げて驚愕する。


 そんな彼にさらなる爆弾を突きつける


「ちなみに僕が持つ杖『神葬グングニール』は、創世級(ジェネシス・クラス)の武器だけど?」

「ば、馬鹿な!? ありえない!  神話級(ミトロジー・クラス)ですらこの世にあるかどうか怪しいのに、その上の創世級(ジェネシス・クラス)なんて神が持つ武器そのものじゃないか! そ、そんなものがこの地上に存在する筈がないッ!」


 カイトはすぐさま否定する。

 しかし事実は事実だ。

 創世級(ジェネシス・クラス)、『EX、神葬グングニール』。

 約3年間、恩恵(ギフト)『無限ガチャ』を毎日引き続けているが、最上級のEXはこの『神葬グングニール』のみである。


 見た目は地味な杖だが、実際は槍の姿をしている。

 多重の封印を施し力を極力おさえているため、地味な杖の姿になっているのだ。

『神葬グングニール』の能力は――詳細を知っているのは僕とメイ、エリー、アオユキのみだ。

 正確には鑑定をしたが文字化けして完全にその能力を把握はしていないが、『神■■り■へ■■■し槍』などの文字化け表記が多々あり、明らかにヤバイ空気しか感じない。

 レベル9999の僕達が鑑定して文字化けを起こしている時点で、危険過ぎる!

 故に僕とメイ、エリー、アオユキ以外にはその能力を教えない上に鑑定も禁止して、性能を表沙汰にしていないのだ。


 多重封印を施しているため、現状の姿ではまともに力は機能しないが、頑丈で個人的に扱い易いため杖として愛用しているのだ。


 ちなみに便利機能として、所有者である自分から一定以上の距離を取ると、戻ってくる力がある。

 なので例え盗まれても一瞬で手元に戻ってくるため盗難の心配もない。


「ありえない、ありえない、ありえない、ありえない……ヒューマン(劣等種)ごときが創世級(ジェネシス・クラス)の武器を所持しているなんて……ッ。まるでそれじゃヒューマン(劣等種)が『神』のようじゃないか……! そうだ、夢だ……こんなのは夢に決まってるッ! 僕様の持つ宝剣『グランディウス』はこの世界最高の剣だ! その筈なんだぁぁああッッ!!」


 しかし一瞬で転移した力、周囲を囲む自身を圧倒的に凌駕する実力を持つメイ達が傅く姿、魔術師にもかかわらずレベル1500の近接戦闘専門であるカイトを凌駕する戦闘能力――その全てがカイトの常識を破壊する。

 故に僕が創世級(ジェネシス・クラス)の武器を所持していることが真実だと心の奥底で理解してしまい、だがそのことを受け入れられずに『これは夢だ』と繰り返し呟きながら蹲ってしまう。


 そんな狼狽する彼に対して僕は改めて話を続ける。


「話を聞いた限りミヤちゃんの兄エリオは、似たような絶望的状況で妹のために立ち上がってお前に挑んだ。なら将来の英雄で、勇者様なら、問題なく剣を取って戦えるよな?」


 僕は繰り返し告げる。


「もう一度だけ言う――『舞台は整えてやったぞ、将来の英雄で、勇者殿。絶体絶命の危機を乗り越え自身の力で勝利しろ。切り抜けて見せろ。剣を取って立ち上がれ』」


 推移を見守っていたネムムが淡々と僕に続く。


「ご主人様の仰る通り将来の英雄で、勇者様ならこの程度の逆境は物の数に入らないでしょう。ならば立ちなさい」


 さらにゴールドが続く。


「自身をもののふと謳うなら、今こそ剣を取るときだぞ。さぁ立て」


 この2人をきっかけに、他の皆も続けてうながす。


「お立ち下さい」

「早く立ちなさいな」

「――立て。立ち上がれ」

「立てよ、ほら立て」


 気付けばいつのまにか騒ぎを聞きつけたのか、他メンバーや妖精メイド達が訓練場に集まっていた。

 彼女達は未だ座り込むカイトを指さし、クスクスと笑いながら彼を戦いにうながすように言葉を重ね続ける。


「立って」「ねぇなんで立たないの?」「早く立ちなさいよ」「ご主人様を待たせては駄目だよ、早く立って」「立て」「立て」「立て」「立てたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてたてタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテタテ――。


「ひぃっ、あぁぁあぁぁぁああっぁぁぁぁぁぁッ!」


 煽られてカイトは目の前に刺さる『グランディウス』も手に取らず逃げ出す。

 妖精メイド達が居ない出入口を目指して一目散に逃げ出すが、


「『SSR、ソーラーレイ』、解放(リリース)

「ぎゃぁあぁぁッ!?」


 僕は『無限ガチャ』カードを取り出すと、カイトの足を狙い撃つ。

 光が一瞬だけ灯ったと認識した刹那には、彼の足は貫かれていた。

 カイトは痛みに悶絶してゴツゴツとした岩場の地面を勢い殺せず転がり倒れる。

 彼の足に反対側が楽々見える穴が空いたが、傷口も一緒に焼かれたせいか血すら流れでない。


「誰が逃げろと言ったんだい? 僕は立ち上がって戦えと言ったんだ。英雄で勇者殿」

「く、来るな! 来るな来るなよ! 来るな! 僕は将来の英雄で、勇者で女神様に選ばれた存在なんだ! こ、こんな陰気くさい所で死んでいい――」


 ダンッ!


 僕は『グランディウス』を彼の目の前、足の間、剣身が数ミリで彼のモノを切り落とす近距離を狙い床に改めて数度突き刺す。

 カイトの前髪がハラハラといくらか切断されて舞い落ちる。


「だったら戦え、英雄で勇者殿」

「――――」


 ぐらりとカイトが後方へと倒れる。

 そのまま床に後頭部をぶつけるが、一切の反応を示さない。

 白目を剥き、口から泡を吹き出し意識を失う。

 僕はそんな詰まらない決着を見せられて、不快感しかない存在のカイトを見下ろし、心底軽蔑した口調で吐き捨てる。


「ミヤちゃんの言葉通り貴様は英雄でも、勇者でもない。現実から逃げ回るだけの、ただの負け犬だ」


 僕は最後に一睨みすると、カイトに背を向けメイ達の下へと向かう。


「不快な存在だが、『ますたー』の情報を知る貴重な存在だ。手段は問わない。どんな方法を使っても全ての情報を吐き出させ――そしてその後確実に殺せ」

「畏まりました主君、我がメイド道に懸けて」


 メイの返事を聞き終えると、僕は一度自室へと戻る。

 今夜は色々気分が悪いことが多かった。

 少し気持ちを落ち着けないと地上に戻れそうにない。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


エリオを心配する多数の声に驚いております。

『24話 『冒険者殺し』狩り2』で――

;_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


「お前は僕達の冒険者ランクを上げるためのただの踏み台だ。お前が『冒険者殺し』の主犯だとギルドに証言する証拠は既に揃っているから安心してくれ。今――ここで、僕の手でお前を殺す。人種を手にかけ、エリオ達に危害を加えたお前達を絶対に生かしたままでおくものか」

 そう言って少年はカードを取り出し、解放(リリース)、と呟く。

 それと同時に何らかの光が少年達を包み込む。


;_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

と言う風にエリオ達をト書き部分で保護する文章を書いていました。

最初はもっとカード効果について描写してたのですが、それだとちょっと『あまりにもはっきりと描写し過ぎるかな』と修正してしまいました。

うーん、これならもっと詳しく書いた方がよかったのかな?

(……と、上の文を見てみると少年達がエリオではなく主人公のようにも見えますね、修正しておきます)。



ちなみに今日も2話を連続でアップする予定です。

27話を12時に、28話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は27話です)。


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 僕もエリオを心配しまくっていたんですが自らの読解力の無さに気づけました、ありがとうございます。ちゃんと読んで見ればエリオ達が何らかの処置を受けているのは明らかですね、もっとちゃんと読みます。…
[一言]  本当は、彼の思う通り1500のレベル限界なんてなかったのかもしれませんねえ…  1500からは彼のやり方では経験値が入らなかっただけで…  誰よりも限界を超える事を望んでいた自分自身が、誰…
[良い点] 面白く、一気に読んでしまいました。 [気になる点] 面白いからこそ、言わせてください。 エリオ達を放置しないで。 たまに、普段使わない難しい漢字があり、読みづらい所あり。 殺ろせと、言っ…
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